過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第21話:「実装(登山)」と「信頼(という名の重圧)」

(俺かよおおおおお!)

 

 信長の本陣から墨俣城に戻る道すがら、俺の胃は、人生(二度目)で最悪の痛みを訴えていた。

 

「稲葉山城の裏を取れ」

 

 それは、俺の『覇道』知識(Bルート)とも、半兵衛の天才的な戦略とも一致していた。

 

 だが、実行するのは、この俺。

 

『戦闘 55』の俺だ。

 

「……隊長。本気ですか」

 

 墨俣城の作戦室(ボロ屋敷)で、権蔵たち「木下隊」の面々が、顔面蒼白になって俺を見ていた。

 

「稲葉山の『裏』!? あの崖を登れってんですか!?」

 

「俺たちは『普請方(=土木作業員)』ですよ! 登山家じゃねえ!」

 

「死にに行けってことですか!」

 

 部下たちの「辛そうな顔」が、一斉に俺に突き刺さる。

 

(そうだ、こいつらを、俺は死なせたくない……!)

 

 その時、庵の戸を蹴破った時よりも、冷たい声が響いた。

 

「――無理、ですか」

 

 竹中半兵衛が、音もなく部屋の入り口に立っていた。

 

 病弱な美男子は、俺の部下たちを、氷のような目で見つめていた。

 

「私の『策』は、『裏』を突くこと。そして、木下隊の『技術』でそれを『実装』すること」

 

 半兵衛は、権蔵たちに、一枚の「図面」を投げ渡した。

 

「!」

 

 権蔵が、その図面を見て、息を呑んだ。

 

 それは、崖に打ち込む鉄杭(かなくい)、崖を渡すための縄梯子(なわばしご)、そして石垣を乗り越えるための折り畳み式の鉤縄(かぎなわ)の、異常なまでに精密な「設計図」だった。

 

(こ、こいつ……!)

 

 俺は戦慄した。

 

(俺の『木下隊(治水工事チーム)』の『技術(スキル)』を、完璧に分析(アナライズ)してやがる!)

 

 半兵衛は、俺が「治水工事」や「墨俣」で使った技術を、すべて「登山道具」に応用したのだ。

 

「ゲホッ……! 柴田殿の『獅子』では、この『蜘蛛』の道具は使えませぬ」

 

 半兵衛は、俺に向き直った。

 

 その目は、「狂気」ではなく、冷徹な「ビジネスパートナー」の目だった。

 

「藤吉郎殿。貴殿の『情熱』に応える『策』は、提示した。……だが、貴殿の『部下』は、この『実装』すら拒むと?」

 

(この天才……! 俺の部下(リソース)まで、完璧に管理(マネジメント)しに来やがった!)

 

 権蔵が、ゴクリと唾を飲んだ。

 

 そして、腹を括ったように、俺の前に進み出た。

 

「……隊長。命令を」

 

「権蔵……」

 

「この『図面(仕様書)』は、キチガイじみてる。だが、治水の時も、墨俣の時も、そうだった」

 

 権蔵は、部下たちを振り返った。

 

「俺たちは、隊長あんたに『土地』と『家』を貰った。ここで死ぬのは、今川(桶狭間)で死ぬのと同じだ」

 

(やめろ……! そんな「重い」忠誠を、俺に向けるな……!)

 

 俺は、震える手で、その「設計図」を握りしめた。

 

「……半兵衛殿」

 

「はっ」

 

「『裏』を取った後、俺たちはどうする? 狼煙でも上げるか?」

 

「その通りです」

 

 半兵衛は、こともなげに言った。

 

「貴殿らが『裏』の狼煙台(のろしだい)を奪取し、火を上げる。それが、我ら本隊が『表』から総攻撃をかける合図。……そして、城内の『美濃三人衆(みのさんにんしゅう)』(内応)が、同時に裏切る合図にもなります」

 

(裏口と内応の、同時発動……!)

 

(そして、俺の部隊は、その『合図』を上げるためだけの、捨て駒か!)

 

 俺は、この「天才」の恐ろしさを、心の底から理解した。

 

 彼は、俺の「奇行」に狂喜し、俺の「部下(権蔵)」のスキルを完璧に利用し、そして、俺たちを「最も危険な場所」へ、笑顔で送り込む。

 

(こいつの心は、信長(魔王)とは別種の、「合理性の地獄」だ……!)

 

【稲葉山城・裏手、深夜】

 

 地獄だった。

 

 権蔵たちが『実装』した特殊な「鉄杭」と「縄梯子」は、確かに俺たちを崖の中腹まで導いた。

 

 だが、ここは戦場だ。

 

「ヒュッ!」

 

「ぐあっ!」

 

 闇の中、上(城)から「石」が降ってくる。

 

「誰か落ちたぞ!」

 

「掴まれ! 縄を離すな!」

 

『戦闘 55』の俺は、ただただ縄梯子にしがみつき、前世で体験した「デスマ(納期前)」よりもリアルな「死」の恐怖に、失禁寸前だった。

 

「隊長! 泣き言は後だ! もう少しで『壁』です!」

 

 権蔵に尻を叩かれ、俺たちはボロボロになりながら、遂に「隠し通路」の終着点――狼煙台のある「石垣」の真下まで辿り着いた。

 

「……静かだ」

 

 見張りは、いない。

 

(『覇道』知識通りだ!)

 

「よし、今だ! 権蔵、あの『鉤縄』を!」

 

 俺が小声で命じた、その瞬間。

 

 俺の目の前、石垣の上に、新たな人影が立った。

 

(敵!?)

 

 いや、違う。

 

 それは、俺たちと同じ「織田」の兵装だった。

 

 だが、俺の「木下隊」ではない。

 

 その男は、松明(たいまつ)に照らされ、俺たちを見下ろし、ニヤリと笑った。

 

「――遅いぞ、木下殿」

 

(だ、誰だ!?)

 

 俺の『覇道』知識に、こんな「別働隊」の情報はなかった!

 

 男が、ゆっくりと名乗る。

 

「我ら、若様の『別命』を受け、半兵衛殿の『策』を仕込みに来た者」

 

 男は、懐から「金袋」を転がした。

 

「『美濃三人衆』への『買収』は、今しがた完了した」

 

「……この『裏口』は、本命を隠すための『陽動』でもあった、というわけか」

 

 俺は、全身から力が抜けていくのを感じた。

 

「では、貴殿は……?」

 

「――『明智』と申す。明智十兵衛光秀」

 

(!!)

 

 俺は、【強制選択肢E】を思い出した。

 

(『明智』殿なら、この城を『金』で落としましょうな……)

 

(こ、こいつが……!)

 

(俺の「本能寺」のフラグが、こんな最悪の「板挟み」の現場で、今、立ったのか!)

 

 光秀と名乗った男は、俺たちに背を向け、狼煙台に向かって歩き出した。

 

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