ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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 事前に入っておくと、今回のラストはコマンドーとのクロスssのくせに『プレデター』を見ていないとわけわかんないかもしれません。
 ていうか、見ててもわけわかんないかもしれません。
 だって俺自身良く分かってないもん。


8・おたくみてえなイイ女はもっと遊ばなきゃだめだよぉ

 戦いが全部終わった後に私達を待っていたのは、ありふれた日常だった。

 検査の結果、私達の身体には目立った外傷とかは無くて、問題なしの健康体だと言われた。ただ、私とお姉ちゃんはそれぞれ声と右目の視力を、後から聞いた話だと、東郷先輩は左耳の聴力を、友奈さんは味覚を一時的に失っちゃったけど。

 そう一時的……一時的なものだ。私たちにはまだ沢山時間がある。私達が身体に不自由を感じるのはその長い時間の中の一時でしかない。

 だから、何も憂いる必要はない。

 仲間たちとの今を楽しんで、明日に夢を見て、私達は——。

 

 

 

 

 

 

 

 海。それは人類の故郷。

 偉い学者さんが言っていた。全ての生き物の祖先は、この広大な海から生まれたと。そう思うと、私たち人間はこの世界とつながっているんだなーと実感できる。

 空を飛んでいるカモメ(らしき鳥)も、浜辺にうち上げられたナマコも、向こうで一人ノルマンディーをしている筋肉も、みんな兄弟姉妹なんだ!

 そう、私たちは今海に来ている。私達勇者部は『合宿』と称して一泊二日の県内旅行をしているのだ。大赦の人たちが、私たちへのご褒美ということでセッティングしてくれた。

「おー、樹が哲学的思考に耽ってる~」

 お姉ちゃんはビニールシートの上でかき氷を頬張りながら言った。右目の視力を失って以来、お姉ちゃんは海賊みたいな眼帯をしている。

『その眼帯気にいってるの?』

 私はスケッチブックを使って会話する。

「そうよー」

 そう答えるや、お姉ちゃんはスクと立ち上がってフハハという笑い声を上げた。

「四国は我々の国だ! 今すぐ、出て行け、死か自由かだ!」

「何くだらない事してるのよ」

 ノリノリのお姉ちゃんに声を掛けたのは夏凜さんだ。太陽に背を向けて逆光になっている。鍛えていることもあって水着の時のスタイルが良い。

「も~、せっかく『超大国から祖国を護ると言いつつ結局はうどんの密売がしたいだけのテロリストこと四国解放軍の首魁』になり切ってたのに~」

「えらく具体的ね。そんなことより、勝負よ、犬吠埼風!」

 夏凜さんがズビシとお姉ちゃんを指さす。勝負、というのは泳ぎの勝負だろう。夏凜さんは散々お姉ちゃんにからわれてきたから、ここで見返してやろうと思っているのだ。なんでも、夏凜さんの泳ぐスピードは選手並みだとか。

