ちょっとしたお話。
パイロット版を改めて読んで、もう少し描写するべき所や言い回しを変えれる所があったなと思いました。
第1話 少年が見た流星
暗い
周りを見ようと目を開く、何も見えない
周囲の音に耳を傾けようと、何も聞こえない
体を動かそうにも、体の感覚もない
この時だけは、何度繰り返しても慣れたものじゃない。
いや───違う
いつまで経っても慣れないのではない、
思い出すのが
ゆっくりと俺の意識が浮かび始める。
見る光景はいつもと変わらない。
見慣れた白い天井、薄汚れた照明、窓から差し込む日の光、鼻にくる空間のカビた匂い。
【??】「……」
数秒
深く息を吐く
【武】「……またか」
驚きはない、怒りもない、絶望もない、ただ確認する。
──戻った
今日も始まりの日に。
【武】「……さて」
ベットから起き上がり、見慣れた廃墟から抜け出す。
何も変わらない、この世界をまた歩き始める。
─────
何時からだろうかこんな事になったのは、
巨大な顎を広げ迫ってきた戦車級に喰われた時か?
あの死に方は、二度と体験したくない。
抵抗する意識と力は有った、だが奴らに一度でも捕まれば、あの力で、顎で、群れで、生きたまま体をバラされ、
脳裏の残るのは、痛いのに動かない体、鼻につく腐臭、抵抗の無意味さと屈辱だけだ。
気がつけば見慣れた天井だった。
味方を庇って閃光に消された時か?
あれは本当に一瞬だった。
確かにあいつを助けた自己満足としては良かっただろう、だが暑さを知覚した瞬間に、目を開ければいつもの天井だった。
あの無力感はいまだに払拭しきれていない。
味方の負担にならない様に戦術機で自爆した時か?
あの時は、いきなり地中から来た突撃級を回避しきれずに轢かれたな。
あれは鈍く痛みが残り続けて動けなかった、それに腕とかひしゃげてたし、あいつらが救助にくる前に跳躍ユニットで自爆したのは良い経験だった。
一瞬の熱が俺を包んだ後に、足の方から押し潰されるあの衝撃は目覚めた直後に足があるのか確認するぐらいだった。
海上出撃する時に溺れた時か?
回避場所が皆無で、たまたま避けたのは良いがそのまま水が隙間から入って来たんだよな。
あの冷たさと酸素が消えて行く感覚を、あんな暗い場所で一人だったのは行幸だったのだろうか。
あの後の目覚めでは、息ができた喜びと溺死した事実で一瞬だが心臓が止まった。
不注意で酸に溶かされた時か?
乱戦で殿として無双していた時は気分が良かったが、あの触手が何処までもしつこい物で在ることを忘れてやられるのは戻った時に滑稽だと自分で嗤ったものだ。
銃を奪い自身で頭を撃ち抜いた時か?
あの時は、本当に病んでいたと今の俺なら言える。
これまでだって、誰かに撃たれて戻る事はあったが自分で戻る勇気があった事には称賛したものだ。
だがあの鉄の冷たさと、流れ出る液体の感覚、一気に脱力した体感覚を前に、次はやらないと決めたもんだ。
奴らに勝って浮かれていたあの時か?
あの時の歓声は凄かった、世界中が祝福して命日になるぐらいだ。
あの世界で俺と人類は生き延び、戦争は終わった。
それで安心して、寿命を迎えた翌朝。
目を開けば、いつもの天井だった。
何もなせず諦めた時か?
