ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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 作者は吹替え版コマンドーをすでに持ってるのですが、さらに日本語吹き替え完全版を購入すべきか否かという重大な局面に立たされております。あと、ゆゆゆゲームのためにVitaを買うべきか否かも迷っています。情報を見る限り面白そうなんですよね。
 ちなみに作者は未だにプレ2ユーザーです。
 
 


9・おいこれは完全なる契約違反だぜぇ

 合宿(笑)で勝利を祝い合った後、私達は新たな敵と戦う必要があった。すなわち、夏休みの宿題である。小学校の頃は夏休みの友とか言う冗談みたいな名前のドリルをやらされていたけど、中学に上がってからは無くなっちゃったわ。ただし、量と内容は濃くなったけど。これで出来たってか、ふざけやがってぇ。

(終わらない)

 私は部屋でそんな宿題と戦っていた。膨大な宿題に、鉄パイプを投げて蒸気抜きしてやりたい衝動に駆られていた。

「ねー、樹ー」

 そんな時、お姉ちゃんが私に呼びかける。

「悪いんだけどさー買い物行ってきてくれる?」

『壊物?』

「違う、買い物」

 買ってきて欲しい物はメールで送ると言ってそのままお姉ちゃんは別の部屋に消えた。まぁ、宿題の気分転換がてら行ってこよう。

 

 買い物へは自転車を使う。いつも通学に使っている物で、高級品ではないけどちょっとやそっとでは壊れない。サドルはビニール。でもレザーなんて夏は蒸れるわすぐひび割れるわ、碌なことがない。

 私は自転車にまたがると商店街に向けてシャーッとこいで行った。余裕の音だ。夏とは言え、風は心地よい。立ち乗りなんかすると、風が身体を包んで最高に気持ちよかった。

 

 商店街は旧世紀の内に一度衰退しきったらしいけど、神世紀になってから再び繁栄し始めたという。時刻はちょうど買い物時で、商店街は人でごった返し、とても賑やかだった。

「今日は魚が安いよー!」「奥さん寄ってきな!」「キャディがお好き? 結構!」「リコ~ル、リコ~ル」

 個人的にはリコール社が気になるけど寄ってる暇はない。

(さて、最初は……)

 八百屋さんだ。買うものはキャベツと人参——人参は嫌いだなぁ……。最初はうっかり買い忘れたことにして買わないでおこうと思った。でも、人参に含まれるビタミンAは目に良いとか夏凜さんも言ってたし……。

『これください』

 結局ちゃんと買うことにした。八百屋さんにメモを渡して、買いたいものを伝える。

「お嬢ちゃん声が出ないのかい」

『ちょっと喉を痛めてまして』

「災難だねぇ。よし! 人参一本おまけしてあげよう」

『ありがとうございます』

 これは余計なお世話だった。でも、ご厚意は嬉しいので受け取っておく。今晩は人参のステーキか?

 商店街は自転車は押して歩く。乗っていたら通行の邪魔だし、たまに通る業務用のトラックなんかにこすって変な因縁つけられたら堪ったものじゃない。

(暑いなぁ……)

 人の熱気というのはこんなに熱いものなんだなぁ。お姉ちゃんはこんな中を買い物してるんだ。

(えっと、次は……)

