機動戦士ガンダム 閃光とハサウェイ~マフティーに足りないもの~ 作:フラペチーノ
10日ほどの連続投稿にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ハサウェイは即座に撤退を指示。上空からの射撃に注意させつつ、とにかく逃げろと強く発していた。
ミノフスキー粒子のせいでまともに通信などできないはずなのに、ナイチンゲールの頭部が淡く緑色に発光を始め、その声はアデレートにいるマフティーのメンバーに、そして支援をしてくれたオエンベリ軍の面々全員に届いていた。
【全員、全速力で撤退しろ!ロンド・ベルは……僕が相手をする!】
【ハサ⁉︎ふざけんなよてめえ、オレも残る!エメラルダ、レイモンド!お前らが部隊を率いて撤退しろ!オレとハサで時間を稼ぐ!】
【バカガウマン!っていうか、ハサウェイも!ギギって子残して死ぬつもり⁉︎】
【ハーラ、戻れ⁉︎】
ハサウェイがミノフスキー・クラフトによって一気に上昇。FAを施したガウマンとハーラも追加装甲によって増加した推力を持って市内に戻っていた。
なぜ彼らの声が鮮明に聞こえるのか、誰にもわからない。それでも頼まれたから、冷静な残りのメンバーは撤退を始めた。撤退していく面々に上空から無慈悲なビームが届いたが、ハサウェイが指示を出したおかげで彼らは紙一重で避けていき、撤退は成功。
ハサウェイには今の戦場が全て見えていた。自分の視座だけが高くなっており、俯瞰した目線から指示を出して撤退を成功させていた。
そんなことをしながら地上に残るキンバレー部隊も撃滅していく鬼神のごとき動きを見せていた。戦場に降り立ったばかりのロンド・ベルの面々は自分たちの腕に自信があったが、ナイチンゲールの獅子奮迅の動きには劣ると直感的に感じ取っていた。
ガウマンもハーラも、FAによって増えたビームキャノンやミサイルを解き放ち、ロンド・ベルの面々と撃ち合っていく。ガウマンもハーラも、ハサウェイの無理な特攻を止めたかった。ロンド・ベルと戦うことだけはダメだと理性が訴えていた。
なぜ親子で戦わなくてはならないのか。それが軍人とテロリストという立場だろう。
ハサウェイはロンド・ベルと戦う時に見知った顔がチラついた。十二年前に少しの間だけ乗っていた、父の戦艦。メンバーもこれだけの時間が経っていれば入れ替わっているだろう。だが、残ってまだ第一線で頑張っている人もいる。
サイコ・フレームが敏感になりすぎたのか、相手のコックピットが透けて見えた。知らない人であっても父の部下だ。
「クッ!」
そう思った瞬間、その思考をサイコ・フレームが読み取ったのか。大型機にしてはあり得ないほどの繊細な動作でロング・ビームソードとビームトマホークの二刀流で頭と右腕だけを綺麗に切断。誘爆することもなく、地上に落下するもののパイロット保護機能が働いて死にはしないだろうと予測していた。
ビームサーベルでコックピットを突き刺すか、ビームライフルで一撃で撃ち抜けば終わる話だ。全盛期たる今のハサウェイなら造作もないことだろう。事実としてキルケー部隊はそうやって撃破してきた。
だが今のハサウェイは機体の性能を振り回し、ひたすらに連邦軍最強の部隊を無力化させることを徹底していた。
その被害率、たった一機で戦場を支配する脅威的なマシーン。そして見覚えのある、奇妙な緑色の発光。それらは両人を知るブライトだからこそ、目の前の人物がシャアでも、シャアを名乗る誰かでもなく、むしろ自分がよく知る誰かを彷彿とさせた。
「まさか、アムロなのか……?連邦軍にそこまでの怒りを……?」
ブライトはそう感じ取ってしまった。キルケー部隊は情け容赦なく撃退していくのに、ロンド・ベルの機体には手心を加えている。その微妙な甘さが、二度もぶった甘ったれに重なって見えたのだ。
もし生きていたのなら、どうして声をかけてくれなかったのか。会いに来てくれなかったのか。反連邦活動に従事して、終生のライバルたるシャアの同型機に乗っているのか。
それを聞くためにはナイチンゲールを捕縛しなければならないが、宇宙随一の練度を誇るロンド・ベルが赤子のように捻られていく。彼らにガンダムも、アムロに匹敵するNTのパイロットもいない。
