ブレイクハンド 〜創れない兄は、壊す力で世界を救う〜 作:鳩夜(HATOYA)
クラウシュが助け出した子供は、まだ小さな女の子だった。
年は六つか七つくらいだろう。
髪には木屑が絡まり、服はあちこち破れている。
それでも大きな怪我はなさそうだった。
「立てるか?」
「う、うん……」
女の子は頷いたものの、足が震えている。
無理もない。
突然、扉だけの檻に閉じ込められ、誰もいない港で助けを待つことになったのだ。
泣き叫ぶ気力が残っていただけでも立派だった。
クラウシュはしゃがみ込み、女の子に背中を向けた。
「乗れよ」
「え?」
「歩けないだろ。落ちないように掴まってろ」
女の子は少し迷ってから、クラウシュの背中にしがみついた。
「重くない……?」
「軽い軽い。島の木箱の方がよっぽど重い」
「木箱?」
「そう。俺の故郷には、やたら重い木箱があってな。中身は大体、干し魚か変な芋だ」
「変な芋……」
女の子が、少しだけ笑った。
その笑い声を聞いて、クラウシュは少しほっとした。
港の奥では、まだ何かが蠢いている。
木材が擦れる音。
石が積まれる音。
金属が軋む音。
ここに長居するのは危険だ。
「お前、名前は?」
「ミリア」
「ミリアか。俺はクラウシュ。近くに家族はいるか?」
「お父さんと、お母さん……。途中ではぐれちゃって……」
「そっか」
クラウシュは周囲を見回した。
ファーストウッドの港は異様だった。
建物はある。
道もある。
だが、そのどれもが本来の形を失っている。
階段は上へ伸びたかと思えば途中で横向きに折れている。
壁には無数の扉が貼り付いている。
屋根の上に橋がかかり、その橋の上にまた小屋が建っている。
壊れているのではない。
作られすぎている。
必要のないものが無造作に増え、重なり、絡まり合い、街の形をぐちゃぐちゃに塗り潰している。
これが本当に、創作師の都ファーストウッドなのか。
「ミリア。避難場所とか、分かるか?」
「……分かんない。みんな、上の広場に逃げるって言ってた」
「上の広場?」
クラウシュが聞き返した、その時だった。
「ミリア!」
遠くから叫び声がした。
クラウシュは反射的に左手を構える。
だが、現れたのは兵器でも魔物でもなかった。
男女二人。
おそらく夫婦だ。
息を切らし、転びそうになりながら、港の方へ走ってくる。
「ミリア! ミリア、どこ!」
「お父さん! お母さん!」
女の子がクラウシュの背中から身を乗り出す。
二人はクラウシュを見るなり、目を見開いた。
「ミリア!」
「よかった……!」
母親が駆け寄り、クラウシュの背中から娘を抱きしめる。
父親も膝をつき、震える手でミリアの頭を撫でた。
「怪我は? どこか痛いところはないか?」
「大丈夫。このお兄ちゃんが助けてくれたの」
両親の視線がクラウシュへ向く。
「君が……?」
「あ、はい。扉みたいな変な檻に閉じ込められていたので」
「ありがとう。本当に、ありがとう……!」
母親は何度も頭を下げた。
父親も深々と頭を下げる。
「助かった。あのままだったら、どうなっていたか……」
「いや、そんな大したことは」
クラウシュは少し照れくさくなって頬をかいた。
人に感謝されることには慣れていない。
島では、クラウシュの力はあまり良い目で見られなかった。
壊す力。
作れない代わりに、壊すことだけは出来る力。
それはどちらかといえば、遠ざけられるものだった。
だが今、ミリアの両親はクラウシュの手を握り、涙ぐみながら礼を言っている。
壊す力で、人を助けられた。
その事実が、クラウシュの胸に静かに灯った。
「君、避難所には行ったのか?」
父親が尋ねた。
「いや。今、島から来たばかりで。何が起きてるのかも分かってないんです」
「島から……? この状況で?」
父親は驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
「なら、まず避難所へ来た方がいい。港は危険だ」
「案内してもらってもいいですか?」
「ああ。こっちだ」
