湿度が高いFOX小隊 VS カイザー産SRT VS またしても何も知らない七度ユキノ(17)   作:パセリジャム

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私はオトギが好きです。


ここはキヴォトス 正気のやつから死んでいくのさ

 

「んぅ?」

 

目が覚める。

視界に飛び込んできたのは、薄暗いコンクリートの天井と、無機質な配管パイプ。体をわずかに動かすと、拾ってきた安物のマットレスが「ギシッ」と硬い音を立てた。

 

「んん〜」

 

私はマットレスから体を起こし、軽く体を伸ばした。

 

「……よし」

二度寝の誘惑を辛うじて振り払い、私はベッドから這い出た。

 

ここはキヴォトス……の最も治安の悪いブラックマーケットの一角。

訳あって身を隠すようにこの路地裏の廃ビルに住み着いてから、もうどれくらい経っただろうか。当初は大変だったご近所付き合いも今では楽になったし、人間関係に気を使う必要がないから前よりずっと楽かもしれない。

 

パタパタとスリッパを鳴らし、錆びついた洗面台の前に立つ。割れた鏡に映る自分の顔は、どう見ても寝不足のそれだ。

 

「……はぁ」

 

ため息をつきながら歯ブラシに歯磨き粉を乗せ、口に放り込む。シャカシャカと、静かな部屋に小気味いい音が響き渡る。

 

──その時だった。

 

 

ドンッ!!!

 

 

けたたましい爆音と共にドアが派手に吹き飛んだ。

 

「おいおいおいッ! 朝っぱらからノコノコと面貸しな!」

「ここをどきな! 今日からこの部屋はアタシたち『カクカクヘルメット団』の本拠地になるんだよ!」

 

ドアを破壊して現れたのは、私のご近所さんである『カクカクヘルメット団』の面々だ。彼女たちとは変に気を使わずに接することができるので、私は歯ブラシを咥えたまま片手を挙げた。

 

「やぁやぁ、今日も朝っぱらから元気だねぇ」

「うるせぇ!今日こそあの日の恨み晴らさせてもらうぜ!!」

 

ん?あの日の恨み?

 

「…え〜と、なんだっけ?」

「覚えてねぇのかよ!!」

 

ヘルメット団のリーダー格らしき少女が、持っていたサブマシンガンをブンブンと振り回しながら怒鳴る。

 

「お前が一年前、ウチらの拠点を奪ったんだろーがよ!!」

「あ、なるほど。なんでそんなにここにこだわるのかと思えばそういうことか」

 

なんと私が加害者だったらしい。いやー、自分の記憶力のカスさには涙が出るぜ。

 

「まぁ、ほら。一年前のことなんて昨日のことみたいに忘れちゃうよね」

「忘れるわけねぇだろ!!」

 

リーダー格の少女のツッコミが冴え渡る。持っているサブマシンガンが激しく上下しているが、今のところ誤射する気配はない。こういうツッコミのキレが良いところも含めて、やっぱり彼女たちとのご近所付き合いは気楽でいい。

 

「まぁいいさ、そんな吠え面かけるのも今日までだ!」

「別に吠え面かいてないけどね」

 

カクカクヘルメット団がぞろぞろと狭い室内に踏み込んでくる。数にして十数人。全員が銃を構え、やる気満々といった表情だ。

 

「おい、そこをどけ! 抵抗するなら容赦なくハチの巣だ!」

「まぁまぁ待ってよ。こんな朝っぱらから騒動なんてたまったもんじゃない。しかもね?この周りにはまだ寝てる人たちがいっぱいいるんだよ?私たちがここで争ったらみんな起きちゃうよ?」

「うるせぇ!!とっととはじm「リーダー。流石にこいつの言ってることは一理あると思うっす」

「えっ、そ、そうか……?」

 

仲間の一人に宥められ、リーダー格の少女が少しだけ銃口を下げる。

 

「いつも、朝起きるのが遅いリーダーを起こすウチらの身にもなってほしいっす。大変なんすよ?」

「ちょ、今言うことじゃないだろ!!」

 

なんだこいつらかわいいな。

 

「今日は日を改めて明日来ません?こいつが逃げるわけでもないですし」

「……まぁ、そうだな。朝早いのはウチらも眠いし、近所迷惑もアレだしな。おい、今日は引くぞ!」

 

リーダーの少女が、若干ばつが悪そうにサブマシンガンを肩に担ぎ直す。

心なしか、周りのヘルメット団の面々も「ふぅ」と安堵の息を漏らしているのが見えた。やっぱり彼女たちは、どこか憎めないご近所さんなのだ。

せっかく引き下がってくれるのだ。

 

