シスの亡霊と共和国軍人がいがみ合ったり助け合ったりする話 作:ひらつー
◇
「やはり罠だったか……」
デミスは副長を連れ、ブリッジへ通じる連絡通路の窓から外を見ていた。ひとりの共和国軍人が、敗北を喫する様子を。
リアクターの爆発が作為的なものであると感じたデミスは、即座に伝令を飛ばした。艦内システムは完全に落ちており、通信どころか扉一つ満足に開かない状況だったが、こういう時の為に、扉には緊急開放用の手動ハンドルが備わっている。それを使って、後詰め部隊の待機所まで人をやったというわけだ。
そうして出撃した70名のトルーパーが、デミスの眼下で左右に展開していた。敵の隠れる木立に対し、右翼と左翼に別れ、互いに援護しながら挟み込むように挟撃する。教本通りの、もっとも効率的な攻め方だ。
「悪くない動きだったが、こうも戦力差があってはな」
「身柄を押さえますか?」
「こちらにも被害が出ている。それでは兵達の溜飲が下がらんだろう」
捕虜は必要ない。デミス達の目的は新共和国の艦隊を叩くこと――有り体に言えば、あの艦隊を皆殺しにすることだ。
デミス達が仕掛けたあの待ち伏せ攻撃について報告されると、少々面倒なことになる。
墜落した敵艦の損傷具合から見て、もはや航行どころか通信も出来なそうな有様ではあったが、念には念を入れておいた方が良い。
「戻ろう。そろそろシステムも復旧する頃だ。それから改めて調査隊を編成する」
「プローブ・ドロイドが修理できれば良いのですが」
そうして二人がブリッジへ戻ろうとした、その時。
「……なんだ?」
眼下の戦場に、予想していなかった変化が起きた。森の中から、共和国軍の野戦服に身を包んだ例の敵が出てきたのだ。
それだけなら驚かない。この状況なら、一縷の望みに賭けて投降する者もいるだろう。あるいはそう見せかけて、最後に一矢報いようとデトネーターを懐に忍ばせる者も出るかもしれない。
だがその共和国軍人は、どこまで悠々とした足取りで、顔には不敵な笑みを浮かべていた。左右から70もの銃口を向けられているにも関わらず。
そしてここからさらに、デミスが驚愕することが起きる。
トルーパー・コマンダーが内蔵コムリンク越しに射撃を命じたのだろう。むざむざと出てきた愚か者に対し、左右に分かれた部隊がフルオートで交差射撃を始める。
部隊の最前列から敵までは、およそ20メートル。目と鼻の先と言ってよい距離だ。
灼熱した無数のブラスターボルトが殺到する。それを前にして、共和国軍人は動かない。後ろに手を組んだ状態で、笑みの形を崩しもしない。
数秒後には体中に焼け焦げた穴を拵えた死体が出来上がる。その場にいる誰もがそう思っていた。
デミスが違和感を覚えたのは、射撃が始まって5秒ほど経過した頃だ。
「何故、当たらない……?」
たったひとりに向けられる無数の赤い閃光が、掠りもしていない。
どの弾丸も、命中の軌道から外れていた。あるものは敵の半メートル横を通り過ぎ、あるものはその足元に突き刺さって小さな土煙を起こし、あるものは頭の上を飛び越えていった。
トルーパー達も、ようやくその異様な現象に気付いたのだろう。ある者は一度トリガーを切って再度、狙いを付け直す。またある者は射撃姿勢を安定感のあるものに切り替える。
だが――命中しない。
やがて射撃が止んだ。コマンダーが命じたのではない。全員のパワー・カートリッジが空になったのだ。
トルーパー達は困惑しながらも、カートリッジをリロードした。だが、装填が終わっても射撃を再開する者はいない。どうすればいいのか、まるで分からなかったのだ。
そしてまさにその瞬間、共和国軍人が動く。と言っても、腰にぶら下げているブラスター・ピストルを抜くなどしたわけではない。それまで後ろに組んでいた手を大きく広げ、まるで観衆に演説でもするかのように叫んだのだ。
「……種明かしをしてやろう!」
