願いが叶わなかった私は、お茶屋さんを営んでいます。   作:如月雪見

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前回、鷲の雛を家族に迎えました。
お店の新商品としてあんパンを出したら、弟子が出来ました。
凄い努力家の良い子です。



ーヒナタ(八咫烏)
=ミヅキ(鳳凰)
†メグミ(朱鷺)
Θアキラ(小猿)
△ヒカル(白い雛から金色の鷲へ)
▽トオル(青鷺)←NEW
ωミノリ(黒い小猫)←NEW



遠方からのお客様はご近所さんになりました。

 

 

私が流魂街に来て何百年目かの春、お店がお休みの今日、お客様方からとある情報を得て、タンポポがたくさん咲いている川辺に来た。

 

「さ~て、始めようか!」

「…覚悟して挑むぞ、双也。蒲公英の根は手強いからな」

「は、はい!」

 

…新商品としてお出しする季節限定、タンポポコーヒーとタンポポ茶の為に!

 

つい先日、現世から来たというお客様が、あんパンが此方にもある事に驚いていた。

それに加えて、お得意様である護廷十三隊の総隊長様方から現世で目にしたお菓子や料理の話を聞かせていただいた。

話を統合すると現世は多分、幕末~明治初期頃になったと推測出来た。

 

…やっと、やっっっと、洋食が本格的に作れるかも!

…作りたくても材料と道具の入手が困難で、ずっと和食に和菓子オンリーで、辛うじて作れるあんパンと丸パンにドライフルーツを混ぜ込んだのでどれだけ我慢して来たことか

 

ン百年振りのコーヒーに胸躍らせながら、土まみれになるのも気にせずタンポポの根を取り続けた。

 

 

 

タンポポの根を取り続ける事丸半日。

 

「…ふぅ~…こんなものかな?」

「…か、かなり掘りましたね」

「そうだな…取り敢えず川で手と顔、そしてこの根も洗おうか」

「うん!」

 

ずっとしゃがんでいたからか、足腰を擦りながら立ち上がった双也君と、タンポポの根を入れた籠を背負った要兄に促されて川へと近付いた。

 

爪の間に入った土を丹念に取り除いてから、タンポポの根を洗い始めたら、目の前に影が出来た。

 

「え、何?…青鷺?」

▽貴殿から、同胞の気配がする

「…へ?」

 

モフッ…フンフンフン…

 

突然、何処からともなく青鷺が来た事に驚いていると、今度は黒い小猫が近付いて来て、匂いを嗅がれた。

 

「え?え?何?何なの?」

ω貴女から知り合いの匂いがする!

「…は?」

「里央さん?」

「里央、彼等は一体?」

「えっと…」

 

バサバサバサ…

 

†澄、穣、何故此処に?

「メグミ?留守番してた筈じゃ…」

▽ωやっぱり居た!

▽試練の旅に出てからずっと音沙汰無しの同胞を案じて何が悪い?

ωそうよ!しかもこんな可愛い子をマアトにしてただなんて!

†む…

 

彼等はどうやら、メグミと旧知の仲らしい。

残りのタンポポの根を洗いながら話を聞いた。

 

澄/トオル(青鷺)と穣/ミノリ(黒い小猫)はメグミの幼馴染みで、試練の旅に出る際に試練を乗り越えた時、真っ先に連絡すると約束したのに、音信不通なままン百年が経過、生きているのは何となく解るが、未だに試練の最中なのか、既に終わっているのかが気になり、遂に痺れを切らして探しに来たらしい。

 

†里央と出会ったその夜にちゃんと連絡したぞ

▽何?

ω来なかったわよ?

†…可笑しいな

▽余りにも遅いからと、途中経過を知りたい旨の連絡を100年毎に送ったというのに何の音沙汰も無かったしな

ωね~?

†…この距離なら届かない筈は無い…〈あの方〉の御意志か?

 

…〈あの方〉?誰の事だろう?

 

▽まぁ良い、試練の結果も貴殿の無事も確認出来た

ωそうね

†そうか。ならば故郷に戻るのだな

▽ω否!!

†何?

▽ω私も此処に残る!

†なっ…

「え…」

 

押し問答の末、メグミを言い負かした彼等は我が家に居候する事になった。

 

…あ、あのメグミを言い負かすなんて

 

「…これはもう、彼等の寝床小屋を建てないと…だな」

「…うん、大きめのを造らないと…だね」

 

…前から思ってたけど

…鳥になれない代わりの特殊能力って、鳥に物凄く懐かれる体質になる事だったのかな?

