ようこそ文月学園へ   作:サワークラウト・ハコビシン

3 / 3
交流会三日目

 

 交流会三日目。

 

 本来は一限目の時間、高育生全員と文月生の代表達がAクラスの教室に集まっていた。

 

 「それでお話とは?」

 

 高育生は各クラスの代表四人が用意された席に座っている。

 その中で坂柳が雑談などを経由せず本題に切り込む。

 

 「ルールの変更についての話し合いがしたい」

 

 文月側で椅子に座ってる六名のクラス代表の中から、坂本が答える。

 

 「生憎うちの学校ではルールの変更は出来ない仕様なのです」

 「そこは問題ない。既に学園長にかけあって許可を貰った。そちらが呑むなら履行できる」

 「なるほど、二校での特別戦ならそういった例外措置もあり得るのですね」

 

 口に手を当て驚いたように坂柳は笑う。

 

 「ですが、それを呑む理由が此方にはないと思われますが?」

 「そうでもないだろ今生き残ってるやつらを全員仕留めるのは流石に無理だ。いくら人海戦術や奇策を用いても学園を出なければいいこっちにだってはやりようはある。確かにそれでも生き残れるのは四十人……一クラス分が関の山。だが、あんた達はその四十人だって狩りたいはずだ」

 

 坂柳の指摘を坂本が否定する。文月生達は高育生の報酬がどのようなものかは把握していない筈だ。こちらも文月生の報酬の詳細は知らないが中々豪華らしいのは伝わっている。文月生が自分たちに用意されている報酬を考えれば決して価値の低いものではないと考えることは可能だ。挑戦権を失ったり、勝利した高育生の反応からもその推測は補強されるだろう。

 

 「確かにいくら策を弄しても全滅は無理でしょう。でも四十人生存はこちらを侮っていますよ」

 「それは実際にやらないと平行線だろ。そこは一旦置いとくとして、そっちが勝利したら勝利数は均等に分配される。残り百人分がな」

 

 勝利数の均等分配に現状五勝出来ていない高育生が色めき立つ。

 最終日に勝てる保証のない個人戦に赴くより、三勝分のポイントを得られる可能性があるならメリットの方が多い生徒だ。五勝以上勝利してる生徒もデメリットが少ない以上、大半がこの提案を呑むのに前向きだろう。

 

 

 「……変更後のルールの詳細を下さい。流石に私一人で決定するのは他クラスの方が許しませんから」

 

 高育クラス全員にルールが記載された書面が配られた。円滑な話し合いのため他リーダーは会話に混ざらなかったようだが、意思決定そのものを坂柳に託したりはしないのは明白。それぞれが判断するための情報は必要だ。

 

 「基本はうちの試験召喚戦争と同じだ。違うのはこっちがA~Fの連盟ってとこだな。人数はそっちに合わせる」

 「なるほど。そちらの警戒対象である綾小路君を数学以外で倒せるようですね」

 

 書面を読み、基礎的な理解を終えた坂柳が俺の名を出し個人戦と明確に違う部分、対戦フィールドは教師が展開することで起こる可能性の1つをあげる。

 今までは互いの腕輪で召喚獣を召喚するためのフィールドを形成していたがそれが教師に置き換わる。選択科目の有利の消滅か。

 

 「はっ文字通りの戦争か丁度いい。雑魚狩りも飽きたところだ」

 「うーん私はどちらかと言えばこのままそこそこの勝ちでいいんだけど、そしたら文月学園の人達も不満がたまるよね。うん私も賛成」

 「勝てれば想定以上の報酬が得られるのだから反対する理由がないわ」

 「どうやらそちらのお望みは叶うようですね」

 

 高育のリーダー達が賛成したことで話はまとまりルール変更いや、もはや特別戦そのものの変更が認可された。

 

 こうして最終日は試験召喚戦争を執り行う事になった。

 

 

  場面転換。

 

 

 最終日に試験が変わるという事で、高育側は2~4時限目の授業が免除された。

 その時間で坂柳、橋本、一ノ瀬、龍園、葛城、堀北そして俺は体育館の一角で作戦会議を行う事になった。

 他の高育生は、試験変更に伴い同校での対戦が許可されたのを利用して、召喚獣の対戦練習を行っている。

 

 「では、全体の指揮自体は何方が行いますか?」

 

 そういった坂柳は俺に目を向ける。ただ目を向けたのは坂柳だけでなくその場にいた数人の目が一瞬だけ俺に集まった。

 

 「そもそも何で俺が作戦会議に同席してるんだ」

 「現状の最高得点者です。同席させない理由こそ無いと思われますが?」

 「……あはは、だねー。数学600点はとてつもないよ」

 

 坂柳と一ノ瀬の呆れたような追求に俺は手を上げ降参のような仕草をとる。

 

 「その点言われると反論のしようがないが、全体指揮何てのは流石に無理だ。無難に坂柳でいいだろ」

 「だよねー。特別試験だけど協力できるなら坂柳さんに任せて問題ないだろうし」

 「流石に今の私が張り合っても実績の観点から差がありすぎる。それで構わないわ」

 

 誰からの反論もなかったことで坂柳が指揮を行うことが決まった。この中なら一番の適任者だろう。

 

 「わかりました。それでは指揮をする私がそのまま代表に就きますね」

 

 試験召喚戦争において代表の存在は不可欠だ。なにせ代表の敗北をもってのみ勝敗が決定されるのだから。

 それ以外、いくら優位にたとうが代表以外を全滅させようが勝敗に響かない。

 この中なら全科目高得点の坂柳、一之瀬、堀北、葛城と四人から選べるが、指揮と兼任することで他の候補を純粋な戦力として使うつもりなのだろう。

 

 「兼任ね、まぁ総合点で決めても坂柳さんになりそうだしいいけれど。一度全員の点数を確認しておくべきよ」

 「えぇ、それはもちろん。綾小路君のように特定の科目だけ高い場合や、逆に低い場合もあるでしょうから」

 

 堀北の意見に同意し、各クラスの代表がクラスメイトの点数を紙に書く。

 それを全員が確認し高育生の戦力を把握する。

 

 「綾小路君は数学以外はあまり戦力として期待しない方がよさそうですね」

 

 坂柳の発言に数人が肯定する。

 

 俺の点数は 【国語110 数学600 英語97 理科100 社会103】 と見事に一科目特化のバランスの悪いものになっている。

 

 総合点は高育生全体でもそこそこ高いが数学の上積みの結果な為、一科目別で見るなら数学以外平均的だ。

 他科目で戦わせることは極力避けたいだろう。

 

 「戦力確認は済みました。次は模擬戦でもしてみましょうか」

 「そうだね。折角時間もあるんだしクラス単位で総当たりでいいかな?」

 

