願いが叶わなかった私は、お茶屋さんを営んでいます。 作:如月雪見
前回、山田様が弟の花太郎君を連れて、虎鶫の卵を託しにいらっしゃいました。
無事に孵化して、名前は笙(ショウ)に決まりました。
ミヅキが少々過保護気味ですが、みんなに可愛がられてスクスク育っています。
ーヒナタ(八咫烏)
=ミヅキ(鳳凰)
†メグミ(朱鷺)
Θアキラ(黒い小猿)
△ヒカル(金色の鷲)
▽トオル(青鷺)
ωミノリ(黒い小猫)
●ユタカ(牝牛)
○カケル(牡馬)
◎ツヅミ(雌鶏)
♪サユル(鷦鷯/ミソサザイ)
⊗ツムギ(狸)
≡ショウ(虎鶫/トラツグミ)
カラカラカラ…
「「「いらっしゃいませ」」」
「お、お邪魔します…」
「あら、あらあらまぁまぁ」
「おや」
「久し振りですね」
「お、お久し振りです…里央姉様、要兄様、双也兄様」
緊張気味な表情で怖ず怖ずと、お店に入って来たのはつい先日、蜂家の次期当主に正式に指名された砕蜂様…もとい、蜂家の末娘の梢綾ちゃん(梢ちゃん)が華やかな着物姿で風呂敷を2つ大事そうに持って来た。
今回はご両親亡き後、お兄様方と力を合わせて生きて来た彼女が、砕蜂という称号をいただいたお祝いを夜ちゃん経由で贈った品のお返しを渡しに来たのだとか。
「どれも美味しくいただいて…兄達もとても喜んでおりました。本当にありがとうございました」
「喜んでくれて何よりだわ」
「里央、久し振りに来ていただいたんだ。積もる話は奥でしたらどうだ?」
「あ、は~い」
要兄に促されて、4人部屋に梢ちゃんを案内した。
「あ、あの…」
「そちらの風呂敷は〈そういう事〉でしょう?」
「…里央姉様方には敵いませんね。お察しの通りです」
「ふふっ。さて、今日は何にしましょうか?」
「えっと…ぱんけぇきにかすたぁどくりぃむと、このちょこれぃと?を添えたのをお願いします。あ、お茶はみるくてーを」
「は~い」
※私服姿=プライベートモードなので、ちゃん付けで接してる。
戸を開けたらミノリが中を覗き込んで梢ちゃんを確認、スルリと入った。
ωあ、やっぱり梢綾だ
「み、ミノリ様!」
「あら」
ωやっほ~、いらっしゃい
「お、お邪魔していますミノリ様」
ωお茶が来るまで遊びましょ?
「ですって」
「で、では僭越ながら…」
遊び相手に選ばれた梢ちゃんは、懐から取り出した鈴付きの猫じゃらしを巧みに動かして、ミノリが取れそうで取れない絶妙な手捌きを披露し始めた。
…個室でしか見られない梢ちゃんのはにかみ、久し振りに見たわ
梢ちゃんの貴重な癒しの時間を少しでも長く確保出来るよう、注文の品はゆっくりと用意した。
「お待たせしました~」
「あ、ありがとうございます」
ω私も食べたい!
「そう言うと思って持って来たわよ」
ωわ~い!
「はわわ…ミノリ様とお茶…な、何という贅沢」
「梢ちゃ~ん、お茶冷めちゃうわよ~?」
「はっ…い、いただきます」
「どうぞ」
…梢ちゃんの〈待ち人〉が来るまではミノリに任せるとして、おもてなしの〈準備〉をしないとね
本来なら来年の初夏までは商品としては封印しているアレと、とある事情で滅多に作らないコレを用意した。
「…これで良し。う~ん…そろそろかなぁ…?」
「今までの傾向を考えると…いつ来てもおかしくはない時間になりましたね」
「…噂をすれば…だな」
「「え」」
ガララララッ!
「「「いらっしゃいませ」」」
「里央姉~!」
「あらあら…どうしました四楓院様?」
「その呼び方は今は無しじゃあ~!」
「でも…皆様が見ていらっしゃいますよ?」
「それでもじゃ!今はただの夜一なのじゃあ~!」
「あらあら、今日は一段と甘えたさんですね」
…流石は要兄。何気に感知能力またレベル上がってない?
