ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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アニメ五話に相当する話です。
今回はえらく早足な話だとは思うさ。でもアニメでも早足な話だったろう? 現実を受け止めろ。
このことを踏まえて。



7・ワイヤーに気を取られて、こっちは見落とすかも

 

 さて、突然だけど私達讃州中学勇者部はただいま最大の危機に直面しております。

 

 

 全ては、久々の樹海化警報から始まった。

 私たちはその時部室で秋の文化祭へ向けての話し合いをしていた。脚本も大まかな流れが決まり、配役も決定した。

「クローディアス、俺の親父を殺したのは……大間違い(ビッグ・ミステイク)だぜ」

 友奈さんが葉巻(チョコレート製。甘い)を咥えながら言う。この人の演技の幅の広さにはいつもながら驚かされる。

「友奈ちゃんカッコいいわよ」

「なんで友奈っていつも筋肉質な役回りなの? メイトリックス大佐にやらせたほうがスッキリするのに」

「もう夏凜ちゃんったら短絡思考なんだ」

 東郷先輩と夏凜さんも感心している。友奈さんの男前演技には定評がある。どうも彼女には『パトリック・ロドリゲス』というイケメン系の持ちキャラがあるらしい。

「大佐は舞台監督をやりたがってるから無理なのよ」

「ふーん」

 そんな時だった。アラームが鳴り響いたのは。 

 私達はそれを聞いて、野郎ぉぉぶっ殺してやあぁぁぁる! と戦意を高めていた。今日も哀れなバーテックスの亡骸が生まれるのだ。可哀想に(適当)。

 そして、一帯が樹海化した時、私達は地平線の向こう……神樹様の結界の外に、何と七体ものバーテックスが蠢いているのを目にした。

 おぉイエイエイエイエふざけんなこんなのアリかよマジで契約違反だ。七体一気に攻めてくるなんて全く冗談じゃないよ。

 

「でもさ、逆に考えれば、今日でまとめて倒せちゃうって事だよね」

 呆然とする私たちに友奈さんが言った。

 なるほど、そう言われればそうだ。こんなの、願ってもない好機だ。コイツは最高のイベントだぜ。

「そうね、ウジウジしてて何か解決するわけではないし。さ、みんな頑張るわよー」

「おー!」

 私達は円陣を組んで互いを励ましあった後、気勢をあげ、変身した。

 今日の大佐の装備はでっかいチェーンガン。背中に弾薬箱を背負って、相変わらずファンタジーの『ファ』の字もない。でも、何とも頼もしい姿だった。

「さー、おいでなすったわよ!」

 さっそく七体の内一体が高速で飛翔してきた。不気味なのか可愛いのか分かんないデザインの、深海魚的なバーテックスだ。刺身にするぞ。

「一番槍ぃぃぃぃ!」

 板前は夏凜さんだ。華麗な太刀裁きでバーテックスを見事な活造りにしてしまった。マズそう。そして封印を始めると同時、露出した御魂は大佐がチェーンガンで微塵にしてしまった。

「凄い威力ね」

『ショッギョムッジョ!』

 夏凜さんと義輝は感嘆の声を上げる。あんなの食らったら怪我じゃ済まないだろう。この調子で行けば、七体なんてあっという間に倒せてしまいそうだ。

 でも、慢心はいけない。こういった感じの『わざとやられに来た』みたいな敵は囮だったりすることもある。

「あっ!?」

 友奈さんが叫んだ。振り向くと、いつの間にかでっかいバーテックスが私達の後ろに立っていた。ほれみろ、ホントに囮だったじゃないか。

 そのバーテックスは大きなドームのような形状で、頭頂部に大きな鐘が吊るされている。緑っぽいし、クリスマスツリーの化け物のようだ。

 ふざけた見た目だったけど、攻撃方法は地味に強力だった。そいつは頭の上の鐘を鳴らして私たちを攻撃してくる。鐘が鳴るたびに発せられる不思議な波長が私たちの脳をかき回す。ずっと聞いていたら、間違いなくおかしくなってしまう。

「ぐううう……」

 みんな頭を押さえて苦しがる。大佐はなぜか平気なようだったし、東郷先輩も音の影響外にいた。でも、二人とも別々のバーテックスの相手で私たちの援護どころではない。

 私はこれまで色んなバーテックスを見てきたけど、こいつほどふざけたバーテックスは流石に初めてだ。歌や音楽は元々人を幸せにするためにあるものだ。それを作りだす音をこんな風に使うなんて。ふざけやがってぇ!