クラウシュはミリアの家族に連れられ、港を離れた。
道はまともに機能していなかった。
本来なら真っ直ぐ続いているはずの大通りが、途中で巨大な壁に塞がれている。
壁の表面には窓がいくつも並んでいたが、その奥には部屋などない。
ただ空洞があり、そこから木の根のような梁が伸びているだけだった。
別の道を進むと、今度は地面から小さな塔が何本も生えていた。
それらは互いにぶつかり合い、押し合い、ぎしぎしと音を立てながら少しずつ形を変えている。
「これ、全部ビルドスキルで作られたものなんですか?」
クラウシュが尋ねると、父親は苦い顔をした。
「おそらくな。だが、普通じゃない。誰かが意図して作っているというより、街そのものが勝手に作り続けているような状態だ」
「街が……?」
「詳しいことは分からない。突然、空が割れたような音がして、黒い雨みたいなものが降ってきた。そのあと、工房の創作物が暴れ出したんだ」
「黒い雨……」
クラウシュは海の上で見た空を思い出す。
島からも見えた。
空が裂け、黒い何かがファーストウッド方面へ降り注ぐ光景。
やはり、あれが原因なのか。
「その後、ビルドスキルを使おうとした職人たちの作るものがおかしくなった。命令していない形に組み上がる。止めようとしても止まらない。さらに、古い創作物まで動き出した」
「古い創作物まで……」
「ああ。しかも人を襲う。まるで最初からそう作られた兵器のように」
クラウシュは左手を握った。
兵器。
その言葉が妙に重く響いた。
ビセ。
お前は、どこにいる。
お前の言う、よい世界って何なんだ。
そうして辿り着いたのは、ファーストウッドの中腹にある広い建物だった。
いや、元は建物だったもの、と言うべきかもしれない。
大きな集会場のような場所だ。
外壁の一部は壊れ、天井からは補強用の梁が何本も追加されている。
入口には家具や木材を組み合わせた即席の防壁が作られていた。
中に入ると、そこには避難民が沢山いた。
子供。
老人。
怪我人。
職人らしき大人たち。
荷物を抱えた商人。
泣いている者。
呆然としている者。
包帯を巻かれている者。
百人はいるだろうか。
いや、奥にも部屋があるなら、もっと多いかもしれない。
床には毛布が敷かれ、壁際には食料や水の入った箱が積まれている。
負傷者の手当てをする者。
子供たちを落ち着かせる者。
外の様子を確認する者。
みんなが必死に動いていた。
その中で、一際よく動く少女がいた。
クラウシュと同じくらいの年だろう。
肩の少し下で切り揃えた髪。
動きやすそうな作業服。
腰には工具袋を下げ、右手には白いビルドスキルボードを出している。
「そこの木箱、こっちに寄せて! 通路を塞がないで!」
少女は大人たちへ指示を飛ばしていた。
「負傷者は奥! 軽い怪我の人はこっちで待機! 水は一人一杯ずつ、子供と老人を優先!」
声はよく通る。
迷いがない。
彼女の周囲では、木材が素早く組み上がり、簡易ベッドや棚が作られていく。
だが、作りすぎない。
必要な分だけ。
余計なものを増やさず、混乱した避難所を少しずつ整えていた。
クラウシュは思わず見入った。
あれが、ビルドスキル。
人を助ける、創る力。
「次! そこの裂けた壁、押さえるわ!」
少女が白いボードを掲げる。
壁の亀裂に木材が入り込み、支えとなる。
崩れかけていた壁がぴたりと止まった。
避難民から安堵の声が漏れる。
クラウシュは拳を握った。
自分にも何か出来るはずだ。
ここには助けを必要としている人が沢山いる。
自分はビルドスキルを使えない。
ベッドも棚も、壁の補強も出来ない。
でも、壊す力ならある。
邪魔なものを壊せる。
閉じ込められた人を助けられる。
暴れている創作物を止められる。
クラウシュは少女に近づいた。
「あのさ」
「何?」
少女はこちらを見ずに返事をした。
手元では、木箱を解体しながら別の棚へ組み直している。
「何か手伝えることはないか?」
「大丈夫よ!」
即答だった。
少女はクラウシュを一瞥すらしなかった。
