「……し……真ゲッター…………反応が完全にロストしました…………」
「そんな……リョウくん」
静寂が支配し唖然としている管制室。
実験テストをしていた真ゲッターの加速が止まらなくなる暴走、それによって常識を逸した光に限りなく近い速度を出し、その果てに真ゲッターからの信号がなくなったのだわずかに緩む。
真ゲッターのテストパイロットを務めている流竜馬の戦友、神隼人は冷や汗を白衣の袖で拭いながら、もしもの時にサポートさせるために出撃させていたゲッター1に指示をだす。
「心配させて…………やっぱり、俺がやればよかった」
テストパイロットの候補だった車弁慶は安堵したためか顔をほころばせていた。
「えっ? 高度が低すぎ――――なんだ! 未知のエネルギー反応だと!?」
レーダーを見ていた男の顔が驚愕に染まる。
隼人は睨むようにその男とレーダーを振り向く。
「それになんだ、この大きさは…………で、でかい!? 真ゲッターじゃない? ゲッター1確認へ急げ!」
再び、場の空気の緊張の糸が張り詰めて険しくなる。
「ゲッター1からの映像が送られましたモニターに写します」
「こ、これは……」
それは巨大な真っ黒の物体であった。
この場の者達はいままで、恐竜帝国や百鬼帝国などの人にあらざる者達が作った兵器と戦っていたがこれは人間の手によって作られたものにしか見えなかった。なぜならば、眼前に映る物体は黒くて、六角形状の板状のものに覆われているが、これは紛れも無く第二次世界大戦の戦艦――――
「大和……」
早乙女博士が呟いた名前、「大和」。
その大和としか思えない戦艦のような物体がなぜか空中に突然現れたのだ。しかもゆっくり下降し宙に浮いているという非現実的な光景がモニターに映されている。
全世界を揺るがした第二次世界大戦から、数十年経った世界。
だが、恐竜帝国、百鬼帝国の人類の敵の出現により世界の秩序は壊された。
それに立ち向かったのは戦争によって傷ついた日本のある組織、そして浅間山には人類の敵に立ち向かったとある研究施設がある。
その施設――早乙女研究所は人類の新たな開拓地になりうる宇宙に進出するためにあるものを研究が続けられていた所であった。
そこで主に研究されていたゲッター線、それは人類の新たな希望になりえた存在であった。
無公害で莫大なエネルギーとなり、物質に様々な影響を与える夢の様な光だったゲッター線。しかし、それは人類の敵の出現によって世界を守るために戦う兵器へと使用された。
ようやくその戦いも数カ月前に終焉したはずだった…………恐竜帝国の残党と隕石に偽装して落ちてきたかつての百鬼帝国の帝王のブライ…………それは新たな戦いを感じさせるのに十分であった。
その戦いに備えて新たな戦力である真ゲッターロボ、その力を試すためにテストをしていた。
そして、事態は更なる展開を見せることになった。
「う……ん」
坂本美緒は痛む体の節々の痛みとともに目を覚まさした。
だが、不思議と目覚めは良かった。
心のなかが何かをやりきった達成感に溢れていたからだ
「ここは? 病院……そうだ! 作戦はどうなったんだ」
坂本美緒が参加していた作戦、それはロマーニャという国の間近を舞台にした、その後の人類未来の戦況を担う作戦であり、その結果によっては人類の未来に大きく関わると言っても過言ではない作戦。
彼女と所属していた部隊は選りすぐりの強力な
起動した大和は敵に向かったがトラブルが発生し、そこで自分がその対処にあたることでトドメの砲撃を――――というところまでを思い出して美緒に冷静さが戻り始めた。
その作戦の結果が気になるが。「その中心地にいた自分が、生存しているなら作戦は成功しているのだろう、最悪の事態は起きては自分が回収されるような余裕はないのだから」とそう結論づけ、落ち着きを取り戻すと今度は、美緒は足が落ち着かない感覚を覚えた。
「…………まさか」
足の違和感に美緒は想像したくない予想をする。
膝から下がなくなっているかもしれない。
現代の魔女の箒「ストライカー」によって足は保護されている。
しかし、そこから上は…………そしてシールドを張るほどの魔力がない自分は…………そして、大規模な戦いの後であることが不安を強くした。
