二代目の言葉を聞き、それでもまだどうすればいいか分からなかった俺は、火影岩の天辺で空を見上げていた。
(信念、信念か……)
言われてみればナルトになってから、自分がどうなりたいとか、どういう風にしたいとか全く考えてなかった。
ただ漠然と大枠でのナルトの行動から離れないようにとは考えてはいても、それがじゃあ何なのかということは考えてこなかった。
「ナルトー!!」
そう思っていた矢先、声をかけて近づいてきたのはいのだった。起き上がって返事を返すと、いのは何やら風呂敷のようなものを持ってやって来た。
「どうしたんだってばよ、それ」
「お弁当、なんかアンタが最近、ここでいろいろ考え込んでるって、父さんから聞いてたから」
そっか、とオレは言葉を返して再び空を見上げる。
「考え事、なにか分かった?」
「いや、それが何にも」
空をずっと眺めても、何にも考えが纏まらない。
「……だったら、私にもその事、話してみたら」
「え?でも」
「アンタの最近の事情については父さんから色々と少しだけ聞いてる。アンタのお母さんのこととか、2代目様のことも、二人にはその事を相談したんでしょ?」
「いのいちさん……」
少しだけ口が軽すぎないかと思わなくもないが、いのはこれでいて口は固い方だ。
「……自分がどうなりたいか、どうしたいか、考えてたんだってばよ」
「どうしたいか?」
「オレは九喇嘛……九尾の人柱力だ。だから、兵器として扱われるのは理解してるし、そのために力をつけることも別に否定はしない。けど、なんていうか、目標がないんだってばよ」
人は目標があればこそそのために行動できる。サスケがイタチへの復讐のために行動したように、原作のナルトが火影を目指したように。
だが、オレにはそれがない。それが見つかってないからこそ、悩んでいる。
「うーん、じゃあさ、ナルトはどんなことがしたい?」
「へ?」
「その人柱力というのがどういう立場か、私にはまだよく分からないけど、そうじゃなかったらどんなことがしたいとか、どういうことをしたいとか、考えたことない?」
そう言われて、オレは改めて考えてそれがなかったことに気付く。
そして少しだけ考えて、ふと思い付く。
「……旅をしてみたいかな」
「旅?」
「いろんな場所を見て、いろんな人と会って、いろんな食べ物を食べて……そんで、それを写真にしたり、絵に描いたりしてみたい」
それはウタカタのように抜け忍としてでなく、ただ一人の人間として、様々な土地や世界を旅してみたいという、ただ純粋な憧れだった。
「そんで……できればいろんな場所の花の種を手に入れて、自分で育ててみたい、かな」
「そっか……なら、ナルトの目標は旅する植物学者ってことじゃない。いいじゃん、それ」
「学者って、そんな大層なもんじゃ」
苦笑しながら否定しようとするが、いのは笑わなかった。
「けど、いろんな花を育てるなら、それがどんな風に咲くか、咲くための条件を調べたり、どういう風に育てなきゃいけないか考えるでしょ?それって学者と何が違うの?」
「それは……たしかに」
「それに、アンタの部屋に一度行ったとき、ベランダに色々と植物のプランターで育ててたでしょ?それも雑草なんか一つもないくらいに丁寧に」
「見てたのかよ」
実際母ちゃんであるクシナからも、そのプランターについては結構好評で、「うちの息子、結構手間隙かけて育ててるのね」と関心すらしていた。
「それにナルトのお父さん……4代目火影様も学者みたいなことしてたんだし、案外、似た者親子なんじゃないの」
「それは……そうなのか?」
「そうでしょ」
ニヤニヤと笑いながらそう言ういのは、まるで寄り添うように近付いてきた。
「ナルトは、もう少しわがままになっても良いと思う。これまでナルトは、いろんなこと我慢してきたんだから」
「それは…………そうだけど」
「……ナルト、今、なんか妙に間が大きかったわね。私達が知らないなにか、してきたでしょ」