忙しいからだろう。
実際、彼女の周囲では次から次へと問題が起きている。
「でも、かなり忙しそうだ。なんでもいい。手伝わせてくれないか」
「大丈夫だって!」
少女は今度こそ少しだけクラウシュを見た。
「人手は欲しいけど、素人に中途半端に動かれると逆に危ないの。怪我人を増やしたくないから、そこで休んでて」
「いや、俺は――」
「休んでて」
強い声だった。
クラウシュは一瞬言葉に詰まる。
その間にも少女は別の方向へ指示を飛ばした。
「そこ! その棚、勝手に動かさないで! 魔力線がまだ固定されてない!」
「固定?」
「だから触らない!」
少女は再びクラウシュへ目を向けた。
「あなた、外から来たの?」
「ああ。さっき港に着いた」
「ならなおさら休んでて。今のファーストウッドは普通じゃない。道も建物も、触っただけで動くことがある。下手に手を出すと飲み込まれるわ」
「でも、外で暴れてる創作物もいるんだろ?」
クラウシュが言うと、少女の眉がぴくりと動いた。
「いるわよ。だからみんな困ってるの」
「なら――」
「大丈夫だって! なんなら外で暴れてる創作物を壊してきてよ!」
少女は半ば投げやりに言った。
忙しさで苛立っていたのだろう。
その言葉に深い意味はなかったのかもしれない。
だが、クラウシュは目を瞬かせた。
「……確かに」
「え?」
「まず、それが大事か」
避難所の中を手伝うことばかり考えていた。
しかし、外で創作物が暴れているなら、避難所はいずれ襲われる。
怪我人も増える。
救助活動も進まない。
ならば、外の脅威を減らすのが先だ。
それなら、自分の力が一番役に立つかもしれない。
クラウシュは頷いた。
「ありがとう。行ってくる」
「は? ちょっと待ちなさい! 今のはそういう意味じゃ――」
少女が慌てて声を上げる。
だが、クラウシュはすでに踵を返していた。
「危なかったら戻る!」
「戻る前に死ぬわよ、馬鹿!」
背後から少女の叫び声が聞こえたが、クラウシュは避難所の外へ出た。
外の空気は、避難所の中よりずっと重かった。
ファーストウッドの町は、静かに蠢いている。
建物が呼吸するように軋む。
道が少しずつ形を変える。
壁から新しい柱が伸び、屋根から階段が垂れ下がる。
その中を、いくつもの創作物が動いていた。
町の外れへ進むにつれ、その数は増えていく。
小さなものは、椅子と刃物を組み合わせたような四足歩行の創作物。
別のものは、樽に金属の腕を付けたような姿で、周囲を叩き壊している。
さらに奥には、人の背丈を超える巨大な創作物が見えた。
木材、鉄板、石材、歯車、釘、杭。
様々な素材が無理やり組み合わさっている。
クラウシュは足を止めた。
「これは……天然創作物じゃない」
島の最終試験で戦った天然創作物とは違う。
天然創作物は、自然に集まった無機物が魔力によって形を得た存在だ。
不規則ではあるが、どこか自然なまとまりがある。
木の板で出来た六面体生物も、魔物としての形を持っていた。
だが、目の前の創作物は違う。
作られている。
明確な目的を持って。
人を傷つけるために。
壊すために。
追い詰めるために。
人が作った、人を襲うための創作物。
「兵器創作物……」
クラウシュは呟いた。
それが正式な呼び名かは分からない。
だが、そう呼ぶしかない姿だった。
小型の兵器創作物が、クラウシュに気づいた。
椅子の脚のような四本足で地面を蹴り、刃のついた腕を振り上げて迫ってくる。
考えていても仕方ない。
クラウシュは左手を開いた。
「ブレイクボード」
漆黒のボードが掌から現れる。
黒い光が、薄暗い町に滲む。
ボードには、島で磨いてきたスキルが刻まれている。
クラウシュは迫る兵器創作物を見た。
木材と金属板。
接合部には釘。
魔力線は釘を中心に通っている。
なら、最初に壊すべき場所は決まっている。
「釘抜き!」
クラウシュの指先から黒い魔力が細く伸びた。
それは兵器創作物の腕に打ち込まれた釘へ絡みつく。
次の瞬間、釘が強引に引き抜かれた。