「ふふん。夏凜、私に勝てると思ってんの?」

「な、なによ」

「私はね、『羽のついたカヌー』の異名を持つのよ」

「な、何ですって……!?」

 初耳だ。どうせ口からの出まかせだろうが。異名自体は全然カッコよくないのに、お姉ちゃんから溢れ出る無根拠な自信に夏凜さんは圧倒されていた。

「ちなみにジョンは『THE・肉体派』とか呼ばれてるわね」

「な、何ですって!?」

 これは聞いたことがある。ちなみに『鉄骨州知事』とも呼ばれているらしい。夏凜さんは私に顔を向けて、

「樹、私にも何かいい異名とかない!?」

 えっ、突然振られても……。

『にぼっしーとか、かかっしーですかね……』

「もしかしてそれ流行させようとしてたりする?」

「ま、いずれにせよ、異名というのは、経験を積んだ人間にこそ相応しいのよ!」

「何よ、私と一歳しか違わない癖に!」

 一触即発(お姉ちゃんはワザとそうしてるみたいだけど)だ。こんな時、頼りになるのは友奈さんと東郷先輩である。

「スイカ割りしましょ~」

 そう言いながら二人はスイカを運んできた。それにしても、東郷先輩の胸とスイカがほとんど同じ大きさなのには度肝を抜かれた。

「大型機、十一時の方向……ひゅ~」

「で、デカい……」

 一触即発な雰囲気だった二人(燃えてたのは夏凜さんだけなんだけど)も東郷先輩の胸に目を奪われる。いったい何を食べたらあそこまで大きくなるのやら。

 このスイカも大赦が用意してくれたものだ。ホント、至れり尽くせり。

 大佐も呼んで、勇者部スイカ割り大会が始まった。一発目は私、犬吠埼樹。目隠しをして、夏凜さんから借りた木刀を構える。

 太陽は強く照っているはずなのに、視界は真っ暗で、左右どの方向にスイカがあるかさっぱりわからない。

「そのまま前よー」

「樹ちゃんもうちょい右ー」

 指示が鼓膜を叩く。でも、私はその声には頼らない。風の流れでスイカを捉えるのだ。今はこっちが風下だから、匂いを嗅げばわかる。

 ふと、潮に混じって甘い果物の香りがした。

「いたぞおおおおぉぉ! うあああああああ! いたぞおおおおお!」

 私の中で変な黒人が吠える。誰だお前。

 私は木刀を振り降ろした。

 振り降ろされた木刀は風を切り、そのままスイカをかち割った。パキャッという小気味よい音と共に甘い甘い果汁の匂いがぱっと広がった。

「ヤロォ、仕留めたぞぉ! ……仕留めた!」

 黒人が吠える。だからお前誰だよ。

 目隠しを外すと赤々とした果汁を滴らせるスイカの亡骸があった。お悔やみ申し上げますわ。

「さ、私が切っといてあげるから、次はジョンの番よー」

 友奈さんが新しいスイカをセットする。

「それじゃぁ大佐、目隠ししてねー」

「OK!」

 大佐は固く目隠しすると大きく息を吐いた。何だか、目隠し越しに見えているよな佇まいだ。

「ちゃんと目隠し出来てんの?」

「ノープロブレム」

「ならいいけど。はい、木刀」

「必要ない」

「えっ」

 目隠しをしたまま大佐はどこからともなく(便利な言葉だ)拳銃を取り出した。そして、心の目で照準を合わせる。

 大佐がトリガーを引くのとスイカが破裂するのはほぼ同時だった。浜辺に場違いな銃声が響き渡る。

「ソ連式の方が効率的だ」

 私の知っているスイカ割りじゃない。ソ連って怖い国だったんだなぁ。

「何やってるのよジョン。スイカ割りってのは木刀でやるもんよ。銃でやるもんじゃない」

「木刀なんかより、このポドブィリン9.2ミリオートマの方が効率的だ。何しろ世界で一番強力な銃だ」

「バカ言え世界一はマグナム44と決まってらぁ。ダーティハリーも使ってんのよ」

「……ダーティハリーって誰だ?」

 ダーティハリーが何者かはともかく、他のお客さんもいる中で銃声を鳴らしたのは問題だった。すっかり注目を集めてしまっている。

「ヤクでもやってんだろあの筋肉」「怖いわテロリストよ~」「ホルモン剤を飲まなくちゃ……」

 私達は静かに素早く、痕跡を残すことなく海岸を後にして、宿へと戻ることにした。

 

 

「お手柄だったわね」

「ありがとう」

「皮肉で言ってんのよ」

「分かってる」

 旅館に戻るやお姉ちゃんはぶーたれ始めた。まだ海で遊びたかったらしい。といっても、もうそろそろクラゲが出始める時間だったけれど。

「君たちにはすまない事をした」

「構いませんよ、私は築城して満足しましたし」

「そうですよー。ほら、風先輩、もうすぐご飯ですよ。飯でも食ってリラックスしな」

「うー」

 お姉ちゃんは温泉まんじゅうをハムハムと食べている。

 しばらくすると、仲居さんたちが部屋に料理を運んで来てくれた。

「うわ」

 その料理というのが、今まで見たことがないほど豪華なものばかりであった。一人一杯大きな蟹があたって、立派な活造りも運ばれてきた。他の料理も良く分かんないけど高級そうで、見るからに美味しそうだった。

「これホントに私達が食べて言いの?」

 ぶーたれてたお姉ちゃんの機嫌が一気に治った。

「まぁ、ここは大赦系列の温泉だし……部屋も改めてみると豪華ね」

「すごいねー。おお、蟹さん、コンチワー」

 友奈さんが蟹で遊ぶ。

 でも、これぐらいもてなされて当然なのかもしれない。私達はそれだけのことをやってのけたということだろう。

 ただ、これだけの料理を出されると、私たちには一つ心配なことがあった。友奈さんの舌だ。友奈さんは今味が解らない。彼女は悲しむのではないだろうか——。

「んー! このお刺身の食感、溜まりませんなぁ!」

 そんなことを思ってる傍から友奈さんは料理をおいしそうに食べていた。

「お目が高いわぁ。そのお魚は瀬戸内海で獲れた今が旬のマナガツオですのよ」

 仲居さんが説明してくれた。

「瀬戸内の魚はお好き?」

「ええ、ぞっこんです」

 何故か男前に答える友奈さん。

「もう、友奈ちゃんったら、いただきますがまだよ」

「あっ! うっかりしてたよーゴメンゴメン」

 恥ずかし気に頭を掻いて謝る。それを見て、お姉ちゃんは、

「まったく、友奈には敵わないわ」

 でも、本当はみんな知ってる。友奈さんは、私達が気持ちよく「いただきます」と言えるように、わざとそんなことをしたんだ。味を感じないことなんて気にしていないということを示すために。