「…………なんともない」
ちゃんと、自分の足があることを確認し、ベッドから立ち上がろうとする。
戦いの疲労からか少しふらつくものの問題はなく歩け、その部屋の扉に手を掛けるが。ビクとも開かない。
「裾が長いな?」
立ってみて改めて気づいたが患者衣の裾が長い。普通はあっても太ももぐらいまでのものだがこの服はなぜか“膝下”まであるのだ。どうやら、違和感の正体はこの裾のようだと気づいた。裾をめくったものの擦り傷の跡などはあれど、特に目立った怪我はなかった。
「なんだ、これは? 電話?」
先ほどまで寝ていたベッドの近くに置かれている棚の上に何かの機械らしきものが置かれておいた。
今まで見た電話の中でも異質とも言えるほど平たく、ボタンも見慣れないものであった。
その電話らしきものの近くに、看護師か医者かは分からないが何かの連絡先が書かれた紙が置かれていた。
美緒はいくらなんでも自分を陥れるための罠ということは回りくどすぎて考えにくいのでこの機械の操作を試みる。その機械の操作方法を知らないために失敗しながらも美緒は入力を試み、受話器の向こうから声がしたのは六回目の挑戦であった。
浅間山から十数キロ離れた山の中そこは戦艦大和らしきもの巨大な物体の墜落現場である。山と森の中のために元々から人通りは決して多くはないが念の為に墜落現場から半径数キロにわたって封鎖されている。そのためにここを出入りしているのは早乙女研究所の者か政府関係者だけであった。
その場所の中心近くにこの戦艦を調査するためのその集められた人員が利用している大きなテントがある。そこに妖怪と形容もできる奇妙な老人がいた。
「敷島博士、差し入れです」
背の高い男と恰幅のいい男が敷島と呼ばれた老人におにぎりの詰まれたバスケットと茶の入った水筒を渡す。恰幅のいい男、車弁慶が眉をひそめて恐る恐る敷島に尋ねる。
「どうです?」
「ふむ。確かに大和そっくりじゃが、中によくわからんものがあってのう」
敷島は口にペンを咥え振りながらも簡易机の上に広げられた資料を食い入れるように目を離さずに男たちとの話を続ける。
「よくわからないもの?」
「これじゃ…………」
敷島は図面の一部と写真を示す、エンジンや動力関係の機械であることはわかるが弁慶にはよくわからなかったが傍らの背の高い男、神隼人はどこか、何かに勘付いたかのようにピンとしたかのように目を少しだけ大きくし興味を示す、そして敷島の顔は無邪気の子供が新しい玩具を見つけたかのような歓喜、いや狂気の色で染まり歪む。
「おもしろ、おかしくて、すばらしぃ~兵器の匂いがする」
「げぇ~」
この老人は兵器にかけては世界においても右に出るものがいないと言える程の人物である。
水爆の開発にも関わっており、世界の有名な兵器関連に関わっていてもおかしくないということでその道では有名な人間である。
それと平行して有名なのは水爆級の変人であることである。
死ぬなら自分の兵器で、できるだけ危機で惨たらしく、その瞬間を撮影して永遠に残して欲しいということが最大の望みであるらしい。
それは彼が兵器を心の底から愛しているからであるのだが、それは他人からしたら次元の違う狂気以外の何物でもない。
だから、その性格で孤立していたところを早乙女博士が自身の研究所にスカウトしたという経緯があるから、世界有数レベルの男がここにいる。
もちろん弁慶はそのことを知っており、困った顔と言葉を隠せなかった。
「なのじゃが…………例の娘っ子が目覚めてからじゃのう」
「そのことですが博士、あっ隼人さん、弁慶さん。いらしたのですか」
研究員の一人が無線機を片手に三人に声をかける。
「例の女性が目を覚ましました」
弁慶と隼人は顔を合わせて、隼人が腕を組み、瞼を少しの間つぶる。
早乙女研究所の所長の早乙女博士は今、竜馬と真ゲッターが消えたことについての研究や調査に力を入れている。
だが、躍起になりすぎて判断力が落ちている状態でまともに尋問できるかわからない状態である。
そもそも、早乙女博士にあまり負担を掛けたくないからここは――
敷島は嬉しそうな顔をしているのを見て、弁慶がそれを諌めるように敷島の肩に手を置く。
「わかった。尋問は俺にもさせてもらおう」
