緑松石に関する物語   作:箱葉

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銀と金のナラの家

 

 

 ナラアルハイゼンはアランラミャを抱えたまま、リシュボラン虎にも負けないくらいの速さでスメールシティに着いた。

 大きな町だ。立派な大樹と石の家たちが、仲良く寄り添っている。遠くから見たことはあるけれど、こんなに近づいたのは初めてだった。

 

「わぁー……」

 

 口を開けたまま目の前に広がる景色を見上げる。

 ほかのアランナラたちはきっと、ここまで来たことなんてないに違いない。ヴァナラーナに帰ったら自慢しなくちゃ。

 でも、そんなワクワクした気持ちはそびえ立つ石の門に近づくと萎んできた。

 

 当然だけど、ここにはナラがいっぱい居る。そしてみんなアランラミャのことをちらちら見てくるのだ。

 こんなに沢山のナラに見られるなんて初めてだから、すごく緊張した。ナラアルハイゼンの後ろに隠れたい。けど、もぞもぞ動いても離してくれない。

 

「大丈夫だから、もうすこしだけ我慢してくれ」

「うう、わかった……」

 

 カレがそう言うなら仕方がない。けれど、ナラワルカが歩いてるところを見つけたときは「ひゃあ」と悲鳴を上げてしまった。

 見ちゃったらダメだ。見ちゃったら、恐ろしくて声が出てしまう。

 アランラミャは落ちないようナラアルハイゼンにしがみついたまま、強く目を閉じた。これならきっと怖くない。早くカレの家に着きますように……。

 

 

 腕の中で揺られてどれくらい経っただろう。ナラアルハイゼンがぴたりと足を止めた。

 

「着いたよ、アランラミャ。ここが俺の家だ」

「ほんと?」

 

 おそるおそる目を開ける。

 ここが、ナラアルハイゼンの家。大きな石と木でできていて、たとえ全てを吹き飛ばすような嵐が来ても耐えられそうだ。

 

「まだ昼間だからあいつはいないはずだが……」

 

 そう言いながらカレは扉を開け、家の中へと入る。

 そして、きらきらしてる金色のナラとぱっちり目が合った。

 

「……ついに、犯罪に手を染めたのか?」

「まさか。俺の親戚だ」

「はあっ!? 親戚だって!?」

 

 金色のナラが大声を出すからびっくりした。

 どうしてナラアルハイゼンの家に別のナラがいるんだろう。『兄妹』なのかな? 『兄妹』は一緒に過ごすんだって、昔ナラヴァルナも言ってたらしいし。

 

「あまり大きな声を上げるな、この子が驚くだろう」

「す、すまない。しかしだな……」

「ほら、よく見れば俺と似ているだろう? 左目が隠れているところとか」

「髪型が遺伝する訳ないだろ、僕を馬鹿にしているのか!?」

「君はもう少し冗談に対するユーモアな返しを覚えたほうがいい」

「本当に君ってやつは……!」

 

 金色のナラが頭に手を当てる。頭が痛いのだろうか。

 ナラアルハイゼンは心配する様子もなく、アランラミャを見下ろした。

 

「彼はカーヴェという。そうだな……ルームメイトといったところだ」

「『ルームメイト』って、なに?」

「家族ではないが同じ家に住んでいる者、と言えば分かるだろうか。カーヴェは自分の家がなくなってしまったんだ」

「ふーん、『兄妹』じゃなかったんだ。ナラは家がないと大変なんだよね。ナラカーヴェ、かわいそう」

「自業自得だから君が気に掛ける必要はない。カーヴェ、この子はアランラミャだ。事情があって一日だけ家に泊めることになった」

 

 顔にシワを作ったナラカーヴェが、ナラアルハイゼンを睨む。

 

「君の外套で包んでいるのもその事情ってやつか?」

 

 そうだ、と答えてナラアルハイゼンはすたすたと歩き始めた。家の中に入ってすぐの、大きな布の上にアランラミャをそっと置いてくれる。

 この布、ふわふわだ。お尻に優しい。

 

