「ここは…………」
男は半分覚醒した頭を掻きながら、ぼやけた視界の中で薄暗いあたりを見渡した。年齢も年齢のために近眼や老眼などに全く縁がないわけではないが。
目の前に映る光景は明らかに異常であった。自分が横になっている簡易なベット、金属的な壁と床はまったく見覚えがないもの。
それはまだいい、問題は――――部屋の窓ガラスの向こう遠くで浮かぶ赤く輝く鉱石。
ネウロイのコア。
見間違えるはずがない、男がかつて研究していたものだ。
同時に男の思い出したくない過去に関わっているものであった。
「アイカキサシアあ――――言葉はこれでいいか? 英語は通じるか? ブリタニア語といった方がいいでしょうか? この言葉をしゃべるのはずいぶん久しぶりです」
男が声がする方を見ると車椅子の老人とその後ろに白衣のお柄な男が薄暗い闇の中から姿があった。
「何者だ!?」
「はじめまして。マクドナルドと申します。こちらはグラー博士。あなたはマロニー元空軍大将とともにウォーロック研究をしていたお方であっていますか?」
目の前のマクドナルドと名乗るコーカソイドの大柄の男は白衣を着ながら淡々と尋ねる、そしてそれが尋ねられた男にとってはかえってこの空間の異様さを引き立てていた。
大柄な男のマクドナルドが小柄な老人のグラーの乗っている車椅子を押していたが立場の力関係はこの老人のほうが上であることが直感で気付く。
「なんだここは?」
「何処でしょうね」
「ふざけるな」
マクドナルド首をすくめて手を振って、グラーは手に持った板状の装置を操作すると
映写機らしきものから光が出て空中に映像が投影された
マルス作戦、ヤマトのネウロイ化、それを護衛している501の活躍。
男の胸の奥に沸々となにかが沸々と確実に湧いて来ていた。
「ば、バカな!」
「映像と比べれば情報量は少ないですがこれを…………あなたの世界の新聞ですよ?」
マクドナルドが紙の束を投げ渡す。マクドナルドが言うように新聞であった。
そこに書かれていたのは自分――いや、自分達を破滅に陥れた魔女たちの活躍。
他人から見たら逆恨みかも知れないが「本来は自分たちがそこにいるべきだったはずだ。そうでなくてはおかしい」っと男はそう思わずにいられなかった。
新聞を握る腕に力が入り指が新聞を突き破り、そのまま新聞を破りさり、グチャグチャに丸めるて床に叩きつける。
その様子をマクドナルドとグラーは口角を吊り上げて眺めている。
「あなたが望むならば協力しますよ」
白衣の男達はそれぞれ手に見たこともない機械を手に持ちベッドの周りを囲んでいた。得体の知れない薬が入っている注射器、板状の機械はしきりに放電し、工事用にしか思えないような電動ドリル、赤熱化した棒状の機械を持つ男たちの目の奥には明らかに悪意を孕んでいた。
「まあ、拒否権はありませんが……でも、悪魔ならぬ鬼に魂を売っても叶えたいことでしょう?」
白衣の男達の中央に立つマクドナルドとグラーの額には悪魔以外の何物でもない禍々しい角が皮膚を突き破りながら生え、獰猛な牙が口から覗いていた。
「悪魔……」
「鬼ですよ……近いものですが」
*
現在、早乙女研究所のロボットの格納庫に二体のゲッターロボが立て揃えられている。その二体はかつて日本を守っていた初代ゲッターロボとゲッターロボGである。
初代ゲッターロボの方は先日までは前線を退き浅間山公園の博物館に展示されていたものだが、先日の恐竜帝国残党の襲撃や謎の敵によって蘇生されたブライの強襲、そして、極めつけに強力な戦力である真ゲッターロボの喪失により、現役復帰を余儀なくされていた。
今日はこの初代ゲッターロボに異邦人が乗ることになっている。
その初代ゲッターロボの顔を老人、敷島と若い男、神隼人が足元から見上げていた。
「敷島博士は魔力とゲッター線をどう見ます?」
「影響し合う性質がある程度しか分からん…………早乙女がいればもっと、楽なんじゃがなあ」
敷島は落胆している顔で格納庫のもう何もない場所を見やる。そこはかつて真ゲッターロボが置かれていたスペースであったのだが、行方不明になった今では空白となっている。
捜索は続けられているものの、このまま時間がかかるようであれば真ゲッターの試作機だったものを代わりにするという案も出ているのだが、その案に最近引きこもりがちの早乙女博士は承認をしていない。
真ゲッターの前に作られた試作品であるために完成は一応しているものの本格的に動かせるよ王にするためにはゲッター線の権威である早乙女の力が必要不可欠なのだ。
敷島はここ数日に間、早乙女博士の顔を見ていないが代わりに電話やコンピューターなどの通信である程度は情報のやりとりをしている。やはりその早乙女博士は忙しく、なかなか手が空かない。
その間でも魔力を調べるようにと早乙女も言っているのだが。具体的な意見が出ないことを考えると、どんな情報でも欲しいからということで何もわからない手探りの状態だということでもあった。
