アルベル加入後〜バール遺跡まで。
どんどん仲が近づいていくアルベルとネルにフェイトが嫉妬する話。
(アルネル風味ですがフェイネルです)

ほんの数日前まで敵同士だったはずのふたりが、戦場で見せる息の合った連携。自分の知らないネルの顔。共有できない時間。置いていかれるような焦燥と、やがて訪れる別れの予感に、フェイトは何を選び取るのか。

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第1話

 アルベルが仲間に加わって三日目。フェイトはもう、ネルが自分よりアルベルを気にかける回数を数えていた。

 あのふたりがピリピリと言い争っているうちはネルを優しくなだめる口実ができた。そのたびに、ネルとの距離が少しずつ縮まっていった。

 だけど、戦場でのあのふたりは違う、とフェイトは感じる。むしろ誰よりも信頼しているみたいに戦うのだ。ほんの数日前まで敵同士だったというのに。

 別に、仲が悪いよりはいい。最初はそう思っていた。

 顔を合わせれば噛みつき合っていた二人が、今では戦場で背中を預け合い、短い言葉だけで通じ合う。

 ──この気持ちは何なんだ。

 フェイトはいつしか胸の奥がどうしようもなく焦がれるのを感じた。

 

 

 重い目覚めだった。

 何をうなされていたんだろう。何も思い出せないのに、胸の空虚感だけが夢の名残として残っている。

 隣のベッドでは、クリフがまだ寝息を立てていた。閉め切ったカーテンからは朝日が洩れているが、起きるにはまだ早い時間らしい。フェイトは静かに着替えをすませると、部屋の扉を開けた。

「あ……」

 同時に出てきたところらしい、ネルが隣の扉を閉めるところだった。

「おはよう」

 少し目を細めるような彼女の表情と、澄み渡るようなその声を聞いた途端、胸の空虚がすっと埋まる気がした。

「おはよう」

 フェイトは微笑み返すと、どちらからともなく、並んで歩き出した。

「今日は、バール山脈に登るんだろ?」

「うん。そろそろ装備も整ってきたし、ちょうどいい頃かなって」

 ふたりはまだひとけのない宿のロビーへ行くと、ふたり掛けのソファに腰をかけた。

 ネルは懐から地図を取り出して広げた。

「バール山脈へはこのルートからが一番近いよ」

 フェイトも地図を覗き込む。そこには広いベクレル山道の細かいルートや複雑に入り組んだバール山脈の連なりが描かれていた。

「バール山脈内の地図はないの?」

「ないね。ドラゴンが棲みついていてなかなか登れる人がいないからね。古い文献に当たればもしかしたらわかるかもしれないけど」

「行ってみる方が早いか」

「そうだね」

 フェイトとネルは、なんとなく目を見合わせて頷き合った。

 ネルはふたたび地図に目を落として、

「じゃあここからベクレル山道に入って、ここからこうだね──」

 ネルが指差すのをフェイトも一緒に覗き込もうとして、彼女と頭がぶつかってしまった。

「あ、ごめん……!」

 フェイトはとっさに謝ると、急いで頭を離した。

「すまない、近すぎたね」

 ネルが気の抜けたように笑うので、思わずフェイトも笑った。こんなふうに肩を並べて笑い合っている時間だけは、胸の奥の焦燥感が嘘みたいに消えていく。

 地図を畳むと、ネルが立ち上がった。

「そろそろ朝食の支度をしようか」

 フェイトも頷いて、ふたりで工房へ向かった。

 工房へ行って、ふたりで朝食を作りはじめる。

「ずいぶんと大所帯になったね」

 ネルが大量の卵を割りながら苦笑する。確かに、最初はクリフと三人だったのに、今では倍の六人だ。一度の食事で必要な食材もその分増える。

 フェイトは分厚いベーコンを切りながら、

「食費がかさむね」

 と肩をすくめて見せた。

 こうしてふたりで分担して料理をしていると、初めてペターニに来た時、ふたりでカレーを作ったことを思い出す。卵を割るネルの腕が目に入って、フェイトはふとあの時の傷を思い出した。気づけば、その腕をそっと取っていた。フェイトのヒーリングの技術も上がって、医者にもかかった成果が現れたのか、傷ひとつないきれいな白い肌だった。