 メモを覗きつつ、買い物ミッションを遂行していく。

 買い物自体はすぐに終わった。こんな暑い日だからスピードが命となるのは分かっていた。サッサとしないと魚なんかが腐ってしまう。

 すると、そこに「樹!」という筋肉質な声が響いた。振り返ると、ピックアップトラックの運転席から顔を覗かせる大佐の姿があった。

「このヤロウ生きてやがったか!」

『大佐もお買い物ですか?』

「近くの木材屋に納品しに来た。その帰りだ」

 そういえば、大佐って林業して生活してるんだっけ。中学生なのに大変だ。中学生なのに。何度でも言うよ。中学生なのに。

 それにしても、大佐の車はえらく年季が入っているようだった。

『車かなり古いですけど、車検通してるんですか?』

「いや、問題ない。中古だが、エンジン以外どこも壊れていない」

『物持ちいいんですね』

「そうだ樹、折角だから乗せてやる。外は暑いだろ」

 それはありがたい話だった。車の中は一体全体どういう理屈か冷房が効いてるみたいだし、お言葉に甘えることにした。自転車は荷台に載せる。

 車の中は予想以上に快適だった。カーステレオからは最近話題の連続テレビ小説『空手の恵子』のテーマが流れている。

「樹は風の手伝いで買い物に来てたのか」

 頷いてイエスと答える。

「偉いな。俺にも君みたいな妹がいたら、木こりの仕事も楽になるだろうに」

 大佐に妹がいるとしたら、どんな感じなんだろう。やっぱり、筋肉モリモリマッチョウーマンになるのだろうか。いや、意外と可憐で清楚なお嬢さんになっていたかもしれない。 

 ここで私はふと大佐の家族がどんな人なのか知りたくなった。こういう込み入った事は訊かないに越したことは無いのだろうけど、どうしても気になった。

『大佐のお父さんとお母さんは?』

 信号で止まった時に質問した。

「家族か……実は、家族の記憶が薄ぼんやりとしかないんだ」

(?)

 意外な返答だった。てっきりお役目のために別れて暮らしているか、死別しているものだと思っていたから、驚いた。

「はっきりしている一番古い記憶は大赦本部の病室にいた記憶だ。それ以前の——小学生時代とか、家族の事はどれも断片的でしかない。大赦の施設で検査を受けた俺は、そのまま讃州中学に入学して、風と勇者部を作った」

 この間の合宿で大佐が話してくれたラブレター騒ぎも断片的な記憶の一つなのだろう。

「家族も……妹か、弟がいた気がする。もしかしたら従妹だったのかも……家も、それほど裕福ではなかった……いや、そこそこな名家だったような気も」

 何にせよ、新たな新事実だった。まさか大佐にこんな過去があったなんて。

 衝撃の事実に開いた口が塞がらない私だったけど、大佐にとってこの話はもうおしまいだったようで、彼の興味は別の方向に向いていた。

「樹、悪いが俺の買い物に付き合ってくれ」

『壊物?』

「買い物だ」

 大佐は商店街の一角にある店を指さした。看板には『アラモ鉄砲店』とある。この町に銃器店なんてあったんだ。意外だなぁ。

「あそこで武器を買う」

『なんで一介の中学生が武器を買いこむんですか』

「男の嗜みだ」

 そう言うと大佐は車を加速させた。さっきまでしんみりした感じだったのに、突然しんみりとは無縁な行動を取る大佐はやはり侮れない。

『なんでアクセル踏みこんでるんですか』

「入店するためだ」

 車は唸り声を上げて加速する。そして、目的地『アラモ鉄砲店』に文字通り突っ込んだ。ガラスの割れる音と、商品棚が砕ける音、そしてポール的な何かが倒れた『ポーンッ』と音が私の鼓膜を叩く。結局壊物じゃないか!。

 粉塵が立ちこめる店内で店主らしく人が吠える。

「バカヤロウ! 入り口をめちゃくちゃにしやがって!」

「いつもやってることだろうが! 今さら御託を並べるな!」

「毎度毎度入り口を破壊されちゃ堪らんのよ!」

 話から察するに、大佐はこの店の常連で、訪れる度にこうして入り口を破壊しているようだ。やることが派手だねぇ。

「まったく。で、今日は何買いに来たんだ」

 店主はひとしきり怒ると接客モードになった。

「そうだな。とりあえず、可変式プラズマライフル」

「ここに在るもんにしてくれ」

「なら、12ゲージオートローダーにウジ9ミリ……」

 大佐は色々な銃を手に取り吟味している。その顔つきはプロフェッショナルそのもので、とても中学生には見えない。

「で、何になさるんで」

「全部だ」

(大人買い……)

 銃のまとめ買いが出来るなんて、さすがは大佐、大人びている。

 店主は言葉を聞くと嬉しそうに「今日はもう店じまいだよ!」と小躍りしながら言った。

 そんな店主を尻目に、大佐は弾倉に弾丸を入れていた。

「ああ待って、ここで入れちゃダメだよ」

「良いんだ」

 言うや大佐は銃口を店主に向けて、引き金を引いた。当然ながら店主はもんどりうって倒れる。大佐はそのまま何事も無かったかのように銃を集めて荷台に載せると、運転席に戻って来た。