「やめろクリスマスツリー!」

 頭の中の『ガンガン』をどうにか押さえ込んで私はワイヤーをバーテックスに発射した。どうやら私自身扱いが上達してたみたいで、四本のワイヤーはバーテックスの鐘にぐるぐると巻き付き、がっちり固定した。

 鐘の音が止む。

「でかした樹!」

 お姉ちゃんが飛びあがって、クリスマスツリーのバーテックスを両断する。んでもって封印の儀でベロリンチョと顔を出してきた御魂をバッツリ切り裂いた。

「どーよ!」

「流石ね犬吠埼風」

 これで倒したバーテックスは二体。始まって二千文字も行っていないのにご覧の有様だから、バーテックスも大したことない。

「この調子で行くわよー。東郷、首尾は?」

 お姉ちゃんが訊くとスマホから威勢のいい返事がかえって来る。

『交戦中ですけど、どうにかなりそうです』

「ご立派! ジョンは!?」

『ゲリラ基地を制圧!』

 戦局は良好らしい。

 でも、バーテックスは囮を使ったりと様々な戦術を駆使するようになっている。油断は禁物だ。

「!? お姉ちゃん危ない!」

 そんなことを思っているそばからお姉ちゃんが背後から襲われた。そいつはデカい水玉を抱えているバーテックスで、その水玉でお姉ちゃんを包み、天高く放り投げた。

「もががが」

「風先輩!?」

 敵はお姉ちゃんを溺死させたいらしい。ヒデェ事しやがる。

 水だから絶大な切れ味を誇るお姉ちゃんの大剣も空しく水を切るだけで、しかも面積が広い分上手く振るえないようだ。

 勇者(コマンドー)は神樹様から神の力を得ている。だから、理論上あのバーテックスの水を全部飲み干すことだって可能だ。でも、普通の脳みそをしていたら、そんなことはしない。

「ああ、お姉ちゃん……!」

「もごごご」

 絶体絶命だ。助けたいけど、私のワイヤーじゃ何もできない……。お姉ちゃんの葬式の喪主なんてヤダよ、私……。

 もはやこれまで、と私達はらしくもなく諦めかけた。

 その時。

「んんんんぬおおおおお!」

 溺死寸前だったお姉ちゃんの身体が突然まばゆい光を放ち始めた。その光に導かれるように、神樹様の根から細い枝が伸びている。そして光が晴れるとそこには。

「お姉ちゃん!? そのカッコは!?」

 なんか衣装のカッコよくなったお姉ちゃんがいた。お姉ちゃんは大剣をひと振りすると水を薙ぎ払い、私の側に降り立った。

「お姉ちゃん、いったい何があったのか説明して頂戴!」

「これはアレね、『満開』ってやつね」

「まんかい?」

 そういえば、アプリの説明に書いてあった気がする。勇者(コマンドー)は経験値をためると『満開』して、更に強くなることが出来る……と。

「ふふ~ん、どうよ、夏凜&ジョン」

「ま、まぁまぁ凄いんじゃないの?」

「すごぉい! こいつはカッコいいな!」

 夏凜さんと大佐もちょっぴり羨ましそうだ。大佐は勇者(コマンドー)じゃないから満開は出来ないんだけれども。

「私も満開できるかな」

「一応、樹もゲージ、溜まってるみたいよ?」

 夏凜さんが私の服を指さしていった。つまり、私も満開できるということだ。

「お姉ちゃん、満開ってどうやるの?」

「良く分かんないけど、変身の時と似たようなもんよ」

「なるほど。では、満開!」

 言うや、私の身体も光に包まれた。神樹様の根から、枝がうねうねと伸びてくる。中々どうしていやらしい動きをするもんだから、最初はストリップかな? とも思ったけど、どうやらこの根の先から神樹様の力を受け取れるらしい。

 果たして、私も満開を遂げた。

 服装はドレス調のものからどことなく巫女装束のような趣になり、背中には光背が付いていて、それには花が均等に並べられている。この花は、いつもワイヤーを吐き出していたアレのようだ。