一年前、彼女たちの拠点を奪ってしまった加害者としては、ここらで一言、彼女たちの傷ついた心を癒やすような優しい言葉をかけてあげるのが大人の包容力というものだろう。

 

私は、口に残った泡をペッと吐き出し、コップの水で口をゆすぐと、とびきり笑みを浮かべて彼女たちに歩み寄った。

 

「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでよリーダーさん。拠点を失ったのは悲しいかもしれないけどさ、元気出して!」

「べ、別に落ち込んでねぇし! 泣いてないし!」

「うんうん。そんな君にはね、私が今考えたとっておきのギャグを披露しよう」

 

私はすっと胸を張り、口を喉にやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「口の中から歯磨き粉出てきそう『わほー』つって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー!こいつ殺しましょうよ!!頭に来ますよ!!」

「この人頭おかしい…(小声)」

「なんでそんなこと言うんだよ…もう殺すしかなくなっちゃったよ……」

 

……どうしてこうなったんだろう

 

 

 

***

 

 

 

『こちらFOX4、対象を発見。……ふふ、やーっと見つけたよ』

 

『こちらFOX3。作戦経路を確保したわ。…ってちょっとFOX4、任務に集中して!』

 

『かくいうFOX3も今日はあまり集中できてないみたいだけど?』

 

『そ、それは昨日の夜寝付けなかっただけで……』

 

『本当にそうなのかな?昨日君の部屋からギシギシってベッドが軋む音が聞こえたんだけど……ナニをしてたのかな?』

 

『ちょちょっと!!何もやってないわよ!!』

 

『こら、そこまでにしなよ。……作戦中だって言ってるでしょ?』

 

『はーい、FOX2……はぁ、FOX3のせいで怒られちゃったじゃん』

 

『ちょっとオトギ!? 貴方何言ってるのよ!……っていうか、なんで私のせいになるのよ!』

 

『はいはい、お喋りはそこまで。FOX4、前方の状況は?』

 

『……うん。ヘルメット団が十数人、廃ビルの1室に突入したまま揉めてる。そしてその先に……』

 

『リアがいるんだね?』

『リアがいるのね』

 

『せ〜いか〜い。そうだ、もうこの際言っちゃうけど……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんなちょっと、リアのことになると余裕なくしすぎじゃない?』

 

『ちょ、FOX4! 余計なこと言わないでよ!』

 

『事実でしょ、FOX3。リアの話になってから息づかい荒いし……FOX2も作戦開始前の朝にリアの名前を何度も呟いてたし……』

 

『そ、それは……! 逃亡中の重要参考人だから、見失うわけにはいかないだけで……!』

 

『はいはい、そういうことにしておくよ。……FOX1がいない今、FOX2が隊長ってことだけど……どうする? 周りのヘルメット団ごと制圧しちゃう?』

 

『さっきの話は置いとくとして、一旦様子見かな。今回の作戦で絶対リアを確保、いや捕まえないと。じゃないと逃げちゃうでしょ?()()()()()()()

 

 

 

『『……』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はもうリアを逃したくないんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ねぇオトギ。これを私と一緒だっていうの?』

 

『ごめん。言いすぎた。いつかアイス奢ってあげる』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「よ〜し、張り切っていこ〜」

 

私はベッドの裏から、愛用しているアサルトライフルを引き抜いた。長年使い込んで私の手に完全に馴染んだ、無骨ながらも信頼できる相棒だ。

 

「ひ、引き金を引けぇーっ!!」

 

リーダーの絶叫と同時に、狭い室内に一斉に銃撃の嵐が吹き荒れる。

 

私はコンクリートの柱を遮蔽物にしつつ、流れるような動作でアサルトライフルを構える。狙いは正確無比。トリガーを引くたびに、ヘルメット団の武器や手元、足元へとピンポイントで弾丸が吸い込まれていく。

 

「ぐあっ!!」

「ひでぶ!」

「まずは二人……っと危な」

 

回り込んでいたヘルメット団に銃身を振りかぶる。たまたま、相手のこめかみに直撃した。

 

「お、ラッキー」

 

「ひぎゃっ!?」

 

派手な声を上げてヘルメット団の一人がひっくり返る。ラッキーで済まされた本人はたまったものではないだろうが、こちとら朝の歯磨きを台無しにされた被害者(自業自得)なのだ、これくらいは許されてしかるべきだろう。

 

「な、なんだよこいつ! 歯磨き粉のギャグは激スベりしたくせに、なんでこんなに強いんだよぉ!」

「それはそれ、これはこれだよリーダーさん!」

 

