身体中の痛みをこらえて、顔を上げる。あたりに舞っている土煙を腕を振るって払う。
目をこすってみると、機動要塞デストロイヤーから離れた場所に投げられたみたいだった。
デストロイヤーの複眼が内側からの蒸気で割れ、全体が赤みを帯びている。街に近づいている時は真っ黒だった。投げられる前の甲板も黒かった。さっきまでこんな様子じゃなかったのに、なんでだ!
ふと、木こりさんの言葉を思い出す。決して一度殺した程度で安堵してはいけません。二度、三度と殺し、最後にもう一度殺してもまだ足りません。特に、悪魔のような強敵には最後まで、むしろ最後の後ほど気を抜いてはいけませんよ。
死亡確認を忘れていたせいか……!
なにが起きてるのか分からないけど、とにかくマズイ気がする。
先輩たちもロープを伝って降りている。中には、甲板から跳び下りている人までいる。
それより、なんでぼくだけ投げ飛ばされたんだ!
……まさか、機織り先輩はぼくだけを逃がそうとして!
何度も拳で地面を叩く。涙が自然と溢れ、握ったままの導きの短剣に落ちる。
違う! 最後まで諦めないで足掻くのが勇者だ!
機織り先輩はぼくに賭けたって言った!
何をだ⁉ 今のぼくに何が出来る⁉
ぼくは逃げたくない。何とかならないのか!
なにか、なんでもいい。打開できる方法はないのか⁉
握ったままの短剣が目に入る。こんな小さな武器じゃなにも変えられない。
だけど、なんにも思いつかなくて見つめることしかできない。
涙がどんどん落ちて、短剣に付いたゴーレムの液体と混ざらず地面に落ちていく。
短剣を一振りして汚れを吹き飛ばす。
輝きを取り戻した刀身には、倒れている爆裂先輩の姿が映っている。
そうだ! もう一回爆裂魔法だ!
爆発には爆裂をぶつけるんだ!
―――――
走って爆裂先輩の元へ向かう。
勢いのまま地面にうつ伏せになっている爆裂先輩の首元を片手で掴んで、そのまま機動要塞に向かって走る。
とにかく情報が必要だ。一度近くに寄った方がいい。カズマ先輩たちだっている。内部に侵入していたんだから、今の状況について詳しいはずだ!
「痛い痛い痛い‼ 引きずらないでください‼」
「ごめんなさい!」
あぁ……カエルの運び方でも言われていたのに忘れてた。
首や口を掴んで引きずるとお腹や足が地面とこすれて抉れちゃう。肉の品質も、取れる素材の量も減っちゃうから気を付けるように言われたんだった。
少しだけ掴んでいる腕を持ち上げて、更に速度を上げる。これなら擦れない。
爆裂先輩が暴れ出した。
「首‼ 首が締まってます‼」
「ごめんなさい!」
蛙の首が伸びちゃってるって解体係さんに言われたなぁ。でも、運ぶ時間が短くなるから許されたんだった。意識があると苦しいよね。村ではぼくもよくこうやって運ばれた。気絶させようか。そうすれば苦しくない。
「せめて抱えて下さい‼ それに、いきなりなんですか‼
私は既に爆裂魔法を撃って動けないのですよ‼ 今にも爆発しそうなデストロイヤーに近づくのではなく、私を避難させてください‼」
爆裂先輩のお腹を小脇に抱える。これならそんなに引きずらなくて済む。
「爆裂先輩、爆裂魔法使えないんですか⁉ 爆裂先輩なのに⁉」
「そういう言われ方はアンビバレントな感じがします……。
ですが、一日に一発までなのです。
……いいえ、解決法があります。とにかく急いでカズマの元へ連れて行ってください!」
「すごい! なんとかできるんだ! 爆裂魔法すごい! 爆裂先輩すごい!」
どうするか分かんないけど、先輩に自信があるなら行けそうだ! 足を回さなきゃ!
「そうでしょう、そうでしょう! へぶっ!
加速する時は言ってください……。何かがこみ上がってきてしまいます……」
いきなり衝撃がくると驚いちゃうよね。
カズマ先輩に向かって投げる時はちゃんと声をかけよう。
―――――
今は何もできることがない。風を感じるしかない。
デストロイヤーが迫ってきた時と同じだけど、今はどこかスカっとしたような気もする。
カズマ先輩がなぜかアンデッドのスキルを使って、アクア先輩の魔力を爆裂先輩に分け与えていた。教会の人に見られたら、絶対に色々怒られる奴だ。アクア先輩も嫌がってた。
そういえば、もう一人の魔法使いみたいな人は誰だろう? 配達でもギルドでも見たことない気がする。
分けた魔力量は爆裂先輩的には過去最高らしくて、とてもテンション高く魔法を長々と唱えていた。
それにしても、アクア先輩はデストロイヤーの結界を破ったり、補助や回復をしていたのになんで魔力が余っているんだろう?
もしかして、爆裂先輩の魔力はそこまで多くないのかな?
だから一日一回しか魔法を使えないのかな?
……先輩が成長しすぎると、洗濯物が飛ぶ回数が増えちゃうな。
機動要塞内部の熱が暴発する前に爆裂魔法が間に合って、デストロイヤーの残骸ごと全てを消し去ってしまった。その威力は先輩の言っていた通り、これまで見た爆裂魔法のどれよりも大きく、激しかった。
今、ぼくはその余波で飛ばされている。今度はどこに落ちるんだろうなぁ。
今日だけで何回も空を飛んでる気がする。
段々と加速して、雲がぐんぐん離れていく。風圧が強すぎて、身体が動かせそうにない。受け身は無理かも。
これ絶対痛い奴だろうなぁ。
変な所に落ちたら弁償とかしなきゃいけないだろうなぁ。
でも、ぼくも勇者に少しは近づけた気がする。なら、いっか!
今後はゆんゆんに紅魔族的名乗りを返して赤面させたり、見通す悪魔に勇者になりたい動機を揺さぶられたりします。とある宗教をカズマさんと一緒にズタボロボンボンにして、冒険の最後はマザーに顔面をドロップキックされて終わります。
ですが、お話はここで終わりです。
原作設定の確認が大変だからです。
裏話は活動報告にあります。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=342142&uid=341458