 それぞれのリーダーが了承し、模擬戦が執り行われた。

 結果は坂柳率いるAクラスの全勝。率いるCクラスの二勝。堀北率いるDクラスの一勝。龍園率いるBクラスの全敗。

 その後ニクラス対ニクラスの模擬戦も行った。全ての組み合わせを試したが、坂柳クラスはそれでも敗北しなかった。

 

 「結局二桁に削ることも出来なかったかー」

 

 飲み物を手に一之瀬が悔しがる。

 

 「坂柳さんに辿り着くまでに満身創痍になるものね」

 「うん、護衛の生徒と戦ったあとに坂柳さんはちょっと無理だよ」

 

 一之瀬と堀北が反省点などの話し合いに精を出す。

 

 「……綾小路君は数学以外の科目で真っ先に狙われてたね。私達もそうしたけど」

 「えぇ。文月生も似たような手を打つでしょうね。何か対策を考えないと」

 

 そんな二人の会話を耳に入れていたら、近くに龍園が来る。

 

 「集団戦ならテメェーへの対策なんていくらでも用意できる。試験が変わって残念だったなぁ。個人の方が荒稼ぎ出来たろうによ」

 「対策は全部似たり寄ったりだったが?」

 

 模擬戦で俺は毎度早々に数学以外の科目で戦死している。

 

 「この体育館で真正面ならあれで事足りる」

 「そうか、他を切るまでもなかったと」

 「そういうことだ」

 

 実際他にも俺への対策は思いついているんだろう。

 龍園はクラス単位では全敗だが、都度戦術は色々と試していた。試験召喚戦争への意欲は誰よりも高い。

 

 個人戦のままでは龍園クラスの上位四人はともかく、下位四人は碌に勝利を稼げてないのは先の点数を見れば想像がつく。

 試験変更によって勝利すれば、100人分の均等配分は渡りに船だったはずだ。

 

 龍園の現況を予測していると杖を突く音が響く。

 

 「模擬戦も済みましたし、作戦会議を再開しましょうか」

 

 坂柳がリーダー達に通達する。情報は出揃った、後は組み立てるだけだと不敵な笑みはそう語っている。

 

 場面転換。

 

 昼休み。

 

 「もう作戦会議はいいの?」

 「粗方の方針は決まった。後は坂柳の采配次第だ」

 「ふーん。なら清隆はもうフリー?」

 「あぁ、この後の予定はない。どこかで昼食を一緒にとるか?」

 「やったー! それじゃ中庭にしようよ!」

 

 俺が自由になるのを待っていた恵と一緒に体育館を出ていく。

 

 「清隆、散々やられてたね」

 「そうだな」

 

 歩きながら模擬戦の話になる。

 

 「彼女としてはもっと恰好いい所が見たかったんですけどー」

 「無茶をいうな。数学以外は平均的だ。その上に数での袋叩きは対処のしようがない」

 

 頬を膨らませながら軽い非難を浴びせてくる。初日にやった蹂躙劇を期待していたのだろう。

 

 「でも実際、清隆があんな風に本番でも活躍出来なかったら勝てなくない?」

 「そうでもない、あの模擬戦も結果的に囮のような役目を果たしていたしな」

 「それはそうなんだけど」

 「なにより指揮は坂柳だ。俺を無意味な使い方はしない」

 「あーそれはわかる。なんていうか容赦ないもんね」

 

 他愛ない話をしているとガサゴソと物音が近くの教室から聞こえてくる。

 

 「どうしたの?」

 「静かに」

 「ん……!」

 

 一指し指を恵の唇に当てながら沈黙を強制しドアを少し開ける。

 隙間から坂本達が作業をしているのが見えた。

 

 「よし次は、粘着トラップだ!」

 「バレバレにはするな! 小賢しく隠すように!」

 「隊長! 自分に付きました!」

 「そんなこと報告するな! 勝手にはがしとけ!」

 「隊長! やっぱりスケスケにさせるために水の罠を!」

 「それは駄目だ! ラインを超えている!」

 「隊長! 他の教室は完了とのことです!」

 「よし、誰かに見つかる前にさっさと終わらせて、俺達もずらかるぞ!」

 

 異様に高いテンションで教室に無数の罠を仕掛けていた。

 

 「……え、なにやってるの?」

 「見ての通りだろうな」

 「これ教師に言えば不正で反則負けになるんじゃ?」

 「お咎めはあるだろうが、そこまでだと思うぞ。流石にそんなへまはしないだろ」

 

 それに、この無数の罠を仕掛けている所を見せるのが目的だろうしな。俺達以外にも様子を伺っている高育生が何人かいる。坂本達が気づいてない訳がない。

 

 「……どうやら既に誰かが報告してたようだ」

 

 廊下からやってくる人物を見つけ、俺達は様子を伺うのを辞めて歩くのを再開する。程なく鬼の形相の鉄人とすれ違った。

 

 「貴様らぁー! 恥を知らんかぁー!」

 

 少し離れた廊下にも聞こえる怒声を背に浴びながら中庭に向かう。

 

 場面転換。

 

 『ただいまより、試験召喚戦争を開始いたします』

 

 「それでは皆さん、頑張ってください」

 

 開幕と同時に1つの部隊が敵の本拠地に向かう。

 威力偵察なため、そこまで戦力は割いていないが一之瀬を隊長に据えているので、問題はないだろう。

 

 「さて、綾小路君あなた宛てに招待状が届いてますが如何しますか?」

 「Aクラスか」

 「はい、数学で相手をしてくれるそうですよ」

 

 Aクラスの誇りはよほど高いらしい。この期に及んで敵討ちする機会を望んでいるとは。

 

 「行く必要は皆無ね」

 「私はどちらでも構いません」

 

 堀北が当然の如く反対し、坂柳が俺の判断を尊重する姿勢を示す。

 

 「なら行かないでおこう」

 

 反対1、中立1ならこの判断でいい。

 

 「反対の渡り廊下から敵やってきてます! 敵五人!」

 

 勢いよく教室のドアを開けた見張り役の報告が響く。

 

 「神崎君の部隊で対応お願いします」

 「わかった」

 

 事前に部隊編成は終えており各隊長の名前がそのまま部隊名である。

 

 龍園部隊8人 一之瀬部隊5人 神崎部隊5人 平田部隊5人 残り9人は補充要員や伝令見張りに割り当てられている。

 

 最大人数の龍園部隊は遊撃隊としてBクラスをそのまま龍園に預けている。

 龍園の上手い使い方だろう。人数を多く預けているが戦力としては龍園、葛城、金田、ひより以外の四人は池と同レベルといっていい。

 わざわざ違う部隊に組み込むほどの魅力はない。

 

 「一之瀬部隊現在交戦中、戦力は相手が上回っています!」

 「点数が半減したら撤退して構いません。補充試験に向かってください」

 

 坂柳の指示を間近に見る機会は珍しい。堀北も自分ならどうするか比較をしながら状況を分析している。

 

 「半減は臆病だと感じましたか?」

 「いえ、序盤だし伏兵を警戒するなら妥当だと思うわ」

 「汲み取って頂けて何よりです」

 

