駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~   作:木乃実なぎ

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第四章 第二話『少年は核へ続く道を走る』

 

 ◆

 

「中にあるものさ」

 

 メルシアさんが指した先には、相変わらず巨大な主の身体しか見えなかった。

 フレイヴィアさんが大剣を振るたびに黒い肉が抉れ、その傷を埋めるように水が流れ込んでいる。

 そのうちの一部だけが傷口へ残らず、もっと深い場所へ吸い込まれていく。

 ……あの先に、核がある。

 そう言われたところで、今の僕にはその姿すら見えていない。

 

「それで、どうやって中へ入るんですか?」

「さて、そこが問題だね」

「考えてなかったんですか?」

「核があるって分かったのが今なんだから、入口まで用意してたら僕は予言者だよ」

 

 言いながら、メルシアさんが右手を横へ払う。

 僕たちへ飛んできていた水の塊が途中で軌道を曲げ、石畳へ叩きつけられた。

 飛沫が足元まで届く。

 ほんの少し触れただけなのに、冷たいというより痛い。

 あれを身体ごと受ければどうなるのかなんて考えたくもなかった。

 

「ルキウス! 喋ってる場合か!」

 

「っ、はい!」

 

 ガルドさんの声で正面を見る。

 主の脇腹から剥がれ落ちた塊が、地面へ落ちながら三つに分かれていた。

 一つは六本の脚を持つ獣みたいな形。

 もう一つは上半身だけが異様に大きく、腕を地面へついて身体を引きずっている。

 最後の一つは、何に似ているのかさえ分からない。

 細長い身体の側面に口らしき裂け目がいくつも開き、その全部から歯が覗いていた。

 

 ……気持ち悪い。

 

「右の二体、こっちで受ける!」

 

 ガルドさんが前へ出る。

 近くにいた槍使いと、盾を持った二人のハンターもそれに続いた。

 

「坊主、お前は左!」

「はい!」

 

 六本脚の異形がこちらへ走ってくる。

 脚が多いせいか動きが読みにくい。

 左右交互に進むんじゃなく、前の二本で地面を掴み、残りを一気に引き寄せるような動きをしている。

 

 ……跳ぶ。

 

 身体が沈んだ瞬間に横へ出る。

 予想した通り異形が飛び、さっきまで僕が立っていた場所へ前脚を叩きつけた。

 そのまま首を狙おうとして、刃を止める。

 首らしい場所がない。

 頭から胴までがほとんど一つに繋がっている。

 

 ……なら、脚。

 

 前へ出るために使っている二本へ狙いを変える。

 片刃剣を一番近い関節へ振り下ろす。

 硬い感触のあと、刃が途中まで入った。

 異形が身体を捩り、残った前脚がこちらへ振られる。

 

「っ!」

 

 身を引く。

 先端が外套を掠めた。

 切れた布が飛ぶ。

 すぐに踏み込み直そうとしたところで、横から剣が伸びた。

 

「こっち向け!」

 

 知らないハンターが、異形の後ろ脚へ斬りつける。

 身体がそちらへ向いた。

 

 ……今。

 

 さっき傷をつけた前脚へ、もう一度片刃剣を入れる。

 今度は切れた。

 支えを失った身体が大きく沈む。

 

「頭っぽいところ、どこだ!?」

 

「僕にも分かりません!」

 

「じゃあ動かなくなるまで斬るぞ!」

 

「はい!」

 

 分かりやすい。

 僕は左。

 その人は右。

 異形が僕へ向けば反対から剣が入り、そちらへ向けば僕が傷を増やす。

 二人で何度か繰り返すうちに身体の中央から大量の水が噴き出し、六本あった脚が順番に力を失っていった。

 最後に胴の中央へ片刃剣を深く入れる。

 異形が崩れ、その場へ水と黒い肉だけが残った。

 

「助かった!」

「こちらこそ!」

 