モビルスーツ隊の隊長のある人物に指示を出そうとしたが、その時レーザー通信で真下のアデレート仮司令部から指示が出る。
その内容を読み、それくらいしなければエースがいない今の戦場でナイチンゲールを止められる手段はない。ケネスの作戦を実行しようと、MS部隊に指示を出す。
一方ハサウェイはあらかたロンド・ベルのMSを無力化した。その腕前はケネスとブライトをしても部下に欲しい腕だと認められるほど。そしてガウマンとハーラを逃すためにも、ここでロンド・ベルに致命的な一撃を与えなければならなかった。
宇宙一の練度は伊達ではなく、ガウマンとハーラのメッサーのFAで増えた装甲は全てひしゃげていた。MS本体にもダメージが入り、もう間も無く撃墜されてもおかしくない。
ならば、逃げるために。必要なことをするだけだと、彼は機体を一気に上昇させた。
旗艦の撃滅。つまりは父親を殺すことだった。
(僕は地獄に落ちるだろう。許してくれとは思わない。ごめん、父さん)
彼はマフティーに参加する時点で、家族を不幸にすると理解していた。ブライトもミライもチェーミンも、家族として許してくれないだろうとわかっていた。
それでも彼は今やマフティー・ナビーユ・エリンだ。地球のため、人類のため、仲間のため。父親を切り捨てる覚悟を決めた。
最後に苦しめない意味も含めて、彼はラー・カイラムのブリッジと並行になるように位置を調整した。そして大型メガビームライフルの銃口を向けたところで、ラー・カイラムのカタパルトからナイチンゲールに銃口を向けた存在がいた。
それは紺色のジェガン。カスタム機だろう。敏感すぎる今のハサウェイはその機体が十二年前にシャアの反乱でイブリースが使った機体だと察した。それほど、かの機体はNTを乗せていないのに、バイオセンサーが主張していたのだ。
そしてそのジェガン・カスタムに乗っていたのは、アムロのバディとまで言われた人だった。
(ボッシュさん……?)
もう四十過ぎのロートルのはずだ。なのにまだMSパイロットをやっていた。そして正確無比な射撃でナイチンゲールへビームを放つ。
避けられないと、最後の手向けとしてブリッジの高度に合わせていたためにハサウェイは咄嗟に左腕のシールドでそのビームを受け止めた。音速を超える高機動機が足を止めたところを見逃すケネスではなかった。
「今だ!ビーム・バリア全開!」
【【避けて、ハサウェイ!】】
ケネスの叫びは聞こえなかったものの、二人の少女の声は耳に届いた。ギギとイブリースの声だ。
その声に反応したものの、金縛りにあったようにその場から動けなかった。これが宿命か、と諦めかけたところに、彼に迫るピンクのビームの奔流に死を覚悟した時。
彼のナイチンゲールを、音速に近い速度でΞガンダムが撥ね飛ばした。
速度を纏った大質量の物体がぶつかったことで、左腕のシールドが壊れるほどひしゃげながらも、その場所から強制的に退かされた。次の瞬間、アデレート全域から跳ね上げられたビームの膜がΞガンダムを包む。
「があああああああ⁉︎」
「イブ⁉︎」
「ハーラああああああああ!ハサ、をぉおおおお!」
落ちていくΞガンダムとナイチンゲール。ナイチンゲールはハーラのメッサーが受け止め、左マニュピレーターが完全にイカれながらも二人とも無事だった。
一方、かなりの上空から落ちたΞガンダムは地上に激突。そのまま動かないところを、生き残っていたキルケー部隊のジェガンが取り囲む。
自分を庇ったイブリースが捕まる。そのことにハサウェイはすぐにナイチンゲールを動かそうとしたが、それをハーラとガウマンが止める。
「ハサ、撤退だ!街ならロンド・ベルも撃ってこない!」
「だが、イブリースが……!」
「オレが捕まった時と同じだ!諦めろ!今のアイツはマフティーだ!作戦は成功した、アデレート会議は開かれない!お前が突っ込めばお前が死ぬか、父親を殺すかのどっちかだ!」
「イブリースが庇ったのは共倒れするためじゃない!ハサウェイと同じで、あたしたちを逃すためなんだよ⁉︎イブリースはハサウェイに、父親を殺させたくないんだよっ!」
