ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話   作:琴銀河

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第十話 個性把握テスト、開始

 

教室が静まり返ったまま、

ぼさぼさ頭の男──相澤消太は、飲み終えたゼリー飲料の空パックを

後ろ向きのまま、無造作に放り投げた。

 

カコン。

 

空パックは、狙ったようにゴミ箱へ吸い込まれた。

 

烈火は小さく目を細める。

 

(……後ろ向きで投げて、ちゃんと入るのか)

 

柳が肩の上で炎を揺らす。

 

「イレイザーヘッドは合理主義者だと聞いてますからね。

 無駄な動きはしないんですよ」

 

相澤は淡々と生徒たちを見渡す。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

歓迎の色も、緊張をほぐしてやろうという気配も一切ない声。

ただ事務的で、ただ冷たい。

 

「さて──入学式なんてやってる暇はない」

 

生徒たちがざわつく。

 

「えっ……?」

「入学式ないの?」

「今日って初日だよね?」

 

相澤は机の横に置いていた体操服の袋を手で持ち上げ、

前の机にドサッと置いた。

 

「これを着てグラウンドに出ろ。

 体力テストをやる」

 

お茶子が烈火のほうを振り返る。

 

「え、体操服……?

 いきなりやなぁ……」

 

烈火は肩をすくめる。

 

「……ヒーロー科だし、そういうもんなんだろ」

 

芦戸は口を半開きにしたまま固まる。

 

「え〜〜〜!?写真撮る気満々だったのに〜!」

 

尾白は真面目に受け止めている。

 

「合理性……ってことか。

 式典より実技を優先するのは理解できるけど……」

 

相澤は淡々と続ける。

 

「中学時代にやってただろう?

 個性禁止の体力テスト」

 

生徒たちが口々に言う。

 

「ソフトボール投げとか……」

「握力とか……」

「反復横跳び……」

 

相澤は軽くうなずいた。

 

「そう。そういうのだ」

 

そして淡々と続ける。

 

「国は未だに画一的な記録を取って平均を出し続けている。

 合理的じゃない。……まあ文科省の怠慢だよ」

 

烈火は心の中で思う。

 

(……言い切るな、この人)

 

 

着替えを終え、A組はグラウンドに集合した。

 

相澤は淡々と説明する。

 

「入試の主席は爆豪だったな。

 まずは──その力を見せてもらう」

 

爆豪が呼ばれる。

 

「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」

 

「67m」

 

「じゃあ──個性使ってやってみろ。

 円から出さえしなけりゃ何してもいい。思いっきりやれ」

 

爆豪はボールを握りしめ、肩を回す。

 

その瞬間、空気が変わった。

 

爆豪の口角が吊り上がり、

手のひらで爆ぜる火花が一段と強くなる。

 

「……チッ、見とけよ」

 

そして、叫んだ。

 

「死ねぇぇぇぇッ!!」

 

ドゴォォォォン!!

 

爆風が地面をえぐり、砂煙が舞い上がる。

ボールは爆発の勢いをまとったまま空へ跳ね上がり、

遥か彼方へ消えていった。

 

 

生徒たちが一瞬固まり──

次の瞬間、ざわつきが爆発した。

 

「え、え、え……“死ね”って言ったよね!?」

「なんで投球で殺意出すの!?」

「爆豪くん怖すぎるって!!」

「雄英ってこんなヤバい人いるの……?」

「いやでも威力やば……」

 

芦戸は肩をすくめて震える。

 

「ひぃ……あれと同じクラスなん……?」

 

尾白は真面目に眉を寄せる。

 

「威力が……本気で戦闘用だよね、あれ……」

 

お茶子は口をぱくぱくさせている。

 

「うち、あんなのと一緒に授業受けるん……?」

 

烈火は爆風の余韻を感じながら、

小さく息を吐いた。

 

(……あいつが入試トップか)

 

柳が肩の上で炎を揺らす。

 

「烈火、あの爆発……攻撃的な個性ですね。

 危険ですし、距離を取ったほうがいいんじゃないですか?」

 

烈火は即座に返す。

 

「あ? やだよ。

 だいたい──危ないからって避けてたら、

 強い奴となんて一生向き合えねぇだろ」

 

柳はふわりと炎を揺らし、

どこか嬉しそうに目を細める。

 

「……そうですね。

 烈火はそういう子でした」

 

烈火は肩をすくめる。

 

「本気でやるのが当たり前だろ。

 ヒーロー科なんだし」

 

柳は小さく頷く。

 

「ええ。私もそう思いますよ」

 

 

そのとき、計測器が数字を示した。

 

「705メートル」

 

空気が一変した。

 

「すげぇぇぇ!!」

「700!?どういう物理!?」

「個性思いっきり使っていいんだ!」

「これ面白そうじゃん!」

「ヒーロー科ってこういうのなんだ!」

「やべぇ、テンション上がってきた!」

 

さっきまで爆豪の殺意にドン引きしていた生徒たちが、

一気に浮かれ始める。

 

烈火はその空気の変化を感じながら、

小さく息を吐いた。

 

(……まあ、気持ちはわかるけど)

 

 

その“浮かれた空気”を、

相澤の声が一瞬で凍らせた。

 

「面白そう?」

 

空気が止まる。

 

「そんな腹積もりで三年間すごすつもりかい?」

 

誰も返せない。

 

「……いいね。浮かれてるところ悪いけど、

 8種目トータルの得点最下位の者は──」

 

間を置く。

 

「見込み無しと判断し、除籍処分にしようか」

 

生徒たちが一斉に息を飲む。

 

「じょ、除籍……?」

「初日で……?」

「本気で言ってる……?」

「ヒーロー科ってヤバ……」

「親になんて言えば……」

「え、普通に怖いんだけど……」

 

烈火は小声で言う。

 

「……あの先生、去年だけで20人以上除籍しているって記録があるらしい」

 

芦戸が青ざめる。

 

「えっ……20人!?

