――ズガァァァン!!
闘技場の半分が崩れたような轟音は、第九階層中に響き渡っていた。
「ちょっと!」
「あなたたち何してんの!」
入口から飛び込んできたのはアウラだった。
地響きを聞きつけ、慌てて様子を見に来たのである。
だが。
目の前に広がる光景に思わず足を止めた。
「……何これ。」
壁は崩れ。
観客席は吹き飛び。
石柱は折れ。
闘技場は半壊していた。
「え?」
「誰がやったの?」
アウラが呆然と見渡す。
その瞬間。
ルプスレギナの目が光った。
(きたっす。)
(これは遊べるっす。)
満面の笑みでアウラに敬礼する。
「アウラ様!」
「これ。」
「ナーちゃんの武技っす!」
「えー?」
アウラは驚いてナーベを見る。
「本当?」
武蔵は「うむ」と頷いた。
「武技とは――」
説明を始めようとするが、
アウラは説明など聞いていなかった。
ナーベ(武蔵)から放たれる気配に目を見開く。
「!!」
「な、何これ!」
ぞわり。
全身の毛が逆立つ。
まるで強大な魔獣と対峙しているような威圧感。
「守護者クラスじゃない!」
「えっ?」
「ここまでレベル上がったの!?」
ルプスは待ってましたとばかりに頷く。
「そっす。」
「武技を習得するため、毎日修行したっす。」
「その結果。」
「レベルまで上がったっす。」
(もちろん大嘘っす。)
心の中だけで付け加える。
アウラは目を輝かせた。
「すごーい!」
「ナーベ!」
「いつの間にそんなに強くなったの!?」
武蔵は困ったように頭を掻く。
「いや。」
「修行は大事じゃからの。」
「積み重ねれば誰でも――」
「誰でも!?」
アウラはますます感動した。
「私もやる!」
「マーレもやらせる!」
「武技ってそんなに強いんだ!」
「教えて!」
武蔵は少し考える。
「うむ。」
「まず朝四時に起きて山野を走る。」
「千回素振り。」
「滝に打たれ。」
「飯は一汁一菜。」
アウラの笑顔が凍る。
「……。」
「それ。」
「毎日?」
「毎日じゃ。」
「十年ほど続ければよい。」
「十年!?」
(ナーちゃんなら絶対そんなこと言わないっす。)
ユリは静かにナーベを見つめていた。
(本当に……。)
(今日は別人みたい。)
(いや。)
(別人そのもの……。)
武蔵はそんな視線に全く気付かず、崩れた闘技場を眺める。
「少し力が入りすぎたの。」
「修繕せねばならんな。」
その一言で、アウラはさらに感心する。
「すごい……。」
「強くなっても全然威張らない。」
「さすがナーベ!」
ルプスは思わず吹き出しそうになる。
(違うっす。)
(それ。)
(中身、武蔵っすから。)
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崩れた闘技場。
アウラは腕を組みながら、興味深そうにナーベを見ていた。
「ねえ。」
「せっかくだから試してみようよ。」
ルプスが待ってましたと言わんばかりに手を挙げる。
「アウラ様。」
「一度ナーちゃんと立ち会ってみるっす。」
アウラは笑った。
「それもいいかもね。」
「今の強さ、見てみたい。」
ナーベ――いや、中身は武蔵が頷く。
「うむ。」
「そういえば。」
「お主とは初めて立ち会うの。」
アウラが首を傾げる。
「?」
「何言ってるの?」
ルプスは慌てて割って入った。
「あー!」
「ナーちゃん。」
「アウラ様本人じゃなくて!」
「魔獣と立ち会うのが初めてだから楽しみって意味っす!」
「そういうことっす!」
武蔵は「ああ」と頷いた。
「そうじゃ。」
「その魔獣。」
「強いのか?」
ルプスはにやりと笑う。
「あたしらプレアデスより強いっす。」
その一言だった。
武蔵の目が変わる。
ギラリ。
戦いを前にした武人そのものの眼。
「ほう。」
「それは楽しみじゃ。」
口元が自然に吊り上がる。
「久々に胸が躍る。」
武蔵は刀こそ持っていないが、思わず右手が腰へ伸びる。
そこに刀があるはずだった。
空を掴み、
「あ。」
と小さく呟く。
(今はナーベの身体じゃった。)
一方――
その様子を見ていたプレアデスは。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
ユリが眼鏡を押し上げる。
「ねえ。」
「ルプス。」
「これは……。」
ソリュシャンも静かに口を開く。
「いくら何でも。」
「おかしくありませんか?」
シズは淡々と分析する。
「ナーベ。」
「戦闘前。」
「笑わない。」
「現在。」
「非常に楽しそう。」
エントマもこくりと頷く。
「いつも、怒る。」
「今日は、嬉しそう。」
ユリはさらに続ける。
「それに。」
「"強い"と聞いた時の反応。」
「まるで武蔵殿そのものよ。」
ルプスは冷や汗をかきながら笑う。
「あ、あはは。」
「気のせいっす。」
(いや。)
(全然気のせいじゃないっす。)
(完全に武蔵っす。)
(でも。)
(まだもう少し遊べるっす。)
アウラだけは何も疑わずに笑っていた。
「じゃあ決まり!」
「フェン!」
「来て!」
遠くから巨大な狼型魔獣が駆けてくる。
ドドドドド……!
フェンリルが闘技場へ姿を現した。
その巨大な姿を見た武蔵は、心底嬉しそうに笑う。
「おお……。」
「実によい。」
「これほど立派な獣と相対するのは久しい。」
その一言で。
プレアデス全員の頭に、まったく同じ考えが浮かんだ。
(……ナーベ。)
(そんなこと。)
(絶対に言わない。)