似せ者。空っぽ。あるいは小鳥遊ホシノの■人。   作:曇った女の子の間の酸素

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ガチャ祈願に書きました。






敬語。

 

 

 

 夜になると、家は少しだけ広く感じる。時計の針がゆっくりと進む音だけが部屋に響いていて、私はソファの上で毛布を抱えながら玄関を何度も見ていた。

 

 ホシノちゃんは今日も遅い。

 

 昼間にバイトをして、夜に学校で探し物をすると言ってたけど……。

 

 学校の借金の返済をしながら私の面倒を見て、生徒会の書類の整理をして、無理やり時間を作って探し物をして。休んで欲しいけど、ホシノちゃんが誰のためにそこまで頑張っているのかを考えてしまったら、強く言えない。

 

 ……探し物。

 

 何を探しているのかは聞かなかった。聞かなくても、なんとなく分かってしまったから。

 

 ホシノちゃんは今でも、校舎のあちこちを歩いている。使われなくなった教室。誰も入らない倉庫。ホシノちゃん以外が立ち入らなくなった生徒会室。

 

 そこに何かが残っているかもしれないと、何度も何度も探してる。

 

「……遅いなぁ」

 

 時計を見る。二十三時。

 

 いつも、一人で待ってる時間は憂欝だ。窓を叩く砂粒の強い音を聞いていると、あの時のことを思い出してしまう。

 

 何もしてないのに攻撃されて、痛くて倒れてもやめてくれなくて……。

 

 過去の痛みを思い出すだけでじんわりと涙が出てくる。

 

 でも、一番つらかったのは痛みでも、話し合おうとしてた相手に撃たれたことでもなかった。

 

 砂嵐の中でも起き上がれずに、冷たい砂の中で感じたあの孤独。誰も助けてくれる人もいないまま、誰も私を見つけてくれないまま。砂に埋もれて、孤独に死ぬ現実。

 

 その冷たい孤独が怖くて仕方なかった。

 

 

 ホシノちゃん、早く帰ってきて欲しいな……。ホシノちゃんに心配は掛けたくないから、あんまり我が儘は言わないようにしてるけれど。実は一人で泣いてることもあったりして、泣き虫な自分が嫌になる。

 

 

 本当は、ずっと一緒に居てほしい。抱きしめてほしい。

 

 

 独りはやっぱり、怖いよ。

 

 

「……よし。泣くの終わり! そろそろ帰ってくるだろうし、準備しないと!」

 

 

 赤くなった目尻を水で洗って、気分を転換する。夕飯は温め直せばいいように鍋へ入れたままにしてあるから、もう火でも付けちゃおうかな。

 

 がちゃり。

 

 玄関の鍵が回る音。

 

「! おかえり~!」

 

 勢いよく立ち上がろうとして少しふらつく。慌てて壁に手をつくと、玄関から呆れたような声が聞こえた。

 

「……無理しないでください。夜遅いときは毎回同じことしてないですかそれ」

 

「えへへ、ごめん」

 

 靴を脱いだホシノちゃんは、砂埃の付いた制服を軽く払ってから部屋へ入ってきた。制服の袖が少しだけ汚れている。きっと今日も学校中を歩き回ったんだろう。

 

 私も手伝えれば良かったのに。

 

「ご飯、温めるね」

「ありがとうございます」

 

 台所へ向かう。副菜を電子レンジに掛けて鍋に火を付ける。

 

 その間、ホシノちゃんは静かに椅子へ座っていた。

 

 ……疲れてる。目の下の隈もずっと消えてない。

 

「……見つからなかった?」

 

 私がそう聞くと。

 

 ホシノちゃんは少しだけ目を伏せた。

 

「……はい。先輩は、本当にどこに……」

 

 やっぱり。

 

「今日は図書室と旧校舎を探しました」

 

 少し間を置いて続ける。

 

「図書館と旧校舎かぁ、懐かしいね。昔の資料をみんなで探したっけ」

「適当に取った本を別の本棚に戻そうとしたウツロは大変でしたね」

「うっ、……ちょっとくらい、いいかな~? ってあのときは思ってたの! 反省してるよ~……。……先輩と一緒に暮らしてたのに役に立てなくてごめんね」

 

 本当なら、私がもっとしっかりしていれば。手帳もすぐに見つかったはずなんだ。

 

 ユメ先輩と一緒に同棲してた私が一番、見つけられないとダメなのに。

 

「……ウツロは生徒会室からあまり出られませんでしたから。仕方ないです」

 

 どこか苦しそうな顔だ。また私は間違えたらしい。ずっとそうだ。私は生まれた時から、間違え続けている。

 

 夕飯を食べ終え、お風呂にも入って。

 

 いつものように寝室へ戻る。同じ部屋。別のベッド。

 

 消灯すると、暗闇の中に砂粒を運ぶ夜風だけが聞こえていた。

 

 ……このまま、ホシノちゃんを苦しい気持ちにさせたまま一日を終わらせたくないな。

 

「……ホシノちゃん」

「なんですか」

「実はね、その、お願いがあるんだけど」

 

 少しだけ沈黙。

 

「お願いにもよります」

 

 毛布を胸まで引き寄せる。心臓が少しだけ速い。

 

 ホシノちゃんは私から我が儘を言われると、大抵は呆れた顔をする。でも、たまに安心したような顔をするから。

 

 だから、小さなお願い。

 

「敬語、やめてほしいな」

 

 暗闇が静かになった。風だけが窓を撫でる。

 

 返事がない。私は横を向いた。

 

 暗くて顔は見えない。

 

「……えっと、どうしてですか」

 

 小さな声。

 

「同い年だし、私だけ普通に喋ってるのもなんだか違和感というか……?」

「癖になってるので、すぐには難しいですけど……いいで……うん、いいよ」

「本当? ふふっ、やった」

「そこまで喜ぶようなことじゃないですから……あっ」

 

 時計の秒針だけが音を刻んでいく。

 

「ぎこちなく喋ってるホシノちゃん可愛いっ」

「……うるさいです」

 

 布団が少しだけ揺れる。

 

「我が儘聞いてくれてありがとね、ホシノちゃん」

「……はい」

 

 また静かになる。会話も途切れたし、眠ろうかな。

 

 そう思った時だった。

 

「…………ウツロ」

「うん?」

「…………おやすみ」

 

 尻すぼみに小さく消えた言葉が、耳に届いた。

 

 可愛い……! 恥ずかしがってるホシノちゃんはレアだから、今すぐにでも抱き着きたいくらいだ。

 

「えへへ、えへへぇ……おやすみ、ホシノちゃん」

 

 眠る前、呆れたような、小さな吐息が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 








罪悪感が感情に蓋をしている。ぎこちない好意。悪くはないですね。ほんのり、少しずつ行きます。


筆者は黒服が好きなので、そのうちウツロちゃんの後方父親面して出てくるかもしれません。
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