来店して早々、里央に抱き付いて顔をグリグリと擦り付けながら完全に甘えん坊モードの夜一に苦笑しながら、奥の4人部屋に案内した。
「…あぁ、そうそう。夜ちゃんをずっと待ってる方がいらっしゃっているのよ」
「儂を…?」
「えぇ…ねぇ?梢ちゃん」
「え″」
「お待ちしておりました夜一様」
「そそそそ砕蜂!?何故此処に!?今日は午後から用事があるのではなかったのかのう!?」
「はい、ですから此処にお茶をいただきに参りました」
「…おのれ希ノ進め!儂の行く手を阻むだけでは飽き足らず、砕蜂まで差し向けるとは…!」
副官の計略による待ち伏せに憤り、回れ右をした夜一に里央は首を傾げながら問うた。
「あら?もうお帰りですか?残念ですね」
※意訳/また仕事から逃げて来たの?それとも、戻ってやる気になったのかしら?
「うぐっ…」
「梢ちゃんが来たから、張り切ってこの時期はお出ししていないブランマンジェ…牛乳プリンを専用の金魚鉢でド~ンと作って冷やしているのに…そうそう、一昨日に牧場で子牛が生まれてね。久し振りに牛乳豆腐も作ったんだけど…折角作ったんだから、梢ちゃんのお兄様方へのお土産に「誰も帰るとは言うてはおらぬ!」あら?」
※〈ブランマンジェ/牛乳プリン〉と〈牛乳豆腐〉、どちらも夜一の好物である。
「早うソレを渡すのじゃ砕蜂!里央姉がお茶の用意を終えるまでに全て終わらせてくれる!」
「流石です夜一様!」
…やれば出来る子なのはみんな知っているんだけどね
…如何せん、机仕事は大の苦手なのがね
…四楓院家に良く見られる性質らしいから仕方ないと言えば仕方ないんだけど
「…出来た―――!!」
「…はい、確かに。では私はそろそろ…」
「何を言うておるのじゃ砕蜂?お主も共に食そうではないか」
「ですが…」
「里央姉の事じゃ。お主の分も用意しておるじゃろう。のぅ?里央姉」
「えぇ。先程のお茶から結構時間が経っているし…ミノリの遊び相手をずっとしていて貰ったお礼も兼ねて、梢ちゃんの分も用意したのだけど…」
「…そ、そういう事なら…いただきます」
「はい、どうぞ」
夜ちゃん専用金魚鉢入りの牛乳プリンと牛乳豆腐はあっという間に彼女の胃の中に消えていった。
「ん~…これこれ、この味じゃ!書類仕事の後の牛乳ぷりんは最高じゃのぅ~!」
「牛乳豆腐の蜂蜜掛け…堪りません。はぁ…美味しいです」
自分へのご褒美スイーツに舌鼓を打つ夜ちゃんはすっかり機嫌を直し、一生分の幸せを先取りしたかのような表情の梢ちゃんの膝にはミノリが丸まって寝ている。
…ずっと正座しっ放しだけど足、大丈夫かしら?
