駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~   作:木乃実なぎ

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第二章 第十話『少年は壊された拠点を見る』

 

 ◆

 

 壊れた門を越えた瞬間、潮の匂いが一段濃くなった。

 

 雪と冷えた木材。

 獣の毛。

 凍りついた血――そのすべてを覆うように、海から吹きつけるはずのない湿った臭気が鼻腔へまとわりつく。

 

「……ひどいですね」

 

 拠点の中庭には、折れた木材や荷箱が散乱していた。

 見張り台へ続く梯子は半ばから砕かれ、雪の上には無数の足跡が重なっている。

 

 人。

 騎獣。

 そして、そのすべてを踏み潰すような巨大な四足獣。

 

 大型の足跡は、壊れた門から中庭の中央まで一直線に続いていた。

 

「門を破ったあと、迷わず入ってきてる」

 

 ガルドさんは大盾を前へ構え、拠点の奥へ視線を走らせる。

 二つの犬耳が別々の方角を向き、僅かな物音まで拾おうとしていた。

 

「獲物の場所を知っていたんでしょうか」

「匂いを追っただけかもしれねぇ。決めつけるな」

 

 短く注意され、僕は頷く。

 

「はい」

 

 片刃剣を両手で構え、ガルドさんの斜め後ろへつく。

 二人で歩幅を合わせ、まずは中庭の左側にある詰め所へ向かった。

 

 風に押された扉が、ぎい、と小さく鳴る。

 

「俺が開ける」

 

 ガルドさんが扉の脇へ立つ。

 僕は反対側へ回り、内部へ刃を向けた。

 

「いきます」

「ああ」

 

 彼が盾の縁で扉を押した。

 

 暗い室内。

 倒れた椅子。

 床へ散らばった紙。

 

 人影はない。

 

「入ります」

 

 先に踏み込もうとすると、大盾が行く手を塞いだ。

 

「俺が先だ」

「狭い場所なら、僕の方が動きやすいですよ」

「だからだ。何かいたら、お前は俺の横から刺せ」

 

 ガルドさんは盾を斜めに構えたまま、ゆっくり室内へ入っていく。

 

「相棒は並んで歩くんじゃなかったんですか?」

「扉の幅まで広くはならねぇよ」

「それは、そうですけど」

 

 僕もあとへ続く。

 

 詰め所の中は、ひどく荒れていた。

 受付用の卓は横倒しになり、棚から落ちた書類が濡れた床へ貼りついている。

 

 窓硝子は割れていた。

 外から入った雪が床へ薄く積もり、その上へ赤黒い足跡が残っている。

 

「血ですね」

 

 しゃがみ込もうとすると、ガルドさんが片手を上げた。

 

「周りを見てからだ」

「……はい」

 

 先に部屋の四隅へ視線を通す。

 棚の陰。

 卓の下。

 奥にある小さな物置。

 

 動くものはない。

 

「大丈夫です」

「ああ。見ていいぞ」

 

 今度こそ足跡へ膝をつく。

 

 人の靴跡だった。

 右足だけが深く沈み、その周囲へ血が落ちている。

 

「怪我をしたまま、奥へ向かっています」

 

 指で進行方向を示す。

 足跡は室内を横切り、裏口へ続いていた。

 

「外へ逃げたか?」

「分かりません。途中から、ほかの足跡と重なっています」

 

 雪と泥。

 血。

 それに、透明な水。

 

 床は異様なほど濡れていた。

 

「屋根は残ってる」

 

 ガルドさんが天井を見上げる。

 

「雪が吹き込んだだけじゃ、ここまでは濡れねぇな」

「大型が持ち込んだ水でしょうか」

 

 金属匙で水を掬う。

 すでに冷えきっているのに、凍る様子はなかった。

 

「たぶんな」

 

 ガルドさんは濡れた床から一歩離れ、鼻を動かす。

 

「昨日の灰牙犬より濃い」

「はい」

 