 そんな堀北の思考を面白がるように観察する坂柳の余裕が見て取れる。

 

 「神崎部隊交戦し相手を撤退させました!」

 「点数が最も削れた三人は補充を、他二人はその方達が戻ってからで」

 

 伝令役が嬉しそうに報告した情報に、坂柳はわずかに目を細める。伝令役はその反応に疑問を持ったようだが、追及はせずそのまま伝えに行った。

 

 「何か気がかりでも?」

 

 今度は堀北が坂柳に質問する。不審な点を抱かなかったのだろう。

 

 「少し撤退までが早いです」

 「……確かに早いわね。交戦した神崎君の部隊に詳細を尋ねましょう」

 

 程なくして神崎と櫛田が戻ってくる。この二人が部隊の高得点者なため意外性はない。

 

 「相手の戦力は?」

 「タブレットで確認したE、Dクラスだ。全員の合計点で三倍差はあった」

 「奇襲には物足りない戦力ですね。後数回同規模の襲撃が起こると思われます」

 「そうかな、それなりに削ったはずだけど?」

 

 坂柳の予測に櫛田が首を傾げる。

 

 「国語の点数をですよね」

 「あ、そうか他科目は無傷なんだもんね」

 

 消耗した点数の継続。

 この部分を今まで気にしなかった分、無意識に点数が減少したら補充試験受けると思っていたのだろう。

 得意科目の押し付けで勝負してきたのに加え、短時間での模擬戦ではそういった仕様の確認は後回しで数をこなすのを優先していた。

 理解はしていても実感は得られていない者が多数だ。

 

 「なら補充試験に半数割くのはよかったのか?」

 「問題ありません」

 「むしろ、警戒して補充しづらくなる方が致命的だわ」

 

 神崎の疑問に坂柳と堀北が答える。

 戦力の回復が許されているのにそれを行使するのを躊躇うのは指揮官に向かない。無論、状況によってはしない方がいい場面は存在する。それが今じゃないだけの話だ。

 

 「報告! 一之瀬部隊4人補充試験へ! 1;1交換で相手も撤退しました!」

 「戦死者がでましたか。誰と誰でしょう?」

 「高育Dクラスの池君と文月Eクラスの山中です!」

 

 高育最初の戦死者はうちのクラスから出たようだ。

 

 「問題ありませんね」

 

 坂柳のどうでもよさそうな返事に堀北も静かに頷いた。

 

 そこから戦況は動かなく、数分たったあとドアから親指を立てた橋本が現れた。

 

 「綾小路君、龍園君と合流して暴れてきて下さい」

 「なるほど、数学の教師が確保出来たのか」

 「えぇ、橋本君に動いて貰っていました」

 

 その言葉どおり、橋本の近くには眼鏡の数学教師が付き添っている。

 教師がフィールドを形成し、その科目の召喚獣を召喚できる。教師の確保はこの試験召喚戦争において重要な要素だ。

 

 「まて。数学教師を確保したなら、ここに綾小路と一緒に留まらせておくべきだろ」

 「私も同意見だわ」

 

 坂柳の指示に神崎と堀北が異を唱える。

 正当性は神崎達にある。俺は模擬戦で負ける姿を多く晒している。打って出て戦死させるより護衛として働かせたいだろう。

 

 「無論戦死は避けて貰います。綾小路君は400点を切った又は、2時10分になったら補充試験受けてください」

 「……綾小路君に一度補充試験を受けさせたいの?」

 「それも目的の1つです。相手の策は予想がつきます、彼に暴れて貰って反応を見ようじゃないですか」

 

 神崎達はまだ納得していなかったが、それ以上反論することはなかった。

 

 時刻が指定された。この試験は1時30分から3時45分までだ。

 

 壁にある時計が示すのは1時50分、約20分戦場に出たのち、補充試験を1時間ほど受けさせ3時10分までには戻らせたいのだろう。

 この策を使うという事は、坂柳は相手が長期戦の構えだと確信してる。

 俺が暴れて、相手の態勢が崩れてもよし、崩せずとも時間が経てば俺は復帰する。打ち取られる心配も龍園達と行動させることで極力排除している。

 

 確かに俺を待機させるよりこっちの方が効率がいい。

 

 「橋本案内を頼む」

 「おうよ」

 

 そうして俺は高育生の本拠地から出ていく。

 

 場面転換。

 

 「最強様がやってきたってか」

 

 部隊と合流するなり龍園からの煽りが飛んでくる。

 

 「数学だけはな」

 「……どうだか」

 「それで現況はどうなっているんだ?」

 「幾度か敵を見かけたが対戦はしていない」

 

 俺の質問に葛城が腕を組みながら答える。続けてひよりが手を軽く振りながら補足を入れる。

 

 「みなさん私達を見て逃げていきました」

 「八人もいればそうなるか」

 「はい、戦況は聞いています。今のところ拮抗していますね」

 「それを破るために俺が出された。敵の居場所に心あたりはないか?」

 「あるぜ」

 

 龍園がタブレットで学校の見取り図を開き一点に指を差す。

 

 「丁度馬鹿げた戦力が欲しかった。来たからには働いて貰うぞ」

 「あぁ、出来る範囲の事はする」

 

 試験召喚戦争の範囲は学校全体だ。だが、ニクラスの拠点に通じる経路のいずれかが主な交戦エリアになるのが必定。

 そのはずが、龍園部隊と向かった場所は普通なら赴かない離れた空き教室だった。

 

 「またせたな」

 「そうでもないさ」

 

 教室には文月Bクラスの根元達五人が控えていた。

 

 「それで話は本当か?」

 

 龍園が素知らぬ顔で尋ねる。

 

 「勿論だ、報酬は十分手に入れたからな。お返しだ。お前達にやられてやろうじゃないか」

 

 胡散臭い笑みを浮かべた根元が好意的な返事を返す。

 龍園が根元と通じていたのは驚くことじゃない。確証はなかったが吉井から齎された根元の情報を考慮すればその可能性は高かった。

 あくまで個人戦のままならその関係は維持されていただろう。だが、それはもう過ぎた事だ。

 

 「なんて言うと思ったか! ここでお前達には戦死してもらう!」

 

 根元の台詞を合図に伏兵三人が姿を現す。

 

 「だよなぁ! そうくるよなぁ!」

 

 龍園が合図を送り石崎が数学教師に召喚フィールドの形成を行わせる。

 それと同時にアルベルトの後ろに隠れてた俺も前に出る。

 

 「っち、綾小路がいるのか。だが問題ない」

 「相変わらずせこい作戦ね、まぁ見破られてたようだけど」

 「綾小路君がいるのは手間が省けて助かるね」

 

 俺達が入ったドアじゃない方から、文月Aクラスの木下と久保が入室する。

 確かにこの二人がいるなら、俺がいても勝利することは可能だろう。

 しかしこの作戦に乗るのは意外だったな。

 

