繋がる虚ろな人格戦争(セブンスヘイブン) および 神をも断ち切る白黒の剣(デュランダル) 作:茶鹿秀太
「がっはっはっは! そりゃ大したことになったわけだなぁ!」
「そこまで笑わなくても……」
ギルド。
その歴史は街の歴史である。
巨大な木の中に埋め込まれるように3階建ての建物があり、それらすべてがギルドの施設である。
無事生き延びた施設の内の一つとも言える。
さて、ギルド2階では社会人らしいスーツを着たヒイロ・ムラサメがいた。
そこで大柄で筋肉質、色黒で鬚をたくさん蓄えた男が腹を抱えて笑っているではないか。
「いやなぁに。教会絡みの案件なんてのは面倒くさいの一言に限るが、まさか
「……まぁ、【
「それよそれ。その話がしたかったのよ」
大柄な男の名はキャプテン・ブラックアークス。勿論偽名だ。
かつて海賊をやっていたと自称する男は、このギルドにおける初代ギルドマスターである。
「こいつぁ裏の取れてる話なんだが、アンディーは殺された可能性が高い。それも、教会の人間にだ」
「馬鹿な」
ヒイロは喉を鳴らした。
「……それは、聖女様が?」
「リルリカぁ?馬鹿、あいつがそんなタマかよ。……、だが、聖女に近しいポジションかもな。アンディーが【
「……アンディーさんは、依頼をやり切るまじめな方だったはずですよね」
「あぁ。つまりだ。……やべぇ案件踏んだんだろうな。それも、教会絡みで」
「教会が関係している理由は……」
「この後面会行くんだろ?お前が探って来いよ。なぁヒイロ。お前が裏取ってくれたらよぉ、ギルド総出で教会ぶっ壊してやろうぜ。信仰なんて街のやつらには関係ない。利用できるから利用してるだけ。壊れる世界の前の神を愛する奴らばかりさ。なぁヒイロ。もう教会は15年で腐っちまったのさ。アンディーの仇をよぉ。一緒に取ろうぜ?あの【大災害】の時みたく、派手に暴れてよぉ!……平和すぎるぜ最近」
「……僕には、できないよ」
ヒイロは遠い目をして、腕をさすった。
「子どもがいるんだから」
「……しけてんなぁ。って、おいお前やめbbbb」
「あ」
キャプテン・ブラックアークスの肉体がボコボコと音を立てて変わっていく。
そして出てきたのは。
「あぁらあああん! ヒイロちゃんったらぁ男前なんだからぁ! そうよね、子ども育ててるんだから好き勝手なんてしないわよね! もうアンタも見習いなさいよって! 海賊ごっこもギルド長ごっこも別に大して仕事しないんだからあばばばばばば」
エキセントリックな髪色をした、身長2mのオカマが現れ、即座に再びボコボコと音を立ててキャプテン・ブラックアークスが現れた。
「帰れ」
「う、うん……彼女……アロマにもよろしく」
「よろしくするな。帰れ」
あまりにも不機嫌になったギルド長に憐れみの感情を覚えながら、ヒイロは階段を下りた。
ブラックアークスはハードボイルド寄りの世界観を好んでいて、アロマの人格は空気が壊れてしまうので好いていないそうだ。
人格は選べない。
世界の滅び方を選べないように。
――フゥ・ブランク大聖堂、フロアFF。
一人の気弱そうな、スーツを着た男が誰かを待っているようだった。
落ち着きなさそうにうろうろと周りを見渡していると、ようやく待ち人が来たようだった。
「あ、あのっ! 憶えてますか、セバスさん。僕です。ヒイロです」
「ん、……んん? おぉ、ヒイロ殿っ! あなたもお変わりないようで。息災で何よりですなぁっ! そのよう畏縮なされるな。あの【大災害】をともに乗り越えた仲ではありませぬか!」
「はは……ありがとうございます。……その、アラタとローランは……」
「ご安心なされよ。罪に問うことはありませぬ。何よりヒイロ殿を怒らせるほうが怖いですからなぁっ! はっはっは」
「そんな……べ、別に暴れないですよ、僕は……」
旧知の仲の二人、老人と中年がともに教会の階段を上がっていく。
「あの、セバスさん。何かあったんですか?」
「……。ほう、何かとは?」
「いや、なんだか一部の視線が厳しいような……。ほら、あそこの人とか」
周囲の索敵をどうしても癖で怠ることのできないヒイロ・ムラサメは、敵意には敏感だった。
セバスは指摘を受けてため息を漏らす。
それは普段のセバスからは想像のできない苦労の所作であった。
「ふむ……。ヒイロ殿は【エリクサー商会】ご存じだろうか」
【エリクサー商会】、その言葉を知らない人間はオーギュスタには存在しない。
教会の庇護下のこの街で、教会と同程度に権力を付けてきた商売人の集団だ。
特に販売している回復エナドリは、多くのギルドメンバーが愛用している商品。
謳い文句通り、あらゆる傷を治し万病に効くとされているジュース。
それこそアラタは常飲しているレベルで大好物だ。
市井ではジュースとして楽しめ、怪我をしたときはそれこそ骨折であれ内臓破裂であれ改善するという奇跡の飲料。
どのような技術がつかわれているかは、いまだに不明である。
使えるものは使うという、時代の影響で流されている部分はあるだろう。
「どうも最近、教会内部がキナ臭くてな。商会派という人間が現れてきた。聖女様や神への信仰よりも、政治が好きなようだ」
「……でもどうしてそんな勢力が教会で幅を利かせているんだい?」
「貨幣の復活ですよ。どうやら、教会で貨幣を作りたい人間が一定数いるのです。そうすれば教会の地位は盤石だ。【エリクサー商会】も取引が増えwin-win になる。……いつの世も、欲望は人間をおかしくさせますなぁ。特に枢機卿が、商会に入れ込んでいるようで」