 ネルは卵の殻を持ったままの腕を、居心地悪そうに引く。

「もう、大丈夫だってば。心配性だねあんたは」

「ネルさんといるとみんなが心配性になるんだ」

「それって私が頼りないってことかい?」

「逆だよ」

 笑いながら、ベーコンを焼く。肉のはじけるいい音が工房に響いた。

 その時、いきなり扉が開いて誰かが入ってきた。寝ぐせだらけのアルベルだった。眠そうに目を据わらせながら、不機嫌そうに訊く。

「飯は?」

 途端にネルは険しい目つきになった。

「見てわからないかい? 今作っているところだよ」

「チッ……」

 アルベルは舌打ちすると、乱暴に工房を出ていった。

 ネルは深いため息をつく。

「……大丈夫?」

 フェイトがネルを見ると、ネルは諦めのように首を振った。

「ああ……厄介な奴がパーティに入ったね」

 なにしろ直前まで戦場で戦っていたのだ。いくらアルベルは作戦には参加していなかったとは言っても、苦渋を飲ませられた味は覚えている。

「どうしてもしんどい時は言って。僕が支えるから」

「すまないね」

 そしてネルがフェイトの裾を引いた。

「頼りにしてるよ」

 フェイトは微笑んで頷いた。この頃、お互いに特別な空気を感じ取っているような気がしていた。

 

 

 だが、ふたりの距離の近さを思い知らされるのは、決まって戦場だった。

「あそこで左を潰してればもっと早かっただろうが」

「あんたが突っ込みすぎなんだよ」

「阿呆、お前が遅い」

「なんだって!?」

(またやってるよ……)

 後ろでずっとネルとアルベルの小競り合いが続いていて、フェイトは思わずため息をついてしまう。

 その時、ネルは急に声を落とした。

「シッ! あの先の角、気配がする」

「あぁ……三匹だな」

 ふたりは短いやりとりの後、フェイトを追い越して風のように駆けていった。フェイトもあわてて剣を抜く。仲が悪いはずなのに、どうしてあんなに息が合うんだろう。

 ふたりを追いかけて角を曲がる。

「双破斬!」

「影祓い!」

 ふたりは言葉通り、三匹のドラゴンを相手に背中合わせに攻撃を繰り返していた。あわててフェイトはアルベルが相手をしていた二匹のうち一匹を打ち上げて引きつける。

「チッ……」

 後ろでアルベルの舌打ちが聞こえたが無視をする。

 ドラゴンが岩に身体を打ちつけながらこちらを向いて立ち上がった。長い首のあたりを斬りつけるが、重い感触が返ってくる。ドラゴンの鱗のような皮膚は硬い鎧のようだ。

 フェイトは剣を槍のように構え直して鼻を突いた。ドラゴンが小さく悲鳴を上げる。

 ドラゴンが吐くブレスは身体が麻痺するので、それさえ気をつければ大丈夫なはずだった。

 その時、急に空が翳った。

 最初は太陽に雲がかかったのかと思った。しかし、それが飛竜だと気づいたのは、ネルが小さく息を吐いた時だった。振り向くと、飛竜はネルに向かって急降下しているところだった。しかしネルの目の前には今にも口を開けようとしているドラゴンもいる。

「……ネルさん!」

 フェイトが急いで駆け寄ろうとしたその瞬間、

「チッ、どけ!」

 とアルベルに身体を押されてつんのめった。

 次の瞬間、アルベルがネルの前に割り込み、ドラゴンの顎を叩き上げて魔障壁を張る。その後ろでネルは流れるように飛び上がり、飛竜のうなじにダガーを突き立てた。

(なんだよ、あの連携……)

