そこには主人公たちがそれぞれの理由で自分の登場する小説を売りこんでくる。
今日(こんにち)もルーキー窓口の片隅で特筆すべきドラマが起きていた…。
小説集合処理頒布庁【バーメルン】
100以上の窓口や星の数ほど無造作に置かれた大小取っ散らかった掲示板、
本棚に置かれた本を無造作に取りタイトルを見て嘲笑する勇者衣装の男に、
それを冷たいまなざしで一瞥しながら通り過ぎる書生服の男女、あちらこちらの廊下で乾いたペン先の万年筆や原稿用紙をぐるぐるに丸めてゴミ箱に捨てて燃やす美少女ロボット。
時刻は0時だが、この場所について特筆すべきことは山ほどある。
【バーメルン】の対応時間は24時間、職員も来客の人々もいつ眠っているのか分からないほど建物の中で常に溢れかえっていた。
しかし、いくら【バーメルン】が騒がしいと言っても少しくらい寂しい場所はある。
それがここ、【有色相談説明課ルーキー窓口】である。
館内のあちらこちらはどこも熱気で溢れているが、この空間だけはいつも雪がしんしんと降るかのように静かだ。
他でもない、窓口に来る【ルーキー】たちの緊張がこの閑寂とした雰囲気を熟成していた。
「931の番号札をお持ちのニャン・コラスティさん、ニャン・コラスティさん、ルーキー窓口までお越しください」
「はっ、はーいーにゃっ!」
ところどころ破けた衣装の猫耳の少女が本で溢れたせまっ苦しいソファを立ち上がり、職員の待つルーキー窓口へと向かう。
その両腕には大事に大事に小さな【本】が抱きかかえられていた。
「初めまして氷果・アドヴァ・ISU・主瑠世(ひょうか・あどば・いす・するよ)と申します。
あなたの小説が評価が得られるようにアドバイスさせていただくアドバイザーです。
よろしければどうぞおかけください。」
「よ、よろしくお願いしますにゃ」
猫耳の少女が腰かけ窓口の向こうのアドバイザーに本を差し出す、
アドバイザーは眼鏡をくいと上げると本の裏表紙と表表紙を見て驚いたように目を大きく見開いた。
「ほう、小説投稿サイトのバーメルンには初登録、そして処女作ですか」
「は、はいですにゃ!初めての小説で…主人公のボクが大活躍するんですにゃ!」
「加点にはなりませんが、個人的には応援したくなるポイントですね…注目されれば面白くなる要素になります」
「ほ、ほんとですかにゃ!?」
「ですが!」
浮かれて立ち上がった少女の鼻先にアドバイザーが指を立てる、
眼鏡越しの目はメラメラと燃え『本番はこれからだ』という意思が容赦なく少女の毛先に突き刺さった。
「このタイトル…【猫耳少女の王道楽土】、とはなんですかッ!?」
「え…?あ、その、タイトルです、ぁちがぅいやあのっ…読者のひとが見たくなるようなタイトルですにゃっ!」
「読者が見たくなるタイトル?これのどこがッ!?読者が見たくなるタイトルは【コレ】でしょうがぁぁッ!」
アドバイザーが窓口の下の引き出しからチラシを一枚抜き去り、
ひらひらと天高くつき上げ光と共に卓上へとチラシをぶち下ろす。
「にゃ…にゃ…にゃ…っ…?」
相談員と相談者の関係が崩壊しかねないほどの言葉の数々を一気に浴びせられ、
半死半生の心根の少女。
目をカタカタと震わせアドバイザーの振り下ろした【それ】に底知れぬ【恐れ】を抱きながら、
偉大過ぎる存在を仰ぎ見るかのようにその【チラシ】を見下ろした。
「【王国最強パーティーを追放されたニート参謀俺氏による大陸間転移TS剣聖RTA】っ…!?」
ドン…と太鼓を打ったような音が響き渡る、
少女がはっとして視線を上げるとアドバイザーが【眼鏡】を外し研ぎ澄ました刃物のような鋭い【目つき】を少女にぶつけていた。
「ニャン・コラスティさぁん…」
「は、はいにゃっ!」
毛を逆立たせながら姿勢を正し、チラシを破れそうなほど握りしめる少女。
アドバイザーが次に浴びせかけるであろう言葉を想像しながら、
眉間にしわをよせたしわくちゃな目で必死に心の防御態勢を取った。
「こんな【クソみじけぇタイトル】の【オリジナル】小説をッ!【バーメルンの読者】が見るわけないでしょうがぁッ!」
「に゛ゃ゛は゛ぁ゛ッ!?」