「おいおい、大丈夫か」
「尋問ならゲッターチームに入る前から――――」
弁慶は一瞬肝が冷える。隼人の経歴は超過激派学生運動に参加していた、いわばテロリストでもあり、しかも一つの組織のリーダー格であった。ゲッターで戦うことになってからは抜けたがその問題で一騒動があったこともあった。今はそういった学生運動から足を洗っていて、その所属していた組織も壊滅しているが、過去が過去だけに手荒なことに慣れすぎているのだ。そのために、弁慶自身も竜馬程でもないにしても仕事柄、荒事に慣れているが隼人は自分たちとはそういった方面では別格と考えている
そう考えると甘いのかもしれないが、相手が正体不明でも見た目が若い女性で自分たちと歳があんまり変わらないのもあって相手のことが心配でたまらなくなる。
「いや、娘のほうが…………」
「安心しろ。貴重な情報源だからな」
顔に少しの不安の色の弁慶と「後でワシも」とちょっと膨れ面になりながら言う敷島を置いてこの場を後に早乙女研究所への帰路へと隼人は一瞥もせずに向かった。
美緒が電話を使ったすぐ後に医者が急ぎ駆けつけて検査を受け、その後病室に戻ると神隼人と名乗る長身の男が銃を持った男を二人引き連れて入室した。
どうやら、話を聞きたいということで美緒も最初は戦闘の記録や大和に親友の静止を振り払い大和に向かったことが命令無視ということで上層部が判断を下したため、その詳細を知るための取り調べかと美緒は考えていた。
人類存亡をかけた大作戦における勝手な行動は軽くはない罪だ、場合によっては銃殺刑もありえる話だから重々しい雰囲気なこと事自体がおかしい話でもなかった。
だが、現実は彼女の予想を超えたものであった。
「45年? 扶桑? 海軍? 少佐? 坂本? なんだそれは?」
美緒の目の前にいる神隼人は冷たい蛇のような眼で美緒を真剣に見つめていた。戸惑いや疑問はあるが、そこには一切のふざけやからかいはなく、真剣そのもののように見えた。
だが、やはりどこか噛み合っていなく反応が明らかにおかしい。
「何を言っている。見たところ、お前もそこの者も、この基地の者は扶桑人じゃないのか」
「扶桑人?」
美緒は憤った。目を覚ましたら、目の前の男とまるで話が通じないのだ。たとえ扶桑の人間でなくとも一般常識があれば、『扶桑』始めとするこの言葉らを知らないわけが無いのだ。
美緒は意識を取り戻して時間が短時間しか経っていないために今自分がいる施設を全部見ることができたということはないが、前線にしてはかなり立派なものであることは分かる。
軍人である自分が治療を受けていたことと今取り調べを受けていることを考えるとこの施設は軍関係で目の前の男も軍関係者だと思われる。美緒の経験からしてこの神隼人という男は鍛えられた体を持っているのも分かった。軍関係者で取り調べをする以上はそれなりの教育は受けているはずである。
だが、神隼人が口に出したことは美緒の予想を全く異なるものであった。
「そもそも、扶桑という国はこの地球にはない」
「なっ……なんだと!? じゃあ、お前が話している言語はなんだ? 扶桑語ではないのか!」
「日本語だ」
不思議なものを見るような顔で淡々と隼人は自分がいうことを否定する。まるで美緒は自分が狂人扱いされている気分になり、苛立ちが強まる。
「そもそも、ネウロイってなんだ? 恐竜帝国か百鬼帝国じゃないのか?」
「ネウロイも知らんだと!? そっちこそ、恐竜とか鬼とか何を言っている?」
今度は隼人の口から聞いたこともない言葉が出てくる。
伝承などで語り継がれている、過去に出現し、存在していたネウロイに恐竜や鬼に似ているものがいなかったわけではないと思われるが、そんなものがいたとしてもほんの一部でネウロイ全体を示しているにしては違和感がある。
そもそも、ネウロイは詳しい形などはともかく名称は軍関係者だけではなく一般にも浸透しているのにこの男はネウロイを知らないといっている。
「それと言っておく、1945年は遠い過去だ。俺も生まれてさえいない時代だ」
美緒は強烈な目眩を覚え、頭を抑えた。
部屋を照らす蛍光灯の形に美緒は覚えはないが埃や汚れでその蛍光灯がずいぶん長く使い込まれていることが分かる。
「一体何だ? これは?」