ぎゃりん、と金属音が響く。
腕の接合が緩み、刃のついた腕ががくりと落ちる。
クラウシュは踏み込んだ。
「打毀・衝打!」
うちこわし・しょうだ。
掌から魔力の衝撃を発生させるブレイクスキル。
触れたものに破壊の衝撃を叩き込み、吹き飛ばす。
クラウシュの掌が、兵器創作物の胴体に触れた。
どん、と鈍い音。
創作物の体が内側から弾ける。
木片と金属片が飛び散り、四本足がばらばらに崩れた。
一体目。
だが、音に反応して周囲の兵器創作物が一斉に動き出した。
椅子型。
樽型。
箱型。
車輪型。
小さな兵器創作物が次々とクラウシュへ向かってくる。
「数が多いな……!」
クラウシュは笑った。
怖くないわけではない。
ここは島ではない。
試験官もいない。
ビセもいない。
失敗すれば、本当に死ぬかもしれない。
だが、体は動いた。
この三年間、ビルドスキルを持たない自分が、何をすれば戦えるのか。
それだけを考えてきた。
小さい兵器創作物は、釘や簡単な接合で組まれていることが多い。
なら、壊し方は単純だ。
釘を抜く。
継ぎ目を崩す。
衝撃で砕く。
「釘抜き!」
一本目の釘を抜く。
「継ぎ目崩し!」
胴体と脚の接合部を崩す。
「打毀・衝打!」
掌で叩き、吹き飛ばす。
次。
「釘抜き!」
武器腕を落とす。
「衝打!」
胴体を砕く。
次。
「継ぎ目崩し!」
車輪の軸をずらす。
「衝打!」
転がってきた兵器創作物を横から叩き飛ばす。
小さい兵器創作物は、これで次々破壊出来た。
ばらばらに崩れた破片は、もう動かない。
魔力線を断ち切り、構造を壊せば、兵器創作物はただの材料に戻る。
クラウシュは息を整えながら、左手のボードを見た。
壊す力。
島では馬鹿にされた力。
作れない自分に残された、黒い力。
でも今は、その力が人を守っている。
避難所の方をちらりと見る。
あそこには、ミリアがいる。
怪我人がいる。
あの忙しそうな少女もいる。
まだ助けを待っている人がいる。
壊せ。
邪魔なものを壊せ。
危険なものを壊せ。
誰かを傷つけるために作られたものを壊せ。
それが今の自分に出来ることだ。
クラウシュは前へ進んだ。
その時、地面が大きく揺れた。
ずん、と重い音。
奥の通りから、巨大な影が現れる。
小型の兵器創作物とは明らかに違う。
高さは三階建ての家ほど。
木材で組まれた巨体に、鉄板が何枚も貼り付けられている。
腕は太い柱。
脚は何本もの杭を束ねたような構造。
背中には歯車と煙突のような部品があり、そこから黒い煙のような魔力が漏れていた。
顔はない。
だが、胴体中央に埋め込まれた赤い窓のような部分が、目のように光っている。
「こいつはでかいな……」
クラウシュは左手を握り直した。
巨大兵器創作物が一歩踏み出す。
その足が地面に触れた瞬間、石畳が砕けた。
ただ踏むだけでこの威力。
まともに殴られれば、骨どころか体ごと潰される。
クラウシュは距離を取った。
巨大兵器創作物が腕を振り下ろす。
「うおっ!」
クラウシュは横へ跳んだ。
柱の腕が地面を叩き、石片が飛び散る。
衝撃だけで体が浮きそうになる。
小型と同じように衝打を打ち込んでも、おそらく効かない。
大きい創作物には、大きい創作物の壊し方がある。
ただ強い衝撃を与えればいいわけではない。
どれだけ大きな衝撃を与えても、基礎部分が残っていれば形は崩れない。
むしろ表面だけが壊れ、すぐに別の材料で修復される。
大事なのは、基礎を抜くこと。
支えている杭。
中心となる柱。
魔力を通している接合点。
そこを破壊しなければ、巨大な創作物は倒れない。
クラウシュは巨体の足元を見た。
複数の杭が束ねられて脚になっている。
だが、その中でも一本、他より深く魔力が通っている杭があった。
あれが基礎だ。
「フライヤー!!」
クラウシュの黒い魔力が、巨大兵器創作物の脚へ伸びた。
基礎となる杭を引き抜き破壊するブレイクスキル。
単純な木杭なら難しくない。
だが、杭の種類によって難度は大きく変わる。
石杭。
鉄杭。
魔力杭。
複合杭。