 そういうことも踏まえて私は、

『尊敬してるよ』

とお姉ちゃんに答えた。

 料理はどれもおいしかった。学生だけだからか、ご飯を多めに用意してくれたのは嬉しかった。この中で料理を肴にお酒を飲むのは大佐だけ(なんか釈然としないけど)で、女の子組はご飯をパクパク食べていた。

「東郷、悪いけどもう一杯貰えるかね」

 お姉ちゃんは相変わらずで、ご飯を二杯平らげて三杯目のおかわりをしようとしている。でも、ここに来て、お姉ちゃんが何故か急に遠慮しだした。

「どうしたんですか風先輩、そんな歯切れが悪そうに」

 おひつが東郷先輩の脇にあるため、今回は先輩がお母さん、つまりご飯をよそう係りとなっている。ご飯をよそうのは嫁の仕事というのも今時はやらないけど、東郷先輩は楽しそうだった。

「いやさ、三杯目ともなると遠慮しちゃって」

「何居候みたいなこと言ってんのよ。東郷、私もおかわり」

「俺も酒をおかわりだ」

 大佐が便乗して言うと、東郷先輩は頬をふくらまして、

「大佐は飲み過ぎです。自重してください」

「何を言う。俺はまだ酔っていないぞ」

「ははは、まあ良いじゃないか」

 ここで友奈さんが変な芝居を打ちながら話に参加してきた。そうなると、自然と即興劇(エチュード)が始まるのが勇者部だ。

「もう、あなたがそう甘やかすから、ジョンは際限なくマッチョになるのよ」

「ははは、良いじゃないか、マッチョ」

「良くないわ……このままマッチョになり続けたら、お嫁さんが来なくなっちゃう」

「ははは、心配するな。きっとジョンにも良い人が見つかるさ。『キャプテン・フリーダムのワークアウト』で己の肉体をシゴキまくるのが趣味みたいな奇異な女もいるさ。そう、丁度あそこにいる夏凜ちゃんみたいに」

「私を茶番劇に巻き込むな!」

「ということで夏凜ちゃん、うちの(せがれ)のジョンだ。口癖は『I'll Be back(戻って来るぜ)』だ」

「よろしく」

「だから巻き込むなっての!」

 

 

 お風呂からあがって来ると部屋には人数分の布団が敷いてあった。

 一瞬私達の脳裏には大佐と一緒の部屋で寝ることに抵抗を感じるというごくごく一般的な常識の発露があった。でも、結局、

「ま、大佐だしいいか」

という結論に至った。

 夏ではあるけど夜になると空調がなくても涼しい。私達はそれぞれの就寝前の身支度を済ませるとするりと布団の中に入りこんだ。お風呂上がりの身体を、布団が優しく包み込んでくれる。

「ところでおぬし等、よもやこのまま眠れるとは思うとらんだろうなぁ?」

 そんな時、お姉ちゃんがフッフッフと笑い始めた。

「こういう時にすることといったら、あれしかないでしょ……」

「あれって……なんですか?」

 友奈さんが首を傾げる。対する東郷先輩は「あっ」と声を上げて、

「分かりました。この国の起源と大和神話の関連性に基づく私達の世界観云々」

「違います」

 ちなみに私は気付いた。スケッチブックにさらさらと書きこむ。

『恋バナだね』

「左様。私達は華の中学生なわけで、恋に恋するお年頃なわけで、みんなのそういう話聞きたいわけで」

「なるほど分かりました。でも、私はそういった経験無いですよ?」

「私もです」

「私もないわ」

『右に同じ』

 後輩女子の不甲斐なさにお姉ちゃんは深い深いため息を吐いた。言いたきゃないけど余計なお世話だコノヤロウめ。

「私はあるわよー! あれは、去年の体育祭で——」

「その話十回は聞いてるぞ」

 大佐が天井を見ながら言う。

 そう、お姉ちゃんの『去年の体育祭でチアの手伝いした時にさー、男子にデートに誘われてさー!』という話は幾度となく聞かされているのだ。それこそ、耳にタコが出来るくらい。