 ふたりを見ていると、フェイトの横でさっきのドラゴンに噛みつかれる気配がしたので、あわてて飛び退き、胴を蹴った。

 飛竜とドラゴンを全部倒し終わって、やっと落ち着いた時も、アルベルは何も言わなかった。

 フェイトはネルの傷を見ようとして歩きかけたが、その前にネルがアルベルに歩み寄った。

「すまなかったね……迷惑かけた」

「……勘違いするな。助けたわけじゃねぇ」

 アルベルは粗暴に刀を鞘におさめると、先を歩いた。

「くっ……あいつに助けられるなんて、不覚だね」

 ネルは悔しそうに唇を噛んだ。

 あの時──飛竜が急降下してくる直前、ネルは一瞬動けなくなっていた。それは怯みやすいネルの癖だった。アルベルはその癖を知っているように見えた。だから地上のドラゴンと空中の飛竜もろとも引っかかるように高い場所で魔障壁を張ったように見えた。少しでも時間が稼げるように。ネルの怯みやすい癖は、フェイトがついこの間気づいたばかりの彼女の癖だったのに。

 フェイトはアルベルを追いかけて、隣で話し出した。

「お前、なんでネルさんが怯みやすいことがわかったんだ?」

「は? 見りゃわかるだろうが」

 アルベルはこともなげに言う。フェイトは、そういうことを知るまでに、ネルと少しずつ積み重ねてきたはずだったのに。

「あいつは近距離で戦うとモンスターの視線を集めすぎる。だから俺やテメェが前に出て、飛び道具が得意なあいつには中距離か遠距離で戦ってもらう方がいい」

 アルベルは真剣な口調で言った。

「あぁ、わかったよ……ネルさんとも話してみる」

 フェイトは意外な気持ちでアルベルを見ながら、頷いた。

 その日は戦い方を変えながら、夕暮れまでバール山脈を探索した。

 帰り道、山道で休憩していると、アルベルが岩の上でめずらしいものをくわえていた。

「あんた、懐かしいものを食べてるね」

 見ると、バナナにチョコをコーティングして砂糖菓子を乗せたようなものを齧っている。フェイトは食べたことがないが、何か情緒に訴えかけるような食べ物なのだろうか。

「懐かしいも何も、ペターニに普通に売ってるだろうが」

「そうかい? ブームになったの十年前だっけ? 十五年前?」

「十二年前だ」

「へぇ、そんなに経つのかい? でも、アーリグリフ人のあんたが知ってるなんてめずらしいね」

「昔はよくオヤジに連れられてシーハーツにもよく行っていたからな」

「あぁ……あの頃はまだ戦争がなかったからね」

「戦争が終わって良かったことがあるとすりゃぁ、このチョコバナナDXが自由に食べられることぐらいだ」

「……そう、よかったね」

 ネルが呆れのような憐れみのような微笑みを返しながら、首を傾げている。

 それでもフェイトには、ふたりの会話は楽しそうに見えた。自分の知らないネルがそこにいる。それが、妙に苦しかった。

 

 

 バール山脈やバール山洞、それから新たに見つかったバール遺跡の探索は複雑で、数日かけて行うことにした。

 フェイトは代表して笛の練習をすることになった。特定のリズムで竜骨で作った笛を吹かないと遺跡の竜レリーフが施された扉が開かないのだ。フェイトは首を傾げながらも宿のロビーに籠って日夜練習に励んでいる間、気が気ではなかった。ネルとアルベルが探索のために地図を覗き込むたび、自分の中の何かがすり減っていった。ふたりはいつも何事か話しては口論をしたり、ネルがアルベルに本か何かを読ませていた。ふたりが何をしているのか、笛の練習に追われて知ることすらできなかった。