…嬉しいけど、これ以上はちょっと困るなぁ

 

 

 

話を聞いたご近所さんや常連さんの助太刀もあって、ヒナタ達の寝床小屋はあっという間に建てられた。

 

今日はそのお礼にと、天日干しを終えてカラカラに乾いたタンポポの根で作ったタンポポコーヒーとタンポポ茶、それに月に1度泊まりに来る歌匡姉達(姪っ子も生まれた)がお土産にと持って来たたくさんの卵で作ったカステラを振る舞った。

 

「「「「「美味ぇ!」」」」」

「これが現世で流行のかすてぃらか…ふむ」

「しっとりしてて甘くて…タンポポ茶にとても合うわ」

「うぇ~」

「これにがいぃ」

「あらら、ごめんね。2人にはタンポポ茶でもきつかったかな?」

「「うぅ~」」

「う~ん…カステラが無いと、このこぉひぃは少し飲みにくいな」

「確かに苦いですが…僕は結構好きですよ」

ー=△カステラおいしぃ~!

Θ甘くて美味ぇ~!

†▽ωふぅむ…うん、美味

ー=†Θ△▽ωもうひと切れ欲しい(な)

 

…う~ん、カステラは予想通り大好評だけど、タンポポ茶は兎も角、やっぱりタンポポコーヒーは飲み慣れるまで時間かかりそうだなぁ

…良し、タンポポ茶は商品に、コーヒーは私と双也君で飲もうっと

 

みんなの反応を窺いながら、先ずはタンポポ茶に慣れて貰う事から始める事にした。

 

「…ん?」

「どしたの、要兄?」

「…いや、お店の前から声が聞こえてな」

「え?…お休みの立て札、落ちちゃったかな?」

「見て来ます」

 

双也君が向かって数分後、困り顔で戻って来た。

何でも、このお店の噂を聞いて此処からかなり遠い地区から遥々やって来たお客様が2人居たらしい。

 

「今日はお店はお休みだと告げたのですが…」

 

お休みなら仕方ない、明日また来ますと。

だけど、自分達は此処らの土地勘が全く無い。

せめて、野宿が出来る場所を教えて欲しいと言われたらしい。

 

「此処ら辺で野宿って…」

「…取り敢えず、話を聞きましょうか」

 

双也君が連れて来たのは銀髪に糸目の少年と、少し癖のある金髪で、将来美人になる事間違い無しな少女の2人だった。

 

「花枯らしから此処まで来たの!?」

「えっと…花枯らしって何処?」

「62番目の区名よ」

「「「「「…はぁ!?」」」」」

「丸60区も徒歩で来たのかよ!?」

「大人でも歩き詰めで数日かかるぞ!?」

「そ、そんな遠くから…」

「疲れているだろう。我々の食べた残りで心苦しいが、カステラと蒲公英茶に蒲公英こぉひぃだ」

「あ、ありがとうございます」

「えろぅすんまへん、おぉきに」

 

もぐもぐ…

 

「「!!」」

「何やこれ!?」

「甘くて美味しい!」

 

カステラはやっぱり好評だ。

しかし…

 

ごくっ…

 

「っ!?げほっ、ごほっ…に、苦ぁ…何やのこの焦げ茶の液体は…」

「先程お伝えした通り、タンポポコーヒーです」

「えぇ!?蒲公英からこないなモン出来るん!?」

「はい」

「…確かに苦いですね…けど、慣れたら結構癖になる味だと思いますよ。かすてら?と食べると美味しいですし」

「えぇ…」

 

タンポポ茶は兎も角、タンポポコーヒーはやっぱり微妙らしい。

 

 

 

野宿すると言う2人に、今夜は雨が降る可能性が高いからと、双也君がご両親の家に泊まるように説得した。

 

「何から何まで…ホンマおぉきに」

「ありがとうございます」

「困った時はお互い様ですから」

 

翌日、宣言通りお客様として2人…市丸ギン君と松本乱菊ちゃんは、噂で聞いた蓬団子とあんパンに緑茶を飲んで、願いが叶ったとはしゃいでいた。

 

 

 

まだ少年少女の2人が62区に戻るのは、死神としても大人としても賛同出来ない歌匡姉が、このお店の裏通りを1本跨いだ所に目の悪い老人が1人で住んでいるのを知って、同居の話をしたら快諾してくれたから其処に住まないかと提案した。

 

転居を勧められた2人はと言うと、元々住んでいた家はボロボロで、すきま風が酷かったらしい。

遠出だからと、盗られて困る物は全て持って来た事、そして何よりも2人の好物である干し柿を作る為の柿の木を、最近現世から来た大人達に横取りされて困っていた事を話してくれた。

 

「…ならば尚の事、その家に移動した方が良かろう。何せ、その家には柿の木が植わっているからな」

「柿の木のお世話をしてくれる人なら喜んで…って仰っていたわ」

 

2人の言葉に目を輝かせた2人は転居に応じた。

 

また干し柿が作れると喜ぶ2人。

 

…上手く出来たらお裾分けしてくれるって

…干し柿のレシピ、何があったっけなぁ

…今から楽しみだなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乱菊視点。

 

