拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
1999年といえば、世紀末である。
2000年問題と、もう一つ、ノストラダムスの大予言というのが流行ったタイミングだ。
前世にて、2000年問題は、従事者がなんとか解決した、という問題だった。
ノストラダムスの大予言も、結果与太話でしかなかった。
だが、今世においてはそうではない。
混乱する感情は生体マグネタイトのもとになる。あふれる生体マグネタイトが何を産むかというと、それは強大な悪魔に他ならない。
ということで、瑠奈お嬢様にも直球で話はしているのだが、米国および日本IT企業の大株主様はどことなく呑気だ。
喫茶、『アヴァンティ』にて。
「対策済みだから」とお嬢様は言う。
「シリコンバレーのベンチャーも、日本の企業にも、株主だからってことで2000年問題には特に力を入れさせて対策させてるのよ。やれ、と言うことはできるけど、プロがやってる具体的方策にまで口をだすのは、ちょっと違うんじゃない?」
そうではあるけどぉ、とのたのたする自分に瑠奈お嬢様は続けて声をかける。
「たぶん、オカルト的には流言飛語が問題なんでしょ? でもそれ、桂華の力でなんとかなんて、できないわよ」
流言飛語をなんとかできたらヤベー。ド正論であった。
が、サマナー的にそこで黙ってはダメなのである。
「流言飛語はしょうがないとして、問題は『1999年7月に、ノストラダムスの大予言にかこつけて強大な悪魔が発生しうる』とサマナー界隈も浮ついてしまってることなんですよ」
はて?と言う顔を瑠奈お嬢様がする。
「プロのエンジニアが対策してる2000年問題、これはまあいいんです。本命はノストラダムスの大予言。あれに不安がる人が少なからずいる現状がよくなくて、そこに2000年問題が合体しうる、と言うのが懸念です」
具体的には、システムテスト。それを1999年7月にやる企業がいたら、1999年と2000年の狭間が1999年7月に現れる。
「もはや言いがかりでは……?」
「瑠奈ちゃん、2000年問題のシステムテストってどうやるか知ってます? 各企業はサーバーの時計を内部的に『1999年12月31日23時59分』に設定して、ちゃんと2000年を跨げるか実験するのよ。疑似本番テストってやつ」
「ええ、それはうっすらと知ってるけど……」
「じゃあ、そのテストが一番集中するのはいつだと思いますか? 駆け込み需要と最終確認で、ちょうど『1999年7の月』あたりにピークが来るんじゃないでしょうか、と言うのがサマナー界隈の読み。
つまりね、表の社会で1999年7月でも、ネットワークの電子の海の中は、世界中のシステムが同時に『1999年と2000年の狭間』を強制的に創り出しまくってる状態ですよね?」
瑠奈お嬢様の眉がきゅっと引き締まる。
「オカルト的にはとっても危ないです。」
「……どうするの?」
「7月、『全世界的に悪魔が出る』のはほぼ既定事項だと思います。アメリカにも働きかけて、霊的防御に力を入れろと明確化してください。」
「あずさは?」
「護衛なので、動けません」
ズコー、とこけた音がしたような気がした。気のせいだが。
「あなたそこまで言っておいて実働はないわけ!?」
「仕方ないでしょう学校来るのやめますか!?」
瑠奈お嬢様が嫌そうな顔をする。
まあ、やめられるわけないのは知ってるのだ。
「でもあなた、仕事したことある?」
「奇跡的にお嬢様がなぜか狙われてないんですよねえ……」
お嬢様がこれまで無事だったのはアメリカ側のサマナーの手、という線も考えられる。
ただ、ノストラダムスの大予言と2000年問題は全世界等しく影響下にある問題だ。(そういうのが普及してない地域を別にして)
ならば、それらの対応でアメリカ側のサマナーの手が回らなくなれば、お嬢様は狙われうるのではないか。
そんな懸念は、私にもある。
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徐々に、それは露呈していった。
1999年の2月、ある日の放課後。父との訓練中の業務連絡。
「学園付近のエネミーソナーが、一部青緑から緑と黄色になった?」
「ああ。学内は安全だったかい?」
「何もありませんでしたね……」
父、義直からの情報提供である。
COMPに搭載されている機能であるエネミーソナーは、色でその場の霊的安全度を示す。青と緑が最も安全で、赤と橙が最も危険というものだ。それが、微かでも安全でない方にふれた。
「……おかしくないですか?」
「ああ。2000年問題のシステムテストが学園付近の治安に影響を及ぼす可能性を検討したが、それはほぼゼロに等しい。これはどちらかというと、敵性サマナーによる示威行為だ」
父の言葉に、私は息を呑む。
――意図的な霊的攻撃。
7月に来るとされる破局を待つのではなく、人為的にその歪みを加速させて悪魔の門を開けようとしている奴らが、すでにこの東京に潜んでいるのだ。
しかも、瑠奈お嬢様の通う学園が、標的に含まれている。
私は伊達メガネ型COMPをくいと直しながら、ランドセルの中に仕舞った相棒――『雷神剣』の柄にそっと触れた。
護衛だから、直接世界を救うわけではない。けれど、お嬢様の近くに湧き出る不届き者だけは、この雷神剣ですべて叩き切ってやる。
1999年、世紀末。歴史の裏で蠢く、目に見えない防衛戦が、静かに幕を開けようとしていた。