遮蔽物から身を乗り出し、さらに三発。的確にヘルメットを弾き飛ばし、戦意を喪失させる。ブラックマーケットで暮らす彼女たちはタフだが、さすがにこの狭い室内で一射必中のカウンターを喰らい続ければ、弾幕も次第に薄くなっていく。

 

「く、クソぉーッ! 撤退だ、撤退ィ! 覚えてろよー!」

 

捨て台詞を残し、ヘルメット団の面々は蜘蛛の子を散らすように廃ビルから逃げ出していった。

 

「ふぅ……朝からいい運動になっちゃったな」

静まり返った部屋で、私はアサルトライフルの銃口から立ち上る薄い煙をフッと吹き消し、バレルを優しく撫でた

 

さて、壊されたドアをどう直したものかと考えながら、何気なく壁に掛けられた古びた時計に目をやる。

 

「……07:50?」

 

一瞬、思考が停止する。

 

「……あ」

 

脳裏をよぎるのは、昨日の夜、店長から送られてきたメッセージ。

 

『リアちゃん、明日の朝8時からシフト入れる? 人手不足でさ〜』

『あ、大丈夫ですよー!』

「……嘘、あと10分じゃん!!」

 

今日からコンビニの早番シフトが入っていたのを完全に失念していた。ここからブラックマーケット最寄りのコンビニまでは、普通に歩けば20分はかかる。

 

「ヤバイヤバイヤバイ! 遅刻したら店長に怒られる……!!」

 

私はエプロンと財布をバッグに詰め込み、靴を強引に履き潰すようにして、ドアの吹き飛んだ玄関からロケットのごとく飛び出した。

 

 

***

 

 

「……あのさぁ」

「はい、わかってます」

「まだ何も言ってないよ?」

 

だめでした。完全に怒ってます。

 

「て、店長……? あの、本当にすみません! ちょっとご近所トラブルが長引いて、その、3分ほど遅刻してしまって……!」

「ウチは7:00開店だよ」

「すみませんぐぅの音も出ません」

「出てるじゃん」

 

店長の軽いツッコミからには考えつかないほど、今の店長はとてつもないほどの威圧感を放っている。

 

「今月の遅刻、これで24回目だよ? しかも理由が毎回『温泉開発部に部屋を爆破された』とか『銀行強盗に協力してた』とか、いくらなんでも言い訳のバリエーションがキヴォトスすぎる」

「キヴォトスすぎるっていう形容詞存在するんだ」

「やかましいわ」

 

この店主ノリいいなぁ……

 

「とにかく!君は……なんて言うんだ……そう、社会人としての意識をな!」

「私まだ17歳なのでノーカンですね」

「それはキヴォトスでは通じないの!」

 

確かに連邦生徒会とか社会人じゃないのにいつも書類仕事とかしてんな……一応店長の言ってることは正しい…のか?

 

「もう!君といるとすごくストレスが溜まる!」

「そんなこと言わずに、店長。私の素晴らしい接客スキルで相殺ってことで……」

「されないよ! むしろマイナスだよ! 大体ね、君がレジに入ると高確率でブラックマーケットの荒くれ者が『姐さん!』って挨拶しに来るの! ウチ普通のコンビニだからね!?」

 

ごもっともである。

先週も、常連のヘルメット団の構成員が強盗式来たので、追い払ったら他のお客様から

 

『物騒すぎる』

『ここのコンビニで買う必要性がない。星1』

 

みたいな感じでクレームを受けて店の売り上げが減ったのは申し訳ないと思う。

 

「……はぁ」

 

店長は深く、深くため息をついた。

そして、どこか諦めたような、それでいて情に脆い彼らしい、少し柔らかい表情を浮かべた。

 

「……まぁ、いいや。君が根は悪い子じゃないのは分かってるし、実際、力仕事とかワンオペの時は助かってる部分もあるからね」

「て、店長……!?」

「今回は大目に見てあげるよ。その代わり、今日から1週間、店内のトイレ掃除と廃棄商品の仕分けは全部君がやること。いいね?」

 

神ィ!?

