三体のガンプラを相手にファントムライトを纏ったクロスゲージガンダムが突撃する。
足裏のバーニアのみで、フォビリアガンダムタブーへと。
それはエニシにとって、とっさの判断であったが一番の最善手だった。
TR-Δガンダム、Ex-100ガンダムへクロスゲージガンダムが突撃していたら、実態弾や実態剣を装備しているため、簡単には反撃され撃墜されてしまうだろう。
だが、フォビリアガンダムタブー。
そのガンプラは先ほどからガンビットのみでの攻撃しかしておらず、他の武装を持っている様子すら見えない。
「アイツを倒して、みんな!」
フォビリアガンダムタブーのダイバーはガンビットでの攻撃を続けるが、今のクロスゲージガンダムはファントムライトを発動している。
ファントムライト、それは機体の身体中に纏わされたIフィールドによってビーム兵器を無効にするというもの。
ビームを無効にしながらもクロスゲージガンダムがフォビリアガンダムタブーへと向かい、その掌に産み出した黄金の輪を振るう。
「アニュラスっ!」
エニシによってヴォワチュー・ルリュミエール:アニュラスと名付けられた攻撃は、小さな輪からは考えられない程に伸びフォビリアガンダムタブーの周囲に浮かんでいたガンビットと同時に、フォビリアガンダムタブーの片腕を切り落とした。
「機体がっ!?」
そんな様子にエニシに、自分の戦い方はダイバー……対人間でも通じることを理解する。
「僕、やれた……僕だって人と戦えるんだ」
ふと、先程振るった腕パーツが宙へと浮かんでいるのが見えた。
エニシの思考が停止する、なんでクロスゲージガンダムの手が、機体から離れたそこにある?
そして無意識かにズームさせたメインカメラに映ったのは、札断面のある肘から先のスターゲイザー腕部。
「え?」
そして次の瞬間、モニターにいくつもの《DANGER》の文字が並び警告音を鳴らす。
どうして、そう思うより先に見えた。
宙に浮かぶ腕の少し先、まるで通りすぎた少し先のような場所に先程まで遠くにいた筈のTR-Δガンダムがその手に握っていたGNバスターソードⅢを振り抜いている姿。
トランザムで高速で切ら抜けられて片腕がそれを理解した頃には片腕を宙へと伸ばしたままクロスゲージガンダムが落下し始めた。
まずっ!?
「着地しなきゃ、脚部バーニアを!」
ファントムライトが防いでくれるのはビーム兵器、だからこそTR-Δガンダムの持つGNバスターソードⅢのような実態剣には、Iフィールドで弾くことは出来ない。
どうにか姿勢を制御しようと機体の両足を地面へと向けようとした時だった。
左脚部に大きな衝撃と爆発音が響く。
「っ!?」
メインカメラが先程の衝撃の原因へと視線を向ける。
見ればスナイパーライフルらしきものを構えたEx-100ガンダムの姿が見えた。
そしてモニターに写る機体の状態は、バックパックと片腕、左脚部の破損でバーニアを使うことが出来ない状態。
どうみても、戦闘は続行不可能だった。
「これが」
これが対戦をしているプレイヤーと、対戦をしていない僕のようなプレイヤーの大きすぎる差。
やっぱり、勝てるわけないな。
そんな事を思った瞬間、大きな衝撃と共に機体がビルの中へと叩き付けられた。
廃ビルへ体を埋めたクロスゲージガンダムは、その体を動かすことすら叶わない。
先程まで吹き出していたファントムライトの光が消えていく。
機体のエネルギーが尽き、ビームアンテナすら維持できずそのツインアイのみが静かに点滅している。
右足と右腕が破損状態、武装も使えないし立ち上がることすら出来ない。
ポタポタ、と雨が機体へ降り注ぐ。
ここまでの状態なのに撃墜判定とされ、リスポーンもされない。
「こんな状態で、どうしろって言うのさ」
操縦桿を握る手がほどけ、だらりと操縦桿を放棄する。
此方へ向かってくる二機。
Ex-100ガンダムとTR-Δガンダムの足音と、宙に浮かぶフォビリアガンダムタブーの姿を映すモニター。
そんな光景にどうしようかと、考える。
いっそのこと、シロー・アマダみたいに「ひと思いにやれーっ!」と叫んでみようか。
ガンダムダブルオーのエクシアのように唯一動くが片腕を空へ掲げてみようか。
そんな事を考える。
だって、負けるのは仕方ないのだ。
初心者で、一人NPDとゲームを続けている僕に対人戦なんて少しでも出来たら良い方なのだ。
そんな事を思っていた時だった。
