作った世界「だが断る」
「うーん……中世ファンタジー世界、完成!」
神様のミルフィアは胸を張った。
ふわふわした雲の上の神殿から、出来たばかりの世界を覗き込む。
「人間、エルフ、魔物、ダンジョン……うんうん、完璧!」
完璧ではなかった。
◇
「さてさて、冒険者さんたちは宝箱を開けて喜んでるかな〜?」
ミルフィアがダンジョンを覗く。
そこではゴブリンが宝箱を開けていた。
「ゴブッ!」
中から出てきた鉄の剣を装備するゴブリン。
「え?」
さらに隣ではオークが宝箱から鎧を取り出している。
その奥ではドラゴンが宝箱から出た指輪を前足にはめていた。
「え?」
ミルフィアは設定書をめくった。
『宝箱:ダンジョン内にランダム配置』
「うん」
『誰でも開けられる』
「……あっ」
ゴブリンたちが新装備で盛り上がっている。
「やったー! レア装備だー!」
「ちがうちがうちがう!!」
ミルフィアは頭を抱えた。
「それ冒険者さん用なの!!」
数年後。
冒険者ギルド。
「最近のゴブリン、なんか伝説の剣持ってません?」
「オークキングが不死鳥の鎧を装備してたんですが」
「ドラゴンが透明化してました」
「ごめんねぇぇぇ!!」
ミルフィアは泣いた。
でも人間たちは、
「モンスターを倒して装備を奪えばいい」
という結論に至り、
「お、ボスがレア装備を落としたぜ!」
と喜んでいた。
「適応力どうなってるの!?」
◇
ある日、ミルフィアは街道を眺めていた。
「今日も平和だなぁ」
商人たちが荷車を押していた。
その横で馬が歩いていた。
「うん」
冒険者も徒歩だった。
横で馬が歩いていた。
「うん?」
騎士団も徒歩。
横で馬が走っていた。
「……ん?」
王様の行列も徒歩。
横で白馬がついてきていた。
「なんで誰も乗らないの!?」
設定書を確認。
『馬:移動速度が速い』
「うん」
『人間:馬を飼育できる』
「うん」
『騎乗』
「……書いてない!!」
「書き忘れたぁぁ!!」
人間たちは馬を、
「一緒に旅をする友達」
として認識していた。
「いや乗ってよ!!」
商人に神託を送る。
『その動物、背中に乗れるよ』
商人
「神のお告げだ!」
翌日。
荷車が馬の背中に乗せられていた。
「そうじゃない!!」
さらに翌日。
人間全員が馬の上に荷車を積んで押していた。
「なんで押すの!?」
「馬さん重そうだから」
「優しいの方向性がおかしいよ!」
結局、千年経っても誰も馬に乗らなかった。
「かわいいからまあいっか……」
馬たちも嬉しそうだった。
◇
冒険者たちがスライムと戦っている。
「効かない!」
「剣が通らない!」
「どうする!?」
ミルフィアはニヤニヤする。
「ふふーん。スライムの弱点は斬撃!」
……のはずだった。
設定書。
『弱点:刺激』
「……刺激?」
「刺激!?」
冒険者が叫ぶ。
「熱湯だ!」
効かない。
「電撃だ!」
効かない。
すると新人冒険者の少女が、
「スライムさん、すごくきれいな色ですね」
と言った。
ぽよん。
スライムが赤くなる。
「え?」
「形もかわいいです!」
ぷるぷる。
「いつも頑張ってますね!」
スライム。
「ぽよ〜♡」
しゅわぁ……
消滅。
「消えたぁ!?」
ミルフィアも消えそうになった。
「精神的な刺激だったの!?」
以来、スライム討伐は、
「褒め殺し」
になった。
ベテラン冒険者は皆、
「今日も元気だね!」
「触り心地最高!」
「君しか勝たん!」
と優しく声をかける。
スライムたちは幸せそうに昇天していく。
「なんなのこの世界……」
◇
魔王軍との最終決戦。
勇者アルドが聖剣を抜く。
「魔を断つ剣よ!」
ズバァッ!!
隣の魔法使いのローブが切れた。
「寒っ!?」
「え?」
魔導書が真っ二つ。
「ちょっとぉ!?」
魔法の杖も切断。
「やめてぇ!?」
魔王は無傷。
「え?」
ミルフィアが設定を確認する。
『魔を断つ』
「うん」
『魔とは?』
「書いてない!!」
結果。
魔力を含むもの全部を切る剣になっていた。
「なんで魔王だけ無事なの!?」
魔王
「余は筋肉で戦っているからな」
「脳筋だったぁ!!」
勇者一行は会議した。
「魔法使いは帰ろう」
「はい……」
そして勇者と魔王は普通に剣で殴り合った。
「なんで王道展開になってるの!?」
◇
「そういえば人間たち、仲良くしてるかな?」
ミルフィアは王都を見下ろした。
旅人が門番に話しかける。
「ヤッホ!」
門番
「モッホ?」
旅人
「ペペ?」
門番
「ニャ?」
「え?」
隣町なのに通じてない。
設定書。
『言語:各地方で適当に』
「やっちゃったぁ!!」
しかし人間たちは諦めなかった。
身振り手振り。
絵。
踊り。
変顔。
なんとか意思疎通している。
そして数百年後。
世界共通語が完成した。
「すごーい!」
人類って偉い!
感動するミルフィア。
ところが。
その共通語の元になったのは。
冒険者がスライムを褒める時に使っていた言葉だった。
「ポヨポヨ!」
「ポヨ!」
「ポヨポヨポヨ!」
世界会議。
国王たち。
「ポヨポヨ!」
「ポヨ!」
「ポヨ〜!」
「なんでぇぇぇ!?」
今日もミルフィアは雲の上で頭を抱える。
「もっとちゃんと作ればよかった……」
でも。
楽しそうに暮らす人々。
幸せそうな馬。
装備を自慢するゴブリン。
褒められて成仏するスライム。
魔王と筋トレする勇者。
「……まあ、みんな笑ってるし、ヨシ!」
そんなポンコツな神様は、今日も世界を観察している。
「次は季節の設定を確認しようかな!」
その瞬間。
世界は春から突然冬になった。
「あっ。」
住民たち。
「今年も来たか」
「慣れた」
「雪見桜だー!」
「適応力が怖いよぉ!!」
ミルフィアは今日も元気である。