 すぐ主を見る。

 フレイヴィアさんはまだ正面にいる。

 主が両方の前脚を振り上げ、その巨体ごと押し潰そうとしていた。

 

「――ぬるい!」

 

 大剣が下から跳ね上がる。

 片方の前脚が弾かれ、もう片方を身体ごと横へ避ける。

 石畳へ巨大な脚が落ちた瞬間、フレイヴィアさんはその上へ踏み込み、駆け上がるようにして肩まで一気に距離を詰めた。

 

「はあっ!」

 

 大剣が振り下ろされる。

 黒い肉が裂け、主の肩口が大きく抉れた。

 そこへ周囲の水が集まり始める。

 

 ……まただ。

 

 傷を埋める流れ。

 その途中から枝分かれして、内側へ向かう流れ。

 

 目を離さない。

 

「メルシアさん!」

「見えてるよ」

 

 隣に戻ってきたメルシアさんも同じ場所を見ていた。

 赤紫色の瞳が細くなる。

 

「さっきより分かりやすいね」

「はい。大きな傷ができるほど、中へ行く水も増えてます」

「ということは、傷を塞ぐためだけの流れじゃない」

 

 メルシアさんが顎へ指を当てる。

 

「外側を作り直す水と、内側へ戻る水。わざわざ二つに分けてる」

「……戻る?」

「そう見える」

 

 主が大きく身体を振る。

 肩へ乗っていたフレイヴィアさんが飛び降りる。

 直後、その場所を大量の水が通り抜け、抉られた肉を埋めていった。

 

「身体の中をぐるぐる回ってるだけじゃないんですか?」

「たぶん違う。あれは一度、どこかへ戻してる」

 

「どこかって」

「だから、それが核なんじゃないかって話さ」

 

 ……水が戻る場所。

 

 傷ついたところへ送り出される。

 役目を終えた水が、また奥へ戻る。

 もし本当にそうなら。

 その流れを辿れば。

 

「核まで行けますか?」

「水になれるならね」

「なれません」

「知ってるよ」

 

 メルシアさんが楽しそうに答えた。

 でも、すぐに主の身体へ視線を戻す。

 

「だから止める」

「……止める?」

「流れをさ」

 

 言われた意味を考える。

 主の身体の中では、今も大量の水が動き続けている。

 フレイヴィアさんが傷をつけるたび、その流れが外へ現れるだけだ。

 それを。

 

「メルシアさんが?」

「全部は無理」

 

 即答だった。

 

「見れば分かるだろう? あんなもの丸ごと止めようとしたら、僕だって潰れるよ」

「じゃあ」

「一本だけ」

 

 指が上がる。

 フレイヴィアさんが作った傷から、主の奥へ向かう水の流れ。

 

「あそこから中へ続く流れだけなら、少しくらいはどうにかできる」

 

「どれくらいですか?」

「やってみないと分からない」

「……それ、大丈夫なんですか?」

「何が?」

「メルシアさんが」

 

 一瞬。

 こちらを見た。

 

「君、今それを聞く?」

「だって」

「自分はあんなものの中へ入ろうとしてるくせに?」

 

 言葉が止まる。

 

「……まだ入るって決めてません」

「へえ」

 

 ものすごく信じていない顔をされた。

 

「何ですか」

「いや。君も随分、面白い冗談を言うようになったと思ってね」

 

「冗談じゃないです」

「だったら今、核まで行ける道が開いたらどうする?」

 

「それは――」

 

 答える前に。

 

「前!」

 

 ガルドさんの声が飛んだ。

 

「っ!」

 

 横から異形が来る。

 細長い身体。

 側面の口が一斉に開いた。

 

 避ける。

 

 ……いや。

 

 後ろにメルシアさん。

 

「メルシアさん、下がって!」

 

 前へ出る。

 横薙ぎに振られた身体へ片刃剣を合わせる。

 受け止めるつもりはない。

 刃を斜めに当て、その勢いを下へ流す。

 

