シャーレの先生は化け物である   作:人肉の味を知りたいようで知りたくない

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⚠︎めちゃくちゃダークな部分が出ます、ご注意ください。
オリキャラを1人だけ入れさせてもらいました、今後オリキャラ追加予定はありません。


『食事』

 

 

 

学園都市の法も秩序も完全に破綻した深夜のブラックマーケット。

 

 

その中でも、ゴロツキや悪徳商人でさえ『あそこだけは命の保証がない』と足を踏み入れるのを恐れる、最も危険な路地の奥深く……

 

 

 

カツン、カツン、と

 

 

静寂と夜道に、一定の、ひどく落ち着いた足音が響いていた。

 

 

「………」

 

 

衣服の上からゆったりとした薄い黒色のロングコートを羽織り、頭部には深いフードを目深に被った一人の人物。その人物は静かに、落ち着いた様子で路地を歩いてゆく。

 

 

「………ついた…っと」

 

 

歩いた先に待っていたのは、一つのボロい店。真っ当な者……いや、真っ当ではない者でも入ることを躊躇うほどの雰囲気と容姿を持つ店……その店の扉を、彼はノックする。

 

 

 

 

 

 

――ガチャ…。

 

 

 

 

「――来たか」

 

 

 店から出て来たのは少しガタイのいいクマの獣人だった。右目には大きな切り傷、毛色真っ黒で声もかなり低かった。

 

 

 

「こんばんわ店長さん、調子どうですか?」

 

「まあまあだな……―先生、とりあえず中に入れ、もう用意は済んでるんだ」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 

 そしてフードの主は…先生だった。

 

 先生は店の中へと入り、店長の案内のもと店の奥の部屋へとすすむ。その部屋は広く、窓はひとつも無く、薄暗い灯りだけがついていた。

 

 

「今回はいつもと変わらないサイズだ」

 

 

 少ししてから、クマ店長は一つの黒いバックを先生の前に運んでくると、それを地面に置き……バックのファスナーを開いた。

 

 

 

 

「例の場所で死んでいた。調べたところ両親はすでに他界、交友関係もない、勤めていた職場はあんまりいいところじゃなかったらしくてな、仲のいい同僚もいなかったらしい」

 

「……自分で、自分の胸を刺して亡くなったんですね」

 

「服はいつも通り脱がして、ついでに目も閉じておいた。これならちょっとは食いやすいだろ」

 

「ありがとうございます店長さん」

 

 

 

 バックの中に入っていたのは、キヴォトスに住む犬の獣人の死体だった。先生はそれを優しく取り出し、地面へと寝そべらせる。

 

 先生は大人のカードの力によって食欲と喰種の力を抑え込んでおり、人を食べなくても十分に動けるようにはなっている……だがそれにも限界はある。

 

 体の体質までは変わらなかったようで、食欲は抑え込まれているものの……エネルギーまでは回復できていなかった。そのため定期的に、肉を喰らわなければいけないのだ。

 

 キヴォトスには元の世界にいた『普通の人間』がいない、いるのは生徒とロボット、そして獣人……この中で先生が食べられるのは、獣人のみ。生徒は…絶対に食べるわけにはいかないのだ。

 

 

 

「……獣人は、アンタの口に合うのか?」

 

「食べれますよ」

 

「合うかどうかを聞いたんだがな……やっぱ、人肉とは違うのか」

 

「…少し」

 

「成程……じゃあ、食べ終わったら呼んでくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

 店長が部屋の外に出ると、先生は少し息を吐いた後……両手を合わせる。 命への感謝、先生は口に物を運び、胃袋へと流す時は必ずこれを徹底する。

 

 

 

 

 

「…いただきます」

 

 

 

 

 そう言うと先生は手を伸ばし、横たわる遺体の肌──毛に覆われた腕へと、その細い指先を触れさせた。

 

 ドクン、と。

 

 

 

 その瞬間、大人のカードの力によって無理やり限界まで抑え込まれていた『喰種』としての細胞が、一斉に歓喜の悲鳴を上げて目を覚ます。

 

 先生の瞳が──ゆっくりと、夜の闇よりも深い漆黒と、血のように鮮烈な赤──『赫眼(かくがん)』へと変色していく。白眼が黒く染まり、虹彩が妖しく輝く、紛れもない捕食者の証。

 

 

 

 

(――体が異様に興奮している……ハハっ、ほんと…化け物だな、私は)

 

 

 

 

 自嘲気味に心の中で呟きながら、先生は静かに口を開き、その強靭な歯を遺体の肉へと沈めた。

 

 

 

 

 ──プツリ。

 

 

 

 肉の繊維が断ち切られる、かすかな音。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 じっくりと、一口目を噛み締める。

 

 

 

 店長に「人肉とは違うのか」と聞かれ、「少し」と答えたその味。

 

 元の世界で知っていた純粋な人間の肉に比べ、獣人の肉は良くも悪くも『野生の血の匂い』が酷く濃い。半分人間の味というわけでは無く、二割程度しか人の味がしない……だが、人間が食べる食材に比べれば、全然マシ。故に彼は栄養を取れる。

 

 獣ように貪り食う事はしない、まるで配膳された料理を一切れずつ、丁寧に味わうかのように、先生は静かに、けれど確実に肉を切り取り、咀嚼し、胃袋へと流し込んでいく。

 

 骨を噛み砕くことも、喰種にとっては簡単なため、骨も残さず平らげる。

 

 