あの時の俺は、何もかもを諦めた、関わろうとせず、逃げた。
結果として誰も救わなかった。逃げた。
逃げた先の静かな田舎町で生き続けていたら、
いつもの天井を見ていた。
そも後も老衰、病死、事故死、寿命、火災、地震、津波
心臓発作、毒、餓死、凍死、圧死、窒息、感電、落下
裕福な家庭、誰かと結婚した、誰とも結ばれなかった
勝利した世界、敗北した世界、処刑だって経験した。
何でも良かった。
何度でも戻った。
最初の頃は泣いた「もう嫌だ」と「なぜ俺なんだ」と「返してくれと」叫んだ。
夕呼先生に縋った。
冥夜に助けを求めた。
壬姫に弱音を吐いた。
委員長に強く当たってしまった。
慧に言ってはいけない事を言った。
美琴に間違いを犯しかけた。
純夏に泣きついた。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
その度、戻った。
当然、怒りが沸いたが、悲しみと行き来して100回
もう諦めた。
だから今度戻った時は勇気を持った。
世界を救う方法を探した、夕呼先生と議論を重ねた。
記録を残そうともした、ループの条件も調べた。
何が原因で、いつ終わり、解放される条件も、
立て続けた仮説も一つずつ潰した、だが
何百、何千、何万もの、検証し、失敗や成功も繰り返した
全部が無意味だった、だからもう考えない。
これ以上、絶望を広げない為に。
だから今度は、がむしゃらに楽しむ方に考えを変えた。
直接戦わない未来を経験した、時には整備士、会社員、教師、医師、政治家、どれも苦難しかなかったがその道中を楽しんでやった。
当然戦う未来だって歩んだ、誰よりも強い衛士になり、激震、陽炎、吹雪、不知火、武御雷、あらゆる機体に乗った、あらゆる戦場へ赴いた。
何度も英雄と呼ばれた、何度も戦死した、何度も生き残った。
─────
人は同じ悲しみを何度も経験すれば、慣れるのだろうか?
それはいったいどれ程だ?
百万か、一千万か、一億なのかは分からない。
ただ一つ確かな事がある、俺は慣れてしまった。
冥夜が怒る。
面白いと思う、思うだけだ。
霞が照れる。
微笑ましい、ただそれだけだ。
純夏が笑う。
可愛いと思う、思うだけだ。
もう昔みたいに胸が高鳴りをすることがない。
当然だ、別れが来る事を知っているのだから。
どんな未来でも最後には失うと知ってしまったのだから。
─────
だから深くは関わろうとはしない。
優しくはする、助けもする、救えるなら救う。
だが、心だけは近付けさせない。
どうせ失う。
どうせ戻る。
どうせ全部消える。
もう学んだ事だから。
【武】「…俺は何のために戦っているんだろうな………」
ふとこぼれた言葉は、誰にも届かない。
答えてくれる者もいない。
ふと思い浮かぶのは、
世界を救うだとか、仲間を守るとか、人類のため。
──違う
もう、そんな立派な理由ではないのは百も承知だ。
答えは単純、戦わなければ死ぬ。
死ねば戻ってしまう、だから戦うそれだけだ。
─────
昔の俺はもっと馬鹿だった。
正義感だけで突っ走って、無茶をして、怒鳴って、怒鳴られ、泣いて、笑って、見ず知らずの誰かの為にすら己の命も惜しまなかった。
今の俺には、少しだけ眩しすぎるくらいに。
いつからだろう。
「生きたい」と思わなくなったのは。
いつからだろう。
「守りたい」と叫ばなくなったのは。
思い出せない。
思い出そうとも思わない。
記憶はあるが、感情だけがもう擦り切れてしまった。
いつもと変わらない風景、変わらない世界
【武】「………今日も始めるか」
その言葉に決意も希望もない。
ただ終わらない日々を歩くための確認の儀式であった。
そんな過去には、一時とは言え幸せな時は存在した。
冥夜と共に地球に残った世界があった。
地球に残る時、他の奴らを移民船に乗せるの苦労したものだ。
だがBETAどもを半分以上駆逐し、帝国の再建を完了した時のあいつの顔と達成感は格別だった。
その後も幾多の戦火を乗り越え、徐々に前線から身を引き後身の育成に励んだ。
あいつに孫の顔を目せられず肉体が老いて行くのは忍びなかった、それでもこの歩んできた数十年で十分であると言えた。
目を開いたら、古びた学生の部屋が広がる
2001年10月22日だった。
─────
霞と統合軍を作った世界があった。
あいつと共に宇宙人類をまとめ上げ、地球奪回と未来の開拓を共に励んだあの日々が懐かしい。
正直に言えば妹のように接していたのを不服に思っていたのだろう、何かと理由を着けては部屋来て「夜遅いから」って俺のベットに一緒に寝る日だってあった。
だがそれでもあの日、あいつを守りきった時は嬉しかった、この傷が癒えたら言ってやることが増えたなと目を閉ざし、
痛みが引いて目を開けると
2001年10月22日だった。
─────