「行こうか」

『待って』

「なんだ」

 なんだではない。このまま見過ごせば、私は強盗殺人の共犯者になってしまう。ここは後輩として、自首して罪を償うよう説得しなければ。

「樹が何を勘違いしてるのかは知らんが、あれは麻酔弾だ」

『でも、万引きしてるじゃないですか』

「これは後から大赦が払ってくれる。別れ際はいつもこうしているんだ」

 なんだそりゃ。

 そういえば、外にいる人も店に車が突っ込んで店主が射殺(麻酔だけど)されたのにそれが日常風景の一つであるかの如くスルーしている。近くにいた聖歌隊のちびっ子たちも少しびっくりした程度で、全く季節外れの『諸人こぞりて』をようようと唄っている。この人(大佐)の周りには勇者部以外のまともな人がいないのだろうか。

「変な奴だな」

 大佐は一つ笑うと車をバックさせて発進させた。外からは、聖歌隊の歌声が聞こえる。

「主は来ませり~シュワキマセリ~シュワ来ませり~」

 不思議と他人事とは思えない歌だった。

 

 

 マンションにつくと私は大佐にお礼を言って車を降りた。そういえば、と私はスケッチブックに文字を書く。

『エンジン壊れてるのに、何で動いてるんですか』

「ン、この車か?」

 大佐はクラクションを一つならした。

「位置エネルギーだ」

『なるほど』

「それじゃぁ、またな。I'll Be Back」

 そう言うと大佐は車を発進させて坂道を登っていった。

 目の前で凄まじいまでの矛盾が発生した気もしたけど、それよりも買ってきた魚だ。冷蔵庫に入れないと。

 

 部屋に戻るとお姉ちゃんが洗濯ものを洗濯機から取り出しているところだった。

「お帰り」

 私は頷いて答えて、スケッチブックを見せた。

『お魚冷蔵庫に入れとくね』

「ああ、ありがと」

 何となく、お姉ちゃんに元気がないような気がする……気のせいか。うん。

 冷蔵庫に買ってきた食材を入れる。買い物も終わったし、宿題しなきゃ大赦も、宿題免除みたいなご褒美くれてもいいのに。

「樹」

 ため息をついていると後ろからお姉ちゃんが声をかけてきた。振り向いて、なに? とジェスチャーする。

「明日って、部活あったわよね」

 頷いてイエスと答える。

「そっか、うん」

 お姉ちゃんは心なしか沈んだ声で言うと部屋の外へと姿を消した。この匂わせぶりな態度、何かあります。私は鼻が利くから。

 でもまぁ、口ぶりからすると明日の部活で分かるだろうし、深刻そうとは言えどうせしょうもないことだろう。なにしろ、もう戦いは終わって、後はいつもと変わらない日常が続くだけなのだから。

 

 

「バーテックスに生き残りがいた」

「おぉイエイエイエふざけんなそんなのアリかよ」

 午前のまだ涼しい部室で、お姉ちゃんの口にしたことはあまりにも衝撃的だった。

 バーテックスがまだいる。つまり、戦いは終わっていない。部室に集まった勇者部一同はそれぞれ違いはあるものの、一様に驚いた。

 もしかしたら、昨日大佐が武器を買いこんでいたのは、このことを知ってのことだったのかもしれない。

そういうわけで、お姉ちゃんの手から、大赦から送られてきたスマートフォンが大佐を除く全員に配られた。

「いつ来るかは分からない。でも、来るのが解った以上、そう遠くない内に襲来するわ……ごめんね、ホントいつも突然で……」

「いいですよ。だって、このことは風先輩も知らなかったんですから」

 東郷先輩がフォローする。勇者の事を始めて知られたときは「この嘘つきめぃ!」と筋肉質な怒り方をしていたのに、今ではすっかり勇者の一人。お姉ちゃんに学んだのかな?