案の定、立ち上がろうとしたものの、足がしびれてそのままひっくり返った梢ちゃんは、要兄に足をマッサージして貰う事になった。
「…す、すみません」
「気に病む事は無い。お気に入りのお客様の膝に乗りたがっては、こうやって足がしびれるまで居座るんだ。最近は頻繁にお強請りするようになってな」
「お、お気に入り…私が…光栄ですミノリ様」
ωうむ、良きに計らえ
ー=△♪⊗ちょっと、ミノリ~
≡ミノリ姉ってばぁ
Θオイオイ
†▽調子に乗るんじゃない
「…ミノリ様の肉球が…私の額に…幸せ」
これ以上好きにさせるといつまで経っても梢ちゃんが帰れないので、ミノリを回収した。
ちょっと残念そうな梢ちゃんにお土産を持たせて、迎えに来た長兄さんとお帰りいただいた。
砕蜂視点。
先月の中旬頃から急に物凄く忙しくなった。
その所為で書類仕事が一気に増えて、夜一様もずっと隊首室に缶詰状態である。
…少しずつ、夜一様の筆の進みが遅くなって来ているような気がする
「…砕蜂、お前さんそろそろ称号襲名の祝いへの返礼に行った方が良いぞ」
「え、ですがそれは此方の件が終わるまでは「良いから行って来い。特に〈お茶屋・おはし〉には絶対に行って来い。良いな?」…了解しました」
(ボソボソ)
チラリと仮眠を取っている夜一様に視線を送った大前田副隊長の狙いに気付き、神妙に肯いた。
中々起きない夜一様の事は大前田副隊長や先輩方に任せて、私は指示通り〈お茶屋・おはし〉へと向かった。
不定期的とはいえ、夜一様に確実に書類仕事をしていただく為にとお店の一室を借りているからか、私の荷物を見た里央姉様方は直ぐに私の意図に気付いて、いつもの部屋へと案内して下さった。
里央姉様が注文したお菓子を用意している間、ミノリ様の遊び相手に選ばれた。
…もしも遊んでいただけたらとは思っていたが
…あぁ、何と愛らしいお姿
…目を輝かせて私の猫じゃらしを追いかけて
…そして、里央姉様手ずからご用意いただいたお菓子をゆっくりと味わえるだなんて
ミノリ様と遊ぶ栄誉に加え、里央姉様特製のお菓子をミノリ様と共に食すという至福の時を存分に味わえた。
そして、遂に本命の夜一様が大前田副隊長の縛道を掻い潜って、来店なされた。
私と風呂敷を見て全てを察した夜一様だったが、困り顔の里央姉様の追撃に本領を発揮、里央姉様のお茶の用意が終わるまでの僅かな間で書類仕事を終わらせた。
…里央姉様特製のお菓子の前だと、書類仕事を捌く速度が段違いですね、夜一様
「お疲れ様~。はい、約束の牛乳プリンと牛乳豆腐で~す。牛乳豆腐には蜂蜜か黒蜜、好きな方をかけてどうぞ」
私の役目は終了したから帰ろうとしたが、機嫌を直した夜一様と、この状況を見越していた里央姉様の口添えを無視など出来る筈が無く、膝に乗ったままのミノリ様を撫でつつ、ありがたく牛乳豆腐をいただいた。
…夜一様、今回“も”職務放棄をして下さって、本当にありがとうございます
足の痺れが取れた頃、約3ヶ月振りに会った長兄と共に帰路に着いた。
「…久し振りの〈お茶屋・おはし〉は楽しかったようだな」
「はい、それはもう!ミノリ様に遊んでいただいて。しかも…」
家に着くまでの間、興奮気味に何があったのかを事細かに話す私を、長兄は黙って聞いてくれた。
夜一視点。
先月から急に忙しくなった。
その所為で、碌に家にも帰れず隊首室に缶詰状態が続いている。
…いかん、日に日に集中力が切れる時間が短くなっておる
…思う存分、身体を動かしたい
…欲を言えば、里央姉のお菓子が食べたい
…そう言えば、今年最後の牛乳ぷりん、急に忙しくなった所為で食べ納め出来なかったのではないか?
「………」
無言で障子を開け、里央姉の居る〈お茶屋・おはし〉に向かおうとした瞬間、大前田の〈曲光〉で隠された置き縛道〈吊星〉に阻まれ、部屋に逆戻りさせられた。
「へぶぁっ!?」
ビョ~ン…ドテッ
「逃がしませんよ、隊長」
「お、おのれ希ノ進!儂の行く手を阻む事は許さん!」
「職務放棄は看過出来ないっすからね!」
重ね掛けの縛道を掻い潜り、〈お茶屋・おはし〉へと向かうのにいつも以上に時間がかかってしまった。
…ここ半月机に向かいっ放しだったからのぅ
…身体が鈍って来ておるようじゃ
…いかんのぅ
…これは一刻も早く里央姉のお菓子で回復せねば!
「あ!畜生!」
「ふはははは!大前田希ノ進破れたり!さらばじゃ!」
「待て隊長!まだ書類がっ!…て!…!……!」
思った以上に手間取ってしまったが、これで漸く里央姉のお菓子を食べられる。
そう思って店の扉を開き、里央姉に甘えながら部屋へと案内されたのだが…。
そこには、午後から急用が出来たからと、休みを取った筈の私服姿の砕蜂がミノリを相手に玩具で遊んでいた。
…やられた!
…希ノ進め!砕蜂を里央姉の下へ先行させておったとは!