純夏と老衰するまで生きられた世界があった。
あいつに似た娘を育て、彼氏を連れて来た時は驚いたものだ。
あれよあれよと老いる頃には、孫に囲まれて眠るように死んだ。
目を開けたくないが目覚めれば
2001年10月22日だった。
何度も何度も、愛し愛された、
冥夜と未来を築いた、霞と世界を作った、慧と悪態をつきながら笑った日々も、壬姫と晩御飯で一喜一憂していた夜も、美琴と飲んだ酒の味を、委員長と政治を動かしてあの夕暮れも、純夏と年を重ねた、
一回、十回、百回、千回、一万回、目を開いたら全て消えた。
記憶だけが残る、他の形あるものは残らない、共に歩いた月日も、交わした約束も、重ねあった時間も。
全て俺一人の記憶の中にしか存在しない、虚しいものと成った。
もう何処が終わりなのか、わからなくなった。
もう恋をしなくなった。
もう友情を築かなくなった。
もう未来を語らなくなった。
どうせ失うから。
─────
それでも、俺は愚かな人間だと思う。
あいつらの笑顔を見ると嬉しいくなる。
助けられたら安心する。
感謝されたら照れてしまう。
何回、何万回繰り返してもこの感情だけは消えなかった。
だから、もうしない、心には近付けさせないと思って行動しても。
気がついたら救ってる、助けてしまう。
世界を、人類を、仲間を。
何度でも終わると学んでいるはずなのに。
─────
【武】「……つくずく、俺は馬鹿だよな」
まだ基地にはつかない道中、誰にも憚られず自嘲する。
それでも昔の俺なら、きっと笑って言うだろう。
『当たり前だろ、助けてられるなら助ける』
だがその声は遠い。
失った人数は覚えていない。
送った葬式も覚えていない。
抱き締めた回数も、別れを告げた回数も、数える事はとうの昔にやめた。
それでも心の中に残る、幸せだった記憶だけは忘れるられなかった。
だからだろうかふと、いつ見ても変わらない景色を前に、元の世界に思いを馳せる。
白い制服の袖に腕を通す、鏡に映る姿とその目は若々しく年相応である、今の老人と見まがう瞳とは違う。
今の荒廃し光も風にすら元気を感じない此処とは違い、前の世界なら朝日に照らされ清みきっていたはずだ。
音だってそうだ、此処じゃすきま風の様な悲しみしかないが、前の世界なら鳥の声、犬の鳴き声、朝刊を運ぶバイクの音、人々の活気に溢れた声すら今はなぜか思い出せる。
これは俺が守りたかった理想郷だ。
此処にはないが、大切にしなきゃいけない場所だ。
やはり『若かった』等と苦笑が溢れてしまった、
いや今でも若いつもりだ、ただ心がとっくに老人を越えただけで。
─────
学校へ向かう足どりに迷いは無い。
この後、誰に会い、何を話すのかその最適な順番を組み立ていた時ふと始めの自分を思い出した。
あぁ、なんと懐かしい事か。
あの時は無知で世間知らずで場違いな奴だったな。
だが全員と仲が良かったのもあの時だったな。
あの頃の自分は、世界を守りたかった、みんなを守りたかった、絶対に諦めないと誓っていた、何度失敗しても、何度泣いても立ち上がって来たまさしく主人公だったな。
【武】「……初心、か」
懐かしみ過ぎて、脚を止めつい言葉が口から出てしまった。
がだ、ずいぶんと忘れていた言葉だ。
世界を救う事。
誰かを守る事。
正義感、使命感。
とっくに擦り切れたと思っていた、でも
なくなった訳じゃなかった。
【武】「今回は……」
空を見上げる。
いつもなら学園に着いて拘束されてもおかしくない時間だ。
【武】「…もう一度だけ」
期待はしない。
奇跡も信じない。
それでも、昔みたいに、
誰かを助けて、
誰かの為に笑って、
最後まで足掻いてみよう。
方針を決める理由なんて、それで十分だ。
だから今まで積み重ねて来た物を少し捨てる。
【武】「初心に帰る」
我ながら静かな声だった。
だがこれまでの決意表明よりも清々しい気がした。
だから始めようか、今回のループでは始まりの頃へと、
何度も敗れ、立ち上がって来た、
がむしゃらで無鉄砲でバカだった最初の俺に。
少し日は傾いたが、まだ彼らが門番をしているのが遠目から見えた。
本当、あの二人は分かりやすいな。
今回は見殺し何かにはしない、絶対救ってやるからな覚悟しとけよ。
ただいま、僕の愛しの学校
よろしく、僕の愛しの戦場
さて、感傷に浸るのは此処までだ。
慣れたやり取りを、彼らとこれからくる拷問官の人としつつ、夕呼先生に会おうか。
こっちには俺特製の攻略本が有るんだ失敗なんてしないさ。
さすが俺だぜ、衛士には順調に成れた。
あとは実戦とこれから起こる事を先生に忠告して、上手く流れを作るだけだな。
…ちょっと順調な部分がありすぎて不安だが、皆が元気なのでよしとする。
にしても此処の通路をこんなに清々しく通るのなんていつ振りだろな。
やっぱり空は今日も綺………ぃ?