 口の中に塩気を感じるほどだった。

 

 海から遠く離れた雪原で。

 壁も床も、人の足跡さえ――潮に濡れている。

 

「書類を見ます」

 

 倒れた卓のそばへ移動する。

 散乱した紙の多くは水を吸い、文字が滲んでいた。

 

 無事なものを一枚ずつ拾い上げる。

 物資の受領記録。

 天候の報告。

 調査班の予定表。

 

「昨日の分があります」

 

 紙の端を押さえ、書かれた文字を追う。

 

「昼過ぎ、周辺の小型魔物が南へ移動。夕刻、北東の林で大型の鳴き声を確認……」

 

 最後の行は、途中で途切れていた。

 筆が大きく滑り、黒い線を残している。

 

「襲われた時に書いてたのか」

「かもしれません」

 

 紙の隅には、乾いた血がついていた。

 

 それでも大型の種類までは記されていない。

 見た者に書き残す余裕がなかったのだろう。

 

「ほかに使えそうなものは?」

「拠点の見取り図があります」

 

 壁へ貼られていた地図を剥がす。

 中庭を中心に、詰め所、宿舎、食料庫、治療室、騎獣舎が描かれている。

 

 拠点の北東側には、小さな印があった。

 

「これは何でしょう」

「旧観測坑?」

 

 ガルドさんが地図へ顔を寄せる。

 

「拠点ができる前に使われてた穴じゃねぇか。雪崩の時の避難場所にもなってる」

「人が入れるんですね」

「ああ。だが、ここから少し離れてる」

 

 地図では、北東の林を越えた先だった。

 大型の足跡が向かっていた方角とも重なる。

 

「避難した可能性はあります」

「まだ決めるな」

 

 ガルドさんは地図を受け取り、内側へ折り畳んだ。

 

「まず、拠点の中を全部見る」

「分かっています」

 

 気が急いている。

 それを見抜かれたらしい。

 

 僕は一度息を吐き、室内へ視線を戻した。

 

「……ここには、もう誰もいません」

「ああ。次だ」

 

 詰め所を出る。

 

 吹雪は先ほどより強くなり、足跡の輪郭を少しずつ消し始めていた。

 

 ◆

 

 次に入ったのは、宿舎だった。

 

 扉は内側から半分壊れている。

 何かが外へ出ようとして押し破ったのか、それとも大型が前脚を差し入れたのか――裂けた木材だけでは判別できない。

 

「ガルドさん」

 

 扉の下に、細いものが挟まっていた。

 

 指差すと、彼が大盾を構えたまま目を細める。

 

「腕だな」

「……はい」

 

 雪に埋まりかけた手。

 手袋は破れ、指先は青白く変色していた。

 

「開けるぞ」

 

 ガルドさんが扉を持ち上げる。

 重たい木材が軋み、下敷きになっていた身体が露わになった。

 

 獣人族の男性。

 拠点職員の上着を着ている。

 

 背中から腰にかけて、大きく裂かれていた。

 

「…………」

 

 片刃剣を下げ、亡骸の横へ膝をつく。

 

 首へ指を当てる必要はなかった。

 身体は完全に冷え、開いた目には薄い氷が張っている。

 

「死んでから、どのくらいでしょう」

「昨夜だろうな」

 

 ガルドさんが周囲を確かめながら答える。

 

「雪の積もり方から見ても、それより前じゃねぇ」

「名簿を確認します」

 

 亡骸の胸元を探り、身分札を取り出す。

 刻まれていた名前を、依頼書の一覧と照らし合わせた。

 

「常駐職員の一人です。名前は、ドニスさん」

「覚えとけ」

「はい」

 

 札を元へ戻し、開いた瞼へ手を添える。

 

「必ず、連れて帰ります」

 

 声は返らなかった。

 

 代わりに、建物のどこかから木が軋む音が響く。

 

 反射的に片刃剣を持ち上げる。

 同時に、ガルドさんの大盾が僕の前へ出た。

 