 やば……やばすぎ……!」

 

尾白は真面目に眉を寄せる。

 

「つまり……本当に容赦しないってことか」

 

お茶子は手を胸に当てて震えている。

 

「うち……落ちたらどうしよ……」

 

柳が炎を揺らしながら烈火に寄り添う。

 

「烈火。気を引き締めてくださいね」

 

 

相澤の声が再び響く。

 

「事故や自然災害、身勝手な敵たち……

 この世界は理不尽にあふれている」

 

生徒たちが息を呑む。

 

「そういう理不尽に対して“NO”を突き付け、

 覆していくのがヒーローだ」

 

相澤は一人ひとりの顔を見ていく。

 

「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」

 

誰も動けない。

 

「“さらに向こうへ、Plus Ultra”さ。

 全力で、乗り越えてこい」

 

柳が肩の上で炎を揺らす。

 

「烈火なら乗り越えられますよ!」

 

烈火は拳を握りしめ、

相澤の言葉を正面から受け止めるように前を向いた。

 

「乗り越えれれば強くなれるってんなら……

 むしろ望むところだ。やってやる」

 

その言葉に、周囲の空気が変わった。

 

飯田が眼鏡を押し上げる。

 

「……花菱くんの言う通りだ!

 困難を乗り越えるために来たんだ、我々は!」

 

尾白が拳を握る。

 

「そうだ……!やるしかないよな!」

 

芦戸が勢いよく手を上げる。

 

「よっしゃー!なんか燃えてきたー!」

 

お茶子も胸に手を当てて頷く。

 

「……うちも、頑張る!」

 

爆豪は烈火を横目で見て、

ニヤッと口角を上げた。

 

「へっ……言うじゃねぇか、炎のやつ」

 

烈火は淡々と返す。

 

「言ったからにはやるだけだ」

 

A組全体の空気が、

さっきまでの不安から一転して“闘志”へと変わっていく。

 

相澤はその変化を見て、

ほんのわずかだけ目を細めた。

 

(……まあ、悪くない)

 

 

相澤は名簿を確認しながら言う。

 

「最初の種目は50m走だ。

 出席番号順でペアを組む。

 ただし──準備できたコンビから走らせる。

 最後だけは人数の都合で三人だ」

 

生徒たちがざわつく。

 

「準備できた人から……?」

「じゃあ順番バラバラになるのか」

 

烈火は心の中で思う。

 

(……合理的だな。待ち時間が無駄になるし)

 

柳が炎を揺らす。

 

「烈火、勝己くんはもう準備できてますね」

 

相澤が名簿を確認する。

 

「爆豪勝己、花菱烈火。前へ」

 

烈火は肩の上の柳とともに前へ出る。

 

爆豪は烈火を横目で睨む。

 

「へっ……炎のやつ。

 走りで俺に勝てると思ってんのか?」

 

烈火は肩をすくめる。

 

「走ってみりゃわかる」

 

爆豪の口角が上がる。

 

「上等だ」

 

烈火は右脚に“焔群”を集中させる。

 

相澤が手を上げる。

 

「位置について──よーい──」

 

「ドンッ!!」

 

爆豪は爆風で一気に加速する。

 

ドガァッ!!

 

烈火も焔群で脚力を跳ね上げ、

爆豪と同じ速度域へ飛び込む。

 

バッ!!

 

生徒たちが叫ぶ。

 

「えっ!?花菱くん速っ!!」

「爆豪くんと並んでる!?」

 

爆豪は烈火を横目で見て、

ニヤッと笑う。

 

「へぇ……お前、なかなかいいじゃねぇか」

 

烈火は爆風を浴びながら、

顔をしかめて吐き捨てるように言う。

 

「っち……この爆風が厄介……

 なんとか前に……いや、抜く!」

 

爆豪は即座に噛みつく。

 

「させねえよ!!」

 

烈火はさらに地面を強く蹴る。

焔群が脚に集中し、爆風と焔がぶつかり合うように並走する。

 

二人は完全に並走したまま、

ゴールへ飛び込んだ。

 

計測器が数字を示す。

 

「爆豪勝己 4.06秒」

「花菱烈火 4.09秒」

 

烈火は肩で息をしながら、

悔しさを隠さず言う。

 

「……くっそ、次は勝つ!」

 

爆豪はニヤッと笑う。

 

「クハッ、やってみろよ」

 

烈火は闘志を滲ませて返す。

 

「勝負なら受ける」

 

柳は炎をふわりと揺らす。

 

「烈火が悔しいと思うなら、それは次の力になりますよ」

 

相澤は淡々と記録を見て言う。

 

「悔しいなら、次で結果を出せ。

 ヒーロー科はそういう場所だ」

 

烈火は即答する。

 

「……ああ」

 

爆豪は口角を上げる。

 

「次はぶっちぎるからな」

 

烈火も負けずに返す。

 

「……上等だ」

 

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