生存者5人という前周回のラストと同じ人数での学級裁判が始まった。
「犯人ならもう決まってるよ!」
議論の口火を切ったのは西園寺の主張だった。
「九頭龍を殺したのは罪木!あいつしかいないよ!」
「確かに倉庫に九頭龍を呼び出したのは罪木であろうな、その証拠も残っておったしのう。」
「証拠って手紙の事か?」
「日向が見つけたんじゃが九頭龍だけ最初から倉庫に行くよう指定をされてたみたいなんじゃ。そして手紙を書いた人物が日向の誘拐を知っていた以上罪木が九頭龍を倉庫におびき寄せたという寸法よ。」
「つまり九頭龍は最初からその命を狙われていたということか。ならばなぜ最終的に俺様達全員を倉庫に誘導した?そんな事をしても自分の犯行の邪魔になりそうなだけで得があるとは思えんが。」
「それこそ前回の学級裁判の様に一見デメリットしか無いような行動でもそこにはまだ私たちの知らない意図があるのかも知れんな。」
「ちょっと待ってくれ。モノクマファイルによれば九頭龍が死んだのは罪木が死ぬ10分前だ。これっておかしくないか?」
「おかしくはないんじゃない?あいつが九頭龍を倉庫で殺してネズミー城で殺されただけじゃん。」
「それがおかしいんだよ。倉庫とネズミー城を行き来するのに俺は20分はかかった。多少の誤差はあるだろうけど少なくとも半分の時間で移動するなんてとてもじゃないけど考えにくい。あいつは怪我も負っていた筈だからな。」
「怪我というと罪木に刻まれた傷の事だな。しかしあれだけの傷を負わされていれば移動はおろか生きていることさえできまい。それとも貴様は何か他の可能性があるというのか?」
「その傷が全てネズミー城で負わされたものとは限らないって事だ。例えば弾丸だ。あれは九頭龍の持っていたピストルから発射されたもので間違いないと思う。」
「九頭龍のやつピストルなんか持ってたの?」
「ああ。それにその弾丸がネズミー城の罪木の元にあるという事は少なくとも犯人は弾丸が発射された事を知っていたと思う。そうでなければ素人が発射された弾丸を見つけるなんて簡単にできることじゃないからな。」
「では日向よ。犯人はその弾丸により負傷したというわけだが私達の中にピストルで撃たれた様な目立つ怪我を負っている者などいないぞ。」
「辺古山の言う通り俺たちの中に怪我をした奴がいないからこそ怪我を負った奴が逆に絞られるんだ。それは罪木だ。まず九頭龍に首の痣以外の外傷はないからあの血は返り血だ。そして九頭龍が除外された段階で怪我を負ったのは消去法で罪木という事になるんだ。」
「つまり犯人は九頭龍から奪ったピストルで発砲し、罪木はその弾丸によって胸を撃たれて命を散らしたと言う事か?」
「田中、発砲したのは九頭龍だと思う。」
「なっ!しかし貴様も見ただろう?罪木はあの弾丸により胸を撃たれ命を散らした。しかし罪木が死んだ時、九頭龍もまたこの世にはいなかったのだ。どうあがいても九頭龍には不可能だ。」
「でも九頭龍がピストルを撃った根拠はちゃんとあるんだ。」
「それは九頭龍の肩が外れておることか?」
「なるほどな。弐大と日向の二人が調べた結果なら間違いないのだろうが発砲の反動で肩が外れたということか。そもそも私達の中に返り血を浴びている奴がいない以上九頭龍で間違いないな。たとえ衣服を洗う事ができたとしてもその衣服を自らの部屋に残しておく事の危険性は前回で全員が思い知っているだろうからな。」
「つまり発砲したのは九頭龍で、撃たれたのは罪木ということだ。」
「そもそもあのピストルってどこからでてきたの?」
「恐らくファイナルデッドルームだ。2周分のコロシアイでもピストルを見たのはあそこだけだ。それに一つの弾丸と弾倉が空になったピストルは前回の事件直後の状況とも一致する。」
「九頭龍はそんなもんを持ち出しておったんじゃな。結果的に護身用としてその役目を果たしたわけじゃが。」
これは現場の状況や証拠から導き出した紛れもない真実だろう。だからこそ大きな壁が俺たちの前に立ち塞がっていることを田中によって全員が知ることになる。
「もう一度言うが九頭龍が罪木を殺害することは不可能だ。この死亡時刻の矛盾を解決しない限り俺様達は堂々巡りだぞ。」
「ああもう!全然解決方法を思いつく気配がしないから別の事とか考えよう?誰か気になってる事とかないの?」
「謎はあるぞ!九頭龍の掌に血で書かれたダイイングメッセージじゃ!後ろ出に縛られていても指が動かせるなら書くのは不可能ではない。じゃが問題なのは書かれていた内容の方じゃのう。」
