シャーレの先生は化け物である 作:人肉の味を知りたいようで知りたくない
喰種視点から見て、美味しそうな生徒達って誰なんでしょうね
「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん、ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」
「別に、怒っていません」
アビドス、柴関ラーメンにて。広い六人テーブルで思い思いに食事に耽る生徒達の中で、アヤネは相変わらずむくれていた。理由は単純明快、定例会議で少々はっちゃけ過ぎたのが原因である。
「なんでも良いんだけれどさ、なんでまたウチに来たの?」
「いやぁ、部室以外で集まれる場所って此処くらいでしょ、それに丁度お腹も減っていたし~」
「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」
「赤ちゃんじゃありませんからっ…!」
定例会議の後、バイトに向かったセリカを追って皆で入店し今に至っており、みんなそれぞれ違うラーメンを食している。
「それにしても先生、ピエロにいい思い出がないって言ってたけど……何かあったの?」
「まあ……ね、それはもう色々とね……。あぁ、だめだ。ピエロのことを考えていたら、連鎖反応で昔のロクでもないトラウマが次から次へと頭に浮かんできちゃったよ……(遠い目)」
コップの水をすする先生の目が、一瞬にして尋常ではないレベルで濁っていく。過去の凄惨な記憶──肉体的にも精神的にも限界まで追い詰められた地獄の記憶が、一気にフラッシュバックしたらしい。
「ん」
するとシロコが、興味深そうに耳をピクリと動かして先生を凝視した。
「先生の今後そのトラウマを刺激しないようにするためにも、単語だけでも知っておきたいから、教えてほしい」
「そうですね〜、それで事故も防げますし〜」
「ん、先生が今一番思い出したくないこととか、耳にしたくない物を教え欲しい」
「………そうだな、ピックアップしてあげるとしたら…」
先生は頬をひきつらせ、思い出すだけでも全身の細胞が恐怖でパチパチと悲鳴を上げそうな、『二大トラウマ』の名前を口にした。
「………『梟』と、あとは『猫背の中年男』……かな……。うん、この二つだけは本当に、夢に出てくるレベルで勘弁してほしい」
「梟?」
「猫背の中年男…?」
先生が出したその単語に、対策委員会の面々が一斉にフリーズした。あまりにも脈絡のない、そして妙に具体的な単語の数々に、アヤネが真っ先に声を上げる。
「梟って……あの梟ですよね? 」
「何、先生梟に襲われたの?」
「いや、巻き込まれただけ…かな」
「後半の人は?」
「シンプルに嫌いで、二度と会いたくないかなぁ。嫌な思い出しかなくってさ……ウプッ」
「あっ先生の顔色が悪くなって来てる」
「はっ、はーいこの話終わり!!今後は気をつけようね!ね!みんなでラーメン食べようねー!」
先生のトラウマを刺激する単語は分かったので、シロコ達はとりあえず今後は気をつけようと改めて決めた。そうこうしているうちに、不意に入店のベルが鳴った。柴関ラーメンに新たなお客がやって来たようだ。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「一番安いメニュー……?でしたら、580円の柴関ラーメンです。看板メニューなので、美味しいですよ!」
(服装と容姿の特徴的に……ゲヘナの生徒かな)
紫色の髪の生徒が1人がセリカに安いラーメンは何かと尋ね答えが出た後、一度店に出る。少ししてから仲間である生徒達が3人ほど入ってくる。
「くふふ〜っ、やっと見つかった。600円以下のメニュー!」
1人は灰色の髪で大きな鞄を持った少女。
「ふふふ、言ったでしょう?何事にも解決策はあるのよ、全部想定内だわ」
1人は濃いピンクの髪色でワインレッドのコートを羽織った少女。
「はぁ……」
そして最後はパーカーのような服を着た赤い瞳の白黒色の髪の少女。少女達は近場のテーブル席に腰を下ろし、灰色髪の少女がセリカに注文を告げる。
「柴関ラーメンを一つ!あっ、お箸は四膳でよろしくー!」
「えっ? 四膳ですか? ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」
「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」
「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」
「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」
「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」
お金がなく、一つのラーメンを4人で分けようとしている。先生はその様子を見て昔のことを思い出す……人肉がなかなか手に入らず仲間に分けてもらった日のことを、先生はこうしてはいられないと動こうとすると、セリカは不意に肩を震わせ、かっと目を見開くと力強くハルカの肩を掴んで叫んだ。
「違う! お金が無いのは罪じゃないよ! 寧ろ胸を張ってッ!」
「へ? ……えっ、はい?」
「お金は天下の廻りものって云うし、そもそもまだ学生だし、それでも小銭を搔き集めて食べに来てくれたんでしょ!? そういうのが大事なんだよっ!」
「え、えっと――」
「もう少し待っていてね、直ぐ持ってくるから!」
そう云うや否や、セリカは注文を伝えに厨房へ走る。それを見ていた彼女らは面々は呆気にとられ、暫くして近場のテーブル席に腰を下ろした。
「…何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」
「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」
目を向けたられた赤髪の少女はムッとした表情となる。
「アルちゃんじゃなくて社長でしょ?ムツキ室長。肩書はちゃんと付けてよ」
「だってもう仕事終わりじゃん?ところでー、社長なのに社員にラーメンを1杯分しか奢れないのってどうなの?」
「うぐっ」
「まぁ、今回の傭兵バイトを雇うのに全財産使っちゃったからね、社長。それでも4杯分くらいは残しておけたと思うんだけど」
「カヨコまでっ…」
「ぶっちゃけ夕飯代忘れてたんでしょ、アルちゃん?1杯分残ってたのも偶々でしょ?」
「…ふふふ」
赤髪の少女が『アル』、灰色髪の少女が『ムツキ』、黒髪の少女が『カヨコ』、紫髪の子が『ハルカ』、先生は彼女らの容姿と名前を覚えた。
「…はぁ。まぁ、一番火力を出せる社長に敵が接近するリスクを減らす為に、耐久力があって前衛が出来る傭兵バイトに資金を注ぎ込むのは正しい。そこは同意する。でもそんなにアビドスって危険なの?」
(……おっと?)