「お姉ちゃん、どうかな?」

「すごぉい! こいつは神々しいな!」

 この満開というのは凄かった。力が無尽蔵に湧き出てくるような気がする。こんな力があれば、バーテックスも敵じゃないように思えた。

『もしもし、聞こえますか!?』

 東郷先輩が何かに気付いた。

「東郷、どうかした!?」

『一匹素早いのが神樹様の方に向かいました。私の狙撃でも当てられません……どうにかできますか!?』

「どうにかするしかないでしょうが!」

 お姉ちゃんはそう言うや私の方を見て、

「樹、頼んだわよ!」

「わ、私!?」

「ワイヤーの方が敵を捕えやすいから」

 なるほど。

 そうともなれば、ここは一つ頑張らなきゃ。

「カッコいいとこ見せましょ」

 私は飛び上がった。向うに、上半身をメトロノームのように振りながら疾走するバーテックスの姿が見えた。面白い見た目だ気にいった。倒すのは最後にしてやる。

 他の個体と比べると小柄で、見つかりにくいはずだ。

 ああいう輩は縄でとらえるのが一番。旧世紀の西部劇みたいに。

「えいっ!」

 無数の花弁から一斉にワイヤーが飛びだす。飛びだしたワイヤーは一つ一つ制御できる。私の脳がどうなったのかは知れないけど、この数を制御できるのは神樹様の力かな。

 バーテックスは御用となった。

「数秒前に最後に倒すと約束したけど」

 あれは嘘だ。

「お仕置きっ!」 

 ワイヤーに力を込めるとバーテックスはあっさり細切れになった。御魂も、ちんまりしたものが一つ出てきただけだったから、ワイヤーで貫いて壊した。

『樹やるぅ』

「もちろんです、勇者(コマンドー)ですから」

『それでだけどね樹、緊急事態よ』

 電話口のお姉ちゃんはおどけた調子だったけど、言葉の節々に緊張が走っていた。ふと、先ほどから結界の外にいたバーテックスに目をやる。

「な……なに、あれ……」

 私の目に飛び込んできたのは、バーテックスたちが合体しようとしている様だった。

 バーテックスたちは互いに身体をこすり合わせ、融合したり、または分離したりしている。まるでお友達みたいだね。ボディランゲージで愛情を示してる。って呑気なことを言ってる場合じゃない。

「ど、どうしよう……」

『私が弾幕張ります』

 私達が途方に暮れた時、上空に突然戦艦が出現した。

「見ろ! 象さんだ!」

「違うわよジョン。あれは東郷よ。満開したのね」

 東郷先輩の満開は色々凄かった。私達は武装が増えたり衣装が変わったりだったけど、東郷先輩はレベルが違う。たくさんの砲台を乗せた戦艦になっている。

 空中戦艦と化した東郷先輩は一斉に砲を撃った。紫色の砲撃が、合体したバーテックスの表面で炸裂する。やることが派手だねぇ。

「みんな、東郷に続いて!」

 お姉ちゃんの指示が飛ぶ。勇者部の一斉攻撃が始まった。

 バーテックスは合体することで私達勇者(コマンドー)に必死で立ち向かおうとしたのだろう。でも、それは無意味な努力というもので、私達はその程度でどうにかなっちゃうほどやわじゃなかった。

 特に人間戦艦(東郷先輩)人間武器庫(メイトリックス大佐)の攻撃が凄まじい。バーテックスの身体を回復させる間も与えずゴリゴリ削っている。

「なんだか、バーテックスが可哀想になってきた」

「こればかりは友奈に同意するわ……」

 可哀想には思っても、慈悲はない。だって、放っておいたら、世界を滅ぼされちゃう。

「さぁ、お次は封印の儀だ!」

 お姉ちゃんが吠える。私達は位置について、儀を始めた。

 すっかり弱ったバーテックスがベロン、と口を開け、御魂を露出させる……。

「何か御魂、デカくない?」

 夏凜さんが言った。

 『何か』どころの大きさではない。御魂のほとんどが宇宙空間に出てしまっている。

「おおっ、ホントにでけぇな! おお、ホントにでけぇな!」

「友奈ちゃんったら何で二回も言うの?」

「いや、これはさ、大事なことだから、ほら……」

 あまりの事に友奈さんのテンションも変なことになっている。

「でも、どうするんですか、これ……」

 私は封印を続けながらみんなに訊いた。ウーン、という唸り声が帰って来るばかりである。そんな中、大佐が一つ作戦を立てた。

「俺に良い考えがある」

 

 作戦はこうだ。

 まず、東郷先輩と友奈さん、そして大佐が御魂のある宇宙空間まで上がる。友奈さんは東郷先輩の空中戦艦に乗って、大佐はロックンローリングジェットなる装備で一緒に飛んでいく。

 次に、御魂の傍まで言ったら、友奈さんの勇者パンチで御魂に穴を開ける。

 そして最後に、

 

「俺がこの鉄パイプを投げつける」

 大佐はどこからともなく大きなパイプを取り出した。何故パイプなんだろう。

「このパイプは俺の装備の中で最強だ」

「そうなんですか」

「ああそうだ」

 何にせよ、時間がない。樹海の侵食は目に見える速度で進行している。

「行こう、友奈ちゃん!」

「うん!」

「行くぞ! ターボタァーイム!」

 三人は一斉に飛び立っていった。人類の未来と、一本の鉄パイプを携えて。

 

 

私達は封印の儀を続けながら空を見上げていた。ここからだと見えないけど、あそこでは三人が戦っているんだなぁと、しみじみと感じる。

「あっ、見て!」

 夏凜さんが叫んだ。

 堂々と浮かんでいた御魂から、シュコーッと蒸気のようなものが噴き出し始めた。大佐が鉄パイプを刺しこんだんだ!