 「Aクラスは正々堂々じゃなかったのか?」

 「私達は根本君の動きがおかしいから見張ってと代表に頼まれただけよ」

 「騙し討ちする作戦は一切聞いていないね」

 「坂本と共謀してそうなるように仕組んだからな」

 

 ここで坂本の名が出るか。文月Aクラスの二人に説明せず戦わざる得ない状況を作り出す。上手い事使われた本人達はいい気がしないだろうが、戦術としては悪くない。

 

 「綾小路その厄介な二人はお前が相手しろ」

 「勝てる保証はない」

 「数分持たせれば、その二人以外の敵は補習室だ」

 

 龍園が獰猛に笑い拳を合わせる。

 それを皮切りに全員が詠唱を開始する。

 

 『『試獣召喚(サモン)』』

 

 数学フィールド。

 

 龍園部隊(八人)+橋本、綾小路。

 ・伊吹48点 ・石崎53点 ・アルベルト71点 ・西野71点 ・龍園230点 ・橋本300点 ・金田337点 ・ひより360点 ・葛城390点 ・綾小路600点。

 

 文月Bクラス(五人)+Cクラス(三人)+Aクラス(二人)。

 ・畑180点 ・林183点 ・山田201点 ・田中219点 ・鈴木221点 ・伊藤227点 ・斎藤235点 ・根本250点 ・木下462点 久保512点。

 

 「はっ、四人はFクラスと大差ないじゃないか」

 「そっちは二人以外物足りないな」

 

 互いの点数を値踏みし、煽りあう根本と龍園。案外気が合いそうだな。

 

 高育側が総合2460点平均246点。

 文月側が総合2690点平均269点。

 

 数字上は勝負が成り立つ点数だが、根本のいうとおり高育下位四人が純粋な戦力としては頼りない。逆に文月は二人が突出しているが、全員そこそこの点数は持っており戦力として期待できる。

 

 「まずは雑魚を潰せ! 数を減らして優位を作るんだ!」

 「させるかよ。葛城と金田は援護に回れ! 石崎たちは回避に専念しろ!」

 

 根本と龍園それぞれの指揮の下あちらで乱闘が始まった。

 

 そんな集団戦から少し離れた俺の目の前には、Aクラスの二人と召喚獣が陣取っている。

 

 「個人戦でなくなった以上確実に勝利を掴ませて貰うわ。ごめんなさいね」

 「何度も誘いを断ったんだ。当然の報いだろ」

 「そう言ってもらえると助かるわ」

 「では、こちらも始めようか」

 

 久保が眼鏡を押し上げ召喚獣を突撃させる。

 今まで見てきた召喚獣とは速度が段違いだ。召喚獣はあらゆる能力が点数に依存する。500点台ともなれば最早特殊能力のレベルだ。

 だからこそ、俺の召喚獣はそれ以上の速度を出せる。

 初撃を横に動いて躱す。すかさず、木下の召喚獣が追撃してくるが反復横跳びの要領で元の位置に戻って回避する。

 

 俺の召喚獣のスペックならある程度操作すれば大抵の生徒が再現可能だろう。

 文月生は操作に慣れてると思っていたが半分間違いだった。確かにある程度の慣れはあるが、召喚獣勝負は頻繁に行われる訳ではない。

 熟練度を数字化するなら吉井を7、他の文月生大半が4で高育生はこの三日間で2~3程度の操作能力を身に着けることが出来ている。

 

 周りに合わせた操作でも召喚獣のスペックが加味されるととてつもないものになる。

 

 「改めて数学だけとはいえ、驚愕に値するよ」

 「私達二人の攻撃をここまで避けるなんて……!」

 

 何度も攻撃を避けていると驚嘆の声をあげる。

 二人の点数は文月学園でも指折りだ。二人掛かりでまともに攻撃を当てられない状況は異常だろう。

 だが、俺も迂闊に攻撃できない。見せると決めた範囲の操作能力では一撃入れれば必ず一撃貰ってしまう。

 時間稼ぎを頼まれた手前、リスクを負わないで回避に専念しとくのが無難だ。

 

 「久保君!」

 「わかった!」

 

 痺れを切らした木下が久保の名を呼ぶ。

 腕輪の必殺技を使うつもりらしい。点数が下の木下がそうするのは自然だが、下手に妨害しても久保の歓迎を受ける。

 それでも、ダメージの割合を考えればここは攻めて阻止しないといけない。

 

 「やれ!」

 

 離れてる龍園の声が聞こえた次の瞬間、木下の召喚獣の前に田中の召喚獣がぶつかる。

 龍園の方を横目で見れば、田中の召喚獣がいたと思われる位置に石崎とアルベルトの召喚獣がいた。

 模擬戦で試していたものの1つ、召喚獣投げを行ったのだろう。

 召喚獣を投げ任意の場所に移動させるシンプルだが、上手くいけばそれなりに使える手だ。

 

 「——不味い!」

 

 木下の警戒を含んだ声が俺の耳に届くころには田中の召喚獣は俺の召喚獣の一撃で消滅。この機を逃さず木下の召喚獣にも一撃を入れる。

 結果二撃を入れたため、久保の一撃を貰うも掠った程度で悪くないトレードになった。

 

 田中 180点➡0点。戦死。

 木下 462点➡320点。

 綾小路 600点➡574点。

 

 龍園は上手く下位をつかったな。何より相手は同じ手を警戒しない訳にはいかない。

 高育生がここまで巧みに召喚獣を使うのは予想外だろう。

 俺も模擬戦で見てなければ、久保同様対応が遅れたかもしれない。

 

 「くそ! 雑魚ごときが!」

 

 根本が吠え、石崎とアルベルトを狙う指示を出す。

 龍園は二人を守る指示は出さず、二人を倒す瞬間に攻撃しダメージを負わせる。最後は囮、龍園らしい。

 

 石崎53点➡0点。戦死。

 アルベルト71点➡0点。戦死。

 鈴木139点➡64点。

 山田120点➡39点。

 

 ここから戦況は一気に動いた。

 伊吹と西野の召喚獣投げを行うも上手くいかず、そのまま倒される。

 二桁になった鈴木と山田は多少粘るも戦死。

 俺の方は、木下にそれなりのダメージを与えれたことで、久保を標的にして数回攻撃を当てることが出来た。木下にも流れで攻撃できたが、流石にいくらかの反撃は貰う。

 

 現況を整理する。

 

 龍園部隊(八人)+橋本、綾小路。

 戦死 (・伊吹 ・石崎 ・アルベルト ・西野)。

 ・龍園123点 ・橋本110点 ・金田149点 ・ひより143点 ・葛城200点 ・綾小路489点。

 

 文月Bクラス(五人)+Cクラス(三人)+Aクラス(二人)。

 戦死(・小山 ・田中 ・鈴木)。

 ・畑43点 ・林109点 ・伊藤71 ・斎藤98点 ・根本169点 ・木下229点 久保303点。

 