アドバイザーが稲妻をバチバチとカラダに纏わせながら、真横のホワイトボードを【ガツ゛ンッ!】と座っていた席の上に叩きつける。
「そしてこの平均文字数ッ!【3384文字ッ!】まぎれもなく【無色】のラインですッ!」
「ぎに゛ゃあ゛っ゛!」
度重なる容赦のない【正論】の弾雨に猫耳の少女は猫耳をぶるぶる震えさせ、
先程まででもじゅうぶん青白かった顔をさらに白くさせながらも、
アドバイザーの繰り出すギンギラに眩い【裁きの光】を手に持った本で受け止めた。
「で、でも、でもッ!それでも!評価をもらえるかもしれないにゃあっ!」
少女が英雄譚の主人公たる勇敢さを振り絞って叫ぶ、しかしアドバイザーは痛烈な【舌先】で雲散しかけた【裁きの光】を右手左手の五指に集結させ【拳骨】にして振り下ろした。
「も゛ら゛え゛ま゛せ゛ん゛ッ゛!」
「ぎにゃ゛ーーーーッ!!!!!!!」
光で四肢を膾切りにされ悲鳴を上げる少女を確認すると、アドバイザーは窓口を中心に【アドバイス空間】を表出させる。
この【アドバイス空間】ではどれだけ鋭すぎる【論理】も冷たすぎる【事実】でも少女を死に至らしめることはない、
それゆえにこそアドバイザーは生と死の狭間を彷徨う相談者の身に遠慮なく【魂】を爆裂させるほどの【アドバイス】を浴びせかけ続ける。
「しかもなんですかッ!?このタグの数はッ!?【ファンタジー】【異世界】【勇者】【女主人公】
ふ゛ざけ゛て゛る゛ん゛で゛す゛か゛ッ゛!?」
「に゛やァーーーーーーーーーーーっ゛!でもッ、でも!女主人公なのは珍しいんじゃっ…!」
「そうですか、ではニャン・コラスティさん、これを見て下さい」
【1374件】
「え…?」
「見えませんか、【1374件】です」
「み、見えるけどっ…何なのにゃあっ!その【数字】はッ!?」
「分かりませんか?【原作:オリジナルの【女主人公】の数です!】」
【女 主 人 公 原作:オリジナル (1374件)】
「に゛!や゛!は゛!あ゛!っ゛!」
右も左も分からない【ルーキー】にとってあまりにも【衝撃的】すぎたその【言の葉】の【衝撃】によって、
彼女は吹き飛ばされた。
窓口の向こうの壁を突き破り、館内の隔壁にぶち当たりながらゴロゴロと転がり果てる。
少女が破れかけた本を千切れそうなほどに引き絞りながら起き上がると、そこはリングの上だった。
【バーメルン】の館内中心にある【ルーキーリング】
そこは初々しい【ルーキー】による言の葉の【ボクシング】が繰り広げられる【闘争の庭】
無秩序な観客が罵声と応援の声を、
【殺意】と【熱意】と【期待】の入り交じった顔で【諦観】を握りしめた拳を突き上げて【魂】を載せて【叫ぶ】
赤コーナーの扉からアドバイザーが入場したのを見た少女【ニャン・コラスティ】は、
【本】を捨て鋭く【爪】を伸ばした。
「ニャン・コラスティさんんんッ!!!!!!なんの【創意工夫】もおッ!【変哲】もないあなたの【小説】がッッッ【評価】を得る【その日】なんかッッッ決して訪れないんですよぉッ!!!!!」
「でもッ…でもっっ!!!!!!【毎日投稿】してるのにゃ゛ッ゛!」
少女の爪とアドバイザーの拳が交錯するが、繰り出した【言の葉のチカラ】が同じだった為に相殺される。
飛び出した勢いをリングロープで受け止め、少女は素早く後ろを振り向く。
しかし、疲れからかそのタイミングは一歩遅く、眼前では既にアドバイザーが顔面を振りかぶっていた。
「熱意があろうとなかろうと【事実】っ!【あなたは無色ですッ!】」
「にゃぁぁぁッ゛…!……へっ?」
アドバイザーの【その言の葉】を聞いて絶望しかけたその瞬間、少女の目の前を支配した【無色透明な世界】
「あ、あ、なんにゃ…なんにゃ【ここ】はぁぁっ!?」
少女の視界を埋めつくしていたのは無数の【数字】と【色】
無色透明なキャンバスの中に塗りたくられた下品な【虹色】だった。
「UA500、評価青、未完結、100話越え、匿名、平均文字数、原作カテゴリ、詳細検索ッ!…評価を得る可能性…0…?」
数字や文字や付近に映し出されていた何十ものコマンドを読み上げる内にふと見かけたその本、
それは少女がアドバイザーと戦うために捨てた大事に大事にしていた【本】だった。
