看取らせは栄養価が高く、嫉妬深い女は美味である
それらを組合せるとどれだけ美味しくなるんだ?



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第1話

 

「こんばんは、慧音。月の見えない良い夜ね。」

 

 寒色の豆電球で照らされた小さなあばら家で、蓬萊山輝夜は老婆の枕元に座る。

 

「よく来てくれたね、輝夜ちゃん。でもね、若い子がこんな夜遅くに出歩くもんじゃないよ。」

 

 上白沢慧音は上体を起そうとしたが、あきらめて輝夜に目線だけ送る。

 

「年下の婆さんがボケても面白く無いわよ。」

 

 げんなりとした表情を見せた輝夜に対し、慧音はイタズラを成功させた子供のようなにやけ面を見せた。

 

「私の冗句に応えてくれるのはお前と妹紅くらいだからな。周りの奴らは私を聖人君子とでも思ってるんだろう。」

「そんな退屈な冗談よりも慧音、妹紅は居ないの?」

 

 わざとらしく辺りを見回して気配を探す輝夜。

 その仕草にため息を吐く慧音

 

「そんなに見渡しても家に隠れられる場所は無いさ。このボロさ、狭さ共に隠居向きだろ? 妹紅はな、私が最期を見せるのに耐えられなくて無理を言ってお別れを済ませて貰ったんだ。」

 

「たまにはこういうボロ屋も趣があっていいわ。綺麗にしてるみたいだけどやっぱり妹紅が来ていたのね。あなたはしばらく動けてないだろうし。」

 

 輝夜は慧音を観察する。薄い布団に横たわり、肺が悪いのか息をする度にザラザラとした音が聞こえる。清潔な白襦袢に艶やかに整えられた髪を見るに妹紅が整えてやったのだろう。

 

 時間はあまり無いだろうとあたりを付け、早めに本題に入る

 

「今晩なんでしょ? 見たらわかるわよ。」

 

 にやけた表情をする輝夜と対象に目を伏せる慧音。

 言葉を選んでいる様な慧音を輝夜は待っている。

 数瞬の逡巡の後慧音が口を開く。

 

「そうだな。予感だが死神はもう起ているんじゃないか。幾許かの時間しか無いだろうよ。輝夜、お前が来たのは妹紅の件だろ。そうでなければわざわざ私なんかの所に来ることも無いだろ。」

 

「そうよ。私あなたのこと嫌いだし。で、どうするの? 妹紅のことを頼むとかカッコつけるか、私にみっともなく泣きついてきて、死にたくないですぅ。私も不老不死にしてくださぃとでも言う?」

 

 相変わらずにやけている輝夜に慧音は苦笑する。

 

「私もお前の事は好かんよ。だけど今後のことはお前に任せるとでもするかな、妹紅の側にいてやってくれ。それに何度も言ってるが不死になるつもりはないぞ。妹紅も悲しむし私もこの人生に誇りを持っているんだ。それともこんなしわくちゃ婆の介護を永劫に頼まえてくれるのか? 嫌いな私の?」

 

 何回も聞いた決まりきったつまらない答えだと輝夜は肩をすくめる。だれが慧音のオムツなんて替えてなんかやるか。

 

「たかだか200年だか300年連れ添っただけで一番の理解者になった人は言うことが違うのね。1000年を超えても分かり合えない私じゃあそんなこと言えないもの。そうは言ってももう薬も作れないし死んでもらうしかないのだけれど。」

 

「そんなこと言わないでくれ、輝夜。お前と妹紅は絶対に分かり合えるはずなんだ。過去の因縁なんてもう水に流しているんだろ? お互い後に引けなくなったりちょっとすれ違ったりしてるだけだとおもうんだ。だからな、ほら、たまにみんなで遊んだりすることもあるじゃないか。そのときにでもお前からゆっくりでいいんだ、ほんの少しでも歩み寄ってあげてくれないか?」

 

 皮肉たっぷりで返す輝夜に婆の姿に見合った包容力を見せる慧音。

 しかしそれが輝夜の癪に障る。

 

「そんなことで妹紅と仲良くできるわけ無いじゃない。いつもいつもそうじゃないあんたは。慧音と話しててもほんとツマラナイわ、もっともなことしか言わないし。こんな簡単に言わないで欲しいわね。」

 

「落ち着け、大丈夫だよ輝夜。先程妹紅が来た時にお前と仲良くするように言い含めてあるから。後はお前の頑張り次第だ。私はそれを見ることが出来無いのが残念だが応援している。せっかくならこんなババアになる前にお前たちと三人でもっと遊びたかったよ。」

 

 慧音が優しく微笑み輝夜の手をそっと包む。

 これで言うことを聞いてくれるだろうと安堵している様な顔にしか見えない。

 結局この女は死んでも変わらないと失望し、そう想う自分にも嫌悪する。

 

 輝夜は荒々しく手を振り解き吐露する。

 

「あんたが言ったから大丈夫? 何よそれ煽ってるの。それじゃあ妹紅は義務で私と仲を深めてくれているだけじゃない! それが今後の私達に対する呪いだって気づいてないわけ?

 結局わたしは二番目の女以下よ。ご主人様が地面に捨てた餌を惨めに頬張る犬畜生にも並ぶ存在じゃないの! 舐めるな! 巫山戯るんじゃない!

 お前が妹紅に近づいて来てからずっとそう。それまで私達は犬猿の仲とは言いつつも殺し合い(傷を舐め合い)、一定の理解をしてきた。

 だけどお前と妹紅はなんだ、当事者でも無いのに知った気になるな。歴史を覗いたって分かるわけがないんだよ。

 その癖貞淑な妻を気取って三文芝居か半妖売女の畜生が。私だって出来ることなら妹紅の身体を傷つける以外で触れ合いたかった。だけどもう今更無理なんだよ。遅すぎる。これまでの千年とこれからの千年じゃあまるきり違うの。お前が変えたんだから戻してよ。どうして何も言わないんだよ。さっさと何か答えろって言ってんでしょ。」

 

 心の内を晒し、憎い恋敵がどんな表情をしているか見てやろうと顔を覗き込むと既に眼は輝夜を写していなかった。

 

「勝ち逃げされたか。」

 


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