 最初にあった点差は既に覆っている。

 

 「……おい、もう1つの援軍はどうした! 念の為用意させた筈だぞ!」

 

 じわじわと戦死が近づく流れに耐えられず根本が叫ぶ。

 

 「そいつは知らないが、此処にこんだけいるんだ。援護に回せる余力をあの女が残させる訳ねぇよな!」

 

 龍園がそんな根本に嘲笑で応える。

 ある意味、坂柳の手腕を信じているのだろう。

 

 「……久保君、勝ちにいくわよ」

 「……わかった」

 

 俺と二人の戦闘は、しばらく睨み合いで膠着している。

 俺にとっては有難かったその時間も終わりを迎える。

 

 木下の呼びかけで二人の召喚獣は俺ではなく、龍園達の下へ駆け出した。

 警戒していた分、二人の召喚獣から距離を取らせていたため素通りさせてしまう。

 

 「悔しいけど、このままじゃ数で囲まれる。綾小路君、言い訳のしようがない完敗よ。でも試験召喚戦争には勝たせてもらうわ」

 

 俺にそう宣言し二人の召喚獣は葛城の召喚獣に大ダメージを負わせる。

 

 葛城200点➡53点。

 

 「っち、お前ら全員逃げ回れ! 綾小路に擦り付けろ!」

 

 龍園の指示に従おうとする高育生を逃すまいと、文月生達の猛攻が始まる。

 そこからは敵味方入り混じる乱戦になった。

 疲れで集中力が持たなくなっていたひよりが脱落し、葛城も金田を庇い戦死。

 文月側も反撃に合い戦死していくペースは似たようなものだった。

 そして俺以外、敵味方全員戦死した。

 

 綾小路320点。

 

 最終的に余裕のある数字で終われたが、木下と久保が俺を打ち取ることより文月の勝利を取った結果だ。

 人数も10:9の一人差でしかない。生き残るなら葛城あたりの方が戦力としては使いやすい。俺はどうしても数学特化なのだから。

 

 「成果はまずまずといったところか、後は補習室で寛いでおくとするぜ」

 

 龍園がそう言い残して教師に連れられ教室を後にする。

 俺も補充試験を受けるとするか。補習が終われば最後の戦いだろう、この試験召喚戦争の終わりが見えてきた。

 

 場面転換。

 

 補習室に着くと、教師しかいなかった。

 眼鏡をかけた女性教師、高橋先生が入室した俺に目を向けていた。

 

 「……綾小路君ですか、補充試験が目的で?」

 「はい、数学をお願いします」

 

 俺の返事を聞き、すぐさま机にテスト用紙を積み上げる。

 探るような目つきは俺の学力を疑っているからだろう。向こうで受けたテストは問題を文月校が作ったとはいえ採点は高育任せ、何かしらの不正がなかった保証はない。

 まぁ、俺が前回より大きく下回る点数を取らない限りは何も言わないと思うが。

 

 「では試験を始めてください」

 

 開始と同時に名前を書き、解答を一定のリズムで刻んでいく。

 問題を読み終えた瞬間には頭の中で解けているため、ただの手の作業に過ぎない。

 

 チクタクとなる時計と鉛筆の擦れる音が主役として教室に反響した時間は数十分程だろう。

 その間、何人かが補充試験を受けに来たが皆一様に俺の手が止まらないことに戸惑っていた。

 

 「採点お願いします」

 

 目的の点数に達したので高橋先生に答案用紙を預ける。

 俺より後に来てテストを受けてる生徒達は俺の点数が気になるようで、ちらちらとこちらに視線を飛ばしてくる。

 高橋先生の採点は素早い。吉井から聞いた情報を信じれば、学力は俺が見てきた大人の中でも高い部類だろう。

 

 「採点終わりました。綾小路君の点数は600点です」

 

 教室に数人の息をのむ音が響く。実際にテストを受けて高得点を取った瞬間を目撃したんだ、無反応でいる方が難しい。

 あえて俺は同じ点数を取った。数学における俺のイメージは既に定着している。数十点程度の増減に悩むのは無駄だ。

 

 点数を補充した俺は、高育の本拠地に帰還する。

 

 場面転換。

 

 本拠地の教室では13人が待機していた。

 

 「おかえりなさい綾小路君」

 「無事戻れたようね」

 「あぁ点数も補充できた。伝令に託した情報の通り、俺以外は戦死したが」

 「はい、ちゃんと伝わっています。ですが、損害が大きいのは向こうでしょうね」

 

 龍園達と潰したのはAクラス二人とBクラスの五人おまけにCクラスの三人。こちらも犠牲は出たが、葛城以外の上位は健在だ。

 木下と学園次席の久保を打ち取れた以上、十分な戦果といえるだろう。

 

 「さて、現況を説明しますね」

 「頼む」

 

 俺は、坂柳達からの報告に耳を澄ませる。

 小規模な戦闘は何度がおき、お互い何人かは戦死したらしい。この時、根本が言っていた援軍とも一戦交えたそうだ。

 

 根本達との交戦が終わり、結果を聞いて一之瀬部隊と神崎部隊が敵本拠地を襲撃しにいくも既にもぬけの殻。

 敵の位置が把握できない為、本拠地で待ち構える態勢になったらしい。

 

 高育生は教室にいる俺を含めた18人(4人は補充試験中)が生き残りで、文月生は14人にまで減っている。

 

 「と、概ね有利に事は運んでいます」

 「わかった。敵が来るのを待てばいいんだな」

 「はい、数十分後には現れると思いますよ」

 

 話が終わると、黙って聞いていた神崎が声を上げる。

 

 「戦力は既に上回っている、全員で行動し見つけ次第倒す方が安全じゃないか」

 「悪い手とはいいません。ですが、徹底的に隠れられ思わぬタイミングで奇襲を仕掛けられるリスクを無視できません」

 「大人数だとこちらの位置は筒抜けか……」

 

 坂柳の指摘通り安易な力押しは危険だと神崎は納得したようだ。

 

 「ねぇ坂柳さん、向こうが引き分け狙いって線はあるかな?」

 

 次に一之瀬が質問を投げかける。

 この試験召喚戦争は時間制限がある。延長などは許可されていない。決着が時間内につかなければ強制的に引き分けだ。

 

 「三割ほどはあります。引き分けの場合でも多くの方は、個人戦より得られるポイントは多いですよ」

 

 引き分けの場合、半分の50人分の勝利数の均等配分と、試験召喚戦争中の勝利数もカウントされる。個人戦で勝てなかった十数人にしたらそれでも十分な報酬だ。

 

 「三割か、なら微妙だね」

 

 二人が質問したことで、周りが感化され様々な質問を坂柳にし始めた。普段違うクラスで関りが薄い分、珍しい機会だからという側面が強いのだろう。

 最初は試験召喚戦争関係のみだったが、段々方向性が逸れていく。

 中には全く関係ないセクハラじみた質問などを行う勇者もいたが、恵を筆頭にした女子の最低コールに泣いていた。

 

