ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
教室が静まり返ったまま、
ぼさぼさ頭の男──相澤消太は、飲み終えたゼリー飲料の空パックを
後ろ向きのまま、無造作に放り投げた。
カコン。
空パックは、狙ったようにゴミ箱へ吸い込まれた。
烈火は小さく目を細める。
(……後ろ向きで投げて、ちゃんと入るのか)
柳が肩の上で炎を揺らす。
「イレイザーヘッドは合理主義者だと聞いてますからね。
無駄な動きはしないんですよ」
相澤は淡々と生徒たちを見渡す。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
歓迎の色も、緊張をほぐしてやろうという気配も一切ない声。
ただ事務的で、ただ冷たい。
「さて──入学式なんてやってる暇はない」
生徒たちがざわつく。
「えっ……?」
「入学式ないの?」
「今日って初日だよね?」
相澤は机の横に置いていた体操服の袋を手で持ち上げ、
前の机にドサッと置いた。
「これを着てグラウンドに出ろ。
体力テストをやる」
お茶子が烈火のほうを振り返る。
「え、体操服……?
いきなりやなぁ……」
烈火は肩をすくめる。
「……ヒーロー科だし、そういうもんなんだろ」
芦戸は口を半開きにしたまま固まる。
「え〜〜〜!?写真撮る気満々だったのに〜!」
尾白は真面目に受け止めている。
「合理性……ってことか。
式典より実技を優先するのは理解できるけど……」
相澤は淡々と続ける。
「中学時代にやってただろう?
個性禁止の体力テスト」
生徒たちが口々に言う。
「ソフトボール投げとか……」
「握力とか……」
「反復横跳び……」
相澤は軽くうなずいた。
「そう。そういうのだ」
そして淡々と続ける。
「国は未だに画一的な記録を取って平均を出し続けている。
合理的じゃない。……まあ文科省の怠慢だよ」
烈火は心の中で思う。
(……言い切るな、この人)
◇
着替えを終え、A組はグラウンドに集合した。
相澤は淡々と説明する。
「入試の主席は爆豪だったな。
まずは──その力を見せてもらう」
爆豪が呼ばれる。
「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」
「67m」
「じゃあ──個性使ってやってみろ。
円から出さえしなけりゃ何してもいい。思いっきりやれ」
爆豪はボールを握りしめ、肩を回す。
その瞬間、空気が変わった。
爆豪の口角が吊り上がり、
手のひらで爆ぜる火花が一段と強くなる。
「……チッ、見とけよ」
そして、叫んだ。
「死ねぇぇぇぇッ!!」
ドゴォォォォン!!
爆風が地面をえぐり、砂煙が舞い上がる。
ボールは爆発の勢いをまとったまま空へ跳ね上がり、
遥か彼方へ消えていった。
◇
生徒たちが一瞬固まり──
次の瞬間、ざわつきが爆発した。
「え、え、え……“死ね”って言ったよね!?」
「なんで投球で殺意出すの!?」
「爆豪くん怖すぎるって!!」
「雄英ってこんなヤバい人いるの……?」
「いやでも威力やば……」
芦戸は肩をすくめて震える。
「ひぃ……あれと同じクラスなん……?」
尾白は真面目に眉を寄せる。
「威力が……本気で戦闘用だよね、あれ……」
お茶子は口をぱくぱくさせている。
「うち、あんなのと一緒に授業受けるん……?」
烈火は爆風の余韻を感じながら、
小さく息を吐いた。
(……あいつが入試トップか)
柳が肩の上で炎を揺らす。
「烈火、あの爆発……攻撃的な個性ですね。
危険ですし、距離を取ったほうがいいんじゃないですか?」
烈火は即座に返す。
「あ? やだよ。
だいたい──危ないからって避けてたら、
強い奴となんて一生向き合えねぇだろ」
柳はふわりと炎を揺らし、
どこか嬉しそうに目を細める。
「……そうですね。
烈火はそういう子でした」
烈火は肩をすくめる。
「本気でやるのが当たり前だろ。
ヒーロー科なんだし」
柳は小さく頷く。
「ええ。私もそう思いますよ」
◇
そのとき、計測器が数字を示した。
「705メートル」
空気が一変した。
「すげぇぇぇ!!」
「700!?どういう物理!?」
「個性思いっきり使っていいんだ!」
「これ面白そうじゃん!」
「ヒーロー科ってこういうのなんだ!」
「やべぇ、テンション上がってきた!」
さっきまで爆豪の殺意にドン引きしていた生徒たちが、
一気に浮かれ始める。
烈火はその空気の変化を感じながら、
小さく息を吐いた。
(……まあ、気持ちはわかるけど)
◇
その“浮かれた空気”を、
相澤の声が一瞬で凍らせた。
「面白そう?」
空気が止まる。
「そんな腹積もりで三年間すごすつもりかい?」
誰も返せない。
「……いいね。浮かれてるところ悪いけど、
8種目トータルの得点最下位の者は──」
間を置く。
「見込み無しと判断し、除籍処分にしようか」
生徒たちが一斉に息を飲む。
「じょ、除籍……?」
「初日で……?」
「本気で言ってる……?」
「ヒーロー科ってヤバ……」
「親になんて言えば……」
「え、普通に怖いんだけど……」
烈火は小声で言う。
「……あの先生、去年だけで20人以上除籍しているって記録があるらしい」
芦戸が青ざめる。
「えっ……20人!?
