過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
(詰んでる! 詰んでるじゃねえかあああ!)
半兵衛――天才は、俺の「D(安全策)」を見透かし、「退屈だ」と席を立とうとしている。
長政――交渉相手は、「不義理な話だ」と憤慨し、交渉は決裂寸前。
光秀――合理は、「……やはり、感情論(B)や賄賂(E)では動かぬか」と、冷ややかに諦めかけている。
(このままじゃ、俺の首が飛ぶ!)
俺は、震える指でウィンドウを見た。
D――朝倉不可侵の誓いは、半兵衛に潰された。
ならば、残る選択肢の中で、この場の空気を一変させ、かつ、この「狂気マニア(半兵衛)」を座らせ、長政の心を動かせるものは……!
(Bだ! Bしかねえ!)
(『義理』とか『合理』とか、うだうだ言ってるこの場を、理屈抜きの『熱量(パッション)』でブン殴るしかねえ!)
俺は、涙目で【B】を連打した。
「ええい、ままよ!」
体が、勝手に動く。
俺は、帰りかけた半兵衛の袖を振り払い、ドカドカと浅井長政の目の前まで進み出た。
そして、あろうことか。
長政の両手に、自分の指を一本一本、ねっとりと絡ませた。
「なっ!?」
長政が、自分の手を見て絶句する。
そこにあるのは、がっちりと指が組み合わさった、紛うことなき「恋人繋ぎ」だった。
「き、貴様!? 何を……!」
側近たちが色めき立つ。
光秀が、「ひっ」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。
だが、俺の口――システムは止まらない。
俺は恋人繋ぎをしたまま、長政の至近距離に顔を近づけた。
「浅井殿! 『義理』とは何です! 『朝倉』とは何です!」
俺は、
「『過去』への義理より、『未来』への『情熱』です!」
「……は?」
長政が、繋がれた手と俺の顔を交互に見る。
ぽかんとしている。
「拙者を見よ! 拙者と、この半兵衛殿との『契り』を見よ!」
(巻き込むな! 俺!)
俺は、背後の半兵衛を親指で指差した。
手は繋いだままだ。
「この天才は、拙者の『情熱』のみに感じ入り、己の才を預けたのです! 理屈ではありません! 魂が、震えたからです!」
半兵衛が、ぴたりと足を止めた。
その口元が、にやりと吊り上がる。
「……ほう。そこまで深く、繋がりますか」
俺は、長政の指をさらに強く締め付けた。
「浅井殿! 貴殿も若き武将なら、血がたぎるはず! 古臭い『朝倉』との義理に縛られて朽ちるか! それとも!」
俺は、狂ったように叫んだ。
「我ら織田と――いや、この『藤吉郎』と! 新しい『情熱(契り)』を結び、天下という『大舞台』で踊るか!」
「選ばれよ! 浅井長政!」
「…………」
「…………」
広間が、静まり返った。
光秀が、「……非合理的かつ、生理的に受け入れ難い」と、顔を青くしている。
だが。
浅井長政の目は、泳いでいた。
「……じょ、情熱……」
視線が、がっちりと絡み合った指――恋人繋ぎに釘付けになっている。
「そうだ! お市様も、ただの『道具』ではない! 織田家全員の『情熱』の結晶として、貴殿に託すのです!」
長政は、俺の手の熱さと、指の感触と、俺の背後に立つ半兵衛――にやにやしている――と、光秀――ドン引きしている――を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
(こ、この男……本気だ!)
長政の中で、何かが決定的に「誤解」された。
(初対面の俺と、ここまで恥ずかしげもなく『指を絡ませ』、顔を近づけ、愛――義理を捨てろと迫れる男がいただろうか? いや、いない!)
長政は、俺の指をぎゅっと握り返した。
(うわ、握り返してきた!)
「……分かった」
長政の頬が、見る見るうちに紅潮していく。
「木下殿。……いや、藤吉郎。あんたの『熱さ』、しかと受け止めた」
(え? 通じた? 手、離していい?)
「朝倉との義理、断ち切ろう。俺も男だ。あんたや信長公のような『熱い男たち』と、新しい時代――パッションを駆け抜けてみたくなった!」
【交渉成立】
俺は、へなへなと座り込みそうになった。
長政が、名残惜しそうに、ゆっくりと指を
その手のひらは、手汗でびっしょりだった。
(助かった……のか?)
背後で、半兵衛が拍手をした。
「パチ、パチ、パチ……」
「お見事。藤吉郎殿」
半兵衛は、心底楽しそうに笑っていた。
「『退屈な嘘』をつくかと思えば、まさか土壇場で、相手――長政と、指まで絡ませて口説き落とすとは。……やはり貴殿の『狂気』は、本物だ」
(違う! 全部システムのせいだ!)
【岐阜城・帰還】
「でかしたぞ、猿!」
信長は、浅井との同盟成立と、お市様の
「これで上洛への道は開けた!
「はっ……」
俺は、疲労困憊で頭を下げた。
隣では、光秀が「……あの『握手』は、外交儀礼の範疇を超えています」と、ぶつぶつ言っている。
そして、数日後。
俺の「地獄」に、最後の一撃が加えられた。
輿入れのために岐阜城を発つ、お市の方様を見送る式典でのことだ。
浅井家からの「結納の使者」が、俺の前に進み出て、
「木下様。我が主君・長政様より、伝言でございます」
「は、はい?」
『藤吉郎。お市は妻として愛そう。だが、俺の『魂』は、あの日の契りの通り、あんたと共にある。……いつか、戦場でまみえる日を楽しみにしている』
「…………」
全軍が見守る中、俺は凍りついた。
柴田勝家が、泡を吹いて卒倒した。
ねねが、無言で走り去った。
(長政あああああ! お前もそっち――誤解側かよおおおお!)
「朝倉」への義理を断ち切らせた代償は、「俺への重すぎる情熱」だった。
俺の「人の心が重い」リストに、「浅井長政(同盟相手)」という、絶対に裏切らせてはいけない――でも裏切る――ヤンデレ候補が追加された。
「……猿」
信長が、冷ややかに俺を見下ろした。
「貴様、まさか浅井まで『食った』のか?」
「ち、違います! 指だけです! いや、指も違います!」
「フン。まあよい」
信長は、京の方角を睨んだ。
「次は『六角』だ。そして、その先には『将軍』がいる。……猿、貴様の『モテ期(地獄)』は、まだ始まったばかりだぞ」
歴史は加速する。
次は、上洛。
そして、俺の『覇道』知識――未来予知が告げる、次の「破滅」。
――「金ヶ崎の退き口」が、確実に近づいていた。