「人格犯罪が横行している中……政治っていうのは止まらないね。聖女様はどうお考えなんですか?」
「聖女様はいつも通りですよ。政教分離。いずれ教会は政治から離れなければいけないと語っております」
「それが嫌な人もいるのにね。聖女様の信念だよね」
「だからこそ、お仕えし甲斐があるというもの」
長い階段を渡っていく。
老人は汗一つ書かず、ヒイロはぜぇぜぇ言いながら一段一段踏みしめる。
「ふぅ。そういえば、アラタとローランは今どうしているんだい?」
「ふふ、今は聖女様に街の生活についての話を。……あの子にも、苦労をかけさせました。人格についても、……」
「どこも、人格がらみは大変だ……。僕らの人格は、【大災害】で失ってしまったからね。……今でも思い出すよ、短い期間でも関わったあの日のことを」
「しかし、複数の人格保持者こそが優秀な人間であるという風潮が生まれ、私たちはすぐに下に見られる対象になった。嫌なご時世です」
「本当だね。……んっ」
二人が階段を歩いていると、ラジオの音が流れてきた。
ラジオの放送局は大聖堂にはないものの、放送は教会の人間が管理している。
科学と呼ばれる力を蘇らせる余裕が出てきた時期から、ラジオの技術は復元可能として教会では力を入れてきた。
結果として、すべての放送局を管理しつつ、教会にとって便利な教育、連絡、報道ツールとなったのだ。
教会の統治下の地域以外で聴けないものの、この技術力こそが教会の強みであると誇りを持っていた。
だからこそ。
〈――皆様ごきげんよう! 私、回復エナドリでおなじみ、安心安全な商品をモットーに。【エリクサー商会】の社長を務めております。オリヴィアと申しますわ〉
ラジオで流れた言葉が、動揺を誘った。
「――」「――」
二人の男が、視線を交錯し、一気に階段を駆け上がった。
そしてものの数十秒で、何mmもの高さのある階段を登り切り、一息で聖女の部屋の扉を開けた。
「聖女様っ! ラジオを!」
セバスの切り裂く声などお構いなしに、聖女は応答した。
「もう聞いてる。ラジオ局のジャックはどこかの愚か者が仕掛ける可能性は憂慮してたけど、なんで商会が?」
聖女の部屋のラジオは、アラタの持つ小型のものではなく、棚一つを全て埋めるような大きなサイズのものだ。
そこから流れる声は、鮮明で、ノイズなんて走らない。
〈――さて、商品紹介はもう十分かしら。今回は、この放送を使って教会の皆様方、ひいてはこの街、オーギュスタの住人の皆様にご報告があり、急遽こちらの放送をジャックさせていただきましたわ。よくお聞きなさってね。そうではないと、命に関わるので〉
「ごく、ごく……。ぷはぁ。なぁ、エリクサー商会の商品紹介って定期的にやるの? 俺そろそろ新フレーバー待ってるんだけど」
呑気に回復エナドリを飲みながら俺はみんなの表情を見た。
あのロラ姉もどこか緊迫感をもってラジオ聴いている。
なんだ? エリクサー商会がラジオをやるのがそんなに変なのか?
『アラタ……。いつもこの時間って誰の放送?』
「そりゃ、あれだ。この時間だと……。あれ? いつもみんな聞いてる人気番組じゃねぇかな。あと30分くらいで無駄口フラービーの時間だし。えっ、あのラジオ放送終わんのかな。でもエリクサー商会なら許せちゃうんだけど」
『アラタ……これ、ヤバいんじゃないかな……。ラジオっていう放送手段を、教会以外が手にしたって……。乗っ取られた番組の関係者はどうなっている? 生きている? 教会の意図を超えてるんじゃないかな、……これ』
何が?
と聞きたいところだが、パト姉も神妙な表情だ。
大げさな、と考えてまた一口回復エナドリを飲んだ。
〈このたび、我々【エリクサー商会】は、正式に【
「……」
んー。
んぅ?
ナノ、なに?
うん?
爆は、ん?
え?
ん?
お、おぉ?
俺が今飲んでるのって、え?
ん?
お?
なにパト姉、ロラ姉、親父、俺の事指さしてわなわな震えて。
え?
いや、ん?
ごくごく、え?
い、いや。
いやぁっ?
いやあああっ!?
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ”あああ」
「いぃいいやああああああああああアラタぁああああああああああああああああああああ」
『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「えぇえうおっえぇえええええうわああああああああああああああああああああああああ」
嫌だぁあ死にたくないぃ!?!?
誰か助けてぇ!! 誰かぁ!!
「うぅぅぅ……みんな……ごめん……今まで……あぃぁと……ぐすん」
「な、泣かないでよアラタ! ば、爆発してもアンタ死ななそうじゃない!」
『アラタ……ごめん……無力な私を許して……ぐすん』
「エナドリにそんな……くっ、どうすれば……」
そんな風に俺たちが騒いでいると、聖女が驚きを隠せない様子でセバスを見つめていたことに気が付いた。
「せ、セバス……聞いた? オリヴィア……しかも『白き炎』って」
「――まさか、そんな馬鹿な。あり得ませぬ、いや、しかし、……そうだとしたら……」
俺は半泣きになりながら聞いてみた。
「ぐず……、何か知ってるんます……? 教えてくれさい……死にとうないですぅ……」
「い、いや……関係あるかは……」
セバスがたじろいでいると、聖女様が覚悟を決めたように、俺の肩を掴んで、目線を合わせた。
「『白き炎』、それは