「掌に『くつ』って書かれてたんだけどあれだけはどう考えても意味が分からないんだ。実際、俺は九頭龍の靴を調べてみたんだけど右足の靴が前方に落ちてたくらいで異常な物は見つからなかった。何か意味はあるんだろうけど...。」
「結局、ダイイングメッセージも手詰まりじゃん!あ、そうだ!アリバイの方から犯人を割り出していくのはどう?」
「それが言いにくいんだけど全員俺を探してくれてただろ?だから犯行時間がいつであれ誰にもアリバイはないんだ。」
「ならば私が見つけたこの睡眠薬はどうだ?そもそもこれは誰が使用した跡なんだろうか。」
「それは罪木しか存在しまい。奴は自室に薬の類いを全て持ち帰っていると澪田の学級裁判で聞いている。つまりこの甘美なる眠り薬を使ったのは罪木、眠らされたのは九頭龍だろうな。」
「どうして眠らされたのが九頭龍だと分かるのだ?」
「単純な事だ。もし俺様達の中に眠らされた人間がいるのなら既に名乗り出ているからだ。犯人ならいざ知らずそれ以外の人間が真実を隠しておく必要などないのだからな。」
「じゃあ九頭龍は倉庫に来たところを罪木に眠らされてあのフックを梁に引っ掛けて最終的にロープで首を吊らされたのかな?」
「そうとしか考えられんじゃろ。死亡時刻や矛盾がどうであれ九頭龍に睡眠薬が使われて結果その九頭龍が死んでいるからには犯人は睡眠薬を使った罪木じゃ。」
「今回もあいつの仕業だというのか...!!」
「辺古山よ。そのぶつけようのない怒りは理解できるがこれが真相であるのは不幸中の幸いというべきか。なにせ少なくとも九頭龍殺害についての学級裁判で犠牲者は出ないのだからな。」
これが真相。確かにシンプルではあるし死亡時刻の矛盾があるとはいえ睡眠薬で九頭龍を襲ったであろう罪木を犯人と考えるのは不自然ではない。
だけど俺は前周回の狛枝の事件と今回を重ねていた。つまり何かまだあるのではないのか。
今まであんなに用意周到な計画の数々を立ててきた罪木がこんな杜撰な殺人をするだろうか?ロジックではない何かが俺の胸中の不安を膨れ上がらせる。
なによりこれが"絶望的"とは俺には到底思えなかった。敵とさえ言える絶望にある種の信頼をここまでおくなんて我ながらどうかしていると思う。
「ちょっと待ってくれ、みんな。」
「何だ、日向よ。もう後は罪木殺害の犯人を見つけ出すのみだぞ。」
「違うんだ、辺古山。もう少し九頭龍殺害について議論を続けてみないか?根拠はないけどまだ何かある気がするんだ。俺たちにまだ見えていない何かが。」
「躍起になって拒否する理由もない以上私は構わないが...。」
「投票を間違えれば俺様達に待つのは死。議論をするのもやぶさかではないか。」
「しかし何を話し合うと言うんじゃ?」
「弐大や辺古山も見たと思うけど倉庫に入って左側にモノクマパネルが無造作に山をつくっていただろ?その内の一つに足跡が残されてたんだ。」
「足跡って誰の?」
「九頭龍の足跡だ。つまりあいつは死の直前にモノクマパネルの上に立ってた事になる。」
「あいつがモノクマパネルに立ってたとしてもだよ?それが死の直前とは限らないんじゃないの?だって靴の跡なんていつでも...あっ!」
「そうなんだ。九頭龍の右の靴はあいつの前方に落ちていた。だからいつでもあの足跡が付けられたわけじゃない。さらにあの靴がダイイングメッセージだと考えると靴を落としたのは死の間際の筈だ。もし靴を履かずにずっと足跡を踏んでいたら少なからず歪みが出て九頭龍の靴跡と特定もできなかっただろうしな。」
「なるほどのう。そういうことならば九頭龍はワシ達があいつの死体を発見したまさにその場で、死の直前にモノクマパネルの上に立っていたという事じゃな。」
「しかし待て。モノクマパネルは所詮はパネルだ。たいした厚みではない。九頭龍がモノクマパネルに足をついていたのならそれは地に足をついているも同義だ。ならば九頭龍に首を吊らせる事も首を吊るに必要な高さもないではないか!」
「確かにそうだよね。死の直前にそこに立ってたならすぐに首を吊らせる事ができる状況にないとおかしいもんね。」
「まさか日向よ。私が倉庫に入った時にもあったあの大量のモノクマパネルを使ったというのか。現に重なり合って山になっているモノクマパネルを使えば充分に首を吊らせるだけの高さを作りあげる事はできるはずだ。」
「辺古山の言う通りだ。それなら一枚だけに足跡がついていのも説明がつく。重ね合わせた場合一番上のパネルにしか足跡はつかないだろうからな。」
「じゃが今はパネルは九頭龍が死んでおった反対側、すなわち入り口から入って左側にあった。これは不自然な状況じゃ。」
