武蔵転生記   作:masasoukoku

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第八十四回 【広がる誤解】

――ズガァァァン!!

 

闘技場の半分が崩れたような轟音は、第九階層中に響き渡っていた。

 

「ちょっと!」

 

「あなたたち何してんの!」

 

入口から飛び込んできたのはアウラだった。

 

地響きを聞きつけ、慌てて様子を見に来たのである。

 

だが。

 

目の前に広がる光景に思わず足を止めた。

 

「……何これ。」

 

壁は崩れ。

 

観客席は吹き飛び。

 

石柱は折れ。

 

闘技場は半壊していた。

 

「え?」

 

「誰がやったの?」

 

アウラが呆然と見渡す。

 

その瞬間。

 

ルプスレギナの目が光った。

 

(きたっす。)

 

(これは遊べるっす。)

 

満面の笑みでアウラに敬礼する。

 

「アウラ様!」

 

「これ。」

 

「ナーちゃんの武技っす!」

 

「えー?」

 

アウラは驚いてナーベを見る。

 

「本当?」

 

武蔵は「うむ」と頷いた。

 

「武技とは――」

 

説明を始めようとするが、

 

アウラは説明など聞いていなかった。

 

ナーベ(武蔵)から放たれる気配に目を見開く。

 

「!!」

 

「な、何これ!」

 

ぞわり。

 

全身の毛が逆立つ。

 

まるで強大な魔獣と対峙しているような威圧感。

 

「守護者クラスじゃない!」

 

「えっ?」

 

「ここまでレベル上がったの!?」

 

ルプスは待ってましたとばかりに頷く。

 

「そっす。」

 

「武技を習得するため、毎日修行したっす。」

 

「その結果。」

 

「レベルまで上がったっす。」

 

(もちろん大嘘っす。)

 

心の中だけで付け加える。

 

アウラは目を輝かせた。

 

「すごーい!」

 

「ナーベ!」

 

「いつの間にそんなに強くなったの!?」

 

武蔵は困ったように頭を掻く。

 

「いや。」

 

「修行は大事じゃからの。」

 

「積み重ねれば誰でも――」

 

「誰でも!?」

 

アウラはますます感動した。

 

「私もやる!」

 

「マーレもやらせる!」

 

「武技ってそんなに強いんだ!」

 

「教えて!」

 

武蔵は少し考える。

 

「うむ。」

 

「まず朝四時に起きて山野を走る。」

 

「千回素振り。」

 

「滝に打たれ。」

 

「飯は一汁一菜。」

 

アウラの笑顔が凍る。

 

「……。」

 

「それ。」

 

「毎日?」

 

「毎日じゃ。」

 

「十年ほど続ければよい。」

 

「十年!?」

 

(ナーちゃんなら絶対そんなこと言わないっす。)

 

ユリは静かにナーベを見つめていた。

 

(本当に……。)

 

(今日は別人みたい。)

 

(いや。)

 

(別人そのもの……。)

 

武蔵はそんな視線に全く気付かず、崩れた闘技場を眺める。

 

「少し力が入りすぎたの。」

 

「修繕せねばならんな。」

 

その一言で、アウラはさらに感心する。

 

「すごい……。」

 

「強くなっても全然威張らない。」

 

「さすがナーベ!」

 

ルプスは思わず吹き出しそうになる。

 

(違うっす。)

 

(それ。)

 

(中身、武蔵っすから。)

 

-------------------------------------------------------------

崩れた闘技場。

 

アウラは腕を組みながら、興味深そうにナーベを見ていた。

 

「ねえ。」

 

「せっかくだから試してみようよ。」

 

ルプスが待ってましたと言わんばかりに手を挙げる。

 

「アウラ様。」

 

「一度ナーちゃんと立ち会ってみるっす。」

 

アウラは笑った。

 

「それもいいかもね。」

 

「今の強さ、見てみたい。」

 

ナーベ――いや、中身は武蔵が頷く。

 

「うむ。」

 

「そういえば。」

 

「お主とは初めて立ち会うの。」

 

アウラが首を傾げる。

 

「?」

 

「何言ってるの?」

 

ルプスは慌てて割って入った。

 

「あー!」

 

「ナーちゃん。」

 

「アウラ様本人じゃなくて!」

 

「魔獣と立ち会うのが初めてだから楽しみって意味っす!」

 

「そういうことっす!」

 

武蔵は「ああ」と頷いた。

 

「そうじゃ。」

 

「その魔獣。」

 

「強いのか?」

 

ルプスはにやりと笑う。

 

「あたしらプレアデスより強いっす。」

 

その一言だった。

 

武蔵の目が変わる。

 

ギラリ。

 

戦いを前にした武人そのものの眼。

 

「ほう。」

 

「それは楽しみじゃ。」

 

口元が自然に吊り上がる。

 

「久々に胸が躍る。」

 

武蔵は刀こそ持っていないが、思わず右手が腰へ伸びる。

 

そこに刀があるはずだった。

 

空を掴み、

 

「あ。」

 

と小さく呟く。

 

(今はナーベの身体じゃった。)

 

一方――

 

その様子を見ていたプレアデスは。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

ユリが眼鏡を押し上げる。

 

「ねえ。」

 

「ルプス。」

 

「これは……。」

 

ソリュシャンも静かに口を開く。

 

「いくら何でも。」

 

「おかしくありませんか?」

 

シズは淡々と分析する。

 

「ナーベ。」

 

「戦闘前。」

 

「笑わない。」

 

「現在。」

 

「非常に楽しそう。」

 

エントマもこくりと頷く。

 

「いつも、怒る。」

 

「今日は、嬉しそう。」

 

ユリはさらに続ける。

 

「それに。」

 

「"強い"と聞いた時の反応。」

 

「まるで武蔵殿そのものよ。」

 

ルプスは冷や汗をかきながら笑う。

 

「あ、あはは。」

 

「気のせいっす。」

 

(いや。)

 

(全然気のせいじゃないっす。)

 

(完全に武蔵っす。)

 

(でも。)

 

(まだもう少し遊べるっす。)

 

アウラだけは何も疑わずに笑っていた。

 

「じゃあ決まり!」

 

「フェン!」

 

「来て!」

 

遠くから巨大な狼型魔獣が駆けてくる。

 

ドドドドド……!

 

フェンリルが闘技場へ姿を現した。

 

その巨大な姿を見た武蔵は、心底嬉しそうに笑う。

 

「おお……。」

 

「実によい。」

 

「これほど立派な獣と相対するのは久しい。」

 

その一言で。

 

プレアデス全員の頭に、まったく同じ考えが浮かんだ。

 

(……ナーベ。)

 

(そんなこと。)

 

(絶対に言わない。)

 

 

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