インデリブル・ハート - 嫌われ者の俺が皆を助けて記憶を失ったら、美少女生徒会長が恋人を名乗り始めました 作:夢見戸イル
退院してからは穏やかな日が続いていた。
基本的には依里の家にいて、依里が仕事の間は霧島の持つマンションで魔道具の本を読みながら、学校推薦の準備をしたり、律花の母親が目を覚ますための魔道具を作ったりした。
律花や信悟とも定期的に会っては、他愛のないことを話して過ごしていた。
そして、夏休みが終わる前日。灯夜は律花の家に泊まりに来ていた。せっかくなら一緒に行きたい。そう言って、律花が灯夜を誘ったのだ。
その誘いに、灯夜も頷いた。
久しぶりの律花の家だった。夏休みに入る直前に
まだ飛び出してから1か月程度しか経っていないのに、この部屋で過ごした律花との時間は、遠い昔の出来事のようにも思えた。
あの頃は、律花が話題をくれて、それに灯夜が答える。その繰り返しだった。灯夜は話すことは苦手だったからこそ、そんな律花との会話が心地よかった。
けれども今、どうしてか律花は無言で膝を抱えて灯夜の隣に座っていた。
「律花、どうしたの? 何かあった?」
その無言の空間に耐えきれなくて、灯夜は律花に尋ねた。そんな灯夜を、律花は恐る恐る見た。
「灯夜、あのね」
「うん」
「私たち、恋人同士のままでいいの?」
その言葉を聞いたとき、灯夜は一瞬息が止まった気がした。
確かに律花の言う通り、2人が恋人同士である必要はなかった。魔道具に魔力を共有することだって、恋人同士でなくてもできる。灯夜も自分の母親の元に戻ったのだから、恋人としてサポートしてもらう理由もなかった。
「……別に、律花が望まないなら、俺は……」
「そういう意味じゃない! 私、灯夜のこと好きって言ったわよね! どうしてそういう思考になるの⁉」
「あ……」
律花に怒られて、改めて自分の言葉の矛盾に気付いた。どうやら簡単に好きが壊れると思ってしまう思考は抜けないらしい。
律花は間違いなく灯夜に好きだと伝えてくれた。寧ろ好きだと伝えていないのは、灯夜の方だった。
灯夜は覚悟を決めて、口を開く。
「律花。あのさ」
「何?」
「俺、律花のことが好き」
そう言って、灯夜は律花の指先に触れた。何度も触れた手のはずなのに、どうしてか、緊張した。
「ずっと、律花のこと、好きだった。俺が記憶を失って、何もわからない時に支えてくれて、引っ張ってくれて、笑顔をくれて、そんな時間が楽しくて、救われてた。本当に恋人だったのって言われるたびに不安になるほど、律花のことが好きになってた」
律花の顔は見ることができなかった。けれども、伝えなきゃと思った。
だって律花は伝えてくれたのだ。それなのに、自分は律花を不安にさせたままでいいなんて、どうしても思えなかった。
「実は、気になってたのはもっと前からだからだった。律花は覚えてないかもしれないけど、俺がクラスメイトに裏で色々言われてるとき、律花がそれを聞いて追いかけてくれたときがあったんだ。その時から、頭から離れなかった。離れなくて、だから、巻き込んだのも、多分、律花なら俺の話聞いてくれるかもって、思ったからで……」
そこまで言って、少しだけ不安になって律花を見た。けれども律花は、少し頬を染めて、そして幸せそうな顔でほほ笑んだ。
「勿論覚えてるわ! その時から、灯夜は私に頼ってくれてたのね。嬉しいわ」
そう言って、律花は灯夜が触れていた指先を1度離し、そして灯夜の手をぎゅっと握った。
「じゃあ、正式に恋人同士ってことでいいのね!」
「うん。あの、えっと、よろしく……。俺、彼女なんていたことないから、どうしたらいいかわからないときもあると思うけど……、でも……」
律花が望むことは可能な限り叶えたい。そう言おうとしたけれども、それを言う前に、律花は繋がっていなかったもう片方の手で灯夜の手を握った。そして、満面の笑みで笑う。
「私もよ! でも安心して! 恋人同士がどんなことをするのかは、ちゃんと調べたわ! 勿論、男の人が彼女にどういったことを求めるのかということも調べたの! だから……」
「えっ、ちょ、まさか……」
「あっ、残念ながら具体的にどうすればいいのかまでは、調べられてないの。でも、それもちゃんと勉強して……」
灯夜は身の危険を感じ、握られていた律花の手を引き剥がして、しっかりと言い聞かせるために律花の両肩を掴んで律花の目を見た。
「律花、とりあえず、そういうのは受験終わってから考えよう。後、それ以上のことは調べないで。お願いだから」
「えっ……? でも……」
「俺が調べる。俺が調べて、ちゃんとしたい派なの。だから律花は何も調べないで。寧ろこれ以上何も知らないままでいて」
「そう……? 灯夜がそう望むのなら、そうするわ」
律花の言葉に、灯夜はホッと息を吐く。けれどもあまりモタモタしていると、余計な知識を入れて大変な事になりそうだ。
そんなことを想像して頭を抱えながらも、そんな律花が可愛いと思えてしまうのだから、どうしようもない。
どんな言葉も、行動も、律花が自分のことを好きだから。そう思うと、どうしても幸せを感じて、止まらないのだ。