数発のビームライフルの音。
あぁ、負けるんだな。
そう思って目を閉じる。
リスポーンはどんな感じなのだろう、ペナルティとかあるのだろうか。
そんな事を考えているが、一向に耳に聞こえる雨音が変わらなかった。
目を開けると、先程までクロスゲージガンダムを囲っていた三体のガンプラが破損し後退していた。
何が置こって?そう疑問に思うよりも早く、それは聞こえた。
「ダブルオー機体ベース、君の機体の塗装が甘い!全てが同色に纏められておらず微かに色が違う!」
オープンチャンネルでの通信から聞こえてきたのは、これまで聞こえなかった男性と思われる声。
「Ez8ベースの君は、武装全てに入念なスミイレがあるが、オーバーランしている箇所がいくつもある!最後にエアリアルベース!君はガンビット一つ一つの造り込みが甘い!!」
そんな声と共にクロスゲージガンダムの倒れたビルの前に降りてきたのは青を基調としたカラーリングが施されたフルアーマーユニットを装備し、背中に四基のファンネルを装備したガンダム。
「どうして、アイツがこんなところにっ!」
「くそっ!早く逃げるぞ!」
フォーエバーガンダム、そう呼ばれるガンプラが目の前に降り立った。
「貴様らのようなダイバーは、同じダイバーとして許されない。初心者ダイバーに変わって私と愛機……フォーエバーガンダムが相手をしよう。さぁ、来いッ!!」
突然現れたフォーエバーガンダムを駆るダイバーは瞬く間に、三体のガンプラを撃墜した。
その様子はまるでガンダムのアニメだ。
アニメで出てきたエース機のような、言葉にすることが出来ない、そんな洗練された動き。
TR-Δガンダムの動きを先読みしてビームサーベルを置いて上半身と下半身に両断。
Ex-100ガンダムとの打ち合いの最中、背後へ回ったガンビットをバックパックに装備した四基のファンネルで撃ち落とす。
そして最後には盾を囮にフォビリアガンダムタブーのコックピットをビームサーベルで貫き撃墜、そこを狙おうとウェポンラックを展開したEx-100ガンダムの背後からファンネルで撃ち抜いて撃破。
本当に、アニメや映画を見ているような気分だった。
とにかくガンプラへのダメ出しをしながら戦う様子は、少しだけ変な感じがしたけど。
「君、機体は動かせるか」
その声と同時にモニターに表示されたのは金髪にサングラスをかけた少し怖い印象のダイバーだった。
「っ、それはその、あの……」
「すまない、不躾な質問だったな」
フォーエバーガンダムはゆっくりと半壊状態とも言えるクロスゲージガンダムを抱き上げる。
例えるならGガンのゴッドガンダムがシャイニングガンダムを抱き上げるアレだった。
「このフィールドから運ぼう、そうすれば機体は修復された状態へ戻り、ペナルティなくゲームを再開できる。初心者に、ペナルティは大きな負担だろう」
「そ、うですね。あり、がとうございます」
なんとかそう返事をするだけで精一杯だった。
NPD達とは普通に話せていたのに、ダイバー相手だと何故かこうして萎縮してしまう。
フォーエバーガンダムのダイバーはそんな僕の返事を聞くと、それ以上何も言わなかった。
ただ、半壊したクロスゲージガンダムを抱きかかえたまま、ゆっくりと飛行し始める。
「……」
何か話した方がいいのかな。
助けてくれたんだから、お礼くらいちゃんと言わないと。
でも、何を話せばいいんだろう?もし話したことばが相手にとって嫌なことだったら?
頭の中で言葉を探している間にも、クロスゲージガンダムを抱えたフォーエバーガンダムは出口へ向かっている。
そんな時だった。
「君の機体」
「は、はいっ」
突然の言葉に、思わず声が出た。
「頭部パーツ。それはビギニングガンダム30のパーツだな」
「……はい」
「まさか、このGBNでビギニングガンダムをベースにした機体を見られるとは思わなかった」
「え、えっと……そうなんですかね」
突然の問いに頭が真っ白になる。
でも、フォーエバーガンダムのダイバーさんの声が、ほんの少しだけ嬉しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
「えっとその……ビギニングガンダム、じゃなくてビギニングG……その、好きなんですか?」
「好き、か……」
僕の言葉にフォーエバーガンダムのダイバーさんの言葉が止まる。
どうしよう、もしかして地雷を踏んでしまったのだろうか?