スポンサーである国やその他の機関も新たな敵の仕業である可能性も考えているために早乙女の方針に対しては口を出さないでいた。
もちろん、戦力になる真ゲッターが惜しいのもあるためもあるようだが早乙女博士にとっては好都合でもあった。
「なんにしても、それを調べるための実験も兼ねて頼むぞ。ワシはヤマトの改造…………調査に戻る」
鼻歌まじりのスキップで一二歩程度進んだところで敷島は踵を返す。
「ついでに魔眼についても聞いていてくれ」
魔女という言葉から魔術や魔法という言葉を連想する人も多い。
そして、魔女である美緒は魔法が使える。その魔法が右眼の「魔眼」と呼ばれる彼女の固有のもので隼人の知っているもので平たく表現すると遠くのものが見える千里眼と呼ばれるようなものである。
早乙女研究所でも実験をすでに何度かしていて、それの存在を異常な視力などを確認することで認識している。彼女の普段付けている眼帯は見えすぎる目の負荷を押さえるためのものでもある。美緒によって確かに彼女の世界には「魔法」と「魔力」と呼ばれる隼人たちには未知が存在することが証明はされた。
隼人も竜馬のことが気になるが美緒を調べることを知ることも手がかりになると考えてもいた。それは美緒が現れたときに計測された未知のエネルギー、それが魔力なのかそれとも、彼女が言うネウロイによるものなのか、それらと全く関係ないものなのかは今はわからない。
だが、それすらもわからないからこそ調べる必要がある。
ただそれだけのことでも今はそれをやるしかなかった。
「この世界の服はやっぱり、違和感があるな」
その声と共に坂本美緒が姿を表した。
研究所特製の強化服を身につけ専用のヘルメットを脇に抱えていた。
先日の真ゲッターを起動させた時、乗り慣れた隼人、弁慶でも軽くはない負担を強いられた。そのために少しでも負荷を軽減するための一環としてパイロットスーツの見直しが進められ今までのゲッターのデーターによりこの強化服が作られ、試作のものを美緒は着せられていた。
サイズは極端な体型でもなければ軽く調節するだけでだれにでも合わせることができ、従来の耐Gスーツとしての機能はもちろん機体から降りることも想定しての高度な防弾防刃機能や防毒、耐火、耐熱、耐寒、他にもさまざまな機能もある。
だが、そのスーツは体のラインがわかりやすく、美緒もその例外ではなかった。
「こっちが落ち着かねえよ」っと弁慶が思わずつぶやき、美緒と視線があい。
「はっはっはっ、気にするな私も気にしないから」と朗らかに笑いながら返す
「だから、こっちの問題もあるんだって」という反論を今度は弁慶が心のなかで押しとどめた。
今回の実験は美緒と大和が出現した地点まで向かうこととであった。
それは美緒があの地点に行けば気付くことや魔眼から見えるものがあるかないか、他にも増幅器の実験やそれによるゲッター線と魔力の関係、ゲッターロボに耐えられるかなどの多くの実験も兼ねている。
「操縦は俺がやる。弁慶もカバーを頼むぞ」
「やばいと思ったらすぐ言えよ」
「大丈夫だ。やわな鍛え方はしていないし。魔女に不可能はない」
美緒はゲッターの頭部へ、隼人はゲッターの腹部へ、弁慶はゲッターの下半身へとそれぞれのコクピットへ座り込み、隼人は各メーターを確認してから、パネルをそうすることで操縦をジャガー号からでもできるように設定した。
『発進をしてください』
「行くぞ!」
初代ゲッターは研究所から発進して赤いマントのゲッターウィングをはためかせて空に飛び出す。反重力機能を利用してゲッターは音の早さを超えてもなおさらに加速しながら上昇している。それでも実機は初めての美緒が乗っているために本来の出力と加速を大分抑えている。
『大丈夫か?』
「シミュレーターとやらは何度か試していたが」
美緒は額の汗を腕で拭うが笑みを思わずこぼす。
「驚かされる暴れ馬だが――――十分覚悟のうちだ」
音速の中で「それにしてもシャーリーはこんな世界を見たのだなあ」っと、美緒は遥かな遠くの場所にいる戦友のことを思い出していた。
だが、シートに美緒の体が沈み込み、額にまた新たな脂汗が浮いていて、ゲッターの過酷差を実感していた。
ゲッターロボは技術の粋を集めて作られた従来のロボットを超えるスーパーロボットである。だが、遥か上の技術力を持つ敵との戦闘のために性能を求めすぎた結果が完全に性能を引き出すには常人は愚か軍人でも普通では耐えられない負荷が襲いかかるようなものになってしまっていた。
兵器として考えると使える者が極小数に限定される兵器は欠陥もいいとこなのだが格上の敵と戦うためには仕方なかったのだ。
今ゲッターロボに乗っている美緒は元々、軍人である。彼女は最前線でエースとして戦った以上は並の軍人以上に日頃から鍛えている。それはここに来ても怠けず忘れずに続けて鍛えているのだが、その美緒の肉体でもゲッターの負荷は耐えられるようなものではなかった。