「面倒だと思ったが、ある意味タイミングが良かったかもしれないな。カーヴェ、しばらくアランラミャを何も詮索せずに見ていてくれ。俺はこの子の服を買ってくる」

「えっ!」

 

 アランラミャとナラカーヴェの声が重なる。カレはアランラミャたちを交互に見たあと、ひとつ頷いた。

 

「相性も良さそうだ。では行ってくる」

「ちょっと待ってくれ、ほんとに攫ってきたんじゃないだろうな!? 僕は犯罪に加担する気はないぞ、せめてどこから連れてきたのかくらい説明――ああっ、行ってしまった……」

 

 ナラアルハイゼンは話を聞かないナラらしい。すたすたと出て行った。

 ナラカーヴェは困ってるみたいだけど、アランラミャも困ってる。また新しいナラと話さなくちゃいけないなんて、どんなことを言えばいいんだろう。

 とりあえず見上げたら、カレは「あー……しかし、服がないとどちらにせよ困るものな。仕方がない……」と呟いた。そして、しゃがんでアランラミャと視線を合わせた。

 

「さっきは騒がしくしてすまなかったね。僕はクシャレワー学院の卒業生で建築デザイナーのカーヴェだ。決して、けっっして怪しい者じゃないから安心してくれ」

「『クシャレワー学院』……『建築』? ナラの言葉は難しい。分からないけど、よろしく、ナラカーヴェ」

「ナラ……? いや、分からなくて当然だ。子供相手に弁明しようとした僕が悪かった、さっきのは忘れてくれ。よろしく、アランラミャ」

 

 薄い夕暮れ色の目を細めて笑ったナラカーヴェは、そのまま次々と質問してきた。

 

「その格好で寒くはないかい? お腹が空いてるとか、喉が渇いてるとかは? とりあえず布団は持ってきたほうがいいだろうね……そうだ、このあいだ酒で割る用に――ゴホンッ、ジュースにする用にザイトゥン桃のシロップを買ってきたんだった。水に溶かせばきっと美味いはずだ、それも一緒に持ってくるよ」

 

 アランラミャが喋る隙もなく、ひとりで沢山喋ったカレはささっと部屋の奥へ行ってしまった。

 ナラアルハイゼンと話してるときはプンプンしてうるさかったけど、アランラミャと話してるときは柔らかな日差しのように優しい。

 すぐ怒ったりすぐ笑ったり、変なナラだ。

 でも、ナラアルハイゼンと一緒に過ごしてるんだから、きっといいナラなんだろう。

 

 

 朝露の雫がいくつか落ちるくらいのあいだを置いて、ナラカーヴェがにこにこしながら戻ってきた。

 

「アランラミャ、待たせたな!」

 

 大きくて分厚い布を担いで、もう片方の手には小さな金属を握っている。金属をゆっくり机に置いて、カレは大きな布をアランラミャにふわりと掛けた。

 

「どうだ、重くはないか?」

「あったかくてふわふわだ。重くない。ありがとう、ナラカーヴェ」

「どういたしまして。ほら、これも飲むといい」

 

 机に置いていた金属をアランラミャに渡してきた。ぐるぐる巻きのせいで動かしにくい手を使って、なんとか受け取る。

 金属の中には水が入っていた。すごくいい匂いがする。そーっと口を付けてみて、アランラミャはびっくりした。

 

「おいしい! ザイトゥン桃が口の中で弾けてる……それで、もっと違う味もする。この味はなんだろう、すごくおいしい。幸せの味だ」

「はは、気に入ったか? ザイトゥン桃以外と言ったら、入ってるのは砂糖ぐらいだが……それで甘く感じるんだろう」

「『砂糖』が入ってると『甘い』の? じゃあ、これが『甘い』味なんだ……」

 

 たくさん飲んでしまって、気づいたら金属の中には一滴も『甘い』水が残っていなかった。すごく悲しい。

 

「なくなっちゃった……」

 

 しょんぼりして金属を見つめていると「そのくらい、いくらでも入れてあげるよ」とナラカーヴェが笑う。

 それと同時に、木の軋む音が聞こえた。

 

「君のなんでも他人に与える癖はどうにかならないのか? いくらでもなんて守れない口約束をするのはやめたほうがいい」

「あ、ナラアルハイゼン」

 