「それは…」
「多分アルちゃんもわかってないと思うよ?だからビビってたくさん雇ったんだろうしー♪」
「だ、誰がビビってるって!?全部私の想定内!失敗は許されない、あらゆるリソースを総動員して仕事に臨む。それが便利屋68のモットーよ!」
(一難さってまた一難……こっちの世界でもそれは変わらずなんだね)
アル達は『便利屋68』という組織のようで、話の内容的に『お金があればなんでもする組織』、それがアビドスを襲撃するように誰かに依頼されたようだ。
シロコ達はお互いの会話に夢中なのか聞こえていない、けれど先生には聞こえていた……いや、聞こえてしまっていた。
「まっ、とりあえずアビドスの件は一旦置いといて〜……問題は二つ目の依頼だよね〜」
(二つ目…?)
一つ目の依頼がアビドス、二つ目の依頼とはなんなのか、先生はしっかりと耳を立てて聞く。
「『アビドスにいる化け物について調べてくれ』……だなんて、おかしな依頼だよねー」
(――なん……だと……?)
「今更だけど、なんでこんな意味のわからない依頼を受けちゃったの?」
「依頼料が一つ目の依頼よりもかなり高くて……つい」
「ほ、本当にいるんでしょうか……プロの傭兵を倒せるほどの化け物が」
「多分どこかの生徒なんだろうけど、探すのにだいぶ時間はかかると思う」
「だよね〜」
彼女らの会話を聞き、先生は一つの結論を出した。それは『彼女らと雇い主と、昨日の傭兵の雇い主は一緒』ということ。
傭兵達はアビドスの生徒を狙い、彼女らはアビドスそのものを襲撃しようとしている。そして彼女らの言うアビドスにいる化け物とは……自分のこと。
(……あの子達に話を聞く必要があるな、かと言ってここで問いただすのは少し面倒なことになりそうだ。…彼女らが襲撃しに来たその日に、話をしよう)
先生はそう決め、頭の中で色々と作戦を決めていた…その時、セリカがラーメンを運んでいく姿が見えた。
「お待たせしました!お熱いのでお気をつけて!」
机が揺れる程の音を立て置かれたのは、どんぶりから溢れんばかりの具材と麺が山となっている巨大ラーメンであった。
「ひぇっ!?何これ?!超大盛りじゃん!」
「ざっと10人前はあるね…」
「こ、これはオーダーミスなのでは…?こんなの食べるお金、ありませんよう…」
困惑する彼女らを他所に、セリカはあっけらかんと笑って見せる。
「これで合ってますよ。580円の柴関ラーメン並。ね?大将」
「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」
「大将もこう言っていることだから、気にしないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞー」
(店長…!!!)
便利屋達はラーメンを見上げる。
「わ、わあ…」
「よく分かんないけどラッキー!いただきまーす」
「これはさすがに想定外だったけれど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね」
『お、美味しい!』という4人の感動の声を聞きつつ、始終を見守っていた先生は爽やかな笑顔を彼女の達に向けた。
「でしょう?でしょう?美味しいでしょう?」
「あれ…?違う席の…」
「ここのラーメンは本当に最高で、遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」
「分かるわ。色々な所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンには中々お目にかかれないもの」
「えへへ…私たちここの常連なんです。他の学校の方達に食べていただけるなんて、なんだか嬉しいです」
アヤネが自分事のように喜び告げる。
「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」
アルとアビドスの娘達が談笑を始めた横で、便利屋の方ではムツキとカヨコがヒソヒソと言葉を交わす。
「連中の制服…」
「あれ、ホントだ」
そこまで口にして、ふと横目に自分達のリーダー、アルを見る。
「うふふふっ、良いわ、こんな所で気の合う人達に会えるなんて、これは想定外だけれど、こういう予測できない出来事こそ、人生の醍醐味じゃないかしら!」
「肝心のアルちゃんは気付いていないみたいだけれど?」
「…教えるべき?」
「面白いから放っておこ!」
(………悪い子達じゃなさそう…かな)
先生はそんな様子を見ながら、そう思ったのだった。