「では次じゃ。」
武蔵は一本の木の枝を拾い上げる。
「次に教えるのは――」
「六光連斬。」
ナーベの目が輝く。
「ガゼフが使っていたという武技?」
「うむ。」
武蔵は頷いた。
「あれは良い技じゃ。」
「一度に複数の斬撃を放つ。」
「じゃが、集中力と体力を著しく消耗する。」
「見本を見せよう。」
武蔵はゆっくりと森の方へ歩いていく。
一本の大木の前で立ち止まり、深く息を吸う。
静寂。
風が止まる。
武蔵の全身から気配が消えた。
「――むん。」
一歩踏み込む。
枝を振るう。
次の瞬間。
バキッ!
バキバキバキバキッ!!
轟音が森中へ響いた。
一本だけではない。
その奥にあった木々まで次々と倒れていく。
砂煙が舞い上がり、小鳥たちが一斉に飛び立った。
「……。」
「……。」
その場にいた全員が絶句した。
武蔵は枝を肩に担ぎながら笑う。
「まあ。」
「ちょっとしたもんじゃな。」
ルプスレギナが引きつった笑みを浮かべる。
「ちょっと……?」
クレマンティーヌは呆然と森を眺めていた。
「あのガゼフでも……。」
「六光連斬を使う前は、かなり集中していた。」
「なのに武蔵ったら……。」
「一呼吸で撃った。」
思わず額に汗が浮かぶ。
(ほんと化け物。)
一方、ナーベは目を閉じていた。
「集中……。」
「集中……。」
「私は戦士……。」
「私は剣……。」
「私は――」
武蔵が横から見守る。
「焦るな。」
「一撃にすべてを込めるのではない。」
「流れを六つに分けるのじゃ。」
「……。」
ナーベは拳を握った。
「いくわ!」
「六光連斬!」
ぶんっ!
短剣を振った
風が巻き起こる。
目の前の木の葉がざわっと揺れた。
……
……終わり。
静寂。
ナーベがゆっくり目を開ける。
「……へ?」
木はそのまま立っていた。
ただ枝葉が少し揺れているだけである。
ルプスが吹き出した。
「ぷっ。」
「風だけっす!」
「う、うるさい!」
ナーベが真っ赤になる。
武蔵は笑わなかった。
むしろ満足そうに頷く。
「うむ。」
「まあ、お主の戦士としての技量からすれば上出来じゃ。」
「え?」
「武技は出ておる。」
「まだ形になっておらんだけじゃ。」
ナーベは目を丸くする。
「本当に?」
「うむ。」
「それより体力はどうじゃ。」
そう聞かれて初めて気付く。
「……。」
「……。」
「な、何これ。」
急に膝が重くなる。
息も少し乱れていた。
「こんなに消耗するの?」
武蔵は笑う。
「じゃから言ったであろう。」
「六光連斬は体力を使う。」
「ガゼフ殿も使うたび血を吐いておった。」
ナーベは肩で息をしながらも、どこか嬉しそうだった。
「でも……。」
「一回で出せたのよね?」
武蔵は大きく頷く。
「素養がある。」
「初めてで武技を発動できる者はそう多くない。」
「修練を積めば、もっと強力になる。」
「ほ、本当!」
ナーベの表情がぱっと明るくなる。
武蔵は笑みを浮かべた。
「一年も修業すれば。」
「ガゼフ殿以上も夢ではない。」
その言葉にナーベは拳を握り締めた。
「……よし。」
「絶対覚えてみせる。」
その姿を見たルプスレギナは、クレマンティーヌへ小声で囁く。
「なんか。」
「本当に師弟っぽくなってきたっすね。」
クレマンティーヌも苦笑する。
「最初は喧嘩ばっかりだったのにね。」
少し離れた場所で武蔵は空を見上げていた。
(飲み込みが早い。)
(魔法詠唱者でありながら、この素養。)
(さすがアインズ殿の家臣じゃ。)
そして心の中で次に教える武技を思い浮かべるのだった。
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ナザリック地下闘技場。
プレアデスが整列し、その正面には玉座代わりの椅子へ腰掛けるアインズ・ウール・ゴウン。
「では始めよう。」
アインズは満足そうに頷いた。
「武技を学ぶよう命じてから最初の報告だ。」
「誰が最初かな?」
一歩前へ出たのはナーベラル・ガンマだった。
「はっ!」
「私です。」
「おお。」
アインズは少し嬉しそうに頷く。
「ナーベラル・ガンマ、お前が一番手か。」
「そうです。」
どこか誇らしげな表情で胸を張る。
「それで、何を会得した?」
「剛拳でございます。」
「ほう。」
アインズは顎に手を当てた。
「では人型の人形を用意しよう。」
魔法によって木製の人形が闘技場中央へ現れる。
「これを相手に披露してみよ。」
「はっ!」
ナーベは人形の前へ立つ。
拳を握り締め、ゆっくりと目を閉じた。
(集中……。)
武蔵の言葉を思い出す。
(余計なことを考えない。)
小さく呟く。
「わたしはアダマンタイト……。」
「アダマンタイト……。」
「わたしは……。」
後ろで見ていたシャルティアが首を傾げた。
「……。」
「あの子。」
「何をやってるでありんす?」
ルプスレギナが肩をすくめる。
「ナーちゃんはまだ集中しないと武技が使えないっす。」
「へぇ……。」
シャルティアの口元がゆっくりと吊り上がる。
(これは遊べるでありんすね。)
ニヤリ。
突然、大声で叫んだ。
「あーーーっ!!」
「大変でありんす!」
ナーベの耳がぴくりと動く。
「な、なによ!」
シャルティアはわざとらしく闘技場入口を指差した。
「あそこ!」
「武蔵が女の人と腕を組んで見学してるでありんす!」
「えっ!?」
ナーベは思わず振り返る。
……
もちろん誰もいない。
その瞬間。
集中が完全に切れて技が途切れた。
ルプスレギナが吹き出す。
「ナーちゃんダメっすねぇ。」
「ギヒヒヒ。」
シャルティアも満足そうに頷いた。
「あれしきで集中が解けるとは。」
「まだまだ未熟でありんす。」
「もっと集中しないと武技は完成しないでありんす。」
ナーベは真っ赤になって叫ぶ。
「だ、騙したわね!」
「修業でありんす。」
シャルティアは涼しい顔だ。
「武技だけじゃない。」
「精神も鍛えねばならないでありんす。」
ルプスもすかさず追い打ちをかける。
「やっぱり武蔵をものにしないとナーちゃんはダメっすね。」
「そしたら集中も乱れないっす。」
「なっ……!」
ナーベの耳まで真っ赤になる。
「な、何言ってるのよ!」
「そ、そんなこと!」
「私は任務で!」
「任務で武技を!」
「教わってるだけなんだから!」
ルプスはニヤニヤ。
「誰も恋愛とは言ってないっすよ?」
「武蔵を独占して武技を教わればいいって意味っす。」
「ぐっ……!」
ナーベは言い返せず唸る。
シャルティアとルプスは顔を見合わせる。
「「うふふふ……。」」
その様子を見ていたアインズは、内心で大きくため息をついた。
(どうすればいいんです……。)
(武蔵さん。)
表面上は威厳を保ちながらも、
魔道の王は誰にも聞こえない心の中だけで頭を抱えるのだった。
ナーベラル・ガンマはLV1 ファイターなので武技技量はまだ低いです
覚えが早いのはメイジなどのレベルが高いため(という設定です)