 紙袋をいくつか抱えたナラアルハイゼンが、家に入って近づいてくる。

 アランラミャの手からひょいと金属を取って匂いを嗅いだカレは「あれを飲ませたのか」と呟いた。

 

「戻ってくるのが早すぎないか?」

「服を買うだけで夜まで掛かるとでも思っていたのか? しかし、見ていてくれて助かった。ありがとう」

「……まったく感謝の心が伝わってこない」

「心の底から感謝しているというのに、君はいつも俺の言葉を疑うな」

 

 それからしばらく、ナラアルハイゼンとナラカーヴェは喧嘩していた。仲が良くないのかな。

 仲が良くなさそうなのに一緒にいるなんて、アランリラとアランニシャットみたいだ。でも、あのふたつは言い争って遊んでるから、ナラアルハイゼンとナラカーヴェも同じなのかもしれない。

 ふたつの喧嘩を眺めていると、風スライムみたいにプンプンしたナラカーヴェが大きな声を上げた。

 

「もういい。とにかく、この子の面倒は見たし僕は行く。こんなとこで言い争ってる暇はないんだ。遠出しなきゃいけない仕事があるから荷物を取りに来てたんだよ。しばらく留守にするけど、ちゃんとその子を家に送ってやれよ!」

「アランラミャより自分の心配をしたらどうだ。時間がないんだろう」

「誰のせいだと思ってるんだ! まったく……じゃあね、アランラミャ。アルハイゼンに変なことをされそうになったら大声で叫ぶんだぞ」

「うん? わかった。ばいばい、ナラカーヴェ」

 

 ナラカーヴェはアランラミャに手を振って、家を出ていった。ばたんと扉が閉まる。……と思ったらまた開いて、顔だけ覗かせてきた。

 

「ほんっとーーにちゃんと帰してやれよ、アルハイゼン!」

「大建築士様はよほど時間が有り余っているらしいな」

「ふんっ」

 

 また扉が閉まって、次はもう開かなかった。ため息を吐いたナラアルハイゼンがいくつかの紙袋を机に置く。

 

「突然カーヴェとふたりきりにして悪かった。大丈夫だとは思うが、一応聞いておこう。不快な思いはしなかったか?」

「変だったけど、優しくていいナラだった。甘い水もくれた!」

「それは良かった。甘い水を飲んで体に異常はなかったか?」

「全然平気だ、むしろ幸せが増えた」

「それなら良かった。健康面の心配があるからいくらでもとは言えないが、適量であればこれからも入れてあげるよ」

「ほんと!?」

 

 なんて素晴らしいんだ。これもみんなに自慢しなくちゃ。でも、独り占めするよりはみんなと一緒に飲みたい。

 作り方を教えてって言ったら、ナラアルハイゼンは教えてくれるかな。

 聞いてみるより先に、カレはアランラミャを持ち上げた。

 

「服を買ってきたはいいが、土埃がついているな。先にシャワーを浴びようか」

「『シャワー』?」

「行けばすぐに分かる」

 

 ――そして、連れて行かれた先でアランラミャは、今までに経験したことがないほど強い雨に打たれた。

 

 

「葉っぱがもげちゃうかと思った……あ、今は葉っぱがないんだっけ……」

「大丈夫だ。あの程度の水圧で君が怪我をすることはない」

「でも怖かった……」

「そうか」

 

 とんでもない雨を浴びたあと。

 ナラアルハイゼンはふわふわの布を出して、アランラミャの体についた水を拭き取っていった。頭の毛をぐしゃぐしゃにされて今度こそもげそうだ。

 大丈夫かな。アランラミャの毛、なくなってない?

 表面の水が大体取れると、カレは紙袋の中から黒い服を取り出した。

 

「両腕を上にあげてくれ。そうだ、それでいい」

 

 言われた通りにすると、上からすぽんと服を被せられる。途中で布が顔に当たって「んーっ!」と目を閉じた。

 ぐいぐい引っ張られるような感じがしたあと、もう腕を下げていいと言われたので目を開く。

 

「わぁ……!」

 

 アランラミャが、服を付けてる!