またギンが何処かに行って帰って来ない。

「…もう!」

…ここ最近、嫌な事続きでホントに嫌になるわ

噂では、現世で戦があったらしくて、死者の数が増えているとか。

その所為で、此処花枯らしの水や食糧を必要とする人数が増えて、競争が少しずつ激しくなっているとか。

此処よりも治安の悪い地区は、更に諍いが酷くなったとも聞いた。

「…はぁ~」

トボトボと井戸から家に戻る最中、最近来た大人達が勝手に柵で囲ってしまった柿の木を目にして、また深い溜め息が出てしまった。

家に帰ったらちょうど外に出ていたお隣さんが話しかけて来た。

以前からちょくちょく耳にして来た〈お茶屋・おはし〉というお店の話だった。

そのお店がある地区まで辿り着いた知人から、噂以上の凄いお店だったと手紙が来たとか。

…良いなぁ、行ってみたいなぁ

…でも、場所が場所だから無理かなぁ

「どないしたん乱菊?」

「あ、ギンお帰り。実はね…」

帰って来たギンに駄目元で〈お茶屋・おはし〉に行ってみたいとおねだりしてみた。

「…せやったら、長旅なるなぁ…盗られちゃアカンの全部持って行こか」

「良いの!?」

私が外出するのは余り良い顔をしないギンが賛同してくれた事に喜び、ギンと共に家を出た。

毎日ひたすら歩いて丸15日、遂に〈お茶屋・おはし〉に辿り着いた。

お店は休日だったけど、運良くお店の人とその身内の人達がお店に居て、私達の事情を知って、とても美味しいかすてら?と蒲公英茶?に蒲公英こぉひぃ?を振る舞ってくれた。

…お隣さんの知人がくれた手紙の内容通り、凄い素敵なお店だわ

店主の里央さんのお弟子、双也さんのご実家に泊まらせて貰った。

そして里央さんのお姉さんは花枯らしに戻らないよう説得して来て、新しい住居まで手配してくれた。

…此処までの至れり尽くせりは初めてだわ

新しい家族にと迎え入れてくれたお爺ちゃんと柿の木のお世話をしながら、お世話になった人達への恩返しをどうすべきか日々考えながら、新しい日常に胸を躍らせた。

 

 

 

 

 

ギン視点。

 

最近、現世で戦が続いているらしい。

その所為でまた治安が悪くなって来ているのを日々感じている。

…早う戦が終わればえぇのになぁ

新参者達に柿の木は盗られるし、手に入る食糧や水は減る一方。

…まだ余裕あるうちに、乱菊と逃げよかなぁ

まだ朝晩は肌寒いからと薪拾いをしていたら、此処1ヶ月程、ほぼ毎日同じ死神達が見回りの振りをして、ジロジロと同じ人達を見ているのに気付いた。

その中には乱菊も入っている。

…何や気色悪い

…そう言えば、向かいに越して来たオバチャンが言うとったなぁ

…此処よりも治安の悪い地区で飲食が必要な人達が行方不明になっとるとか

…何や気味悪いから逃げて来たて

…僕は兎も角、乱菊に何かあったら嫌やなぁ

…ホンマに引っ越し、真剣に考えた方がえぇかも知れんなぁ

そんな事を考えながら家に帰ったら、乱菊がお隣さんから度々噂話に出て来る〈お茶屋・おはし〉の話を聞いて行ってみたいと言って来た。

…渡りに船かも知れんなぁ

普段なら渋る外出というよりも最早長旅を了承して、二度と戻って来ないつもりで乱菊と共に花枯らしを去った。

途中で足の肉刺が潰れたり、乱菊が男に言い寄られたりと、予想以上に大変な長旅だったが、何とか目的地の〈お茶屋・おはし〉に辿り着いた。

お店の人々は勿論、彼等の身内と近所に住んどる人達も温かくて優しかった。

…やっぱり、治安のえぇとこは人柄もえぇ人が多いんやろか

新しい住居に家族、そしてボク達が諦めた干し柿をまた作れる環境に身を置けるこの幸福を噛みしめながら、お爺ちゃんと柿の木の世話に精を出している。

後日、嘗て住んでいた花枯らしにまだ住んでいるだろう元お隣さんと元お向かいさんに手紙を送ったら、元お隣さんが行方不明になったと返事が来た。

元お向かいさんはまた引っ越すとも。

…ホンマに引っ越して正解やったかも知れんなぁ

人知れず、冷や汗を流した。

 

 






今度は乱菊とギンのネタが降りて来ました。
時系列的にはこの辺りの筈だし、ちょうど良いかと思って書いてみました。

〈お茶屋・おはし〉による変更点。
噂話のおかげで、乱菊は寸でのところで何処かの誰かさんの被害者にならずに済みました。
この後、2人はお店の常連さん兼、干し柿の提供者(つまりお店の関係者)となり、ヒナタ達の庇護対象に加わる事になりました。
素質を見出されて、死神になる可能性もありますが、例えなったとしても、お爺ちゃんと柿の木の世話の為にしょっちゅう帰省して来るので、何処かの誰かさんは下手に手出し出来ないでしょう。
乱菊が襲われるイベントほぼ消失、ギンの人生を賭けた復讐も起きない可能性が高いかと。


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