【武】「何だ…あれ?」
いや確かにこれまで、降下艇の侵入や迎撃のレーザーの光景を長年見たせいで空を見るのが、染み込んだ習慣とは言えだ、
あんな流星は知らないぞ?
そろそろ実戦を経験する時期だが、流星何て一回も見た事はない、どっちかと言う俺の方が流星に成ってる事の方が多いし。
でも綺麗だな薄く赤い空に、たった一本の白き輝きを放って、この大空を横切って行く様は。
【武】「………いや」
確かに綺麗で珍しいが、おかしいだろ。
俺が何回、何十回、何万回この世界をループしてると思ってるんだ。
今まであんな流星は一回たりとも見てないだろ。
自分の鼓動が大きく、早く鳴っているのが聞こえる。
そりゃそうだ、いままで既知の繰り返しに来た。
全くの未知の事象。
世界が滅んだ未来でも、救った未来でも、逃げ未来でも、戦い続けた未来でも、幸せだった未来でも、絶望の未来でも。
記憶している全てで、こんな光景は存在しなかった。
こんな感覚、始めて子供ができた時や、帝国近衛みたいに戦術機を扱えた以来の感覚だ。
鳥肌が立ってきた、武者身震いすらしてやがる、自分の体ながら落ち着きがなくて何よりだ。
しかも頭の中じゃ「今すぐ戻れ」って警報が響きすぎて痛いぜ。
もう何もかも知ってる世界でこの言葉をまた使う事があるなんてな、いつ以来だろうな。
【武】「…なんだよあれ」
驚愕でも、恐怖でもない、ただの好奇心からでた言葉だった。
流星は消えない。
尾を長くひきながら。
ゆっくりと、確実に。
地平線の向こうへと落ちて行く。
【武】「……分からない」
その言葉を口にした瞬間、俺は小さくだが笑っていた気がする。
隕石や、人工衛星、スペースデブリの大気圏突入は何度も見てきた。
だがあれは違う、速度も、角度も、光方も。
分からない、知らない、予測できなかった。
そんな当たり前だったことが、こんなにも新鮮だったなんて。
【武】「はは…」
笑いが漏れる。
何年ぶりだろう、心のそこから怖いと思ったのは。
何時ぶりだろう、未知を分からないと理解したのは。
いつ以来だろう、俺の胸に小さな期待が生まれたのは。
風が吹く。
もう流星は空を横切り終わっていた。
落ちたであろう場所が一瞬だが、激しく光った気がした。
目が離せなかった、いや今でも離せてないと思う。
─────
その流星は、まるで導かれるようにして現れた。
誰も知らない星海の遥か彼方から。
それが今を生きる人々の希望となるか。
あるいは、
新たな絶望と成るのかは、誰も知らない。
ただ一つ、確かな事があるとしたら。
その光には、目一杯の願いと思い出が詰まっている事でしょう。
今作品おける武さんは、膨大なループをしている設定です。
どこかの薔薇のRTA走者や、時計の魔法少女みたいですね。
詳しくは後々、掲載予定の設定一覧より。