無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~   作:たけすぃ

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無能王女と最強勇者伯

 *

 

 勇者と共に魔族と戦った伝説の黒竜。

 それを歓待するためにひらかれた宴(・)会(・)は、魔族に寄生されたラドラリーの襲撃によって滅茶苦茶にされたが、もっとも滅茶苦茶にされたのは王国の王位継承権争いだった。

 

 魔族の襲撃という百年以上なかった災禍は、その場にいた人々に強い衝撃を与えたが、それ以上に次代の勇者と第三王女メフティアが〝二人で〟その魔族を撃退したという事実によって驚きを上書きされた。

 事件現場となったヴァン王立学園の営庭から人々は避難していたが、それでも彼らは遠目でハッキリと目撃したのだ。

 

 勇者と共に聖剣を構え、王国の、人類の恩人を迎える慶事を襲撃した不埒者を斬り、そして〝仲(・)睦(・)ま(・)じ(・)く(・)〟舞い踊る二人の姿を。

 目撃した人々が〝あ、そういう事なんだ〟と誤解したのは致し方ない事であった。

 

 若い男女が一本の剣を構え悪を討つ、その姿のなんと象徴的なことか。

 遠目で眺める彼らに、勇者に振り回され「ふぎゃ」とか「おわきゃ」とが「ぐええ」と悲鳴を上げる第三王女を見る機会は与えられることは無かったのだから。

 

 つまり、致し方が無い事だったのだ。

 

 

 

 自分の環境が大きく変わってしまった事に、トゥロウサン王国第三王女、メフティア・フレネス・トゥロウサンは戸惑うより先に溜息を吐きたくなる。

 ヴァン王立学園に入学する前は、辞書で無能を調べたら自分の名前が載っている、そうとまで言われていた過去が嘘のようだ。

 

 それが今ではどうだ?

 学園の廊下を歩けば、人波が割れるのだ。

 

 メフティアは学食に行くために、人の多い廊下を快適に歩きながら出かかる溜息を飲み込む。

 今では前とは違う意味で溜息を吐《は》けない。

 

 迂闊に溜息を吐《つ》こうものなら、周囲が勝手にメフティアが何かしらの不満を抱えていると身構えるのだ。

 それどころか、最近ではメフティアの溜息は何かの凶兆のように扱われている。

 

 思い当たる節はある。

 コイツのせいだ。

 

「今日はなに食おうかなぁ。学食の飯って美味いよなぁ」

 

 自分の隣で、まるで子供のように思った事をそのまま口にする次代の勇者、ショウ・アブ・トリックのせいだ。

 第三王女が溜息を吐くと勇者が暴れる、最近まことしやかに囁かれている噂だ。

 

 メフティアはその噂を知った時、本当に卒倒しそうになった。

 逆だ! 勇者が暴れるから私が溜息を吐くのだ。

 

 世の中には目が節穴の人間が多すぎる!

 

「メフティアはなに食うんだ?」

 

 なに食うんだ? じゃないんですよ。この妖怪勇者め!

 

「おかゆが食べたいです」

 

 メフティアは内心の叫びをおくびにも出さず、すました顔で答えた。

 胃が痛い、真面目に。お腹に優しい物を食べたい。

 

 弱小だった自派閥は、ヴェスポリ伯爵夫人がホクホク顔になるような状態だし、最近では学園で他の生徒から相談までされるのだ。

 無能な私に相談して問題が解決されると考える連中の、無(・)能(・)さ(・)が信じられない。

 

 夢でも見てるのかお前らは?

 

「飯はしっかり食べないと元気でないぞ?」

 

 真面目な顔で心配するショウに、メフティアは百ほどの言葉を飲み込んだ。

 

「そうですね。食事は大事です」

 

 腹が立つがその通りだ。

 この男と一緒にいるのに、食事をしっかり摂《と》らないと冗談ではなく倒れる。

 

 肉、やはり肉。妖怪勇者と一緒にいるには肉が必要だ。

 

「やっぱりお肉にします。そうですね肉です。肉は全てを解決します」

 

 わかるぅ、ショウが絶対に分かっていない顔で笑う。

 メフティアはその横顔を眺めて、初代国王様もこんな気持ちだったのではないかと思った。

 

 なんとなくだが、この男が笑っているとそれだけで嬉しくなるのだ。

 人類種最強の存在。

 

 理外と埒外の混ざり者、誰一人並び立てる者なき荒野で、それでも私達が〝そうであってくれ〟という願いのもとで、心を砕けば山を砕き、身を裂けば海も割った。

 幾万の死と血に染まった大地で、身と心を引き摺り、引き千切り、人類の為に魔族と戦い続けた勇者の子孫。

 

 その彼が笑っているのが嬉しい。

 初代国王様と初代勇者は友人であったという。

 

 初代国王、ヴァン・トゥロウサンもきっと勇者が笑う姿が好きだったのではないかと、メフティアは思った。

 いやしかし、初代国王様はどのようにして勇者と友達になったのだろうか?

 

 私心を記した記録なぞ、何一つ残してくれなかった初代国王様だが、どのように勇者と友達になったのかぐらいは残しておいてくれても良かったではないか。

 まさか直球で「友達になろう」などと言ったわけではないだろうが……。

 

 使えねぇ初代国王様だな。

 メフティアは我慢していた溜息を思わず漏らしてしまった。

 

 周囲の学生達の顔が一斉に引き攣ったのは無視した。

 

「なんだよ、溜息なんて吐《つ》いて。何か悩み事か?」

 

 メフティアは首を横にふるだけで返事した。

 貴方と友達になる方法が分からなくて思わず溜息を吐きました、なんて恥ずかしくて言えるはずがない。

 

「なんだよぉ、遠慮するなよぉ。言おうぜぇ? 手伝うぞ」

 

「ご遠慮します。言ったところで解決するような話でもありませんし」

 

 ショウがむぅと不満そうに唸る様子に、メフティアは奇妙な満足感を得る。

 普段《ふだん》困らされてばかりなので、これはこれで面白い。

 

 それに互いを互いに遠慮なく困らせるのは、なんとなく友達っぽい。

 

「やっぱり玉座か?」

 

 ちげぇよ! 駄目だ、馬鹿に考えさせる隙を作った自分が悪い。

 

「何度も言いますけど、そんなものに興味なんて無いですからね!」

 

「俺はけっこう良いと思うけどなぁ、王様するメフティア」

 

 やーめーろー! メフティアは叫びたいのを必死で堪えた。

 お前! 自分の影響力を考えろ!

 

 駄目だ、互いに遠慮なく困らせる、のバランスが悪すぎる!

 メフティアは堪らず再度の溜息を吐いた。

 

 友達になったら、こういうのも許せるようになるのだろうか?

 ふと浮かんだ疑問を首を振って払う、考えたところで分かるわけが無かった。

 

 なにせ友達なぞいた事がないのだから。

 

「はぁ……友達が欲しい」

 

 思わず漏らした言葉に、ショウが目を大きく見開いて自分を見つめてくる。

 また変な事を言うのでしょうね、メフティアは溜息の準備をした。

 

 次代の勇者がはにかんだ。

 

「奇遇だな、俺もだよ」

 

 メフティアは吐くはずだった溜息を飲み込んだ。

 その願いを自分が叶えられたら良いなと思いながら。




というわけでキリの良い所で完結です。
初期の構想から大きく離れた小説ではあるのですが
じっくり構築する関係も良きかなと。
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