 「中々、愉快な時間でしたがそろそろ気を引き締めてください。1つ伝えておくべきことがあります」

 

 坂柳の発言で霧散していた緊張感が戻ってくる。

 

 「——————」

 

 

 

 

 坂柳の通達から数分後、壁の時計が3時25分を示す頃に文月生達が現れた。

 

 「もっと油断してくれてれば助かったんだがな」

 「個人戦を集団戦に変えた手腕を侮ってはいないので」

 

 間隔をあけ、数人ずつで集まっている俺達を視界に収めた坂本の願望交じりの愚痴に坂柳が応える。

 

 「それはどうも、んじゃ最終決戦とくか!」

 

 『『『試験召喚(サモン)‼』』』。

 

 高育・文月生、数十人の合唱が響き教室に召喚獣達が現れる。

 

 科目は総合。

 数学は俺以外に恩恵が少なく、結局俺は龍園達の戦死を防げなかった。成果自体は確かでも求められた活躍には及んでいない。

 だが、他科目を選ぶには今度は俺並みの高得点者がいないので、総合が選ばれた。

 

 総合科目、当り前だが一科目とは点数がかけ離れている。本来とは違い五教科の総合だが。

 

 高育生で特に目を惹くのは、坂柳2200点、堀北2087点、一之瀬2080点、真田1953点の四人。

 学力が十分高い平田、神崎、櫛田がそれぞれ1200点・1183点・1100点なので2、3科目分の点差が開いている。

 俺は1010点で、今いる高育生の中で10位に位置している。

 一番下が369点の本堂だ。

 

 文月生も点数を引き離しているのが四人いる。

 霧島2350点。姫路2060点。工藤1970点。佐藤1773点。

 後は似たような分布だ。

 

 この場にいる全員の点数を視認する。

 合計は高育側が2000点ほど上回っているようだ。人数差はもちろん、木下達高得点者を戦死させた影響だろう。

 

 補充試験から戻ったのは一人だけで残りの三人は音沙汰がない。既に戦死してると考えていい。

 対してあちらも一人、吉井がいない。

 

 そんな分析が済んだ頃には、教室で数多の召喚獣によるバトルが始まりだしていた。

 

 「っしゃ! 当たったぜ!」

 「誰か援護を!」

 「ちょっ点差酷い! チェンジ!チェンジ!」

 「あの四人には近づくな!」

 「数が多いって!」

 「うおおおおおおお!」

 「無駄に叫ぶな! 気が散る!」

 「逃げんな! 戦え!」

 「逃げるさ! 勿論!」

 

 ……人数が人数だけに騒々しい。

 俺達は三人一組にチーム分かれ、それぞれをカバーする戦略をとっている。

 俺以外のメンバーは平田と恵。五チームの中で真ん中の戦力だ。

 

 「数学の天才だろうが総合は大したことないな」

 

 そんな俺達も現在交戦中だ。

 相手はB、C、Dの三人。点数差の所為で恵が度々危なくなり、それを俺と平田がフォローするタイミングで攻撃してくるスタイルに苦戦を強いられている。

 

 「清隆君このままじゃ……」

 「清隆、私どうすれば……」

 

 現状の解決策を俺に教えて欲しい二人の意思に俺は応えない。

 この流れで勝利に導くのは俺が意図的に見せてる範囲を超える。それに既に助けは来ている。

 

 「このままとどめを——」

 「警戒心が足りないな」

 「な!」

 

 恵の召喚獣に止めを刺そうとした相手の召喚獣に刀が生える。

 神崎の召喚獣が背後から攻撃した結果だ。

 

 「神崎くん」

 「次の所に行く」

 

 攻撃した召喚獣が消えると同時に神崎は移動を開始した。

 

 「人数差があるから一組解散させて助太刀要員にしてたんだね」

 

 対戦相手が一人減ったことで多少の余裕が生まれた平田が呟く。

 対戦中はどうしても相手に意識が向く、味方の行動だろうと把握できない者が多数だろう。

 そんな中坂柳と坂本は戦場がよく見えている。

 あらゆる判断が最善手に近しい。それだけに戦力差でじわじわと戦況が高育側に傾き始めている。

 

 時間が経ち、いよいよ文月側に逆転の余地がなくなりそうなタイミングで教室が暗くなる。

 窓の方を見れば暗幕に覆われていた。さらにそれを行ったであろう吉井が窓から入ってくる。

 

 「ここ二階だぞ?!」

 

 俺以外にも吉井の存在に気づいた高育生が驚愕する。

 

 「雄二!」

 「よくやった! やれ!」

 

 教室がさらに暗くなる。今度は教室自体の照明を消したようだ。

 昼休みバレバレの罠を仕掛けていたのは、どこからか暗幕をくすねるためのカムフラージュか。

 

 教室が暗くなって喧騒は広がるが対戦は膠着した。見えない訳ではないが、戦闘を躊躇う程度には視界の制限を課されている。

 照明をつけ直そうと数人が動いたが、文月生に阻まれる。高育生が仕方なくタブレットのライトを光源にしようとするが、局所的な光源はかえって死角を生みやすい。実際に点灯した数人が死角からの攻撃に晒される。無視できないリスクがある以上、高育生はライトの光を消していった。

 

 「1、2、3、4、5……」

 

 唐突に数字を数える声が聞こえてくる。

 

 「みなさん、特定の数字で攻撃が来ます。備えてください」

 「16!」

 

 坂柳の忠告の後少し経ち、照明が点いたと同時に、文月生達の召喚獣が攻撃を仕掛ける。

 タイミングが把握できなかった高育生の何人かは光にまぶしがり反応が遅れる。

 俺は照明がついた瞬間とある場所を見る。これで文月側の最後の策も予想がついた。

 

 「くそ! こんな姑息な手!」

 「今は見えるんだすぐに叩きのめ——」

 

 再び照明が消える。

 

 「またか! ええい、教室でればいいだろ!」

 

 一人の高育生が苛立ちながらドアを開けようとする。

 

 「くそ、待ち構えかよ!」

 

 が、ドア側に文月生数人が仁王立ちしている。

 

 「焦る必要はありません。照明に陣取っている方々を狙ってください」

 

 予想外の事態に困惑していた高育生達が、坂柳の落ち着いた態度に冷静さを取り戻す。

 

 それから何度か照明の切り替えが行われ、点数差が縮みはしたがスイッチの確保は成功した。

 

 「私達は合図などありませんから、点灯してる状態を維持してください」

 

 鬼頭と数人が照明の門番となり、睨みを利かせる。

 

 「雄二! もう対策されちゃったよ!」

 「それなりの奇策だったんだがな、ほんと用意してた手を片っ端から潰してくれるぜ」

 

 吉井が焦り、坂本が頬を掻く。

 

