アインクラッド第52層。
街の中央にある巨大な建物は、プレイヤーたちから《黄金宮》と呼ばれていた。
中に入れば、スロット、カードゲーム、ルーレット、ダイス。
現実では違法なものも、この世界ではNPCディーラー相手の娯楽施設に過ぎない。
そして、そのオーナーこそ――
「本日の利益報告です」
銀髪の少女が書類を差し出す。
執務机の向こうで、それを受け取った女性は軽く目を通した。
長い黒髪。
深紅のコート。
名前はリゼ。
攻略組でも有名なプレイヤーだったが、彼女が有名なのは戦闘能力ではない。
経済力だ。
「純利益三百七十万コルです」
「悪くないわね」
リゼは満足そうに頷いた。
「じゃあ予定通り、回復ポーションを二千本発注して」
「またですか?」
秘書役の少女が驚く。
「在庫が余っていますよ?」
「今はね」
リゼは窓の外を見た。
遥か上空。
まだ見ぬ高層。
「前線は必ず大規模攻略戦になる。今のうちに確保しておかないと値段が跳ね上がるわ」
彼女はプレイヤーたちから《黄金の女王》と呼ばれていた。
理由は単純。
アインクラッド最大のカジノ王だからだ。
しかし、彼女の本当の目的は金儲けではなかった。
⸻
第55層。
攻略会議。
キリトやアスナを含む攻略組が集まっていた。
テーブルの上には大量の木箱。
「これは?」
アスナが首を傾げる。
箱を開けたプレイヤーが声を上げた。
「高級回復ポーションだ!」
「こっちは解毒剤!」
「強化クリスタルまであるぞ!」
会議室がざわつく。
その時、後ろの扉が開いた。
「気にしないで」
現れたのはリゼだった。
「次のボス戦用よ」
「全部お前が?」
キリトが驚く。
リゼは肩をすくめた。
「倉庫で腐らせるよりマシでしょ」
「いや、量がおかしいだろ……」
「利益の使い道なんて自由じゃない?」
そう言って笑う。
だが攻略組は知っていた。
彼女が毎回こうして支援していることを。
回復アイテム。
武器強化素材。
転移結晶。
果ては予備装備まで。
リゼの支援がなければ、攻略速度は確実に落ちていた。
⸻
その夜。
リゼは一人、カジノの屋上に立っていた。
風が吹く。
遠くに見える攻略組の宿舎。
「また赤字になってるぞ」
背後から声。
振り向くとキリトがいた。
「聞いてたの?」
「経営担当からな」
リゼは苦笑した。
「余計なお世話ね」
「なんでそこまでするんだ?」
キリトの問いに、彼女は少しだけ黙る。
そして静かに答えた。
「みんなに生きて帰ってほしいから」
「……」
「私は戦闘じゃ大したことできない」
それは事実だった。
彼女のレベルは高い。
だが最前線のトッププレイヤーには及ばない。
「だから別のやり方で戦うの」
彼女は空を見上げた。
「誰かが前線で剣を振るうなら、誰かがその剣を支えないとね」
キリトは少し笑った。
「それも立派な攻略だ」
「でしょ?」
リゼも笑う。
二人の視線の先には、まだ攻略されていない無数の階層が広がっていた。
明日もまた誰かが戦う。
だから彼女は稼ぐ。
カジノで集めたコルを武器に変え、薬に変え、希望に変える。
それが《黄金の女王》の戦い方だった。
⸻
アインクラッドには二種類の英雄がいる。
剣を振るう者。
そして、その剣を支える者。
リゼは後者だった。
だが彼女の積み上げた黄金は、確かに最前線を前へ進めていた。
評価よかったら主要キャラそれぞれとのエピソードも書いていきます。