寺子屋から少し離れた広場。
武蔵は子どもたちが書いた文字を眺めながら、一人うなずいていた。
「ほう。」
「みな上達が早いの。」
その様子を、少し離れた木陰から睨んでいる者がいた。
ナーベラル・ガンマである。
「……。」
じーっ。
視線の先には武蔵。
さらにその隣では、クレマンティーヌが子どもたちと笑っている。
「先生ー!」
「次はこれ教えて!」
「はいはい。」
笑顔で答えるクレマンティーヌ。
武蔵も穏やかにその様子を見守っている。
ナーベの眉がぴくりと動いた。
「……なによ。」
「……あの変態。」
「クレマンなんかと仲良くしちゃって。」
ぼそりと漏らす。
その横でルプスレギナがにやにや笑っていた。
「ナーちゃん。」
「そろそろ任務するっす。」
「任務?」
「武技っす。」
「あ。」
そうだった。
アインズ様から命じられた任務。
『武技を覚えてこい』
ナーベは腕を組んだ。
「そうだったわね。」
ルプスはさらに悪い笑みを浮かべる。
「教えてもらう時は。」
「クレマンみたいに密着するっす。」
「え?」
「腕組んで。」
「『
「絶対覚えが早いっす。」
「な、何言ってるのよ!」
ナーベの顔が一瞬で真っ赤になる。
「そんな変態みたいなこと!」
「私がするわけないでしょ!」
「おや?」
「クレマンはしてたっすよ?」
「ぐ……。」
言い返せない。
「武蔵、嫌がってなかったっす。」
「むしろ普通だったっす。」
「そ、それは!」
「武蔵が変態だから!」
「変態同士だからよ!」
ルプスは肩を震わせて笑う。
「じゃあ普通に頼めばいいっす。」
「それが一番っす。」
「そ、そうね。」
「任務なんだから。」
「任務。」
「仕事。」
「そう。」
「仕事。」
何度も自分に言い聞かせる。
大きく深呼吸した。
そして武蔵の方へ歩き出す。
ルプスは後ろからこっそり親指を立てた。
(いけいけっす。)
ナーベは武蔵の前で立ち止まる。
「……。」
「……。」
武蔵が顔を上げる。
「なんじゃ。」
「ナーベ。」
「…………。」
ナーベは何度も口を開いては閉じる。
(言え。)
(任務。)
(これは任務。)
(任務だから。)
意を決した。
「あ、あの……。」
武蔵は首をかしげる。
「なんじゃ。」
「変態。」
「またそれか。」
武蔵は苦笑する。
ナーベは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「ぶ、武技を教えなさい!」
広場が静まり返る。
子どもたちまでこちらを見る。
クレマンティーヌも目を丸くした。
「え?」
武蔵は少し考えてから頷く。
「おお。」
「それならよい。」
「教えよう。」
あまりにもあっさりした返事だった。
ナーベは拍子抜けする。
「……え?」
「本当に?」
「うむ。」
「わしも武技を人に教えるのは初めてじゃ。」
「共に修業じゃな。」
そう言って笑う武蔵。
ナーベは少しだけ表情を緩める。
「そ、そう。」
「よろしく……。」
後ろではルプスレギナが頭を抱えていた。
(違うっす。)
(もっとこう。)
(腕を組むとか。)
(密着するとか。)
(見せ場が欲しかったっす!)
ルプスの期待は見事に外れた。
一方、クレマンティーヌは腕を組みながら呟く。
「……。」
「なんか。」
「お似合いじゃない、あの二人。」
その言葉を聞いたナーベは、また真っ赤になって叫んだ。
「ち、違うわよ!!」
子どもたちはそのやり取りを見て、一斉に笑い出した。
カルネ村には、今日も平和な笑い声が響いていた。
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カルネ村の外れ。
木々に囲まれた広場で、武蔵とナーベは向かい合っていた。
少し離れた木陰では、ルプスレギナとクレマンティーヌが興味津々で見守っている。
「では武技を教える。」
武蔵が静かに言う。
ナーベは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。
「ええ、教えられてあげるわ。」
どこか尊大な態度である。
武蔵は苦笑した。
「相変わらずじゃの。」
そう言うと、じっとナーベの全身を観察する。
「ふむ……。」
「ナーベ、お主の戦士としての強さなら――」
「まずは基礎的な武技じゃな。」
「ええー?」
ナーベは露骨に嫌そうな顔をした。
「アインズ様にお見せするのよ?」
「地味な技じゃ困るわ。」
武蔵は首を横に振る。
「基礎なくして奥義なし。」
「今のお主では、まず土台を作ることが先じゃ。」
「う……。」
その言葉には反論できなかった。
「よく見い。」
武蔵は静かに息を整える。
余計な力を抜き、全身へ意識を巡らせる。
「――外皮強化。」
体の表面が、淡く光を帯びた。
ほんの一瞬。
しかし確かに何かが変わった。
「ナーベ。」
「殴ってみよ。」
「本気で?」
「構わん。」
ナーベは少し構えたあと、
「いくわよ!」
腹へ向かって鋭い拳を叩き込む。
ドンッ!
鈍い音が響いた。
「……ぐ。」
武蔵は一歩も下がらない。
逆にナーベが拳を押さえた。
「なんなの……これ。」
「岩でも殴ったみたい。」
武蔵は満足そうに頷く。
「これが外皮強化。」
「防御力を高める武技じゃ。」
「帝国闘技場で戦ったゴ・ギンから学んだ。」
ナーベは感心したように拳を見る。
「面白いわね。」
「次はお主じゃ。」
武蔵が言う。
「目を閉じよ。」
「余計なことは考えるな。」
「自分の身体がアダマンタイトになったと思え。」
ナーベは目を閉じる。
「私は……アダマンタイト。」
「私はアダマンタイト。」
「私は――」
淡い光が身体を包んだ。
武蔵の目が細くなる。
「ほう。」
「会得したかもしれんな。」
ナーベは目を開く。
「本当?」
「確認してみる。」
武蔵はナーベの肩を軽く叩き、腕や胸を軽く押して感触を確かめる。
「まだ甘いの。」
「身体の一部しか硬化しておらん。」
「もっと全身を一つと考えるのじゃ。」
「そういう確認なら先に言いなさい!」
ナーベは顔を赤くしながら武蔵を睨む。
「集中を乱されたじゃない!」
「はっはっは。」
武蔵は悪びれもなく笑った。
「もう一度じゃ。」
「……もう!」
ナーベは拳を握る。
「この変態!」
勢いよく武蔵の腹へ拳を打ち込んだ。
ドゴッ!
今度は先ほどより重い衝撃が響く。
武蔵の身体がわずかに揺れた。
「ほう!」
武蔵は目を見開く。
「今の拳。」
「剛拳になっておる。」
ナーベも自分の拳を見つめる。
「え?」
「まさか……。」
武蔵は嬉しそうに笑った。
「怒りに任せて放った一撃。」
「じゃが、力の伝え方が変わっておる。」
「外皮強化の代わりに剛拳をもう会得したようじゃな。」
木陰で見ていたルプスレギナが口笛を吹く。
「早いっすねぇ。」
クレマンティーヌも感心したように頷いた。
「さすがナザリックの化け物。」
ナーベは照れ隠しに顔を背ける。
「ふ、ふん。」
「私が優秀だからよ。」
武蔵は豪快に笑う。
「うむ。」
「才能はある。」
「だが修業はまだまだこれからじゃ。」
「次はもっと難しい武技を教えてやろう。」
外皮強化が集中が乱れたため腕が強化されて結果
剛拳を会得しました