 「こっからは策なしだ! お前ら根性見せやがれ!」

 「皆頑張って」

 

 坂本と霧島の激に応えるように文月生達が果敢に攻めてくる。

 だが、一ヶ所だけ誰も攻めようとしない。

 お互いの最高戦力八人が交戦してる場所には。

 

 坂柳1540点 一之瀬1300点 堀北1412点 真田1109点。

 霧島1632点 姫路1260点 工藤1111点 佐藤1006点。

 

 八人も最初の点数からは減っているとはいえ、他の生徒は既に500点を切っているのが大半だ。余波だけで戦死もありうる。

 

 「もう少しであなた方以外は脱落しそうですね」

 「あはは、そうだね厳しいかな。代表がいるのにこんな苦戦するとは思わなかったよ」

 「でも皆まだ、戦えます! 先に倒させて貰います!」

 

 坂柳の軽い挑発に工藤と姫路が反応する。

 必殺技も惜しまず使い、劇的に互いの点数が消耗していく。

 あと少しで、戦場の勝敗を決める変化が訪れそうな気配が漂い始めた瞬間。教室のスピーカから音が発生する。

 

 『時刻になりました。ただいまをもって特別戦は終了いたします』

 

 その音声を聞いた幾人かが壁の時計に目を向ける。3時45分、終了時間を示していた。

 

 ——————轟音が響く。

 

 「……読んでたか」

 「勿論」

 

 数体の召喚獣が坂柳の召喚獣に攻撃をしかけ、全て高育生達の召喚獣が防ぐ。

 

 「あの時計は吉井君がすり替えたもの、放送は戦死してないのに姿の見えない木下君の仕業でしょう」

 「いつ気づいた?」

 「念のため対策しておいたに過ぎません。時計のすり替えには気づいていませんでした」

 

 最後の策も防がれた坂本が疑問をぶつける。

 

 坂柳があの時、高育生に伝えたことを思い出す。

 

 「試験が終わったと誤認させてくる可能性があります。一度終了を感じたら私を守ってください」

 

 その言葉を聞いていた高育生は半信半疑だったものが多数だが、結果として正解だった。坂柳にしてみれば一斉攻撃が唯一の警戒対象である。

 だが、不意打ちでもない限り対処は可能。実際、照明切り替えで度々狙われていたが、護衛を増やして凌いでいた。なら、自分が食らう可能性のある奇襲は何だと考え保険を仕込んでいた。

 

 「さて、この状況からまだ手はありますか?」

 「ないな」

 

 互いの生き残りが高育生12人、文月生8人。総合点数差が約1000点。

 圧倒的な点数を誇っていた霧島も一人では戦況を覆せない。

 勝敗は決まったと言えるだろう。

 

 「だが、素直に首を差し出すほど潔くはないんでな!」

 

 そういって坂本は召喚獣を突撃させる。

 

 そこからは、文月生が一人一人戦死していく時間になった。

 予想外だったのは、坂柳の点数を300点まで削ったことだ。最後に残った吉井、坂本、霧島の三人の粘りはすさまじかった。

 

 高育生存者

 ・坂柳300点 ・堀北104点 ・一之瀬98点 ・神崎32点。

 

 最終的に4人生存し、高育側が勝利を収めた。俺は決着がつく寸前まで生存していたため、補習室に行くことはなかった。

 

 「かー負けた! ——よし、んじゃお前ら体育館集合な」

 

 「……何を言っているの?」

 

 坂本の発言に堀北が怪訝な顔をする。

 

 「二次会、打ち上げ、または遊びをしようぜって言ってるのさ」

 

 続いた発言に他の高育生も驚きの表情を浮かべる。

 

 「いやなに、明久が折角の交流会なのに勝負しかしてないってんで、勝敗に関わらず特別戦が終わったら交流イベントをしようって提案してな」

 「だって、初日以外あまり話せてもいなかったし」

 

 吉井の提案か、性格を考えれば納得がいく。

 

 「なかにはぶつくさ言ってる奴もいたが、大半は賛同してるぜ」

 「その人達が準備もしてくれてるよ」

 「時間も問題ないだろ? 帰りが明日なのは確認してる」

 

 三日間の交流会。俺達は三泊四日の日程だ。今日は遅くなっても問題ない。

 

 「いいね! 折角の機会なのにこのまま帰るのは嫌だったからすぐにいくよ!」

 「断る理由はないわね」

 

 喜んでる一之瀬とは対照的に堀北はあまり気乗りしていない。

 それでも参加しない選択はとらないようだ。坂柳も了承し俺達は体育館へと向かった。

 

 体育館に行きながら、堀北が小声で話しかけてくる。

 

 「あなたは時計のすり替え気づいていたの?」

 「あぁ、暗闇を作り出したんだ。他の工作をするなら壁時計が有力だ。タブブレットの時計と時刻を比較して、すぐに気づいた」

 「……坂柳さんも時間の誤魔化し自体は備えていた。私もまだまだね」

 

 体育館に着く。

 そこでは先ほどまで敵対してたとは思えない程盛り上がったパーティが行われていた。

 

 「なんでこんな豪勢なの?! Fクラスの歓迎会よりかはちょっと豪華にするって話じゃなかった?!」

 「学園長が用意してた報酬余ったからって、そのままパーティーの景品にしたり差し入れにしてくれたのよ」

 

 吉井の疑問に既にパーティー満喫していた島田が応える。

 文月側の報酬は個人の勝利報酬のみ。

 生存報酬が皆無なのだから、あらかじめ用意してた報酬があれば大半は死蔵になる。

 それならば生徒の自主的なイベントに活用するというのは理解できる。

 

 「あのババァにしちゃ気前がいいな」

 「そういうあんたらはルールまで変えたのに不甲斐ない結果になったね」

 「……いたのか」

 「どこかのタイミングで高育生とは話をしときたくてね。お邪魔させてもらってるよ」

 

 坂本の背後から学園長が姿を現す。

 それなりに歳を重ねた女性だ。

 

 「個人戦、試験召喚戦争どっちも観たよ。中々おっかないお嬢ちゃんだ」

 

 学園長は坂柳に目線を送る。

 

 「お褒めに預かり光栄です」

 

 坂柳は丁寧な所作で頭を軽く下げる。

 

 「二人も各クラスのリーダーだけあって見所があるね」

 

 学園長は堀北と一之瀬にも声をかける。

 

 「一人、悪ガキもいたが人の使い方は上手かった」

 

 龍園の事を言ってるのだろうが、此処では大人しくしていたとはいえ悪ガキ扱いは不本意だろう。

 そのまま少し会話が続いたがほどなくして学園長は別の場所に赴いた。去り際に一瞬、俺に視線を送って。

 

 「よく勝ってくれたよ! ほんとマジで!」

 

 学園長が去ったあと高育Dクラスの面々が集まる。

 早々に脱落した池は安堵の笑みを浮かべていた。

 

 「二人ともお疲れ様」

 