いののじろりとした視線に目が泳ぎそうになるが、目の前に移動したいのの、それはそれはとても素晴らしい笑顔がそれを封じ込めていた。
「ナルト、怒らないからしゃべりなさい」
「……言わなきゃダメ?」
「心転身で覗かれたい?」
それはもはや脅しであり、逃げ場は全くなかった。なんなら心の内の九喇嘛ですら『小娘、もっとやってやれ』といつになく応援してすらいた。
「……オレ、今まで変化の術で女性に化けて買い物とかしてた」
「それは知ってる」
「……普段は節約してるけど、どうしてもお金が足りないとき、女性に変化してたまに、その、夜の街で働いてました」
「……へぇ、どこで?」
「…………キャバクラとか、そういう感じの場所で」
いわゆる大人の社交場とかいう場所で、かつアフターとかおさわり禁止のお店だが、変化してまでなにやってるんだろうと、当時はなにかを捨てた用な気分でやっていた。
「へぇ、ふぅん……」
いのの視線がとても痛い。自分が悪いとは分かっているとはいえ、突き刺さる視線がとてつもなく痛い。
「……ナルト、一回そのときの姿に変化しなさい」
「え?ここで?」
「ここで」
とんでもないことを言ってる気がするが、流石に目の前のお怒りモードのいのの言葉を断れる勇気は流石になかった。
「……変化の術」
どうにでもなれと印を結び、白い煙と共に変化した姿は、漫画故のナルトらしさを完全に消し、黒い髪を背中に掛かるまで伸ばし、タレ目だが地味ではない、かつ全身的にある程度膨らみのある大人っぽい女子大生のような感じになった。
服装も夜の仕事用の艶やかな、しかし淡いドレス姿へと代わり、聞き上手なふんわり系の嬢という雰囲気だ
「…………」
「あの、無言はその、やめて欲しいんですけど」
まるでおどおどするように、わざとキャスト慣れしてない口調で喋る。
「ナルト、なんでそんなに違和感無いのよ」
「その、女性に変化してるときは、態度とか雰囲気とかも、演技しないとバレちゃうんです」
「しかもそのしゃべり、参考にしてるのヒナタでしょ?」
ズバリ言い当てられて何も言えないため、俺は早々に変化を解いた。
「はぁ、やっぱりしんどい」
「アンタ、変化の術が得意だってのは聞いてたけど、もはや別人ね」
「……こうしなくちゃ、文字通り何も買えない何も食べられないで死ぬことになるから」
そのために男としての尊厳とか何かを捨てた気がするが、背に腹は変えられないので仕方ない。
ちなみに3代目のじいちゃんから変化の術をやってみろと言われ、ダンゾウと2代目様の前でもこれを披露した結果、3代目のじいちゃんは鼻血を出してぶっ倒れ、ダンゾウは驚愕で目を見開き、2代目様はむっつりガン見していた。
「……で、なんでヒナタの喋り方を参考にしたのよ」
「いや、身近で喋る機会がある女子がヒナタしかいなかったから」
あの頃はまだ、いのとこういう風に喋る間柄じゃなかったし。
「なるほどなるほど……」
「えっと、いの?」
「ううん、何でもないから気にしないで」
そう言っていのは無理矢理に話を戻す。
「まぁそういうこともやって来たなら、ナルトは今までかなり我慢とかやりたくないことをしてきたんでしょ?」
「そりゃ、好き好んであんな姿になったり、女性的なメイクを覚えたりなんてしたくないってばよ」
「だったらなおさら、今までの我慢を爆発させる勢いでわがまま通すのもアリでしょ。少なくとも、自分がやりたいことを、3代目様に言うくらいは許されると思うわ」
たしかに、3代目のじいちゃんにぐらいそう言っても問題はない、問題はないだろうけど、
(けどそれって、3代目のじいちゃんからしたら自来也さんとか綱手さんみたいな人が増えることになるってことだし、別の意味で負担をかけそう)
なまじ、そういうところまで考えてしまうのはもはや転生者として、サラリーマンしてきたがゆえの弊害なのだろうな、と素直に思う。
「よし!お弁当食べたら早速行くわよ」
「へ?どこに?」
「3代目様のところ、ナルトがやりたいことを言いにね」