「……っ!掴まれ、二人とも!」
ハサウェイは本来ビームサーベルと一緒に使用する隠し腕を、彼らを固定するために使う。スカートから伸びたその腕で半壊状態のメッサーをしっかりと掴み、緑色の光を放ちながら圧倒的な膂力と加速でアデレートから離脱していた。
逃げるMSよりも、捕らえたガンダムだ。成果はそれで十分だろうと、これ以上深追いをして被害を出すよりも、確かな成果で満足するようにケネスもブライトも指示を出した。
こうして第一次マフティー動乱の、アデレート侵攻は終わる。
結果として連邦軍は惨敗。アデレート会議は無期限の延期。通すはずだった法律は全て差し止めとなった。
・
Ξガンダムとペーネロペーの戦いは、サイコ・フレームがビーム・バリアを増幅させたのか、ファンネル・ミサイルは機体の前で爆発。誘爆は受けたものの、致命的なダメージにならなかった。
一方ペーネロペーは内部のオデュッセウス・ガンダムにも通じるようなビームサーベルの突きを受けて内側から爆発。地上に落下して動かなくなった彼の機体を気にしている余裕は、イブリースにはなかった。空から嫌なものが降ってきたからだ。
それは彼女も知る戦力。そしてハサウェイが会ってはいけない、連邦軍最強の部隊。
ロンド・ベルがやってきたとわかった途端、彼女は全速力でΞガンダムをアデレートへと向けていた。
サイコ・フレームが発光しているからか、ハサウェイの悲痛な覚悟も伝わってくる。父親と差し違えてでも仲間を逃すつもりだ。
それだけはダメだと、イブリースに残る最後の良心が訴えてきた。彼女はもうほとんど両親のことを思い出せない。だが、その両親のために地球を守ろうとした心は本物だった。
だから親子での殺し合いなど、到底受け入れられなかった。
ビーム・バリアで防いだものの、ダメージを負ったのか最高速は出せない。間に合えと彼女は焦燥感がずっと脳内で警鐘を響かせている。
ただひたすら、嫌な予感に向かって飛ばす。後ろから誰かが押してくれるような感覚があったが、それがギギの想いだと知る。ハサウェイが無事に帰るようにと祈る、純粋な想い。それにサイコ・フレームが反応して速度が増した。
彼女のためにも、ハサウェイだけは生き残って貰わなければならない。そう思ってフットペダルが軋むくらい力強く踏み込み続けた。
アデレート全体から嫌な予感が上空へ向けられている。それはちょうどハサウェイがいる辺り。マフティーの首魁を捕らえようという大人の意地だった。
ハサウェイが自分に銃口を向けている人物がボッシュだと感じ取ったのか、足を止めていた。イブリースも懐かしいと思いながらも、優先するのはハサウェイだった。ボッシュからのビームは止められなかったが、街全体から昇るピンクの粒子の放射には間に合わせられた。
ビームバリアの発生機そのものを破壊している余裕はなかった。今出せる最高速を出さなければボッシュからの射撃と、ラー・カイラムからの艦砲射撃を受けている間にビームバリアを受けて、ハサウェイがマフティーとして捕まる未来が見えた。
強化人間とはいえ、NTとはいえ、未来が正しく視えるわけではない。全うき全体とやらに接続して、新たな人類になるわけでも、そこへ片足を突っ込んだわけでもない。
ただの予測、予感程度だ。自分が動かなければ確実にそうなるという、ただの思い込み。サイコ・フレームが見せる幻かもしれない。そのイメージにつられて、彼女は今出せる最高速でハサウェイの元へただガンダムを向かわせた。
ナイチンゲールを体当たりで退かす。そしてそのまま彼女がビーム・バリアの餌食となって意識を失った。地上へ落下し、Ξガンダムも機能を停止し、彼女はすぐにキルケー部隊に取り囲まれる。
サイコ・フレームはかすかに生き残っていたのか、好きな人の温かさが遠ざかっていくことだけは無意識下ながら把握できていた。うっすらと笑ったまま、彼女は開かれたコックピットで祈るように倒れていた。