「何よ何よジョンったら。じゃあアンタには何かあるっての~?」

「あるぞ」

「えっ」

 私達は大佐の口から発せられた衝撃的な返事に言葉を失った。

「……いや、俺じゃなくて友達の話なんだが」

 それでも、この歩く筋肉番付の周りで色恋沙汰があったという事実は驚愕するに値する。しばし沈黙が続いた。そして、お姉ちゃんが小さな声で、

「……どうぞ」

「あれは、俺が小学生のころだった」

 

 ある日、俺達はいつものように一緒に帰ろうとしていた。すると、仲間の一人の下駄箱に手紙が入っていたんだ。

 

「ほうほう」

 

 俺達は貰った本人よりドギマギしていた。で、封筒を開けるとそれはラヴレターだった。俺達は驚いた。そして、手紙の内容を読むともっと驚いた。

 

『何が書いてあったんですか……!?』

「なんと、その手紙は……同性からのものだった」

 

 何だそれ。

「中々濃ゆい話ね……」

「そうね。夏凜の好きそうな話だわ」

「風、アンタは私の評判を落とすよう密命でも受けてんの?」

 お姉ちゃんは適当に「そうよ」と答えて夏凜さんを動揺させると東郷先輩に向き直った。

「東郷、ここはお得意の怪談で盛り上げちゃって!」

「了解しました」

 私や友奈さんは慄いた。東郷先輩の怪談はとんでもなく怖い。内容もそうだけど、独特の話し方が私達の恐怖を煽るのだ。以前老人会で披露した時なんか、数人のおじいちゃんおばあちゃんが怪談の登場人物になりかけていたもん。

 東郷先輩は友奈さんに電灯を常夜灯に変えるよう頼むと、話す態勢に移行した。

「昔々……」

 

 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。

 ある日、お爺さんは港湾労働者組合の組合員を使わずに積み荷をしているという話を小耳に挟んでボルティモア港へ、お婆さんは川へ洗濯に出かけました。

 お婆さんが洗濯をしていると、川上から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。

「十一時の方向……ひゅ~、でけぇ」

 お婆さんは桃を捕まえると、それを背中に載せてえっちらおっちら家へと持ち帰りました。

 しばらくすると、お爺さんがボルティモア港から帰ってきました。お爺さんは家の中に鎮座していた桃を見てびっくり仰天!

「オオッ、ホントにでけェな! オオッ、ホントにでけェな!」

 そんなお爺さんにお婆さんは言いました。

「何で二度も言うのよ」

 するとお爺さんは驚いて、

「言ってねぇって」

 二人は首を傾げます。そして耳を澄ませます。するとどうでしょう、桃の中から微かに声がするではありませんか。

 お爺さんは台所から出刃包丁を持ってくると、意を決して桃に振り降ろしました。振り降ろした瞬間! 桃はまばゆい光と共に割れました。そして中から、

「オオッ、ホントニデケェナ! オオッ、ホントニデケェナ!」

なんと元気なプレデターが現れたのです!

 

「キャーッ!」

 あまりの恐怖に私達は悲鳴を上げた。私は声が出ないけど……それでも怖かった。

 意外なことに、一番怖がっていたのは大佐だった。大佐は物語にプレデターが登場するや「あああああああああああああ!!」と雄たけびを上げて部屋を飛びだし、旅館の庭で全身に泥を塗りたくった。そして庭で一番大きな木に登って、その上で松明に火を点け、天にかざした。

「あああああああああああああ!!」

 部屋の窓から暗闇に赤々と燃える松明の火が見える。

「綺麗……」

「あああああああああああああ!!」

 闇に浮かぶ炎と、大佐の雄たけび。この二つが合わさって、とても幻想的というか肉体的な空間が生まれていた。

「来年の夏休みも、みんなでどこか行きたいですね」

 炎に照らされながら友奈さんがポツリと呟いた。

「友奈、私とジョンは卒業しちゃうわよん?」

 お姉ちゃんが言う。私は急いで字を書くと、そんなお姉ちゃんに見せた。

『卒業しても、お姉ちゃん達も一緒に!』

「そうですよ。卒業しても一緒に行くことは出来ます」

 東郷先輩もそう言った。友奈さんも頷く。

「そうだよ! 来年も、再来年も、みんなで! ……もちろん、夏凜ちゃんもだよ?」

「な、何よ! ……そうね、来年も、みんなで、どこか……その……」

「おや~? 聞こえないわよ~」

「う、うっさい!」

「あああああああああああああ!!」

 夜の旅館。部屋には、私達の笑い声と、大佐の雄たけびが響いている。

 明日からも頑張ろう。

 なんか、そう思った。

 

 

 

 




実はこんなの書いてる場合じゃない。
「明後日までに完成させなきゃならないレポートがあるの付き合えないわ」

「今日は休め」

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