「っ、重……!」

 

 腕が持っていかれそうになる。

 足へ力を入れる。

 腰を落とす。

 

 異形の身体が石畳を擦った。

 

「そのまま!」

 

 ガルドさんが飛び込んでくる。

 剣が細長い胴へ深く入った。

 

「ルキウス!」

「はい!」

 

 一度刃を離し、反対側から踏み込む。

 ガルドさんが作った傷へ片刃剣を重ねる。

 

 水が噴き出す。

 

「もう一回!」

 

 二人で左右へ分かれる。

 異形がどちらを向くのか迷うように身体を揺らした。

 

 ……ガルドさんを見る。

 

 目が合う。

 

 それだけで分かった。

 

 僕が先。

 

 一歩踏み込む。

 わざと浅く片刃剣を入れる。

 

 異形が僕へ身体を振る。

 

 すぐ離れる。

 

 その背後から。

 

「おらぁっ!」

 

 ガルドさんの剣が傷口へ入った。

 細長い身体が半ばから折れ、大量の水を撒きながら地面へ落ちる。

 

「はぁ……っ」

「大丈夫か?」

「はい」

「なら次見ろ」

 

 言われる前から正面へ顔を向ける。

 ……でも。

 さっきより増えてる。

 主の周囲で、異形が次々と身体から剥がれていた。

 一体。

 二体。

 もっと。

 フレイヴィアさんが傷を増やすほど、その周囲から落ちる塊まで多くなっているように見える。

 

「まずいですね」

「ああ」

 

 ガルドさんも気づいたらしい。

 

「嬢ちゃんが削れば削るほど出てきやがる」

「でも、削らないと中が見えません」

「面倒な相手だな!」

 

 大声で吐き捨てながら、ガルドさんが剣を構える。

 

「ギルドマスター!」

 

 メルシアさんが後ろへ向かって叫んだ。

 

「あの大きいの、中に何か隠してる!」

 

「何だ!」

 

「核みたいなものさ! それを潰さない限り、外から削っても水で形を作り直される!」

 

 少し離れた場所からギルドマスターがこちらを見る。

 肩で息をしながらも、すぐに主へ視線を移した。

 

「場所は!」

「身体の中!」

「狙えるのか!?」

「外からじゃ無理だね!」

 

「だったらどうする!」

 

 メルシアさんが。

 僕を見た。

 

 ……やっぱり。

 

 嫌な予感がした。

 

「中へ入る」

 

「誰が!」

 

「まだ決めてないよ」

 

「こっち見ながら言わないでください」

 

「君が勝手に視界へ入ってるだけさ」

 

 絶対嘘だ。

 

 ギルドマスターは僕たちのやり取りを聞いている余裕なんてないらしく、すぐ近くへ来た異形を大剣で斬り伏せる。

 

「入れる道は作れるのか!」

 

「僕が水を止める!」

 

 メルシアさんが答える。

 

「フレイヴィアが身体を開ければ、その傷から奥へ向かう流れを一本止められるかもしれない!」

 

「何秒だ!」

「知らない!」

「目安くらい言え!」

「十秒持てば褒めてほしいね!」

 

 ……十秒。

 

 主の身体の中を。

 核の場所も正確には分からないまま。

 

「短くないですか?」

「じゃあ二十秒って言えば安心する?」

「できるんですか?」

「できない」

 

「じゃあ言わないでください!」

 

 返しながらも、頭では距離を考えていた。

 フレイヴィアさんが今戦っている場所。

 そこから傷口へ入って。

 水の流れを辿る。

 どこまで深いのかは分からない。

 核の場所も見えない。

 

 ……十秒。

 

 無理かもしれない。

 

 でも。

 

 その間に何もしなければ。

 

 主はまた身体を作り直す。

 異形は増える。

 後ろには街がある。

 それに。

 主の背後にある水の壁は、今も消えていない。

 