本来のビーム・バリアの威力なら、パイロットスーツを着ていても火傷によって動けなくなるほどの重傷になるはずだった。だが、地上に張り巡らせるつもりのビーム・バリアを上空へ向けたためにビームが減衰し、マフティーの侵攻によって威力も元々の六割程度しか出せなかったこともあって、若干火傷をしたものの、動けないほどの重傷ではなかった。
そんな五体満足の彼女の体躯を見て、そしてガンダムに乗っていた推定マフティーが幼い少女だったと知って、捕らえに来た憲兵たちは愕然とする。
そして生き残っていたレーンからの証言で、彼女がナイチンゲールのパイロットではないかと推察。
その顔を見たケネスは、数日前に見た強化人間のリストにあった、殉職したはずのイブリースだったことに驚き。
ブライトとボッシュも、十二年前に見た強化人間の少女だとわかって。
連邦軍の大人たちを混乱の渦に巻き込んだ。
・
イブリースが目を覚ましたのは次の日。回復するまでに一日を要した。ビームバリアの力が弱くなっていたとはいえ、本来はマフティーを一網打尽にできるような戦術兵器だ。中の人間が原型こそ残すものの、ズタボロにならなくてはいけないほどの高出力のビームの嵐のはずだった。
だが、彼女の身体は顔を背けるほどの損傷を負っていなかった。
ベッドの上に寝かされて治療も施されているものの、手足には手錠が掛けられていた。もう限界が近いとはいえ強化人間。身体のスペックは一般人とは色々とかけ離れていた。
彼女が目を覚ましたために、ケネスが尋問のためにやってきた。彼女もハサウェイが寄越したデータでケネスの顔と名前を知っていたが、一応初対面だ。
「初めまして、マフティーのイブリース嬢。俺がキルケー部隊の司令官、ケネスだ」
「知ってますよ、ケネス大佐。クワック・サルヴァーは優秀なので、あなたの情報はつつがなく手に入れています。シャアの反乱に参加したパイロット上がりで技術士官へ転身。ペーネロペー・ユニットの開発主任が今回のアデレート防衛の司令官に任命。連邦軍も人手不足かと思いましたが、あなたは手強かった。こんな戦争のなくなった腐敗した世界で、どうしてそこまで指揮が上手いんです?」
「褒められて光栄だがね。俺は政府高官をあんたらに軒並み殺された無能なのさ。もう軍も辞めることになっている」
「あら。なら同胞はやりやすくなるでしょうね。強力な司令官が勝手に脱落してくれるのですから」
イブリースはそう呟く。火傷が少し痒いくらいで、それ以外は健康そのものだ。とはいえ彼女は負けた。そして作戦自体は成功している。ならば人身御供くらい演じてみせようと覚悟を決めた。
「君のパーソナルデータも調べた。オーガスタ研究所の悪しき執念の果て、強化人間。……データ上は殉職になっているが、クワック・サルヴァーが偽装したのか?」
「いいえ?インチキ医者だけだと思います?今の連邦政府を良く思っていない人、たくさんいますよ?背中に気を付けた方がいいかと……。あなたは辞められるんでしたね。無意味なアドバイスでした」
「マフティーが割と連邦政府に食い込んでるのは理解している。そうでもなければ議会の正式な時間など把握できないだろうからな」
今この部屋には彼女とケネスしかいない。だが盗聴器などが仕掛けられている可能性はある。そのため、話す内容は厳選していた。自白剤を使われても、彼女はさまざまな投薬によって効く薬と効かない薬がある。
自白剤のような薬は、効かない体質だった。
「連邦軍を抜けてマフティーになるほど、連邦が嫌いだったのか?」
「コロニー落としの被害者なので。二十年前くらいから、ずっと連邦政府は腑抜けていますよ。だからオーストラリアに、アメリカに、そしてダブリンに。……コロニーが落ちるんです」
「……ダブリンの被災者らしいな。じゃあ別の質問だ。君はマフティーでどの程度の立場だ?ガンダムに乗っていたんだ。相当上の立場だろう。まさかMS隊の隊長程度ではあるまい?」
「マフティーそのものですよ」
「……何?それは、組織の名前だ」
「そしてリーダーの名前でもある。私はマフティーになった。連邦政府に、たった五年程度でまた隕石を落とすような失態を続ける腐った汚物に、鉄槌を下すと決めた。その時から私は個人ではなく、マフティーです」
「言葉遊びだ」
「事実です」