※因みに前回は、お菓子(ドデカ銅鑼焼きの漉し餡、粒餡、白餡にカスタードクリーム)を堪能している最中に砕蜂が来た為、そのまま泣く泣く書類仕事をする羽目になった。
しかも儂が食べ納め出来なかった牛乳ぷりん、そして偶にしか作らない事で有名な牛乳豆腐を里央姉が直々に用意しておると聞かされては、居てもたってもおられず、兎に角急いで仕事を終わらせた。
…全ては、心置きなく牛乳ぷりんと牛乳豆腐を食す為じゃ!
自己最速記録を塗り替える勢いで書類を捌いた後のご褒美は、何物にも代え難いものである。
…無事に食べ納め出来て何よりじゃ
…季節毎にこれが出来ぬと調子が中々整わぬからのぅ
…今日はこのまま帰路に着いても問題は無いようじゃし
…そうじゃ、夕四郎の分だけでも土産を持ち帰らねば拗ねるやも知れぬ
帰り際、里央姉から夕四郎の分とは別に、希ノ進を始めとする部下達用の土産を渡された。
「ここ最近、2番隊の方々が全く来店なさらないので、余程忙しいのでしょうね。それで…皆様の英気を養えたらと思ってこちらをご用意させていただきました。あと…またのご来店、お待ちしておりますと伝言、お願いしても宜しいでしょうか。勿論、夜ちゃんの来店も楽しみにしていますからね」
「…うむ。里央姉の部下達への土産と伝言、確かに承った。今の仕事が落ち着き次第、また皆を連れて来よう。ではまた」
「「「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」」」
…やはり里央姉達は気遣いの出来る御方方じゃ
…それにしても、あの部屋が儂専用の隊首室ならば、どんな仕事も捗ると言うのにのぅ
…喜助に頼んで、直通で行き来出来る装置とか作れぬか改めて聞いてみるとしよう
そんな事を考えながら、儂の帰りを待っているであろう夕四郎の喜ぶ顔を想像し、帰路を急いだ。
原作36巻を読んでいてふと思い出しました。
確か、夜一は書類仕事をサボる度に、副官の希ノ進の鬼道で捕縛されそうになったりならなかったりしたと何処かで聞いた覚えがありまして。
この【世界】には〈お茶屋・おはし〉があるのだから、原作よりも夜一に書類仕事を効率良くさせる良い方法があるよね?と。
〈お茶屋・おはし〉が健在である限り、健啖家の夜一が勝てる日はそうそう来ないかとも。
原作(小説)との違い。
・砕蜂
砕蜂の兄達は全員存命しています。
下級貴族の末端とは言え、原作よりもずっとタフで優秀なので、それぞれ己の役目を日々しっかりと果たしています。
因みに、兄達は可愛い妹を当主にはしたくなかったのですが、実力主義の一族故に、彼女の才能を理解し尽くしている彼等では、どんなに努力しても当主の座には届きませんでした。
それならせめてと、可愛い妹を置いて逝く訳には行かぬと、兄弟揃って切磋琢磨しています。
両親が存命していた幼少の時に〈お茶屋・おはし〉に連れて来て貰った事があり、その時の事を彼女はしっかりと覚えています。
夜一の影響でアイスクリンとプリン、カスタードクリームといった牛乳を使ったお菓子が大好物です。
白打の技術向上の為に夜一の下で修行を積んでいた為、原作通り夜一への忠誠心は相当高いです。
しかし、夜一のサボリ癖に対しては厳しい一面もあります。
「職務を怠る上司を諌めるのも臣下の役目です」
(キリッ)
忙しい日が連日続くと脱走する夜一は大抵、〈お茶屋・おはし〉に逃げ込むので、此処ぞとばかりに書類を持参して仕事をさせるのが砕蜂の仕事のひとつでもあります。
夜一の事は生まれた時から知っているので、そのお転婆振りも、仕事が嫌になって逃げ出すのも里央達はしっかり把握しています。
因みに、砕蜂が部下になる前は副官の希ノ進もしくは彼が派遣した席官が書類を持参していました。
里央特製のお菓子を餌に、サボリ魔の夜一に仕事をさせるのが1番効率が良いのですが、下手を打つと〈お茶屋・おはし〉への迷惑行為に繋がる恐れがあるので、これは夜一が我慢の限界が来て逃亡した時にのみ使う手段です。
さて、次回は何方が来店なさるのでしょうか?