「その通りだ」珍しく、大佐もフォローに回る。「それに、これを倒せば今度こそ終わり。お役御免で、山の小屋で静かに暮らせる」

 友奈さんや私も、どこか沈むお姉ちゃんを慰めた。夏凜さんも、

「何よ、風らしくもない。勇者部のデスクワークで鈍ったのか? あ?」

と挑発的に慰めた。

 お姉ちゃんはちょっとだけ涙ぐんで、

「みんな、ありがとう。あと夏凜は後で屋上な」

「えっ」

 お姉ちゃんは開け放たれた窓に近づくと、望む海に向かって叫んだ。

「いつでも来いバーテックス! 私達五人の勇者(コマンドー)と一人の人間武器庫が相手だー!」

 

 

 

 

 

 

 大赦の一角、大橋の望める祭壇に置かれたベッドの上で、身を沈めながら、全身を痛々しいまで包帯で包まれた一人の少女が、口述記録装置にぶつぶつと語りかけていた。

「——拝啓、勇者部の皆様。カンボジアが天国と思える暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。さて、この度このような手紙をお送りしましたのは——」

「園子様! 園子様!」

「もぉ~口述記録なんだから余計な声入れたらダメだよ~」

 乃木園子は慌ててやって来た大赦のカカシ(神官)にゆったりした声で注意した。しかし、カカシは「もぉ~、じゃありません!」と言った

「園子様が現勇者をここに呼び出そうとしていると小耳に挟みまして駆け付けた次第でございます。これは、真で御座いますか」

「真で御座いますよ~」

「おやめください!」

 大赦の神官たちは一様に仮面を付けて表情が見えなくなっている。しかし、挙動や声音で大体の感情というものは分かる。園子には目の前にいる神官が大いに慌てているのが目に見えて分かった。

「第一、手紙を出そうとされても書史部の巫女や大宮司が検閲なさって配送できませぬ」

「え~」

「え~、では御座いません!」

「あなた明階でけっこうえらいんでしょ~どうにかならないの~?」

「なりません!」

 神官は言う。そんな彼に対して園子は「それならね~」と、微笑みながら、

「今度バーテックスが来た後、ここに呼び出そうかな」

 園子の近くには祠があった。讃州中の屋上に置かれているものと同様である。この祠に祀られているのは他ならぬ園子であり、邪魔さえ入らなければ戦いの後の勇者を呼び出すことは出来た。

 それを聞くや否や神官は恐れおののいたような調子で、

「なりませぬ! なりませぬ! そのようなことは! 第一、無許可の呼びだしは犯罪でございます! 巫女様にバレでもしたら」

「いつも平気でやってることだろうが! 今さら御託を並べるな!」

「そんなぁ」

 神官は気圧されて声をすぼめる。しかし、彼も負けはせず、言い返した。

「私は園子様に仕えし宮司で御座いますが、それ以前に神樹様に仕えし一神官でございます。私とて引き下がるのは」

「ふ~ん。じゃあ、『あの事』を査閲部の巫女様に教えちゃおっかな」

「何を仰ります。小生は清廉潔白で御座います」

「大事な仕事をフイしたことがあったよね~? 部下の巫女にナニさせて」

「……ご、ご存知でしたか……」

 しばらく沈黙が続いた。その沈黙の後、園子は、

「まぁ、失敗はあるよ~。神官も人間だからさ。だから、私が勇者を呼び出そうとしたのも、『うっかり』見落としちゃったのかもね~」

「………」

 再び沈黙。そして、神官は深々とお辞儀をすると祭壇を後にしていった。

 誰もいない祭壇。遠く水平線に、太陽が沈もうとしている。美しかった。が、それは園子にとって既に心を揺さぶられるものではなかった。

「真実ほど残酷なものは無い、か……」

 彼女は独り言ちる。

 余計なお世話かもしれないとも思う。しかし、それを知らされないままというのは、もっと残酷なことだ。もし知っていたら、もっと……。

 彼女は首を振った。どちらにせよ、久しぶりにわっしーに会える。そう思っただけでこみ上げるものがある。

 とりあえず、彼女はそんな興奮を抑えるべく、プレデター2を視聴することにした。

 

 

 

 

 

 

  

 




次話は勇者部の話はお休みして、時間を二年戻します。
そこそこ重要なような重要でないような話なので、期待せずにお待ちください。

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