 それを知ることになったのは、しばらく経ってからだった。

 いつもの戦闘が終わって、少し怪我をしていたネルにヒーリングをするために手を翳そうとして、一瞬先にアルベルが「ヒーリング」と唱えた。

 フェイトは思わず目を見張った。いつのまにおぼえたんだ? フェイトの内心を察したのか、ネルが少し得意げな顔をする。

「アルベルにヒーリングをおぼえさせたんだ。あいつは見たところ、施力が高いからね。狙い通り、瞬発力も詠唱時間も段違いに早い」

「おい、便利に使ってんじゃねえぞ」

 アルベルが横から苦情を言う。

「悪かったね、助かった」

 ネルがアルベルの労をねぎらうように肩を叩くので、フェイトの差し伸べた手は空中で行き場をなくした。

 以前ネルの腕に傷薬を塗ったり、ネルの傷のためにヒーリングを覚えたのはフェイトだったはずなのに。

 気持ちがズタボロのまま、竜のレリーフに向かって悲しみの笛を吹く。だがレリーフの顔は怒り顔で、何回もドラゴンが現れてはフェイトたちを邪魔した。

 ふたりは何回フェイトが失敗しても、文句も言わずにドラゴンを倒して、最後に傷を確かめ合う。

「おい、ネル」

 アルベルがネルを何気なく呼んだので、フェイトは驚いた。

「なんだい」

 ネルも特に気にした様子もなく、当たり前のように返事をする。

「傷」

「ん」

「ヒーリング」

「ありがと」

 自然体で接するふたりはまるで長年連れ添った夫婦のようだ。さすがに本当に夫婦だなんて思っていないけど、そんな関係だなんて知らなかった。信じたくなかった。自分はまだ「ネルさん」止まりなのに。そしてそう呼ぶ時は、ネルもどこか一歩引いた大人としての態度に戻る気がして、その呼び方の差に毎度胸を抉られた。悲しみのメロディーしか吹けない打ちひしがれるフェイトの心の傷は、ネルのヒーリングでも治らなかった。

 結局その日は宿に帰ることにした。

 フェイトがふたりに謝ると、アルベルは「……フン」とそっぽを向き、ネルは「あんたに任せっぱなしですまないね」と申し訳なさそうに謝るのが、フェイトには尚更つらかった。

 とぼとぼとふたりの後ろを歩いていると、

「……疲れたね」

 とネルが小さな声でぽつりとこぼした。

「だらしねぇな」

 フェイトはネルの後ろ姿を見ながら、寂しい気持ちだった。

(……僕には、いつも『大丈夫』って笑うのに)

(……僕には見せないのに)

(……アルベルには言えるんだ)

 それが嫉妬なのだと認めた瞬間、胸の奥が強く痛んだ。

 フェイトはどうしようもない気持ちで拳を握った。

 自分には出せなくて、アルベルには出せるネルの顔。

「はぐれるよ」

 ネルが当然みたいにフェイトの手首を掴んできた。

「……うん」

 すぐに離したのに、フェイトのほうはその感触や体温を忘れられなかった。

 

 