「全員聞け!」

 

 ギルドマスターの声が響いた。

 

「出てきた小型は俺たちで止める! フレイヴィアの邪魔をさせるな!」

 

 近くにいたハンターたちが一斉に武器を上げる。

 

「嬢ちゃん!」

 

「聞こえておる!」

 

 フレイヴィアさんが大剣で主の前脚を受け流しながら答える。

 

「腹を開けられるか!」

 

「誰に物を言っておる!」

 

 大剣が主の脚へ食い込む。

 

「開けろと言うなら――」

 

 踏み込む。

 

「開けてやろう!」

 

 刃が横へ走る。

 今度は脚ではない。

 主の胸から腹にかけて、大きな傷が一気に走った。

 

「――っ!」

 

 黒い肉が裂ける。

 その隙間から、今までとは比べものにならない量の水が噴き出した。

 

「メルシア!」

 

「まだ!」

 

 メルシアさんは動かない。

 傷口だけを見る。

 

「流れが散ってる! もう一度!」

 

「注文の多い奴よ!」

 

 主の前脚が振り下ろされる。

 フレイヴィアさんが横へ避ける。

 石畳が砕ける。

 

 その瞬間。

 

 主の横から異形が四体落ちた。

 

「来るぞ!」

 

 ハンターたちが前へ出る。

 一体がフレイヴィアさんへ向かおうとする。

 

「行かせるな!」

 

 盾を持った人が身体ごとぶつかる。

 異形の進路が逸れ、その横から槍が入った。

 別の一体にはギルドマスターが向かう。

 

 僕も。

 

「ルキウス!」

 

 ガルドさんが呼ぶ。

 

「左、来るぞ!」

 

「はい!」

 

 一体。

 僕たちへ向かっている。

 

 ……でも。

 

 主を見る。

 

 フレイヴィアさん。

 メルシアさん。

 

 傷。

 

 水。

 

 核へ続く流れ。

 

「見るな!」

 

「え?」

 

「そっちはあいつらがやる!」

 

 ガルドさんが僕の前へ入る。

 異形の爪を剣で弾く。

 

「お前は今、目の前だけ見ろ!」

 

「……はい!」

 

 片刃剣を構える。

 異形がガルドさんへ向く。

 右側が空く。

 

 ……ここ。

 

 一歩入る。

 腰を回す。

 刃を通す。

 

「次!」

 

 ガルドさんが身体を押す。

 異形の向きが変わる。

 

 今度は反対側。

 

 一撃。

 

 もう一撃。

 

 異形が崩れる。

 

 僕はすぐ主を見る。

 

 ――ちょうど。

 

 フレイヴィアさんが踏み込んでいた。

 

「邪魔だ!」

 

 大剣が主の前脚を下から弾く。

 そのまま身体の内側へ入る。

 今度は大きく振らない。

 刃先を傷口へ差し込み。

 

「ぬぅ……っ!」

 

 両腕で。

 

 強引に。

 

 横へ引き裂いた。

 

 ――主の腹が開く。

 

「メルシア!」

 

「今だ!」

 

 右手が突き出される。

 

 何かが。

 

 変わった。

 

「……え」

 

 音が。

 

 消えた。

 

 主の傷口から噴き出していた水が、空中で止まっている。

 飛沫まで全部ではない。

 でも、身体の奥へ向かっていた一筋の流れだけが、突然凍りついたように動かなくなった。

 

 違う。

 

 凍っていない。

 

 水のまま。

 

 止まっている。

 

「……っ」

 

 メルシアさんの肩が僅かに沈んだ。

 右手の指が震える。

 

「メルシアさん!」

 

「僕を見るな!」

 

 いつもの声より強かった。

 

「流れを見ろ!」

 

 言われて主を見る。

 開いた腹。

 その内側。

 今まで水が勢いよく行き来していた場所に。

 

