過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第26話:「情熱」と「新しい絆」

(詰んでる! 詰んでるじゃねえかあああ!)

 

 半兵衛――天才は、俺の「D(安全策)」を見透かし、「退屈だ」と席を立とうとしている。

 

 長政――交渉相手は、「不義理な話だ」と憤慨し、交渉は決裂寸前。

 

 光秀――合理は、「……やはり、感情論(B)や賄賂(E)では動かぬか」と、冷ややかに諦めかけている。

 

(このままじゃ、俺の首が飛ぶ!)

 

 俺は、震える指でウィンドウを見た。

 

 D――朝倉不可侵の誓いは、半兵衛に潰された。

 

 ならば、残る選択肢の中で、この場の空気を一変させ、かつ、この「狂気マニア(半兵衛)」を座らせ、長政の心を動かせるものは……!

 

(Bだ! Bしかねえ!)

 

(『義理』とか『合理』とか、うだうだ言ってるこの場を、理屈抜きの『熱量(パッション)』でブン殴るしかねえ!)

 

 俺は、涙目で【B】を連打した。

 

「ええい、ままよ!」

 

 体が、勝手に動く。

 

 俺は、帰りかけた半兵衛の袖を振り払い、ドカドカと浅井長政の目の前まで進み出た。

 

 そして、あろうことか。

 

 長政の両手に、自分の指を一本一本、ねっとりと絡ませた。

 

「なっ!?」

 

 長政が、自分の手を見て絶句する。

 

 そこにあるのは、がっちりと指が組み合わさった、紛うことなき「恋人繋ぎ」だった。

 

「き、貴様!? 何を……!」

 

 側近たちが色めき立つ。

 

 光秀が、「ひっ」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。

 

 だが、俺の口――システムは止まらない。

 

 俺は恋人繋ぎをしたまま、長政の至近距離に顔を近づけた。

 

「浅井殿! 『義理』とは何です! 『朝倉』とは何です!」

 

 俺は、(つば)を飛ばして叫んだ。

 

「『過去』への義理より、『未来』への『情熱』です!」

 

「……は?」

 

 長政が、繋がれた手と俺の顔を交互に見る。

 

 ぽかんとしている。

 

「拙者を見よ! 拙者と、この半兵衛殿との『契り』を見よ!」

 

(巻き込むな! 俺!)

 

 俺は、背後の半兵衛を親指で指差した。

 

 手は繋いだままだ。

 

「この天才は、拙者の『情熱』のみに感じ入り、己の才を預けたのです! 理屈ではありません! 魂が、震えたからです!」

 

 半兵衛が、ぴたりと足を止めた。

 

 その口元が、にやりと吊り上がる。

 

「……ほう。そこまで深く、繋がりますか」

 

 俺は、長政の指をさらに強く締め付けた。

 

「浅井殿! 貴殿も若き武将なら、血がたぎるはず! 古臭い『朝倉』との義理に縛られて朽ちるか! それとも!」

 

 俺は、狂ったように叫んだ。

 

「我ら織田と――いや、この『藤吉郎』と! 新しい『情熱(契り)』を結び、天下という『大舞台』で踊るか!」

 

「選ばれよ! 浅井長政!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 広間が、静まり返った。

 

 光秀が、「……非合理的かつ、生理的に受け入れ難い」と、顔を青くしている。

 

 だが。

 

 浅井長政の目は、泳いでいた。

 

「……じょ、情熱……」

 

 視線が、がっちりと絡み合った指――恋人繋ぎに釘付けになっている。

 

「そうだ! お市様も、ただの『道具』ではない! 織田家全員の『情熱』の結晶として、貴殿に託すのです!」

 

 長政は、俺の手の熱さと、指の感触と、俺の背後に立つ半兵衛――にやにやしている――と、光秀――ドン引きしている――を見て、ゴクリと唾を飲んだ。

 

(こ、この男……本気だ!)

 

 長政の中で、何かが決定的に「誤解」された。

 

(初対面の俺と、ここまで恥ずかしげもなく『指を絡ませ』、顔を近づけ、愛――義理を捨てろと迫れる男がいただろうか? いや、いない!)

 

 長政は、俺の指をぎゅっと握り返した。

 

(うわ、握り返してきた!)

 

「……分かった」

 

 長政の頬が、見る見るうちに紅潮していく。

 

「木下殿。……いや、藤吉郎。あんたの『熱さ』、しかと受け止めた」

 

(え? 通じた? 手、離していい?)

 

「朝倉との義理、断ち切ろう。俺も男だ。あんたや信長公のような『熱い男たち』と、新しい時代――パッションを駆け抜けてみたくなった!」

 

【交渉成立】

 

 俺は、へなへなと座り込みそうになった。

 

 長政が、名残惜しそうに、ゆっくりと指を(ほど)く。

 

 その手のひらは、手汗でびっしょりだった。

 

(助かった……のか?)

 

 背後で、半兵衛が拍手をした。

 

「パチ、パチ、パチ……」

 

「お見事。藤吉郎殿」

 

 半兵衛は、心底楽しそうに笑っていた。

 

「『退屈な嘘』をつくかと思えば、まさか土壇場で、相手――長政と、指まで絡ませて口説き落とすとは。……やはり貴殿の『狂気』は、本物だ」

 

(違う! 全部システムのせいだ!)

 

【岐阜城・帰還】

 

「でかしたぞ、猿!」

 

 信長は、浅井との同盟成立と、お市様の輿入れ(こしいれ)決定を聞き、上機嫌だった。

 

「これで上洛への道は開けた! 六角(ろっかく)など敵ではない!」

 

「はっ……」

 

 俺は、疲労困憊で頭を下げた。

 

 隣では、光秀が「……あの『握手』は、外交儀礼の範疇を超えています」と、ぶつぶつ言っている。

 

 そして、数日後。

 

 俺の「地獄」に、最後の一撃が加えられた。

 

 輿入れのために岐阜城を発つ、お市の方様を見送る式典でのことだ。

 

 浅井家からの「結納の使者」が、俺の前に進み出て、(うやうや)しく言った。

 

「木下様。我が主君・長政様より、伝言でございます」

 

「は、はい?」

 

『藤吉郎。お市は妻として愛そう。だが、俺の『魂』は、あの日の契りの通り、あんたと共にある。……いつか、戦場でまみえる日を楽しみにしている』

 

「…………」

 

 全軍が見守る中、俺は凍りついた。

 

 柴田勝家が、泡を吹いて卒倒した。

 

 ねねが、無言で走り去った。

 

(長政あああああ! お前もそっち――誤解側かよおおおお!)

 

「朝倉」への義理を断ち切らせた代償は、「俺への重すぎる情熱」だった。

 

 俺の「人の心が重い」リストに、「浅井長政(同盟相手)」という、絶対に裏切らせてはいけない――でも裏切る――ヤンデレ候補が追加された。

 

「……猿」

 

 信長が、冷ややかに俺を見下ろした。

 

「貴様、まさか浅井まで『食った』のか?」

 

「ち、違います! 指だけです! いや、指も違います!」

 

「フン。まあよい」

 

 信長は、京の方角を睨んだ。

 

「次は『六角』だ。そして、その先には『将軍』がいる。……猿、貴様の『モテ期(地獄)』は、まだ始まったばかりだぞ」

 

 歴史は加速する。

 

 次は、上洛。

 

 そして、俺の『覇道』知識――未来予知が告げる、次の「破滅」。

 

 ――「金ヶ崎の退き口」が、確実に近づいていた。

 

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