まさか許してもらえるとは思っていなかった私は、感動のあまり胸が熱くなるのを感じた。

 

「ありがとうございます店長! やっぱり持つべきものは話のわかる上司ですね!」

「5倍って……無茶な押し売りはしないでよ? 普通に真面目に働いてくれればそれで──」

 

その時、レジの自動ドアが開いた。

入ってきたのは、いかにもガラの悪そうなブラックマーケットの住人。手にはしっかりとサブマシンガンが握られている。完全に強盗のそれだ。

 

「おい! チンタラしてねぇでレジの金を全部ここに詰めやがれ!!」

 

強盗がカウンターに汚い袋を叩きつける。

店長は一瞬で顔を真っ青にし、両手を上げてガタガタと震え出した。

よし、ここで私の出番だ。店長への恩返し、そして社会貢献のチャンスがこれ以上ないタイミングで舞い降りてきた。

 

「あんた。うちの店長を脅すなんて、いい度胸じゃない」

「あぁ!? なんだテメェ、ただのバイト風情が──」

 

私はカウンターの下に隠していた愛用のアサルトライフルを、流れるような動作で引き抜いた。そして、強盗が反応するよりも早く、その銃口を相手の眉間にピタリと突きつける。

 

「命が惜しければ、その銃を捨てろ」

「ヒッ」

「リアちゃん!?」

 

店長の悲鳴が店内にこだまするが、私の勢いは止まらない。ここで一気に畳みかけるのが、ブラックマーケット流の接客術だ。

 

「……そういえば君、見たことあるような…もしかしてここに強盗に来たの2回目?」

「……」

「黙ってるってことはYESってことだよねぇ。前回も酷い目に合わされたのにまだ懲りないの?」

「いや、お前は今日

「うっさい、シフトが入ったんだよ」

 

怯える犯人を睨みつけながら、私はさらに凄む。

 

「……何度言われても懲りない君にはお仕置きが必要みたいだねぇ」

「ヒィ!!」

「前回は『二度と来るな』って言って、右足の太ももを軽く撃ち抜くだけで勘弁してあげたよね? 今日は左かな? それとも、その生意気な口の中に

銃口を突っ込んで、赤い水を吐くマーライオンにしてあげようか」

 

とびきりの笑顔でそう告げると、私の指がトリガーにゆっくりと掛けられる。カチリ、と不穏な金属音が店内に響いた。

 

「ヒッ……!! じ、冗談じゃねぇ……!」

 

犯人は完全に顔を引きつらせ、ガタガタと震えながら一歩、また一歩と後退りしていく。

 

「お、お前、マジで頭おかしいよ! なんだよその笑顔! 弾が、弾がガチのやつじゃねえか!! もういい、金はいらねぇ! 二度と来るかこんな世紀末コンビニィィィ!!」

 

犯人はサブマシンガンを放り出し、涙目で悲鳴を上げながら、自動ドアを突き破る勢いで逃げ去っていった。

 

「ふぅ……一件落着、ですね! 店長!」

 

私は銃口から立ち上る硝煙をふっと吹き消し、満面の笑みで店長を振り返った。

店長を守り、店の売上を守ったのだ。これで今週のトイレ掃除と廃棄仕分けの刑は帳消し、どころか特別ボーナスが出てもおかしくはない。

しかし、視線の先にいた店長は、なぜか魂が口から抜けかけたような顔で硬直していた。

 

「……あ」

「店長? どうしました? 腰が抜けちゃいましたか?」

「……リアちゃん」

「はい!」

 

店長はゆっくりと、本当にゆっくりと両手を頭に当て、深いため息を吐き出した。その表情には、もはや怒りすら通り越した、深い、深い絶望が刻まれている。

 

「……前回の強盗の時も思ったけどさ」

「はい」

「君、客(強盗)にドン引きされて逃げられる店員って、自覚ある?」

「えっ? でもお店は守れましたよ?」

「あのね、普通のコンビニは店員がアサルトライフルぶっ放して客を脅迫しないの! 相手が強盗だとしても限度があるでしょ!? ほら見て、外で様子

見てた他のお客さんたちが全員蜘蛛の子を散らすように逃げていってるよ!!」

 

窓の外を見ると、確かに買い物をしようとしていた一般(?)のブラックマーケット住人たちが、恐ろしいものを見る目でこの店を避けて通っていくのが見えた。

 

「あー……リピーターが減っちゃいますね」

「減るどころの騒ぎじゃないよ?」

 

店長はがっくりと肩を落とし、カウンターに両手を突いた。

 

「……もうダメだ。私の胃がもたない」

「店長、胃薬ならあそこの棚に──」

「そういう問題じゃない!!」

 

店長はバシッとカウンターを叩き、キッと私を睨みつけた。その目には、もう揺るぎない決意が宿っている。

 

「リアちゃん。君の戦闘力と、根は良い子なのは認める。認めるけど……ここはコンビニなんだ。戦場じゃないんだ」

「……不穏な空気を感じます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう明日から来なくていいよ」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

うん、今回もダメだったよ⭐︎

これで仕事をクビされるのはたぶん2()()()である。

 