 小さいナラみたいに膝まで隠れる形のやつだ。端っこには金色で草木のような模様も入っていて、すごく綺麗だった。

 

「サイズはちょうど良さそうだな。その下にこれを穿いてくれ」

 

 ナラアルハイゼンは、紙袋からもっと小さな服を取り出した。

 

「人間は生殖器を隠す服を下に付けるんだ。君は服を着ることに慣れていないだろうから着脱のしやすいワンピースにしたが、それでも下着は穿いてもらわなければいけない」

「『生殖器』って?」

 

 『下着』を付けるために足を上げさせられる。転びそうになって、慌ててナラアルハイゼンの肩を掴んだ。

 

「人間が子供を作るために必要な器官だ」

「分かった、おしべとめしべみたいなものか。アランナラにはついてない。ナラになったアランラミャにはついてる?」

「いや、出会ったときに失礼ながら観察させてもらったが、それらしい器官はどこにもなかった。まだ断定はできないが、人間の形を模しているだけで、構造は限りなくアランナラに近い可能性がある」

「えーっ!」

 

 ちょっと残念だ。全部ナラみたいになったのかもって思ってたのに。

 下着を付け終わったナラアルハイゼンは、次に枝がたくさん生えた小さな木を取り出した。ぐしゃぐしゃになったアランラミャの頭の毛を、小さな木で撫でていく。

 

「でも、ごろごろ転がったときは、アランナラのときより痛かったよ」

「そうか、それは検証の必要があるな。これからゆっくり確かめていこう」

「うん? うん」

 

 頭の毛を撫で終わったみたいだ。それからカレは『ワンピース』の『ポケット』に杖を入れたあと、アランラミャの神の目に金属の紐をくくりつけた。

 アランラミャの頭から紐を引っ掛けて「よし、これでいいだろう」と頷く。

 

「わぁ、ありがとう。アランラミャ、立派なナラに見える?」

「ああ、どこからどう見ても人間の子供だ。鏡を見てみるか?」

 

 首を傾けたアランラミャを、ナラアルハイゼンはある場所に連れて行ってくれた。

 そこにはなんと、水面のようにアランラミャの姿を映す、すごい板があったのだ!

 『鏡』の中のアランラミャはナラにしか見えなかった。左目が隠れた水色の毛はちょっと跳ねていて、肩くらいの長さまである。目は緑色に近い水色だ。アランナラのときのアランラミャの体と同じ色。

 嬉しくなってくるくる回ると、黒い『ワンピース』がひらひら揺れて、神の目を付けた紐がシャラシャラ鳴った。

 

「楽しい~!」

「それは良かった」

「ありがとう、ナラアルハイゼン。キミに助けてもらえて良かった!」

 

 両手を広げて喜びを表すと、ナラアルハイゼンは初めて、ちょっとだけ笑った。

 

 

 月が顔を覗かせたころ、カレは料理を食べた。服のついでに食べ物も買ってきたらしい。アランラミャにもくれたけど、塩が入っていたから食べられなかった。

 ナラは塩をいっぱい食べても干からびないなんて、とてもすごい。

 アランナラは食事をしなくても大丈夫だと言ったのに、ナラアルハイゼンは「次は君も食べられるものを用意しよう」と言ってくれた。カレは優しい。

 

 それからもっと月が高く昇ったころ、アランラミャが寝ないということを教えたときはちょっと目を丸くしてびっくりしていた。

 

「アランナラに睡眠は必要ないのか?」

「うん。休眠することはあるけど、ナラが何度も眠るのとは意味が違う」

「つくづく不思議な生き物だな、君たちは。……俺は今から寝るが、君はどうする? 普段はどんなことをして過ごしているんだ?」

 

 うーん、と考える。いつもヴァナラーナでしていることを、ひとつひとつ数える。

 

「いつもは歌ったり踊ったり、お花屋さんしてる。お花を集めて売ると、みんながいろんなものと交換してくれるんだ。いっぱいあげて、いっぱいもらって幸せ。……でも、ちょっと前にアランチャトラが持ってきたキノコは……思い出しただけで恐ろしい。二度と持ってこないでって言った」