それはマフティーでもなければわからない理論だろう。マフティーの名前はそれだけ重い。
そして、マフティーそのものを捕らえたとすれば、双方の手打ちとしてはかなり上等なものだろう。これからも組織としてのマフティーが積極的に動くかどうかは連邦政府次第だが、一つの区切りにはしやすい。
戦いの終わらせ方にも作法がある。主犯格を手中に納めたとなれば溜飲も下がるだろう。そういう打算の元、彼女は自身がマフティーであると宣言していた。
残りの命の使い道を考えた結果の打算。これからもマフティーが動くための言い訳に使うには上等すぎる言い訳だった。
「放送ジャックの時の人物は男性だった」
「あんなの、実在する人物を映すわけないでしょう?AIで作らせた適当な人物ですよ。声は加工しました」
「君はナイチンゲールに乗っていたとウチのパイロットから聞いている。そしてダバオ洋上でガンダムに乗っていた人物は男性だったと。マフティーを名乗る人物は別にいるのではないか?」
「ああ、ペーネロペーのパイロットですね。オーストラリア湾岸ではヨーロッパからの増援を予期していました。これでもNTのなり損ないなので。それにナイチンゲールもミノフスキー・クラフト搭載機です。どちらも本命であり、スペア。片方を失った時にもう片方が動けるようにする。組織の常套手段では?それにアデレートでの最終戦にガンダムに乗ったのは私です。最終決戦で連邦政府に異議を申し立てるためにガンダムに乗るのは、マフティー本人でしょう」
「用意周到なこって。辻褄は合っちまう。だが言い訳臭くもある」
「まあ、実際今頃は、生き残った方がマフティーになっているでしょうからね。リーダーがいなくなったら動けなくなる組織なんて、三流どころではありませんよ」
つらつらと、言い訳を並べていくイブリース。
まともな情報は得られそうにないなと、調書を取っているケネスの手が止まった。
「ちなみに、私はどうなりますか?連邦からの裏切り者で、マフティーそのもの。連邦政府高官も大量に殺しました。連邦法に則れば銃殺刑といったところでしょうか?」
「ご明察の通りだ。君の体調が戻り次第、そして新しい法務大臣が就任され次第、君の処刑にサインが書かれて刑が執行される。これは軍の意見がそのまま採用されればだが、ほぼ確実にそうなるだろう。お前たちは、殺しすぎた」
「妥当ですね。どうせ老い先短い命です。意味を付与していただけるのなら、華々しく散りましょう」
「……ちなみにだが、なぜビーム・バリアからナイチンゲールを庇ったんだ?君がマフティーなら、たとえミノフスキー・クラフト実装機とはいえ庇うべきじゃない。ガンダムは象徴だろう。それが負けるというのは、マフティーという組織的にもまずい結果だったと思うが?」
「大佐と私だけの秘密にしてくださいね?──私、ナイチンゲールのパイロットが好きだったので。好きな人が殺されるのなんて、嫌じゃないですか」
「好きな人と来たか。……そうも人間的な答えが返ってくるとは思わなかった」
「名前を捨てたつもりで抑えられなかった自我ですね。ちなみにナイチンゲールはどうなりました?」
「メッサーを二機引き連れて離脱したよ。生きてるんじゃないか?」
「それは良かった。庇った甲斐があったものです」
それは調書には書かなかった。まもなく死ぬ人間の、人間的な恋心なんて書いたところで軍に何の影響があるのか。ケネスは最後の仕事として尋問をしていたが、体裁を整えているだけだ。
一応マフティーの本拠地やクワック・サルヴァーの正体を聞いてみたが、全部はぐらかされた。Ξガンダムの作成場所だけは素直に答えて、アナハイムのグラナダ支部だと明活に答えた。予想通りではあるものの、こうも明け透けに言うとは思わなかったケネスは尋ねる。
「そんな簡単に言っていいのか?」
「どうせあのレベルのMSを作れるのなんてアナハイムしかないと思っていたでしょう?フォン・ブラウンは連邦寄りですが、グラナダは今でもジオンシンパ、もしくはスペースノイド寄りです。そんなの、連邦軍からすれば暗黙の了解では?」
「今更か」
ケネスの尋問まがいの質問はそこまで。