クビを宣告されてからの店長の仕事の引き継ぎは、涙が出るほどスムーズだった。お店の前でペコリと一礼し、実質無職に逆戻りした私は、西日に照らされたブラックマーケットの路地裏をトボトボと歩いていた。

 

「はぁ……なんで人生で2回もリストラを経験しなきゃならないんだよぉ…キヴォトスって本当に世知辛いなぁ」

 

バッグの中でカサリと音がする。店長が「これでも食って元気出しな」と持たせてくれた、賞味期限が数時間切れたコンビニ弁当だ。なんだかんだ言って優しい店長だった。……胃に穴が空いてなきゃいいけど。

 

それにしても、今日の夕飯の心配はなくなったものの、明日の食費はどうしようか。

また新しいバイトを探さなきゃいけない。いっそのこと、カクカクヘルメット団に「拠点を返してほしければ日給をよこせ」とでも交渉してみようか。いや、それただの脅迫だな。

 

そんな益体のないことを考えながら、すっかり暗くなり始めた路地裏を進み、我が家、ドアが吹き飛んでオープンエアーになった廃ビルの前に辿り着いた。

「ただいまー……って、ドアないんだった」

 

自分の家ながら、あまりの防犯性の低さに笑えてくる。

明日には新しい木板でも拾ってきて打ち付けないと、今度はマジで温泉開発部あたりに勝手に露天風呂でも掘られかねない。

そう思いながら、一歩、部屋の中に足を踏み入れた。

 

その時、家の中に何か違和感を感じた。

 

家の中に…誰かいる。

 

一瞬で背筋が凍りつく。

ドアが吹き飛んでオープンエアーになった我が家は、外の月明かりがうっすらと差し込んでいるものの、奥の方は完全な闇に包まれている。

 

多分家の中にいるやつの方がこの状況では有利だ。ワンチャン暗視ゴーグルを持ってる可能性もある。迂闊に動くことはできない。

ここは一旦様子見か……

 

私は息を潜め、アサルトライフルを握りしめた。

 

張り詰めた沈黙が、壊れた部屋の中に満ちていく、その時だった。

 

──ピンッ、と小さな金属音が暗闇に響く。

 

「しまっ……!?」

 

直感的にそれが何かを察知した瞬間には、すでに遅かった。闇の奥から転がってきたのは、小さな金属の塊。

 

キィィィィィィンッ!!!!

 

閃光弾が投げられ視界が真っ白に染まる。

私は咄嗟に腕で目を覆いながら、感覚だけで真横のコンクリート壁の死角へと体を投げ出した。直撃は避けた。視界はチカチカするものの、体は動くこれなら……「無駄だよ」

 

着地した瞬間、背後の闇から飛び出してきた影に、容赦なく押し潰された。

私の背中に強烈な重みが乗り、そのまま冷たいコンクリートの床に組み伏せられる。

 

ちょ、これ本当にまずいやつ……

 

抵抗しようともがいたが、相手は私の関節の可動域を完全に把握し、ミリ単位の無駄もない動きで私をロックしている。

流れるような動作で両手首を背後に回され、強固な縄が容赦なく締め上げられた。続いて、バタつく足首にも素早く別の縄が巻き付けられ、完全に身動きが取れなくなる。

 

これって完全に詰み……ってこと!?やめちくり〜

 

「……ねぇ、私そんな誰かに恨まれるようなことしたっけ?」

 

私が諦めて抵抗を止めると相手が背中から降りる。よし、これでちょっと腰が楽になる……なんか次は私の髪を弄ってくるんだけど。

私は首を動かし私を押さえつけた人物を見ようとするが、仰向けになっているのと暗闇でうまく見えない。

 

「ちょっ、マジで誰かわかんないし、髪いじるのやめて」

 

私がそういうと髪を弄るのをやめた。

ただ、その人物から漂う、微かな、けれどあまりにも馴染み深い香りが鼻腔をくすぐった。……火薬の匂いと、どこか落ち着く、家庭的な柔軟剤のような優しい匂い。

 

「恨まれること……か。勝手に私たちの前から消えた意外にあると思う?」

 

なんだろう……このママみたいな声、すっごく聞き覚えがある。……ん?ママ?

 

「もしかして……」

「あ、やっと気がついた?」

 

カサリ、と彼女の衣服が擦れる音がして、月明かりの下にその顔がゆっくりと身を乗り出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、リア。久しぶりだね」

 

 

 




感想で好きなキャラについて語るのじゃ。
あと、お気に入りとか高評価とか何卒……モチベになるので……

時間軸は?

  • カルバノグの兎
  • ロア追跡
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