ざわり、とトルーパーがどよめく。それはまさに、彼らが欲しがっていた言葉だった――何故、弾が当たらないのか。まさか、それが当の敵から齎されるとは思わなかっただろうが。
「フォースは万物に通じるもの。暗黒面の強大な力を用いれば、ブラスターボルトに干渉し、軌道をずらすことも、あるいは受け止めることすら可能!」
「フォースだと?」
デミスは久しく聞くことのなかったその単語を、口の中で繰り返した。
シスは滅び、ジェダイが戦場に出なくなって数十年が立つ。彼らが活躍したのは、デミスが生まれる前のことだ。あの艦にジェダイが乗っていた筈はない。ましてやあの敵は軍服を着ているのだ。
「――だが、生憎とろくに鍛錬を行っていないこの小僧の体では、そこまでの芸当は出来ん。俺様がしたのは、お前たちの銃口をほんの数センチずらしただけに過ぎん」
20メートルも距離があれば、ほんの数センチの射出角度のずれが、着弾時には1メートル以上の誤差を生み出してしまう。
それだけ狙いが外れれば、多少の射撃の腕の差異に関わらず、命中弾が発生することはないだろう。
「正確な狙いが仇になったというわけだ。何百何千と撃ち放とうが、全て無駄弾よ!」
得意げに高笑いをあげる共和国軍人。
だが、その時、デミスは頭の中で冷静に対処法を考えていた。発射角度をずらすのが有効なのは、それなりに狙いが定まっている場合だ。最初から同じだけ狙いがずれていて、逆方向へ同じだけずれれば、結果として照準は一致する。
(つまり――狙いを付けなければいい。これだけの数がいるのだ。目でも瞑って、大体の方向に向かって撃てばいい)
デミスはそう結論付ける。トルーパー・コマンダーも。その他のトルーパー達も。
だが、神ならぬ身では気付けなかった。ここにいる全員が、一秒の誤差もなく、全員同時にその考えに辿り着いたという、その異常に。共和国軍人が、その笑みを一層深くしたことに。
そして再びブラスター・ライフルが火を噴き――そして、今度は最初の一斉射で片が付いた。
「……!?」
眼下の光景に、デミスは言葉を詰まらせた。訳が分からなかったのだ。
共和国軍人が笑いながら歩みを進める――同士討ちで倒れ伏した、トルーパーの間を通り抜けて。
左右に分かれて展開していたトルーパー達が、ブラスターの銃口をお互いに向けて引き金を引いたのだ。結果として70人もいたトルーパーが、一瞬で全滅した。
悠然と歩みを進める敵の姿が、艦体の影へと消えていく。トルーパーが展開する為のタラップは下ろしたままだ。おそらく、船に乗り込まれた。
「艦長!」
副長が、ほんの僅か、恐怖を帯びた声で叫ぶ。
ブリッジから伝令を出したため、ここに至るまでのすべての扉は手動開放されている。閉じてまわっている時間はない。
「……総員、白兵戦準備」
努めてゆっくりとした歩調でブリッジに戻ったデミスは、命令と共に、自らも護身用のブラスター・ピストルを引き抜く。
慌ただしく武器を用意するブリッジスタッフを見ながら、デミスは誰にも聞こえないよう、小さくため息を吐いた。
直感が告げている。敗北は避けられない。だが、それでも艦長として守るべき矜持はあるのだ。
◇
アービアスは、己のものになった揚陸艦のブリッジを見渡した。
艦内の制圧が完了するまで、1分も掛からなかった。最後の敵はブリッジに立て籠もったが、その数は十数人程度。フォースを極めた暗黒卿の敵ではない。飛び込んで、撃って、それで終わりだ。むしろ、流れ弾がコンソールを焼かないように配慮する方が大変だったくらいである。
「『掃除』が終了しました」
ダックスと呼ばれていたドロイドが、仕事を済ませて指揮所に戻ってきた。後ろに生き残った他数体のドロイドを連れている。
ブラスターの傷に出血は伴わない。死体だけ運び出せば済むのだから楽なものだ。
「ご苦労……ふむ。便利なものだな」
首に掛かけた、「アング・スノウ」と刻印されたドッグタグへと視線を落としながら呟く。