「それは簡単だ。モノクマパネルの山のすぐ近くにあったロープも関係してると思う。」
「片方は壁に打ち込まれた釘に結ばれていたのを見たがあれは何なのだ?」
「あのロープは片方が輪っか状になってたんだけど異様に輪が大きかったんだ。モノクマパネルのすぐ近くに落ちてた事も踏まえるとあれは重ね合わせたモノクマパネルを縛ってたんだと思う。もちろんただの輪だからキツくは縛られてなかっただろうけどな。」
「そんな事何の意味もあるまい。犯人が罪木ならば睡眠薬で眠らせた九頭龍を、モノクマパネルの上に立たせて首を吊らせるための高さを作り、そのまま梁からぶら下がっている方のロープの方へ押すなどして九頭龍に首を吊らせればいいはずだ。モノクマパネルをロープで縛る必要はない。」
「そうなんだ。田中の言う通り罪木が犯人なら何の意味もない。だから犯人は別の人物かもしれないんだ。」
「犯人が私達の中にいるってこと!?それって誰なの?」
「それは殺害直前の現場の状況を考えれば見えてくるはずだ。」
俺がこの仕掛けの意図に気づいたのはそれこそ前周回の記憶があってこそ。ある程度目安を立てていたからに他ならない。こんな真実2度もあるべきじゃないのに...。
「九頭龍が殺される直前にモノクマパネルは九頭龍の足場になってた筈だからその時は倉庫の右側に山積みされてたんだよね。で、そのモノクマパネルには左の壁に打ち込まれた釘から一直線にロープが伸びてモノクマパネルを縛りつけていた。これが現場の状況で間違いないはずだと思うんだけど。」
「そこに倉庫の扉を開けたらどうなると思う?」
「そりゃあもちろん扉がロープに引っ掛かってそのままロープも引っ張られるんじゃん。モノクマパネルも崩れながら一緒に。」
「西園寺!それでは足場がなくなった九頭龍はその瞬間首を吊り命を奪われたと言うわけか!」
「え!?」
田中の発言に一同が凍りつく中、恐る恐る西園寺が声を上げる。
「あのさあこれって誰がクロになるの?」
「前周回で毒入り消火弾を投げた七海が同じような罠に掛かって処刑されたことを踏まえると、今回もそうだと考えるなら、今回のトリガーは最初に扉を開けること。つまり倉庫の扉を開けたやつだと思う。」
「そうですね。仕掛けを施した人物はあくまで殺人のお膳立てをしただけですからオマエラの推理通りなら九頭龍クンを殺したクロは扉を開けた人物になりますね。だって殺人計画を立てただけの人を実行犯とは呼ばないからね。」
モノクマのクロの定義付けにより、もはや決定的となる。
「じゃあ九頭龍を殺したクロはワシよりも先に扉を開けて倉庫に入った...」
「この私...。」
「クソッ!」
「こんな事するなんて罪木の奴しかいないよ!あいつのせいだよ!」
「ああ、だからそれぞれの殺人現場に倉庫へ行くよう手紙を残して、その後全員を倉庫に呼び寄せようとしたんだろうな。最初に九頭龍だけ呼びつけたのもこんな仕掛けを施したのも全て最初にヒントを見つけて倉庫に辿り着いたやつをロシアンルーレットのようなランダムでクロに仕立て上げる為の罠だったんだ!。誰が最初に倉庫に辿り着くかなんて罪木本人にさえ分からないはずだからな。」
「強制殺人装置。死してなお俺様達を苦しめるか、悪鬼め。」
「のう、モノクマ。今回ばかりは見逃してくれんか。辺古山には九頭龍を殺害する意図なんてなかったのはお前さんも知っておるじゃろう!」
「はあ?何言ってんの?殺すつもりがなかったからって殺人が許されるとか君はどこの世界に住んでるんだよ。殺人という罪を犯したからには相応の罰を受ける、それが社会のルールでしょ!」
「じゃが...。」
「弐大、もういい...。」
「私はあいつを守ることができず何も知らずあいつを殺し、滑稽にも復讐に燃えていた。だがこうなった以上もはや私に生きる意味も希望もない。これが私の罪なら甘んじて受け入れよう。」
「でもそれだったらあんたは死んじゃうんだよ!?」
「私の為にモノクマに逆らってお前達が死ぬよりかはよほど良い。」
「それが貴様の覚悟というわけか。」
「お前なら分かってくれるか。」
「理解はできるが納得はしていないがな。」
「日向もすまないな。救ってくれた恩を仇で返す形になってしまって。私が言える義理ではないが他の3人を頼んだぞ。」
「言っておくけど、俺はまだお前のことも諦めるつもりはないぞ。」
「ちょっと〜!学級裁判はまだまだ途中なのにこんなお通夜みたいな雰囲気になるのは初めてだよ。九頭龍クン殺害のクロは分かったみたいだけどさもう一つ君たちには解き明かさないといけない謎があるよね?
それじゃ罪木さん殺害の犯人を突き止める議論を開始してくださーい!」