ケネスが退室した後にやってきたのは、ブライトとボッシュだった。十二年の月日が経っているからか、年月相応に老けていた。どちらも既に四十代。一年戦争の経験者が二十五年も経てば、ロートルにもなるだろう。
彼らは幼い時の彼女を知っているからか、悲痛な表情を浮かべたまま話しかけてきた。
「イブリース
「お久しぶりです。ブライト大佐、ボッシュ大尉。大尉まで昇進していたのですね。十二年前は少尉だったと認識しておりますが」
「そうだな。第二次ネオ・ジオン戦争から十二年か。……あまり、背は伸びていないと見える」
「無理な強化の結果です。それに背が低い方がGによる影響も少ないので。意図的に身長は抑えられましたよ」
「……オーガスタ研究所か」
強化人間。そしてガンダムに乗った少年少女の悲痛な道のり。
最初の少年は妻子を置いて行方不明。二番目の少年は精神崩壊。三番目の少年は地球に嫌気が差して木星圏へ。そしてこの四番目の少女は、反連邦組織のリーダーとして処刑される。
そんなガンダムパイロットたちと直に接していたブライトと、νガンダムから放たれた
その悲しみを感じ取ったイブリースは、ただの知り合い程度に、そして好きな人の父親に悲しんで欲しくなくて、話題を変えることにする。
十二年前に一度会った程度の強化人間に、同情してほしくないのだ。
「ブライト大佐。私は軍でも特殊な立ち位置にいたので、よろしければなのですが……。アムロ大尉のお子さんは、お元気ですか?」
「え、ああ。ジュニアスクールに通っているらしい。私も一年に一度、様子を聞くだけだが」
「それは良かった。心残りがなくなりました。あの時助けた命が続いているのならば、私の命にも意味があったのだと誇れます」
「……生を全うするなら、軍を、MSパイロットを辞めれば良かった。軍を抜けられたということは、そういう道も選べたのでは?」
「私、あと数年生きられるか怪しかったんです。このまま死ぬのを待つより、せめて今を生きている子たちがまともな世界で生きてほしかった。マン・ハンターに怯えず、空からコロニーが落ちてこない、そんな世界に。だからマフティーに入りました。後悔はありません」
「そんなに生き急いで……。まるで閃光のようだな。いや、ガンダムのパイロットなど、みんなそうだったかもしれん」
「閃光、ですか。私が強化人間じゃなかったら、そんな二つ名も付いたかもしれませんね。……あ。そう言えばボッシュ大尉。どうして私のジェガンに乗っていたんです?あんな旧型機に」
「技術検証用だ。サイコミュ兵器のデータはまだまだ足りないと上は仰せでな。オールドタイプが乗って本当に効果がないのか、そのデータ取りをやらされていた。ジェガンは乗りなれていたからな」
「なるほど。あんなの大切にしなくていいですからね?時代に合ったMSに乗らないと、簡単に死んじゃいますよ」
「これから死ぬ君が、それを言うのか!」
ボッシュを怒らせてしまったらしい。最期のアドバイスとしては真っ当なことを言ったつもりだったイブリースは、久しぶりに人に怒られたために新鮮に感じていた。
軍人の頃は怒られるのではなく教育であり、マフティーに入ってからは腫れ物扱いか、お姫様扱いばかりだった。目上の人として怒られるというのは人生で初かもしれない。
「ボッシュ。抑えろ」
「すみません、大佐」
「……ボッシュ大尉。最期に会えて良かったです。あなたはオールドタイプかもしれない。けど、だからこそ私にも怒れる、貴重な人です。私はもうお父さんの顔も思い出せませんが、まるでお父さんに怒られたみたいで嬉しかった」
「……私は、人としても軍人としても失格だ。そんな男を捕まえて父のようだなどと……」
「ふふ、ごめんなさい。ただそう思ってしまっただけなので。……そういえば、ブライト大佐。あの泣き虫な息子さんは元気ですか?彼、実は軍に入っていたりします?」
「ハサウェイか?いや、彼は今地球で植物官として実習に来ているよ」
「植物官……。そんな道もあるんですね。私には選べなかったなぁ。大佐、息子さんと連絡を取っていますか?マフティー討伐のためにこうして地球へいらしたんでしょう?連邦政府が変わらなければ、マフティーの活動は続きます。ナイチンゲールのパイロットは厄介ですよ?だから、話せる時に話しておくべきかと」