 隙間がある。

 

 黒い肉の間。

 止まった水の向こうに。

 

 奥へ。

 

 続いている。

 

「フレイヴィアさん!」

 

 異形が一体、横から迫る。

 でも。

 

「余を見るな!」

 

 フレイヴィアさんが大剣で主の身体を押さえたまま叫んだ。

 

「主は主のやることをせよ!」

 

 背後から。

 足音が来る。

 

「坊主!」

 

 ガルドさん。

 

 振り返りそうになる。

 

「前だけ見ろ!」

 

 声と同時に。

 僕の横を抜けようとしていた異形へ、ガルドさんが剣を叩き込んだ。

 

 さらにその横。

 別の異形には槍が伸びる。

 

「行かせるな!」

「こっちは俺たちでやる!」

「フレイヴィアの横、空けろ!」

 

 声が重なる。

 

 主の前では。

 フレイヴィアさんが正面から巨大な身体を押さえている。

 

 少し後ろでは。

 メルシアさんが動かない水へ右手を向け続けている。

 

 その周囲へ湧き出す異形は。

 ガルドさんたちが止めている。

 

 ギルドマスターも。

 さっきの槍使いも。

 名前を知らない人たちも。

 

 みんな。

 

 別のものを見ている。

 

 ……僕は?

 

 目の前を見る。

 

 開いた主の腹。

 

 その奥へ。

 

 道がある。

 

 誰かが僕のために作ったわけじゃない。

 

 フレイヴィアさんは主を止めている。

 メルシアさんは水を止めている。

 ガルドさんたちは異形を止めている。

 

 みんな。

 

 自分ができることをやっている。

 

 その結果。

 

 今。

 

 そこだけが。

 

 空いている。

 

 僕の前だけが。

 

「……」

 

 片刃剣を握り直す。

 

 指が痛い。

 

 脚も重い。

 

 怖い。

 

 あの中に入れば。

 

 外より危ない。

 

 核まで辿り着ける保証もない。

 

 メルシアさんが。

 

 何秒止められるのかも分からない。

 

 それでも。

 

 ……僕が行ける。

 

 今は。

 

 それだけでよかった。

 

 一歩。

 

 前へ出る。

 

「ルキウス!」

 

 メルシアさんの声。

 

「長くは持たないよ!」

 

「はい!」

 

 走る。

 

 主へ。

 

 フレイヴィアさんの横を抜ける。

 

 巨大な身体がすぐ目の前にある。

 黒い肉の隙間から流れ落ちる水が顔へ掛かる。

 冷たい。

 息が詰まりそうになる。

 

「主!」

 

 フレイヴィアさんの声が。

 

 すぐ横から聞こえた。

 

 僕は足を止めない。

 

「行ってきます!」

 

「うむ!」

 

 大剣がさらに深く入る。

 開いていた傷口が、もう少しだけ広がった。

 

 その奥。

 

 暗い。

 

 水しか見えない。

 

 でも。

 

 流れは続いている。

 

 さっきまで見ていた。

 

 何度も。

 

 フレイヴィアさんが傷を作るたびに。

 

 水が戻っていった場所。

 

 ……あっち。

 

 僕は片刃剣を身体へ寄せる。

 

 最後に。

 

 後ろからガルドさんの声が聞こえた。

 

「ちゃんと帰ってこいよ、ルキウス!」

 

「はい!」

 

 振り返らない。

 

 そのまま。

 

 止められた水の間へ身体を滑り込ませる。

 

 冷たい水が頬を掠める。

 黒い肉の向こうへ足を踏み入れた瞬間、外から聞こえていた戦いの音が急に遠くなった。

 

 それでも。

 

 水の流れだけは。

 

 まだ見える。

 

 僕は片刃剣を握ったまま。

 

 水禍渡りの主の中へ。

 

 走った。

 

 ◆

 




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