 宿に帰って、また笛を吹いていると、風呂上がりのネルがフェイトの目の前に座った。

「あんた、大丈夫かい?」

「大丈夫だけど」

 フェイトは知らず硬い声で応えた。それを感じ取ったネルが黙り込む。こんな態度を取りたいわけじゃないのに、自分が抑えられない。

「アルベルと」

 フェイトは口を開いた。

「ずいぶん仲が良いんだね」

 ネルは不審そうに眉を顰めた。

「何だい? 藪から棒に」

「別に」

 フェイトは怒ったようにそっぽを向いた。ネルが少し困惑したように笑う。

「拗ねてんのかい?」

「拗ねてない」

 拗ねたいわけじゃないのに。フェイトの心はもうボロボロだった。

「フェイト──」

 ネルが何か言いかけたのはわかっていたが、こんな自分を見られたくなくて立ち上がった。

「おやすみ」

 突っ切るように廊下を歩く。ネルから返事はなかった。振り返ると、ネルは何か言いたげな顔のまま立ち尽くしていた。

 宿屋の客室に入ると、同室のクリフが腕立てをしているところだった。

「よう」

 クリフの挨拶も無視して、フェイトは自分のベッドに座る。何もかもぶち壊している気分だった。こんなはずじゃなかったのに。

 頭を抱えていると、クリフに肩を叩かれた。

「おい、どうした? 長旅で疲れちまったか」

「お前に関係ないだろ」

 フェイトはクリフを睨みつけると、クリフは急にニヤニヤした。

「おっと、ひょっとして恋の病か」

「なんでそうなるんだよ」

 クリフの軽口に付き合っていられないとばかりに布団をかぶると、上からクリフが言い聞かせてきた。

「まぁでもあまり入れ込みすぎるのはよくないぜ。もうすぐ俺たちはこの星とはオサラバだ。そのことを忘れんなよ」

 この星を出る……? いきなり冷水をかけられた気がした。今、そのことで動いているのに、フェイトは信じられなかった。父さんとソフィアを助けに行けば、ネルと別れるのか?

 他の誰よりもネルが体温を持ってここに存在しているのに、ネルはアルベルと「過去」を共有し、自分は「未来」へ去っていく。今、目の前で体温を持って存在しているネルの隣に、自分はどこにも繋がっていないのではないか、という強い焦燥感が胸を支配した。

(ネルさん……)

 このままじゃだめだ。フェイトはネルにさっきあんな態度を取ったことを謝りに行こうと思った。

 

 

 隣の部屋を控えめにノックすると、ネルが出てきた。まだ寝ておらず、パジャマ姿だった。

 ロビーで話そうと言って連れ出した。

 もうすっかり他の客は寝静まって、しんとしていた。

「さっきはごめん」

 フェイトは頭を下げて、さっきのことを謝った。ネルは困ったように、フェイトを見つめている。

「なんであんたはそんな顔してんだい?」

「どんな顔?」

「あんた、笑ってない」

 フェイトは透き通るようなネルの真剣な目を見た。

「……嫌だったんだ」

 フェイトは心の中を正直に言った。

「何がだい?」

「わからない。でも……アルベルといるネルさんを見ると、置いていかれる気がして……」

 この数日間の苦しみをフェイトが打ち明けると、ネルは襟元に口を沈めて言った。

「私を置いていくのはあんたの方じゃないか」

 予想もしていない言葉だった。

 ネルはまっすぐにフェイトを見つめる。そんなふうに思っていたなんて、知らなかった。今まで自分ばかりが焦っていると思っていたのに。フェイトは首を振った。

「……怖いんだ」

「何がだい?」

「全部失うのが」

 この星から出ることになれば、もうネルのそばにいられなくなる。ネルの笑顔も遠くなる。ネルの隣にいるのは、自分ではなくなると考えただけで気が狂いそうになる。

 そう考え続けるフェイトのそばに、ネルは静かに座り直した。

「失うのが怖いなら、なくなる前にちゃんとつかみな」

 フェイトはネルを見つめる。それはネルなりの鼓舞だった。

 

 

 翌日、フェイトは行動に移すことに決めた。

 ネルを伴って、後回しにしていたアーリグリフ王の届け物をしにシランドへ行くことにしたのだ。ほかの仲間は残ってアイテムクリエイションのスケジュールを組んでもらうことにする。

「なんだ、このあからさまなパーティは……」

 そんなアルベルの文句も、今のフェイトには通じなかった。

 いそいそと装備を整え、宿屋を出て、太陽を浴びる。旅立ちには良い天気だった。

 隣でフェイトを見つめるネルに、フェイトは手を差し出した。

「行こうか……ネル!」

 ネルは驚いたように一瞬目を見開いたが、

「ああ!」

 と微笑んでフェイトの手に手を重ねた。ネルの指先がわずかに震えた。

 今度は、はぐれないようにじゃない。離したくないから手を繋いで微笑み合った。

 過去でも未来でもなく、いまこの瞬間だけは、確かに隣にいられると思った。


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