「忠告、しかと受け止めるよ。良い機会だから直接ハサウェイに会いに行ってみるさ」
そんなやりとりをして、三日後。
イブリースの処刑は実施された。
処刑を取り仕切ったのはケネス。軍を辞める前の最後の仕事として最後まで軍務を全うした。
彼女の処刑場でのやり取りはとても穏やかで。政府高官を大量に虐殺した反連邦組織のリーダーのようには見えず。ガンダムでアデレートを襲ったテロリストとは思えないほど、一番厳かで静かな処刑だった。
見せしめの意味もあって、発砲音はアデレートの隅っこで鳴り響いた。その音に驚いたのか、いくつかの鳥が空へ飛び立つ。連邦政府への怒りが増した中年の、乗機を譲られた元ジオンの将兵の嘆きも、そのまま空へと溶けていく。
その日、イブリース=ナハティガルはマフティー・ナビーユ・エリンとして処刑された。そのニュースは速報として全世界へと伝播していく。
マフティーを名乗る少女の処刑を実施したことは、新聞で大々的に伝えられた。どこから漏れたのか、マフティーは少女だったと、そしてシャア・ダイクンの娘だったという出鱈目が報じられた。どこの三文記者が書いたのか不明だが、DNA検査などもせずに彼女の遺体は遺書にあった通り灰にされたために、真偽は不明だ。
ケネスが処刑後、連邦政府高官関係者の、死後の復讐や強化人間のデータ取りとして横入りをされたくなく、マフティーのリーダーを、そしてガンダムに乗ったエースパイロットへ敬意を称して遺書通りにすぐに火葬まで執り行った。
十二年ぶりのサイコフレームの発光が観測されたのだ。耳の良い人間は即日でアデレートへやってきて、街の荒れ具合なんて
レーンなんて大尉へと昇進させて、その奇跡の体現者として引き取られた。マフティーは処刑にするということは決まっていたので、検証は生き証人を優先させたことでイブリースは助かったとも言える。
その横柄さにケネスやボッシュ、ブライトへの反感を呼んだということに気付かず、彼らはサイコ・フレームという奇跡に縋るという俗人的な動きを見せていた。
そんな醜態を見せた後に、訳のわからない三文記事を作成することの指示だ。サイコ・フレームに群がっただけの害虫が三文記事へコメントを寄せていたのだから、犯人の自白をしているようなものだ。
ケネスはすぐに新聞を叩きつけて、連邦軍の敷地から抜け出した。既に退役は受理されている。だが彼はアルゴス・ユニットの開発責任者でもある。今後も緑色の発光現象に付き合わされる、もしくはイブリースを火葬にしたことで奇跡から遠ざかったと誤認する愚かな老人に口封じにされるかもしれないと感じて、ブライトとボッシュにだけ声をかけて軍のものを使わずに、大佐の最後としてはありえないほどに静かに軍施設から遠ざかった。
マフティー側からも声明が出て、マフティーのリーダーを務めていた女性がシャア・ダイクンの娘だという事実はないと正式に通達。そんな法螺を吹くほど血迷ったかと、行政を司る者としてそれで良いのかと彼女の死も使って連邦政府への批判を突きつけた。
結局、人々はそこまで変わらなかった。マフティーの活動は程なくして再開され、今度は暗殺に限らず、連邦政府のさまざまな汚職のデータなどを用いた情報戦も加わった。もちろん、時には過激な反抗も行われ、その時には紺色の夜鳴鳥が戦場を支配したという噂も流れた。
枯れることのない水道というアボリジニの言葉でマランビジーというものがある。それが示すように、これからも人類の主義主張は交わらないまま、マフティーという名前は残り続けるだろう。イブリースという名前は残らず、だがシャア・ダイクンの娘だという記号だけが一人歩きをし、マフティーと共に思い出されることとなる。
人類の反抗の象徴として。そして死んでいった、未来を願った少女を偲んで。
一応イブリースの裏設定とか、その後のハサウェイたちの動向とか、設定だけはありますが。
ハサウェイは奥さんたくさんだよ()。マフ活も頑張ったよ、ということで筆を置かせていただきます。