「あの鉄パイプ何製よ……」

「鉄に決まってるでしょ。ほらほら二人とも、英雄たちのご帰還よ」

 御魂が砕け散った後、空には二つの流れ星があった。

 一つは東郷先輩と友奈さんだ。神樹様のご加護で大気圏も突破できるらしい。そしてもう一つの方は大佐だ。筋肉のご加護で大気圏も突破できるらしい。

「このままだと地面に激突するんじゃないの?」

 夏凜さんが不安げに言う。お姉ちゃんもそれに気が付いたらしく、慌てて、

「樹、ワイヤーでネットを張って、東郷と友奈を受け止めて!」

「大佐は!? いいの!?」

「どうせ平気よ」

 私は東郷先輩と友奈さんが落ちてくる進路上にワイヤーで網を幾重にも張った。これで減速してくれれば、地面に激突しないで済む。

 けれど、最初に張ったネットは全部突破されてしまった。

「ちょっとした隕石だよあれ」

「樹なら平気よ」

「そうそう。なんたって、私の妹だかんね」

 急いでネットを張りまくる。バーテックスを動けなくするほど固いワイヤーの筈なのに、バツンバツン切られていく。神樹様の力も重力には逆らえないのか。けど、勇者部五箇条にもある通り、『成せば大抵何とかなる』精神だ。必死になって網を張っていたら、どんどん減速してくれた。

「その調子よ樹!」

「とまれぇー!」

 そして、地面に激突する寸前、止まった。

「や、やった」

 思わずへたり込む。

 東郷先輩と友奈さんは大きな花のつぼみに包まれるように護られていて、その花が開くと、中から二人が出てきた。夏凜さんが駆け寄って安否を確認する。

「気を失ってるけど、無事みたいね」

「はぁ、よかった……」 

 胸を撫で下ろす。

「そういえば、メイトリックス大佐は?」

「ああ、アレじゃない?」

 お姉ちゃんが指さす。見ると、少し離れた空に大きな火の玉が流れているのが見えた。

「ちょっとした隕石だよあれ」

「ていうかただの隕石ですな」

 見ていると、大佐は私たちから少し離れた場所に激突した。ズシンという振動が地面を通して伝わって来る。

 私達は急いで墜落現場に向かった。

 墜落現場はちょっとしたクレーターになっていた。煙と水蒸気が立ちこめている。

「ジョーン、大丈夫?」

 お姉ちゃんが呼びかける。

 しばらくすると、煙が腫れてクレーターの中心に跪く形でうずくまる大佐の姿が見えた。

「えっ」

「は、裸!?」

 大気摩擦で服が焼けてしまったのか、大佐は裸だった。すっぽんぽんの大佐はやおら立ち上がって、辺りを見渡す。そして、私達の姿を認めると、しっかりした足取りで向かってきた。

 デデンデンデデン……デデンデンデデン……

「何か夏凜の方に向かってくるわよ」

「なななな何で私なのよ!」

 大佐はしなやかで筋肉質な四肢を見せつけるように歩いてくる。怖いわ露出狂のボディービルダーよ~。

 夏凜さんは顔を真っ赤にして必死に大佐の顔を見ている。下に目はやれない。私たちも上半身だけを見るようにしていた。

「…………」

「な、何よ……」

「……君の着ている服が欲しい」

「あげないわよ!」

 

 

 こうして、私達勇者部の御勤めは終わった。

 戦いの後、私達はすぐに病院に運び込まれた(大佐は警察署に連れて行かれそうになったがどうにかなった)。

 病院で診断を受けている時、私は声が出なくなっていることに気付いた。欠伸をしても、咳き込んでも、口から音の類が吐き出されることは無い。まるで、私の中から『声』という概念そのものが消失してしまったような……。

 お医者さんは長時間の満開で疲れとストレスが溜まったのだろうと言われた。その結果、声帯がどうにかなったらしい。幸い、不治のものではないらしいけど、しばらく不便な生活が続くだろう。

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 




実のところ最初はカイジとかとクロスしようと考えてました。麻雀とかルール知らないのでやめたけど。
コマンドーもブラック・ブレットとクロスするはずでした。
それが巡り巡ってこうなったわけで、何というか、世の中わかんないですね。

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