 櫛田から労いの言葉がでてきて感想会が始まる。

 それから数分経ち、平田が手を叩く。

 

 「皆で話すのはこれくらいにして、文月生達と交流しないかい? こんな場まで設けてくれたんだし」

 「そうね、もう敵対関係でもないのだし」

 

 堀北の賛成でDクラス生はその場を解散する。

 配属されて多少の交流があるEクラス、Fクラスの文月生のところにそれぞれが向かう。

 俺も再び吉井とでも話そうと歩き出した時、声をかけられる。

 

 「勝利おめでとう綾小路君」

 

 声の主は木下優子だった。

 

 「悪かったな一対一に応じてやれなくて」

 「それはもういいわよ。対戦自体は出来た。でも貴方を倒すことは出来なかった、それだけよ」

 

 あそこまで執着していた割に勝敗を素直に受け入れ引きずらない。クラスの中心人物なだけはある。

 

 「そういってくれるのは有難い。それで何か用なのか?」

 「これは交流の場でしょ、関りのあった高育生とは話をしとこうと思っただけ」

 「坂柳達を除けば俺も対象になるわけか」

 「そういうこと」

 

 何気に木下とは三日連続で顔を合わせている。俺からしてもFクラス生以外で一番接点のある人物といえるだろう。

 

 「とりあえずお互いの健闘を称えて握手しましょう」

 

 差し出された木下の手を握る。数秒の行為だが、これで先程より友好的な関係になった。

 その後、取り留めのない会話をしばらく交わし、木下と別れる。

 

 周りを見れば高育生と文月生が色々なゲームに興じている。

 打ち上げなど基本クラス単位でしか行っていない、この規模のものは新鮮味がある。

 周囲は騒がしいが不快というわけでない独特な空間だ。

 

 「綾小路君! 助けて!」

 

 唐突に切羽詰まった声で名指しされる。

 声がした方向から吉井が現れ俺の背に回り込む。

 

 「アキ――!」

 「吉井君、逃げちゃだめですよ」

 

 姫路と島田から怒気を孕んだ声が聞こえてくる。

 

 「……何かやらかしたのか?」

 「何もしてないよ! 一之瀬さんに話しかけただけなんだ!」

 

 心外だとばかりに吉井は憤慨する。

 

 「ほんとだよ、すこし吃驚することを言われただけ」

 

 一之瀬も現れ吉井の無罪を主張する。全容を知らない俺は何も言うことがない。

 とりあえず静観するかと思っていたら、いつの間に居た土屋がボイスレコーダーを取り出した。

 

 『一之瀬さんも……その、大きいですから大変ですよね』

 『うん、せめて重いのは何とかなって欲しいよね』

 

 姫路と一之瀬の会話。具体的な名詞は出ていないが、どうしても頭によぎる単語がある。

 

 『重い物? 僕が持とうか?』

 

 予想が正しければ、吉井の善意の言葉は最悪な意味合いになっている。

 

 ボイスレコーダーを切り、土屋は一歩下がる。

 

 「景品の運び出しで扱き使われてたんだ! それで重いって言葉につい反応してしまって!」

 

 吉井の言ってることは正しいのだろう。実際に召喚獣を使い物品を運んでる姿は俺も見ている。

 だが、姫路と島田はそれで許してはくれなさそうだ。

 

 「ちなみに吉井に何をするつもりだ?」

 

 わざわざ逃げ出すんだ、それなりの罰でも与えられるんだろう。

 

 「ジャーマンスープレックス」

 「吉井を渡すわけにはいかない」

 「綾小路君!」

 

 罰が重すぎる。島田はホントにやるつもりだ。

 吉井から感謝の声が飛んでくる、それを見た久保がハンカチを咥えているが気にしない。

 

 「あびゃびゃびゃ!」

 

 島田達を警戒していたら、背後から霧島がやってきて吉井にスタンガンを食らわす。

 

 「これで手打ち」

 「まぁ、パーティだし。一之瀬さんも気にしないそうだから、その程度で許してあげる」

 「もうセクハラしちゃ駄目ですよ」

 

 スタンガンをその程度といっていいのかは議論の余地があるが、一応は許されたらしい。

 

 「……酷い目にあった」

 「同情はしておく」

 

 座り込み体を休めている吉井を介抱していたら、文月の教師がマイクを手に取るのが視界に入る。

 

 『えー予定にないパーティーではあるが、丁度いいのでこの場で今回の特別戦の結果発表を行わせてもらう』

 

 ざわざわと周囲がにわかに騒がしくなる。

 

 『まずは文月生から。勝利数上位三名のみの発表だ。個人戦と試験召喚戦争分がカウントされている。一位 霧島 12勝 二位 久保 8勝 三位 木下 7勝』

 

 全員文月Aクラス。図らずとも二日目に対戦を拒否した三名が勝利数トップらしい。

 

 『続いて高育生。こちらも勝利数上位三名の発表だ。一位 綾小路 21勝 一之瀬 18勝 三位 坂柳 12勝』

 

 高育生の視線が俺に集まる。二日目終了時点で15勝なのは知っていたが試験召喚戦争で6勝も増やしたのかと驚いた様子だ。

 6勝の内訳は根本達で4、最終決戦で2だ。根本達はともかく、決戦での勝利は運によるところが大きかった。

 それよりも、坂柳がランクインしてるのは流石だな。試験召喚戦争では指揮の徹し、最終決戦でしか戦っていなかったが、それでも入ったという事は二日目終了時点で葛城の下の位置にまでつけていたのだろう。

 

 『これに試験召喚戦争勝利による均等配分3勝を加え、上位三名には余りの4勝分も2・1・1で配分される』

 

 俺の最終結果は26勝らしい。

 

 『タブレットでも自身の個人成績は参照可能だ。以上で結果発表を終了する』

 

 結果発表が終わったが、パーティーのさらに盛り上がり上がっていく。先ほど吉井が運んでいたらしい物品を景品としたビンゴが始まったり、負けを悔しがった生徒が召喚獣対戦や野球、サッカーの勝負を挑んだり色々なゲームが至る所で繰り広げられる。1つ終われば別のに誘われ休憩すれば話しかけられる。特別戦中は逃げるのに徹していた反動だろうか。

 

 結局、俺達高育生がホテルに帰れたのは7時前だった。

 

 こうして三日間の交流会は幕を閉じた。

 

 中々興味深い三日間だった。文月学園は高育同様特殊な部類の学校ではあるため、一般校では経験できない体験だろう。

 だが、それをいうなら高育ほど豊富な体験ができる高校はない。残りの学校生活で出来るだけ余すことなく過ごしたいものだ。

 

 帰りのバスに揺られてそんなことを考えていたら、携帯にメッセージ通知が届く。

 送り主は恵。メッセージをタップしたら画像が送られていた。

 

 文月Fクラスと高育Dクラス五人の集合写真だ。俺の携帯の写真フォルダに珍しく画像が増えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。