当然ではあるが、この肉体はフォースの修行を積んでいなかった。その為、暗黒卿に相応しくない小技ばかり使う羽目になったが、手足となる部下がいるというのはいいものだ。
(恨んでくれるなよ。約束は果たしたのだ。貴様の名も覚えておいてやろう……もはや呼ぶ者も居るまいが)
「スノウ軍曹。敵はどうして仲間を撃ったのでショウ?」
ダックスが横合いから言葉を挟んでくる。アービアスはじろりとそちらへ視線を向けた。
「ドロイド、これから俺様のことはダース・アービアスと呼べ」
「階級を伴う呼称の変更は混乱を招くタメ、上級士官の許可ガ――」
「ええい、もういい……同士討ちの理由か。ドロイドにフォースの深淵さを説いてやっても分からんだろうが。良いか? フォースの技には、人の心を操るものがある。俺様のような達人ともなれば、同士討ちさせる程度は容易いことなのだ」
「それならわざわざ身を晒す必要は無かったのデハ?」
「痛いところを突くな……この小僧の体では、無理やり意識を捻じ曲げるほどの力は出せなかったのでな。小さな影響を積み重ねていくしかなかった」
アービアスはひらひらと手を振って見せた。フォースによる意識誘導を行う時によく見られる挙動だが、これには相手の意識を一瞬だけ手に集中させて、心の隙を突きやすくするという意味がある。
今回、アービアスが行ったのは、それをもっと大がかりにしたものだ。
照準を捻じ曲げた後に行った"種明かし"は、トルーパーの思考を誘導するためのもの。防御をすり抜ける方策を求めた敵の心にフォースで干渉し、まずは"正確な狙いを付けなければいい"と思わせた。
狙いをつけるという思考を放棄した以上、さらにそこへ付け込むのは簡単だ。結果として、トルーパー達は無意識のまま、仲間同士で撃ち合ったというわけだった。
「全盛期の俺様であれば、あのような手妻を必要とすることも無かったのだがな。シスにあるまじき醜態よ。目撃者が残っていないのが不幸中の幸いだが」
力を取り戻すのには時間が掛かりそうだ、と小さく呟く。
ちょうどその時、艦のシステムが息を吹き返した。再起動が始まり、低い起動音と共に、モニタや計器に光が灯る。
「何はさておき、まずは脱出だな。軌道上から攻撃されてはどうにもならん。さて、どこへ跳ぶか……」
「コルサントへ帰還するのデハ?」
「コルサントか。悪くない。確かあそこにもシスの神殿があった筈だ」
だが実を言えば、目的地はどこでもよかった。
こうして肉体を取り戻せたのだ。であれば、どこでだろうと大成する自信がアービアスにはあった。まずは力を取り戻す。かつてのように星を支配し、そして最後には完全なる不死を実現するのだ。
「ダース・アービアスは再び覇道を歩み出すだろう。これは、その最初の一歩となるのだ……」
呟きながらコンソールの前に立ったアービアスは、その指先をスイッチの一つに這わせる。
そして、そのまま数秒、動きを停止させた。
「……ふむ」
指をパネルから離して、しばらく目を閉じる。
フォースの導きを得てから目を開く。そして、アービアスはぽつりと呟いた。
「……俺様の時代と、だいぶ配置が異なるようだ」
有り体に言えば、船の動かし方が分からなかったのだ。
無論、ひとり乗りの小型艇くらいならアービアスにも動かせる。だが、そもそもこの船は100人規模の揚陸艇である。そもそもひとりで操縦できるものではなかった。
「待て待て……この小僧はこの船を奪おうとしていたのだ。何か方法はある筈……」
「軍曹? 出発しないのデ?」
「……ドロイド、この船の操縦は出来るか?」
「可能デス」
「本当か! いや、そうか、小僧もこいつらを使う気だったのだな」
よし、とアービアスは頷き、ブリッジの中央に据えられていた艦長席に腰を下ろした。ドロイド達も次の命令を予期してか、それぞれ分かれて操縦席につく。
ごほんと咳払いをひとつ。ばっ、と右手を前に伸ばしつつ、アービアスは威厳ある声で命令を下した。