「右奥」

 

 低い声。

 

 部屋の奥。

 布の仕切りが、ゆっくり揺れていた。

 

 風ではない。

 窓は閉じている。

 

「出てこい!」

 

 ガルドさんが声を張る。

 

 返事はない。

 

 僕は盾の左から刃を覗かせ、足音を殺して距離を詰めた。

 一歩。

 もう一歩。

 

 布の向こうで、何かが動く。

 

「――っ!」

 

 飛び出してきた白い影へ、刃を振りかける。

 

「待て!」

 

 ガルドさんの声に、寸前で止めた。

 

 床へ転がったのは、破れた寝具だった。

 中に入り込んでいた雪鼠が一匹、壁の穴から逃げていく。

 

「……雪鼠」

「ああ」

 

 刃の先が、僅かに震えていた。

 

「すみません」

「謝るな。止められたならいい」

 

 ガルドさんは盾を下げ、僕の刃へ目を向ける。

 

「だが、動いたものへすぐ斬りかかるな。生存者だったらどうする」

「はい」

 

 言葉が重かった。

 

 拠点の中には、傷ついて隠れている者がいるかもしれない。

 魔物だけを警戒していては、救助にはならない。

 

「次は声をかけます」

「俺も先に止める」

「お願いします」

 

 片刃剣を構え直す。

 

 怖さで視野が狭くなっていた。

 大型と戦う以前の問題だ。

 

 ――落ち着け。

 

 僕たちは、狩りに来たのではない。

 

「中を確認しましょう」

「ああ」

 

 宿舎には二段寝台が六つ並んでいた。

 十二人分。

 

 毛布は引き剥がされ、いくつかの寝台には血が残っている。

 けれど、亡骸は入口にいた一人だけだった。

 

「ここで応戦したようです」

 

 壁へ刃物の傷がある。

 床には折れた槍。

 窓の近くには、使い切った信号筒が落ちていた。

 

「信号弾を撃とうとしたんでしょうか」

「窓が閉じてる。外へ出る前に襲われたかもな」

 

 ガルドさんが信号筒を拾い、内部を覗く。

 

「火薬は使われてる」

「では、撃った?」

「屋根か、見張り台からかもしれねぇ。吹雪で見えなかったんだろ」

 

 救援を呼んだ。

 けれど、その光は誰にも届かなかった。

 

「……僕たちが、もっと早ければ」

 

 口にした瞬間、ガルドさんの手が肩へ置かれた。

 

「それは考えるな」

「でも」

「連絡が来た時点で、俺たちは宴の席にいた。そこから最速で来た」

 

 大きな手に、少しだけ力が入る。

 

「お前が二日前へ戻れるなら好きに悔やめ。戻れねぇなら、今やれることを考えろ」

「……はい」

 

 正しい。

 分かっている。

 

 それでも、入口の亡骸から目を逸らすには、少し時間が必要だった。

 

「今やれることは、生存者を探すことです」

「ああ」

 

 ガルドさんは手を離し、次の部屋へ顎を向けた。

 

「治療室を見るぞ」

「はい」

 

 ◆

 

 治療室の扉には、大きな爪痕が三本刻まれていた。

 

 扉そのものは壊れていない。

 大型は中へ入れなかったのか、それとも途中で別の獲物へ向かったのか。

 

「鍵が掛かっています」

 

 取っ手を引いて確かめる。

 

「中に誰かいるかもしれねぇ」

 

 ガルドさんが扉へ拳を当てた。

 

「エルドランのハンターだ! 誰かいるなら返事をしろ!」

 

 声が建物へ響く。

 

 返事はない。

 

 僕も扉へ耳を寄せる。

 風。

 木の軋み。

 遠くで何かが落ちた音。

 

 人の息遣いは聞こえなかった。

 

「開けますか?」

「ああ。下がれ」

 

 ガルドさんが盾を背へ戻し、扉の横へ肩を入れた。

 

 一度。

 二度。

 