「あ………っ!ああっ!ごめんにゃっ!ボクの大事な大事なッ英雄譚!【猫耳少女の王道楽土】ッ!【総文字数30万文字っ!】」
猫耳の少女は猫耳をぴんと立てて駆け寄り、その【本】をパラパラとめくった。
少女にとってかけがえのない、世界にたったひとつだけの【少女】のための【御伽話】を。
「そうにゃ…主人公のボクが諦めたりなんかしちゃダメにゃ…どんなにか細い【イト】でも手のひらに手繰り寄せなきゃ【主人公】の【名折れ】にゃぁァつ!!!!!!」
一か八か、少女の喉が震えその【言の葉】の刃を、背を向けたアドバイザーに放出した。
その瞬間【小説サイトバーメルン】総数【44万人】の観客と正面のアドバイザーの時間が解放され、おびただしい【時間の風】が猫耳の少女のカラダに吹き抜けた。
「【猫耳少女の王道楽土】はぁぁぁァァつ!!!!!!【1話で【男の子】だった【主人公】の【ボク】が【TS】して始まる【小説】にゃ゛ぁあ゛っ!】」
「どっ…!?どうしてそれを先に言わないんですか!ん゛ほぉぉぉおおおおおんっ゛!!!!!」
「さらにさらにっ゛!【主人公のボクがさほど実力もないのに【勘違い】されながらどうにかこうにか切り抜けていくのが【見どころ】なのにゃあ!!!!!!!!】」
「だからどうしてそれを先に、へブっっっっ!!!!!!!!」
「これが最後にゃ!【【猫耳少女の王道楽土】は【最終話】まで【書き終わって】いてそれを【毎日20時】に【予約投稿】する【完結保証済み毎日投稿小説】に゛!や゛!あ゛!つ゛!】」
「ど゛う゛し゛て゛そ゛れ゛を゛ッ!!!!!さ゛き゛に゛い゛わ゛な゛い゛ん゛で゛す゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」
猫耳の少女【ニャン・コラスティ】の【言の葉のチカラ】を受け吹き飛ばされ、リングロープにしなだれかかりながら【アドバイザー】が倒れ伏した。
「にゃーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」
ニャン・コラスティはつんと立った猫耳と尻尾をさらに突き上げた。
その手に持った大事な本、【猫耳少女の王道楽土】をリングの中心で持ち上げると【勝利】の【叫び】を上げた。
気炎のこもった叫びを上げる少女を見て観客は数々の【色】を投げると、
無色透明だったその【本】は瞬く間に色付いていった。
「にゃーーーーーーっ、どうにゃ見たかアドバイザーっ!!!!ボクの【勝ち】にゃっ!」
「ふ、ふふ…どうやらあなたの【価値】を見くびっていたようです、訂正しましょう【ニャン・コラスティ】さんの小説はじゅうぶん評価するに値します」
「ふふんにゃ」
「ですが!」
「えっ?」
少女の鼻先にアドバイザーが指を立てる。
その目には見覚えのある『本番はこれからだ』という意思が容赦なく浮かんでおり、
少女がその意思を汗のしたたる毛先で受け止めた次の瞬間、アドバイザーは装着していたコンタクトレンズを掴んで捨てた。
「その【評価】を減らさず【向上】するために私がアドバイスできることは…まだまだ【いくらでもあります!】」
「に゛や゛あ゛っ゛!?」
少女はその台詞でとてつもない強敵が【四天王の中でも最弱だった】に等しいほどの衝撃を受け、膝を折る。
彼女は立ち上がろうと力を込めるが、気づけばそのカラダはアドバイザーの腕の中で抱かれていた。
「な、な、お姫様抱っこぉっ!?な、何するにゃーーーっ゛!?」
「【ニャン・コラスティ】さんのこと、【私、気に入りました!】なので、あなたが次に行く先は【私のベッドの上です!】これからも【ず~っとアドバイスしてあげますから!】…では手始めに【今夜は寝かせませんよ!】」
「ダメに゛ゃ゛ダメッ!ベッドシーンはダメにゃーっ!R18堕ちはR18堕ちはァーッ!んち゛ッゅっ、んむーーーーッ!!!!」
相談者と相談員がリングから降りて、光り輝く【向こう側】へと去って行く。
観客たちは罵声と応援の声をその背中に浴びせかけ【祝福】するのであった。
これは【小説サイトバーメルン】の登録者、総数【44万人】の内に何万と存在した可能性のその一つ。
それぞれの【ルーキー】たちの、【悲喜こもごも】のドラマだ。
どっとはらい。