自分で、自分の胸を刺して亡くなったという、天涯孤独な獣人。

 

 どんなに辛いことがあったのだろう。どれほど孤独だったのだろう。

 

 冷たくなったその肉から、かつて生きていた者の悲しみや苦痛の残滓が、味となって直接脳に流れ込んでくるような、そんな錯覚さえ覚える。

 

 

(ごめんね。……それから、ありがとう)

 

 

 先生は肉片一つ、骨一つ残さないように、綺麗に平らげる。そして遺体が骨だけの状態になった後、彼はもう一度手を合わせ

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 そう、ゆっくりと口にした。

 

 

 

 


 

 

 

 食事が終わった後、先生とクマ店長は部屋の掃除をしながら話をしていた。

 

 

 

「今更だが、死体一つで足りるのか?」

 

「喰種って燃費が結構いいんです、一度の食事で一ヶ月ほどは何も食べなくても支障はないってくらいに」

 

「成程な……それにしても、アンタと出会えてよかったぜ。お陰でこっちの懐も潤ってるしな」

 

「アハハッ…」

 

 

 

 

 クマ店長はそう言って、大きな鼻から不敵に煙草の煙を吐き出した。

 

 彼の表の顔は、このブラックマーケットの片隅でボロい店を構えるしがない店主だ。だがその本性は、『死体の処理』を裏で請け負うプロフェッショナルである。

 

 身元の分からない死体を、痕跡を残さず、ヴァルキューレや連邦生徒会などの目を盗んで完全に消し去る──それが彼のビジネスだった。

 

 今はその死体を、先生に提供することで生計を立てている。オートマタは流石に別。

 

 

 

 

「それで、先生の正体を知っているあの会長代理の生徒は、アンタがここに来て死体を食ってるってのは知ってんだよな?」

 

「……ええ」

 

「色々言われたりしたんじゃねえのか」

 

「『何も食わず暴走してしまう方が恐ろしい』って事で、認めてはくれてます。店長の事も、私の事もあって黙認するって言ってました」

 

「そりゃあ助かる……まぁ、ここキヴォトスで死体なんざ中々でねぇんだけどな」

 

「流石は…キヴォトス」

 

 

 

 キヴォトスに住んでいる生徒達はもちろんのこと、実はそこに住む市民達もそれなりに硬い。なので銃弾を数発喰らっても平気ということがある、それ故に死亡事故がかなり低い。しかし刃物は別らしい。

 

 

 

「──まぁ、だからこそ、俺が密かに持ってる『あの土地』が活きてくるわけだがな」

 

 

 店長はそう言って、再び煙草を深く吸い込んだ。

 

 彼にはブラックマーケットのさらに外れ、一般の生徒やヴァルキューレのパトロールも絶対に近づかない自治区の境界線に、身元を偽って保有している広大な私有地があった。切り立った崖と鬱蒼とした木々に囲まれた、地図にも載らないような寂れた荒れ地だ。

 

 

 実はそこは、キヴォトスの裏社会の片隅で、ある「奇妙な噂」が囁かれている場所でもあった。

 

 

 『もし人生に絶望して、すべてを終わりにしたいなら、あの場所へ行け。あそこで命を絶てば、誰の迷惑もかからず、ヴァルキューレに私生活を暴かれることもなく、跡形もなく綺麗に処理してくれる』……と。ちなみにヘイロー持ちの生徒の死体は今までに無い。

 

 

「あの場所で死体を食ってるアンタを見た時は流石に腰を抜かしたが……今じゃいい出会いだったって思う。死体の処理もアンタが食ってくれるから楽だしな」

 

「私も、本当に助かってます。あなたがいないと私は…」

 

「あー……辛気臭いのはやめだやめ。そういうの聞いてると胃がムカムカして来やがる、なんか別の話をしようぜ……なあ先生、なんか気になってることとかねえか? 裏の情報なら、結構持ってるぜ?」

 

「うーん……あっ、それなら」

 

 

 

 先生は、今一番気になっていることを聞く。

 

 

 

「便利屋68って、知ってますか?」

 

「ああ知ってるぞ、裏じゃそこそこ名が売れてるからな。金さえ払えばなんでもしてくれるアウトローなグループで、個々の能力は他の生徒とは比べものにならない……さらに団結した時の動きは、あのゲヘナの風紀委員会をもしのぐって噂だ」

 

「すごい子達なんですね」

 

「まあ所々でやらかしたりはしてるみてぇで、資金源が乏いって聞いてるがな」

 

「……成程成程」

 

 

 

 部屋が元の状態に戻ったのを確認すると、先生と店長は店の入り口近くへと共に歩く。

 

 

 

「代金はいつも通りの方法でお送りしますね」

 

「おう、腹が減ったらまた来な。いつでも大歓迎だ」

 

「じゃあ、私がこれで」

 

「………なあ先生よ」 

 

「はい」

 

「………アンタ、いつまで先生をやるつもりなんだ?」

 

 

 

 店長は先生の顔を……少し哀れみがあるような表情で告げる。その問いに対して、先生は笑顔で告げた。

 

 

「キヴォトスが私を必要としなくなるまで……それか、私が死ぬまでですね」

 

「……そうか」

 

「それでは、また」

 

 

 そう言って先生は帰っていく、その背中を見ながらタバコを吸い……吐いた後、静かに呟く。

 

 

 

「化け物……か――あんな顔をする奴が、化け物って言うかよ」

 

 

 

店長はゆっくりと、店の中へと戻っていった。

 







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