 三度目で閂が砕け、扉が内側へ倒れる。

 

「誰かいますか!」

 

 僕が声を張る。

 返事はない。

 

 治療室の中は、ほかの建物よりも整っていた。

 

 寝台が四つ。

 薬棚。

 水を張るための鉢。

 

 ただし、寝台には誰もいない。

 

「使った跡があります」

 

 一番奥の寝台だけ、敷布が血で濡れている。

 床には包帯と、空になった薬瓶が散らばっていた。

 

「ここで手当てしたあと、移動したんでしょうか」

「そう見えるな」

 

 ガルドさんが薬棚を確認する。

 治療薬の大半が持ち出され、残っているのは空瓶ばかりだった。

 

「自分たちで逃げたなら、薬と毛布を持っていく」

「旧観測坑へ?」

 

 僕は壁へ目を向ける。

 

 治療室の端に、小さな掲示板があった。

 当番表や薬の在庫表に混じって、緊急避難手順が貼られている。

 

「大型魔物による拠点放棄時は、北東の旧観測坑へ移動……」

 

 文字を読み上げる。

 

「移動できない負傷者がいる場合は、治療室または地下倉庫へ残り、救援を待つ」

「地下倉庫は?」

「食料庫の下です」

 

 見取り図へ目を落とす。

 

「まだ、そっちを見ていません」

「行くぞ」

 

 治療室を出ようとしたところで、床に落ちた白い布が目に入った。

 

「待ってください」

 

 拾い上げる。

 腕へ巻くための包帯だった。

 

 血に染まっている。

 その上から、黒い炭で文字が書かれていた。

 

「……何だ?」

 

 ガルドさんが隣へ立つ。

 僕は皺を伸ばし、掠れた文字を読んだ。

 

「『動ける者は坑道へ。三名、地下に残る』」

 

 その下にも、文字が続いている。

 

「『大型は水を纏う。傷が治らない』……」

 

 最後の一文は、途中で途切れていた。

 

 包帯を握る手へ力が入る。

 

「三人が地下倉庫に残った」

「ああ」

 

 ガルドさんはすぐに部屋を出る。

 僕も包帯を道具袋へしまい、その背を追った。

 

「生きているでしょうか」

「行って確かめる」

「はい」

 

 食料庫は、中庭を挟んだ反対側だ。

 

 外へ出る。

 吹雪が顔へ叩きつけられ、視界が一瞬白く染まった。

 

「ガルドさん!」

 

 声を上げる。

 すぐ前にいるはずの背中が、雪に霞んでいた。

 

「ここだ!」

 

 大きな手が伸び、僕の腕を掴む。

 

「離れるな!」

「はい!」

 

 二人で中庭を横切る。

 

 雪は、先ほどより明らかに強くなっていた。

 大型の足跡も、人の足跡も、次々と白く埋められていく。

 

 食料庫の前へ着く。

 扉は閉じていた。

 

 けれど、錠前は外側から壊されている。

 

「大型が入ったのか?」

「分かりません」

 

 僕は片刃剣を構え、扉へ近づく。

 

 ガルドさんが取っ手へ手をかける。

 僕へ視線を向け、一度だけ頷いた。

 

「開けるぞ」

「はい」

 

 扉が開く。

 

 冷気とともに、腐った肉のような匂いが流れ出した。

 

「っ……」

 

 思わず口元を覆う。

 

 食料庫の中には、壊れた樽と袋が散乱している。

 保存肉は床へ落ち、穀物は水を吸って黒く膨らんでいた。

 

 その奥。

 床へ続く階段の扉が、半分だけ開いている。

 

「地下です」

 

 二人でゆっくり近づく。

 

 扉の前には血があった。

 ここまで来た人のものだ。

 

 けれど――。

 

「中へ続いていない」

 

 血の跡は、階段の直前で途切れていた。

 

「誰かに運ばれたのか?」

「それとも……」

 