「離陸せよ。引力圏外まで浮上し、ハイパースペースへ入れ!」
「了解しまシタ。それデハ、セーフ・コードをお願いしマス」
「……セーフ・コード?」
「軍用ドロイドに設けられたセーフティの解除コードですガ……?」
当たり前のことを尋ねられたことに、ダックスが首を傾げてみせる。
共和国軍はドロイドを採用するにあたって、いくつかのセーフティを設けた。人間の指揮官によるセーフ・コードはそのひとつなのだが、当然、アービアスが知るよしも無い
「ぬぐ……いや、待て。あの小僧が何か言っていたな……確か、アルファ・タンゴ・チャーリーだったか?」
「それは武器の使用許可を出すコードですネ。艦艇を操縦する為のコードではありまセン」
「ええい、面倒な!」
苛立ちと共に、アービアスは乱暴に席を立った。ブリッジの出口へと向かう。目指す場所はアングの乗ってきた強襲艦だ。もしかしたらひとりくらい、制御コードをメモに書いたりしていた愚か者がいるかもしれない。
だがアービアスが退室するよりも先に、ブリッジに知らない声が響き渡る。
『……せよ、応答せよ。こちらでもリアクターの爆発は確認している。増援の必要はあるか?』
「どうやら軌道上に待機している敵艦隊からの通信のようデス」
「無視しておけ!」
「シカシ、このままでは10分もしない内に敵は増援を送って来ると思われますガ?」
「ぬぐ……」
如何にアービアスといえども、戦艦相手に素手で立ち向かう気にはなれなかった。頭の中で算盤を弾く。
(降りてくる敵艦に潜り込むか? だがマインドトリックは心の強い者には通じない。そもそも一時的に意識を逸らす程度ならともかく、次の星に着くまで俺様の存在を誤魔化すのは難しい。かといって皆殺しにしてしまえば元の木阿弥だ。いっそ次のチャンスを待つ? しかし数百年……いや、下手をすれば数千年振りに手に入れた肉体だぞ? 俺様の依り代になれるだけの才覚を持った者が訪れる確率は……)
悩みながらブリッジをうろうろと歩き回るアービアスに、追い打つようにダックスが繰り返した。
「セーフ・コードの送信ヲ、アング・スノウ軍曹」
◇
そして、アング・スノウは再び意識を取り戻した。
目覚めた瞬間に襲ってきた酷い頭痛に、死にかけの尺取り虫のように体を縮めながら呻く。
「ここは……?」
『……ようやく起きたか。つくづく運の良い奴よ』
痛みを堪えながら目を開けば、そこには見覚えのある、フードを被ったローブ姿の亡霊が佇んでいた。
激痛で思考が纏まらない。とりあえず一番最初に浮かんだ疑問を、吟味もせずにそのまま口に出す。
「前も起きた時、この頭痛があったけど……何なんだ、これ」
『知らん。おそらくは魂を引き戻した副作用なのだろうが……そもそも依り代に身体を返すなど、これまでしたことは無かったからな』
「脳に悪影響がありそうだな……」
呻きながら、どうにか起き上がる。幸い、前の時よりも収まるのは早かった。
アングは掌を試すように握ったり閉じたりしてみながら、ようやく今の状況を把握し始めた。自分の意思で手が動く――体が自分の意思で動かせる。
「さっき、身体を返したって言ってたな。どういう心境の変化だ?」
周囲を見回せば、ここは艦艇のブリッジであるようだった。見覚えのない形式とおおよその規模から、敵が使っていた揚陸艦であることは推察できる。つまりあの後、アービアスは敵を倒し、船を奪うことに成功したのだろう。だが、それなら何故自分に身体を返したのか。後は飛び立つだけだというのに。
『ふん。いいか、これは暗黒卿からの慈悲で――』
「アング軍曹、セーフ・コードをお願いしマス。敵、増援を確認。揚陸艇が2隻、大気圏への突入を開始しまシタ」
『このポンコツがぁ! 黙っているように命じたであろうが!』
「……そういうことか」
概ねの事情を悟る。だが、それについては後回しだ。アングは自らも操縦席のひとつに取りつき、急いで船の離陸プロセスを開始させる。