やば……やばすぎ……!」
尾白は真面目に眉を寄せる。
「つまり……本当に容赦しないってことか」
お茶子は手を胸に当てて震えている。
「うち……落ちたらどうしよ……」
柳が炎を揺らしながら烈火に寄り添う。
「烈火。気を引き締めてくださいね」
◇
相澤の声が再び響く。
「事故や自然災害、身勝手な敵たち……
この世界は理不尽にあふれている」
生徒たちが息を呑む。
「そういう理不尽に対して“NO”を突き付け、
覆していくのがヒーローだ」
相澤は一人ひとりの顔を見ていく。
「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」
誰も動けない。
「“さらに向こうへ、Plus Ultra”さ。
全力で、乗り越えてこい」
柳が肩の上で炎を揺らす。
「烈火なら乗り越えられますよ!」
烈火は拳を握りしめ、
相澤の言葉を正面から受け止めるように前を向いた。
「乗り越えれれば強くなれるってんなら……
むしろ望むところだ。やってやる」
その言葉に、周囲の空気が変わった。
飯田が眼鏡を押し上げる。
「……花菱くんの言う通りだ!
困難を乗り越えるために来たんだ、我々は!」
尾白が拳を握る。
「そうだ……!やるしかないよな!」
芦戸が勢いよく手を上げる。
「よっしゃー!なんか燃えてきたー!」
お茶子も胸に手を当てて頷く。
「……うちも、頑張る!」
爆豪は烈火を横目で見て、
ニヤッと口角を上げた。
「へっ……言うじゃねぇか、炎のやつ」
烈火は淡々と返す。
「言ったからにはやるだけだ」
A組全体の空気が、
さっきまでの不安から一転して“闘志”へと変わっていく。
相澤はその変化を見て、
ほんのわずかだけ目を細めた。
(……まあ、悪くない)
◇
相澤は名簿を確認しながら言う。
「最初の種目は50m走だ。
出席番号順でペアを組む。
ただし──準備できたコンビから走らせる。
最後だけは人数の都合で三人だ」
生徒たちがざわつく。
「準備できた人から……?」
「じゃあ順番バラバラになるのか」
烈火は心の中で思う。
(……合理的だな。待ち時間が無駄になるし)
柳が炎を揺らす。
「烈火、勝己くんはもう準備できてますね」
相澤が名簿を確認する。
「爆豪勝己、花菱烈火。前へ」
烈火は肩の上の柳とともに前へ出る。
爆豪は烈火を横目で睨む。
「へっ……炎のやつ。
走りで俺に勝てると思ってんのか?」
烈火は肩をすくめる。
「走ってみりゃわかる」
爆豪の口角が上がる。
「上等だ」
烈火は右脚に“焔群”を集中させる。
相澤が手を上げる。
「位置について──よーい──」
「ドンッ!!」
爆豪は爆風で一気に加速する。
ドガァッ!!
烈火も焔群で脚力を跳ね上げ、
爆豪と同じ速度域へ飛び込む。
バッ!!
生徒たちが叫ぶ。
「えっ!?花菱くん速っ!!」
「爆豪くんと並んでる!?」
爆豪は烈火を横目で見て、
ニヤッと笑う。
「へぇ……お前、なかなかいいじゃねぇか」
烈火は爆風を浴びながら、
顔をしかめて吐き捨てるように言う。
「っち……この爆風が厄介……
なんとか前に……いや、抜く!」
爆豪は即座に噛みつく。
「させねえよ!!」
烈火はさらに地面を強く蹴る。
焔群が脚に集中し、爆風と焔がぶつかり合うように並走する。
二人は完全に並走したまま、
ゴールへ飛び込んだ。
計測器が数字を示す。
「爆豪勝己 4.06秒」
「花菱烈火 4.09秒」
烈火は肩で息をしながら、
悔しさを隠さず言う。
「……くっそ、次は勝つ!」
爆豪はニヤッと笑う。
「クハッ、やってみろよ」
烈火は闘志を滲ませて返す。
「勝負なら受ける」
柳は炎をふわりと揺らす。
「烈火が悔しいと思うなら、それは次の力になりますよ」
相澤は淡々と記録を見て言う。
「悔しいなら、次で結果を出せ。
ヒーロー科はそういう場所だ」
烈火は即答する。
「……ああ」
爆豪は口角を上げる。
「次はぶっちぎるからな」
烈火も負けずに返す。
「……上等だ」