だが、彼女本来の体力に加えて魔女としての力を使うことでゲッターの操縦に理論上は耐えることができる。
美緒は戦闘に出る魔女としての寿命は既に切れていて、魔力はほぼ残っていないが、この世界に来て十分休んだために体の調子が良くなっていて魔法もほんの少しだが使えるようになっていた。それにやはり居妙な感覚を感じていたのだが魔力をすこしでも使えることになったことは喜ばしいことかもしれない。
その魔力を活かすために彼女の膝から下には金属の筒が付けらている。これは敷島博士がヤマトや共に回収された飛行脚を解析やコピーで生まれたこの世界初めての魔力増幅ユニットである。
敷島博士が兵器開発の天才であっても、この世界では未知である魔力についての技術ノウハウは深くはないが外部動力としてゲッターから直接供給されるエネルギーも併用するためか増幅器としては悪くない性能はあった。
こうして美緒はこのユニットによってなんとかゲッターに耐えうる耐久能力を得ることができていた。
「あれ――魔眼を頼めるか?」
「了解」
美緒は魔眼の制御装置とも言える眼帯に手を伸ばす。
その眼帯をずらすとその下から紫色に輝く魔眼が覗く。
彼女がイーグル号のキャノピーから魔眼で遠くを見渡す。
魔力を使うたびに足の増幅器がゲッターから流れるエネルギーで稼働し美緒の力を増幅する。
増幅された力は美緒の体を中心に爛々と輝き、カタカタと記録機、計測機が稼働しているコクピットが光に満たされた。
「あれは?」
美緒が目にした場所、ゲッターから数百メートル先の地上に妙な盛り上がりを見せていた。
所々が火事の後のように木が朽ち、爆撃されたように不自然に大地が盛り上がっていた
「お前がくる少し前にここが戦場になったところだ」
「いや、なにかおかしい」
美緒が凝視した地点からまるで逃げるかのように大量の野鳥が飛び去っていた。
そして、さらにゲッターが近づくたびにその地は急激に盛り上がり。
何かが飛び出した。
「車ッ!――――あれ!」
「っな!? 百鬼獣か! 全滅したはずなのに」
先日のブライの襲来で大量の百鬼獣が浅間山近くで真ゲッターに撃破された。相手は人類の想像を超えた技術と行動をする百鬼帝国、もしかしたら百鬼帝国の残党が残っていてもおかしくはない。だからこそ戦闘後に早乙女研究所や国の軍によって念入りな調査と回収は行われていた。
出撃したゲッターや研究所からの記録や人工衛星など、その他もろもろの機関の持つデーターを照らしあわせて全滅したことを確認された。たとえ、あったとしても徹底的に破壊されたスクラップになったパーツが幾つか落ちているかもしれない程度だったはずなのだ。
「いや、どこかおかしい」
その、何か――百鬼獣はどこか異質であった。
ところどころインクをこぼしたような黒シミが点々と有り。不格好で人の形に似ていたが両腕の大きさが吊り合っていない、左腕に至っては二の腕が異常に細長く明らかに肘から先と前とでは長さと太さが咬み合っていない。右足はよく見ると腕の形状をしており、左足に至ってはドリルのような衝角が生えていた。
今までの百鬼獣はどこかに鬼という意匠があり、不気味な形はあれどどこか機械と生物の間な要素があった。
だが、目の前のものは雰囲気がまるで異なり不気味な無機質な気配を醸し出している。
腰も胸部と比べると明らかに細く、胸部も大きな裂傷のようなものがありそれを塞ぐように適当なパーツが雑に張り付いていた。まさに百鬼獣を材料にしてつくられたモザイクかブライの怨念の残りカスが宿ったゾンビのようであった。
「まさか、残党が寄せ集めで作ったのか」
「おい、聞こえるか? 百鬼獣が出現を確認。そちらへ一旦帰還する。応戦を頼む。ん?」
弁慶が急いで無線によって研究所に救援を求める。初代ゲッターでは百鬼獣の相手は厳しいが、ゲッターGならばどうにかできる。
自分たちが出撃している以上はゲッターGを操縦するのは新人であるのだろうが、相手一体ならばこんな死にぞこないのようなものに引けを取るということはないはずである。
――――というのが弁慶と隼人の考えであった。だが、救援の返事のように耳を劈くノイズ音が無機質にコクピット内にひびく。
「おい――――クソッ! 妨害電波かなにかか」
「おちつけ、研究所からはそこまで離れていない。すぐに異常に気付くはずだ」
「だが、目の前のは待ってくれなさそうだ」
ゲッターロボGは初代ゲッターの10倍の戦闘能力があると言われている。戦闘能力は単純に比較できるようなものではないのだが、それだけの比喩ができるほどの大きい性能差がある。
それと互角に戦い、時にはゲッターGを圧倒した百鬼獣。死にぞこないのような姿といえどその集合体と初代ゲッターはそれと対峙していた。
そして、百鬼獣の全身をバネのようにして上空のゲッターに向かって飛びかかる。
その勢いは数百メートル上空のゲッターへ届くばかりの速度をもってくらい喉笛を喰いちぎらんとばかりに百鬼獣は牙を剥いていた。