「……そうか。キノコの種類は多岐にわたり、安全なものと危険なものの見分けがつきにくい。君の判断は正しかったと思う」

「ほんと?」

 

 やっぱりアランラミャが正しかったんだ。

 あのときは視界がぐるぐるして、もうすこしで死んじゃうかと思った。アランチャトラの言った通り味は美味しかったけど、ぐるぐるするのはもう嫌だ。

 

「しかし、そうなると困ったな。ここでは暇潰しになりそうなものがない」

「アランラミャもナラみたいに寝てみたい。一緒に寝よう、ナラアルハイゼン」

「そうか。それならおいで」

 

 手を差し伸べられたのでぎゅっと握った。ちゃんとナラの手に触ったのは初めてかもしれない。変な感触だ。

 手を繋いだまま奥の部屋へと向かって、ナラアルハイゼンの部屋に入れてもらう。

 中には沢山の本と、隅っこに大きな布の塊があった。

 

「あ、ナラが寝るところだ。なんて言うんだっけ、えっと……」

「ベッドだな。ここに寝転んで、体が冷えすぎないように布団を掛けて寝るんだ」

「へえーっ」

 

 『布団』は知ってる、ナラカーヴェに掛けてもらったふわふわであったかいやつだ。

 ナラアルハイゼンが耳につけていたものを外してベッドに寝転ぶ。隣をぽんぽんと叩いたので、そこへアランラミャも寝転ぶと『布団』が体の上に掛けられた。

 

「すごい、どこもふわふわだ……」

「人間の姿になったから、もしかすると眠れるかもしれないな。目を閉じて試してみるといい」

「うん、わかった。ナラアルハイゼンも、良い夢が見れるといいな」

 

 こちらに体を向けたカレが、不思議そうに「うん?」と聞き返した。

 

「スメールの大人は夢を見ない。アランナラは夢を見るんだな」

「えっ、夢を見ないの? おかしいな……」

 

 生きてたらみんな夢を見るはずなのに。じゃあ、ナラアルハイゼンは大きくなってからずっと夢を見たことがないのかな。それってすごく悲しいことじゃないのかな。

 

「じゃあ、夢を見せてあげようか?」

 

 そう言ったら、カレは驚いたようにすこし黙った。

 

「……そんなことができるのか?」

「うん。アランナラはみんなできる。みんな、夢の中で繋がってるから。夢の内容までは決められないけど……」

「構わない。アランナラの見せる夢というのに興味がある、頼めるだろうか」

 

 じっとこちらを見つめるナラアルハイゼンに「わかった!」と頷いた。

 夢を見せるのに触る必要はないけど、ちょっと触ってみたくなったから手を伸ばす。口の横にぺちんと手が当たってもカレの表情は全然変わらない。

 ナラの顔は、握った手とはまた違う変な感触だった。

 

「おやすみ、ナラアルハイゼン。キミが良い夢を見れますように」

 

 そうして夢境の力を使ってあげる。カレはゆっくりと目を閉じていった。

 いったいどんな夢を見るんだろう。

 一緒に寝ると言ったけど、ちょっと心配だ。アランラミャは太陽が顔を覗かせるまで、カレの夢を守ってあげることにした。

 

 

 眠るナラアルハイゼンを眺めながら、すこしだけ、ずーっとずっと昔のことを思い出した。

 

 初めてナラヴァルナに会ったときのこと。

 ナラカーヴェのように金色のナラで、勇敢で、みんながナラヴァルナを慕っていた。

 アランラミャは直接話したことがなかったけど、お花屋さんをしていたらナラヴァルナが来てくれたんだ。

 

「初めまして、ナラヴァルナ。アランラミャのお花を買って」

 

 緊張しながらそう言ったらお花を全部買ってくれた。

 でも、あんまり嬉しそうじゃなかった。困ってるような、悲しんでるような変な顔。

 お花かアランラミャのことが嫌いだったのかなと思ったけど、全然違うよと慌てて首を振っていた。

 

 ――でも、じゃあ、なんでそんな顔をしてたんだっけ。

 

 

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