目の前の杭は、木材の中に鉄芯が入り、さらに魔力線で補強されている。
重い。
黒い魔力が杭に絡みついた瞬間、クラウシュの左腕に負荷がかかった。
「ぐっ……!」
腕が引きちぎられそうな感覚。
巨大兵器創作物がこちらを向く。
基礎杭を狙われていると気づいたのか、足を持ち上げ、クラウシュを踏み潰そうとした。
「抜けろ……!」
クラウシュは歯を食いしばる。
島で何度も練習した。
古い桟橋の杭。
廃屋の柱。
倒壊しかけた倉庫の基礎。
ビルドスキルで作れないなら、せめて壊す構造だけは誰よりも理解する。
そう決めて、何度も何度も壊してきた。
「抜けろおおおっ!」
ばきん、と音がした。
巨大兵器創作物の脚から、一本の杭が引き抜かれる。
同時に、脚全体のバランスが崩れた。
巨体がぐらりと傾く。
だが、まだ倒れない。
腕を地面につき、強引に体勢を立て直そうとしている。
クラウシュは走った。
今しかない。
基礎が抜け、魔力の流れが乱れている。
この瞬間なら、内部まで衝撃を通せる。
「打毀――」
左手の黒いボードが強く光る。
衝打では足りない。
表面を吹き飛ばすだけでは、巨大な兵器創作物は止まらない。
貫く。
中心まで。
魔力の流れを貫通し、芯を砕く。
「貫打!」
うちこわし・かんだ。
クラウシュの掌から、黒い魔力の槍が発生した。
衝撃を広げる衝打とは違う。
貫打は一点に破壊を集中させる。
分厚い装甲や、奥にある魔力芯を撃ち抜くための技だ。
クラウシュの掌が、巨大兵器創作物の胴体に触れる。
黒い槍が突き刺さった。
鉄板を貫く。
木材を貫く。
歯車を貫く。
奥の魔力芯へ届く。
次の瞬間、巨体の内側で破裂音が響いた。
巨大兵器創作物がびくりと震える。
赤い窓のような部分が明滅し、黒い煙が噴き出した。
腕が外れる。
脚が崩れる。
背中の歯車がばらばらに飛び散る。
それでも、まだ一部が動こうとしていた。
クラウシュはすぐに左手を振る。
「継ぎ目崩し!」
肩の接合を崩す。
「釘抜き!」
補強釘を抜く。
「衝打!」
残った胴体を叩き割る。
巨大兵器創作物は、今度こそ完全に崩れ落ちた。
地面に大量の木片と鉄片が散らばる。
クラウシュは肩で息をしながら立っていた。
兵器創作物の基本的な破壊の仕方。
それは、釘を抜き、継ぎ目を崩し、大きな衝撃で破壊すること。
基礎部分から壊していかないと、どれだけ大きな衝撃を与えても無傷に近い。
逆に言えば、基礎を抜き、魔力の流れを乱せば、巨大な創作物でも壊せる。
クラウシュはその流れを淡々とこなした。
次の小型兵器創作物が迫る。
「釘抜き」
腕を落とす。
「継ぎ目崩し」
脚を崩す。
「衝打」
胴体を吹き飛ばす。
別の巨体が現れる。
「フライヤー」
基礎杭を抜く。
「貫打」
芯を貫く。
「衝打」
残骸を砕く。
一体。
二体。
三体。
クラウシュは創作物を次々と破壊していった。
作ることは出来ない。
避難所にベッドを増やすことも。
壊れた壁を補強することも。
温かい家を建てることも出来ない。
けれど。
人を襲う創作物を壊すことは出来る。
道を塞ぐ恐怖を壊すことは出来る。
誰かの命を奪うために作られたものを、ただの材料に戻すことは出来る。
クラウシュは左手の漆黒のボードを掲げた。
黒い光が、混沌の街に走る。
「俺は、作れない」
小さく呟く。
目の前で、また一体の兵器創作物が動き出す。
「でも、壊せる」
クラウシュは地面を蹴った。
「それで助かる人がいるなら、俺は壊す!」
黒い掌が、兵器創作物の芯を撃ち抜いた。
崩れた残骸の向こうで、避難所の防壁が見えた。
その入口に、先ほどの少女が立っていた。
彼女は目を見開き、クラウシュを見ている。
驚き。
困惑。
そして、ほんの少しの安堵。
クラウシュは振り返り、軽く手を上げた。
「外のやつ、少し減らしてきた!」
少女はしばらく黙っていた。
やがて、片手で額を押さえ、深く息を吐く。
「……本当に行く馬鹿がいるなんて」
そう呟いた声は、呆れているようで。
けれど、少しだけ笑っているようにも聞こえた。