でも、さっきフォーエバーガンダムを愛機と言っていたし嫌ではないはずっ。
「そうだな、好きだ」
帰ってきたその言葉は、驚くほどシンプルだった。
「あの作品は私にガンプラを作る楽しさ……自分だけのガンプラを作る楽しさと自分で作ったガンプラで戦う楽しさ……それを私に教えてくれた作品の一つだからな」
その言葉を聞いて。
僕は、さっきまで見ていた戦闘を思い出した。
三人のガンプラを相手に、一切迷うことなく戦っていたフォーエバーガンダム。
無意味な射撃ではなく、牽制に見せかけた相手を次の行動へ誘導する射撃。
少しの角度や軌道を調整して振るわれたビームサーベル。
相手の動きを読んで展開させていたファンネル。
その全てが、まるで。
「……すごかったです」
「ん?」
「さっきの戦い」
思わず、口から言葉が出ていた。
「すごかったです。その……本当に、アニメの中のガンダムを見てるみたいで。あんな風に戦えるんだって、あんなことができるんだなって……凄く勉強になりました」
言葉にしているうちに、少しずつ。
言葉の詰まりや、萎縮していた体は戻っていた。
「その僕、ずっとNPDとしか戦ってなくて。だから、人と戦うのは怖くて避けてて。そんな中であの人たちに襲われて、少ししか戦えなかった」
モニターに表示されるクロスゲージガンダムはすべての機体部に赤い《DANGER》の文字が点滅している。
「でも」
気がつけば俯いていた僕は少しだけ、笑ってしまっていた。
「楽しかったんです」
アニュラスの使い方、カーフミサイルの応用。
思い付いた戦法が、武装を使いこなせていける感覚が、成長を実感させてくれて。
自分のガンプラがこんなにも色々なことが出来る、きっともっと練習したらきっと対人戦も出来るんじゃないかなって、そう思えるくらい。
「……そうか」
オープンチャンネルから、静かな声が聞こえた。
その声は、先程まで初心者狩りのダイバーへ向けていた厳しいものではなかった。
どこか、懐かしいものを見るような……そんな。
「ガンプラは……ガンプラバトルは、楽しいな。少年」
フォーエバーガンダムのダイバーさんの言葉を聞いた瞬間、僕の思考が止まった。
……え?
フォーエバーガンダムのダイバーさんの言葉。
今の台詞を、僕は知ってる。
それは。
「……はい!」
気付いたときには自然と、口が動いていた。
「そ、その……楽しいです!こんなにも奥深くて、こんなにも面白いっ!」
言った瞬間、僕は思わず口を開けたまま固まった。
しまった、台詞に反応して言ってしまった。ビギニングGにおける最終決戦でのイレイ・ハルとボリス・シャウアーとの間で交わされた大好きなシーンの台詞。
オープンチャンネルが静かになり、雨の音だけが聞こえる。
フォーエバーガンダムのダイバーさんからの言葉がいつになっても、帰ってこない
もしかして、変なことを言ってしまった?
そう思っているとフォーエバーガンダムのダイバーさんが口を開いた。
「……少年」
「は、はいっ」
「今の台詞を、どこで知った?」
「ぅえ?」
「いや……答えは聞くまでもないか」
自分で納得した様子のフォーエバーガンダムのダイバーさんに、少し困惑してしまう。
でもフォーエバーガンダムのダイバーさんは、今までより機嫌が良くなっているような気がした。
「少年」
「はい」
「名前を聞こう」
「え」
「ビギニングガンダムを使うダイバーの名を、私は覚えておきたい」
「ぼ、僕ですか?」
「他に誰がいる」
「えっと……エニシです」
「……エニシ、縁か。」
その名前を、確かめるように呟く。
「覚えておこう、エニシ。私の名はボリス・シャウアー」
その名前を聞いた瞬間、モニターを見るがモニターに映るボリス・シャウアーさんにはNPDの表記はない。
ダイバー、すなわち本当に人間であることを示している。
確か、ロールプレイ?をしてる人?なのかな?
え、えっとどう返事すれば!?
こういう時は、えぇと……そう!
「よ、よろしくお願いします?!」
「フッ、楽しみが出来たな」
そう返事を帰してくれたフォーエバーガンダムのダイバーさんに、取りあえず返答できて良かったと胸を撫で下ろす。
そんな様子のエニシは知らなかった。
フォーエバーガンダムを駆るダイバー、ボリス・シャウアーが、今。
心の中で、ビギニングガンダムのパーツを使うダイバーに出会えたこと。
ビギニングGの台詞を交わせた事に、とんでもないほどに歓喜し、興奮していることを。
ビギニングガンダムのパーツを使用したダイバー。
それだけでも十分だった。
しかし、その少年は。
自分が何気なく口にした、あの台詞に。
あの作品の、あの少年と同じ言葉を返してきた。
──────いた。
このGBNに、同じビギニングGを愛する同志がいた。
初心者狩りなどという者たちに、この少年の楽しみを奪わせるわけにはいかない
私が、私が彼を守護らねばっ!
いや、違うな……落ち着け私。
ボリス・シャウアーとして、もう少し格好よく決めるべきだろう。
しかし、それはそれとして同志を見つけてしまったのだから仕方がない!
ふふ、キョウヤ。
私も、君と同じく初心者の友が出来たようだ。
初心者であろうと。
実力がまだ足りなかろうと。
それでも同じものを愛し、同じ楽しさを知る者ならば。
それはきっと。心から「友」と呼べる存在なのだろう。
ふふ、彼の成長が楽しみだ。
そしていつか──────。
─────────彼と、フレンドになろう!