「コード送信。チャーリー、タンゴ、ロミオ、シアラ、シアラ。チェック項目を全てスキップ。ダックス、首都までの座標計算を。最短でハイパースペースに逃げ込もう」
「計算は終了済みデス。それより敵艦隊から応答するヨウ、先ほどから何度も催促がきていますガ?」
「適当にノイズを送っておこう。リアクターの爆発は上でも観測できただろうから、機材トラブルの可能性がある内は撃ってこない筈だ。進路、敵艦隊へ」
「ラジャ!」
アングの指揮で、待機状態だったドロイド達が一斉に動き出した。
リアクターが臨界に達し、大量のエネルギーを注ぎこまれたリパルサーが唸りを挙げた。揚陸艦が地を離れる。上昇の途中で、降下してきた新たな敵艦艇とすれ違った。離陸があと数分遅ければ、着陸したままだった艦内に踏み込まれていたかもしれない。
船は順調に大気圏を飛び出すと、即座にハイパースペースへ飛び込んだ。軌道上で収容の準備を行っていた敵母艦が、ろくに反応もできないまま置き去りになる。
『……フォースが警戒を発していない。どうやらこのまま逃げ切れそうだな』
ハイパースペース特有の青白い燐光に包まれる中、それまで押し黙っていたアービアスがぽつりと呟く。
「そうか。それは何よりだ」
「スノウ軍曹、差し出がましいようですが、独り言が多すぎるようナ。帰還しタラ、軍医に見て貰うことをお勧めしマス」
「そうだね。特に脳を」
「ええ、脳ヲ」
こくこくと頷くダックスに後を任せ、アングは席を立った。指揮所の中央にある艦長用の椅子の上で、不機嫌そうに胡坐をかいている暗黒卿の隣に立つ。相変わらず顔は見えないが、それでも不貞腐れている感情がはっきりと伝わってきた。
「身体が手に入らなくて残念だったな」
『……全くだ。これでは働き損ではないか』
ガン、と八つ当たり気味に椅子を叩くアービアス。言動から推察するに、この亡霊は身体を乗り換えて最低でも数百年は生きている筈だが、老成した雰囲気は欠片も感じない。
『いまからでも遅くない。その身体、再び俺様に渡さんか?』
「悪いけど、せっかく拾った命だ。精々大事にさせて貰うよ」
『恩知らずが。一体誰のおかげで助かったと思っている?』
「あんたのお陰だよ、アービアス卿。あんたが居てくれたから、死なずに済んだ。ありがとう、感謝してる」
『む……そうか』
「?」
アービアスの反応に、アングは内心、首を傾げた。
感謝しているのは本当だ。アービアスがいなければ、自分は今頃――墜落の衝撃でか、ブラスターで蜂の巣になるかの違いはあれど――死んでいただろう。
だが、言葉一つでこの暗黒卿が納得するというのは不思議だった。
なにか、理由があるのだろうか。
『ところで、約束は果たしたのだ。俺様の依り代と成れる才有る者のもとまで足となる契約、ゆめゆめ忘れるでないぞ!』
「ああ、良かった。いつものこいつだ」
『? 何だと?』
「いや、別に。ところでその約束って、きちんと偵察役を果たしてくれたらってことだったろう? 数え間違えた分、何かしら譲歩してくれてもいいんじゃないかな?」
『数え間違えてなどおらん。船から降りてきたのは確かに30名であったろうが!』
「でも結果として――」
『だからそれは――』
背後で始まった舌戦を、ダックスはちらと振り返って確認した。やはり、自分の上官は虚空に向かって独り言を言っているようにしか見えない。おそらくPTSDだろうと判断する。戦場ではよく見る症状であった。
あの状況から帰還し、敵の情報を持ち帰ったというのは昇進に値する大金星だ。だが精神をやられていては、それも望めないかもしれない。精神を病んだものは除隊、もしくは後方に回されるのが相場だ。
「それでモ、生きていれば何とかなるものデス」
亡霊と軍人、そしてドロイド。異なる者達による喧騒を乗せて、船はハイパースペースを駆け抜けていった。