 横へ引きずられた跡がある。

 食料庫の奥に開いた、暗い穴へ続いていた。

 

 壁が壊されている。

 大型の前脚が通るほどではない。

 

 それでも、人一人を引きずり出すには十分な大きさだった。

 

「坊主。地下を先に見る」

「はい」

 

 穴から視線を外し、階段の扉へ向かう。

 

 ガルドさんが大盾を前へ。

 僕はその左後ろ。

 

 一段ずつ、暗い階段を下りていく。

 

「エルドランのハンターです!」

 

 声を張る。

 

「誰かいませんか!」

 

 返事はない。

 

 地下へ降りるほど、潮の匂いが濃くなった。

 床には水が溜まり、靴が沈むたび、ぴちゃりと小さな音が鳴る。

 

「灯りを」

 

 ガルドさんに言われ、道具袋から発光石を取り出した。

 淡い光が地下倉庫を照らす。

 

 棚。

 木箱。

 毛布。

 

 そして――空になった寝台が三つ。

 

「いない……」

 

 治療薬や毛布を使った跡はある。

 壁際には、食べかけの乾燥肉。

 まだ完全には凍っていない水筒。

 

 つい最近まで、誰かがここにいた。

 

「移動したのか?」

 

 ガルドさんが周囲を見回す。

 

「負傷者が三人いたはずです」

「だが、血はここまで続いてねぇ」

 

 床に残った水へ目を向ける。

 

 濁った表面。

 その中に、人の靴跡がいくつも残っている。

 

「こっちです」

 

 足跡は、地下倉庫の奥へ続いていた。

 

 木箱を退かす。

 その裏に、小さな扉がある。

 

「見取り図にはありませんでした」

「古い通路かもな」

 

 扉を開く。

 冷たい風が、地下から吹き込んできた。

 

 その先には、狭い通路。

 外へ向かって緩やかに上っている。

 

 雪の中へ逃げるための、裏口らしい。

 

「皆、ここから出たんでしょうか」

「負傷者を連れてな」

 

 ガルドさんが通路の床へ目を向ける。

 

 血の跡。

 人の足跡。

 毛布を引きずった痕跡。

 

 少なくとも、三人以上がここを通った。

 

「旧観測坑へ向かった?」

「可能性は高い」

 

 ガルドさんは通路の奥を睨む。

 犬耳が僅かに動いた。

 

「……待て」

「何か聞こえましたか?」

 

 僕も息を止める。

 

 風が通路を抜ける音。

 雪が壁を叩く音。

 

 その中に――。

 

「…………けて」

 

 声。

 

 小さい。

 かすれて、今にも消えそうな声。

 

「今、聞こえました」

 

 ガルドさんが大盾を背負い直す。

 

「ああ」

「人です」

「落ち着け。距離が分からねぇ」

 

 分かっている。

 それでも、身体はすでに通路へ向いていた。

 

「もう一度、声を!」

 

 暗闇へ叫ぶ。

 

「エルドランのハンターです! 聞こえていますか!」

 

 しばらく、何も返ってこなかった。

 

 聞き間違いだったのか。

 風が、人の声に聞こえただけだったのか。

 

 拳を握る。

 

 その時――今度は、はっきりと届いた。

 

「たす……けて……!」

 

 地下通路の向こう。

 吹雪に閉ざされた雪原から。

 

 誰かが、僕たちを呼んでいた。

 

「行きます!」

 

 一歩踏み出す。

 すぐに、ガルドさんが僕の外套を掴んだ。

 

「先走るな。並んで行くぞ」

「……はい」

 

 僕は片刃剣を握り直す。

 ガルドさんが大盾を構え、隣へ立った。

 

 拠点は壊されていた。

 一人は、すでに亡くなっていた。

 

 それでも――まだ、声は残っている。

 

「行くぞ、相棒」

「はい」

 

 僕たちは暗い通路へ踏み込んだ。

 

 吹雪の向こうで助けを求める、その声を追って。

 

 




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