天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~ 作:ささき2026
全国優勝から、数週間。
冬が、深まり――卒業の季節が、すぐそこまで、来ていた。
そして。その季節は。もう一つの、避けられない、"別れ"を、連れてきた。
ソフィア・アルバレスの――スペインへの、帰国。
父の、日本での仕事が、終わる。彼女は、家族とともに、遠い、スペインへと、帰っていく。
その日は。もう、目前に、迫っていた。
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二
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放課後の、教室。
夕陽が、机を、黄昏色に、染めていた。
翔と、ソフィアは。二人だけで、その光の中に、いた。
「翔。……私、明後日スペインに帰るの」
「……うん」
わかっていた。何度も、聞いた。それでも――いざ、その日が、決まると。胸の奥が、締めつけられた。
ソフィアは。窓の外を、見つめて、静かに、微笑んだ。
「日本での一年ちょっと。……本当に楽しかった。翔と出会えて。あなたの、サッカーを、見られて。……私またサッカーに、関われた」
ソフィアの声が。少し、震えた。
「膝を怪我して。もう、私の、サッカー人生は終わったって……思ってた。でも――翔が。あなたが私の"夢の続き"を。見せてくれた」
「……ソフィア」
「あなたに教えた技が。全国の舞台で、決まったとき。……あのドライブシュートを、見たとき。私思ったの。ああ――私のサッカーは。まだ終わってなかったんだ、って」
ソフィアは。翔を、まっすぐ、見た。
その瞳は。涙で、潤みながらも――どこまでも、澄んでいた。
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三
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「ソフィア。……渡したいものが、あるんだ」
翔が。ぽつり、と、言った。
「え?」
翔は。少し、照れたように、目を、そらしながら。ポケットから、小さな、包みを、取り出した。
「これ……その。餞別、っていうか」
翔から、誰かへ、プレゼントを、渡す。それは――ひどく、めずらしい、ことだった。あの、無口で、不器用な、翔が。
ソフィアは。驚きながら、その包みを、受け取った。そっと、開ける。
中から、現れたのは――
一つの、髪飾りだった。
小さな、けれど、繊細な。青と、赤の――二つの色が、寄り添うように、あしらわれた、髪飾り。
「……これ」
「青は、日本。……赤は、スペイン」
翔が、ぼそぼそと、説明する。
「二つの色が、並んでる。……君の夢みたいだと思って。日本とスペインをつなぐ架け橋になるっていう」
「……っ」
「姉ちゃんに相談して……美羽にも手伝ってもらって。選んだ。……その。似合うと、思う」
翔は。最後は、消え入りそうな声で、言った。耳が、また、少し、赤い。
ソフィアは。その、髪飾りを。両手で、包み込むように、握りしめた。
そして――ぽろり、と。大粒の、涙が、頬を、つたった。
「……ずるいよ、翔」
「え?」
「こんな……こんなの渡されたら。……帰りたく、なくなっちゃう、じゃない」
ソフィアは。泣きながら――笑った。
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四
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ソフィアは。その髪飾りを。さっそく、金色の髪に、つけた。
夕陽の中で。青と、赤の色が――きらり、と、輝く。
「……どう? 似合う?」
「……うん。似合う」
翔は。まっすぐに、頷いた。世辞では、なかった。本当に――よく、似合っていた。
「えへへ。……一生大事にする。ううん――」
ソフィアは。髪飾りに、そっと、触れた。
「これをつけてる限り。私、いつだって、翔と、日本を――思い出せる」
二人は。しばらく、黙って。夕陽の、教室に、いた。
言葉には、しないけれど。この一年の、たくさんの、思い出が。二人の間を、静かに、流れていく。
初めての、会話。「黄昏」の、二文字。才能を、見抜いた、あの試合。天野川家の、食卓。黄昏の、公園。風林火山。種子島三段撃ち。そして――全国優勝の、あの、奇跡。
全部が。かけがえのない――宝物、だった。
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五
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そして――出発の、日。
空港は。多くの人で、賑わっていた。
ソフィアを、見送りに。翔と、その家族が、来ていた。母の陽子。姉の明日香。妹の美羽。そして――新田栞と、朝倉ひかりの、姿も、あった。
「ソフィアちゃん! スペイン、行っても、元気でね!」
ひかりが、涙ぐみながら、手を、振る。
「ソフィアさん。……あなたのことも、いつか、記事にしたいわ。翔くんを、育てた、一人として」
栞が、優しく、微笑む。
「明日香さん。……トルティージャ、忘れないで、作ってくださいね」
「もちろん! 今度は、スペインで、あなたのお母さんに、教わりに行くから!」
姉の明日香が、涙を、こらえて、笑う。
「ソフィアお姉ちゃん……!」
美羽が。ソフィアに、飛びついた。
「うん。美羽ちゃん。……これからも、翔の、映像。撮り続けてね。私に――送って?」
「うん! 約束!」
この、一年で。ソフィアは。天野川家の、みんなに。そして、翔を、応援する、みんなに――愛される、存在に、なっていた。
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六
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搭乗の、時間が、近づいた。
最後に。ソフィアは。翔の、前に、立った。
金色の髪には。あの、青と赤の――髪飾りが、輝いていた。
「翔」
「……うん」
ソフィアは。少し、うつむいて。それから――意を決したように、顔を、上げた。
「私……あなたが、世界一になる姿を。ずっと、見ていたい。だから――」
ソフィアの、瞳が。まっすぐに、翔を、射抜いた。
「私は――翔が、来る日を、待ってる」
その言葉の、意味を。翔は――受け止めた。
スペインへ。世界へ。ソフィアのいる場所へ。いつか、自分が、たどり着く、その日を。
翔は。静かに、しかし、力強く――答えた。
「……必ず、行く」
迷いは、なかった。
「必ず、スペインへ、行く。世界一になって。……君の、いる場所へ」
ソフィアの目から。涙が――あふれた。
けれど、その顔は。この上なく、幸せそうに――笑っていた。
「……うん。うん! 待ってるから! 絶対、だよ!」
それは。子供の、約束だったかも、しれない。
けれど――この約束が。やがて。天野川翔を。海の向こう、スペインの地へと――導いていく、大きな、大きな、伏線となる。
二人が、再び、まみえるのは。まだ、ずっと、先。
けれど。その日は。必ず――来る。
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七
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ソフィアが。搭乗ゲートの、向こうへと、歩いていく。
何度も、何度も、振り返り。そのたびに、手を、振って。
金色の髪の、青と赤の髪飾りが。最後まで、きらきらと、輝いていた。
やがて。その姿が――見えなく、なった。
翔は。ゲートを、見つめたまま。しばらく、動かなかった。
「……翔」
母の陽子が。そっと、翔の、肩に、手を、置いた。
「……大丈夫。また、会えるよ」
「……うん」
翔は。頷いた。
寂しさは――確かに、あった。けれど。それ以上に。翔の胸には。新しい、目標が。はっきりと――灯っていた。
――スペインへ。世界へ。ソフィアの、いる場所へ。
(待ってて、ソフィア。……僕は、必ず、そこへ、行く)
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八
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そして――卒業式の、日。
翔は。小学校の、体育館に、いた。
6年間の、締めくくり。けれど、翔にとっては。サッカー人生の――ほんの、始まりに、過ぎなかった。
式が終わり。翔は、一人。クラブの、グラウンドへと、足を、運んだ。
誰もいない、冬の、グラウンド。かつて、蓮や、大和と。汗を、流した、場所。
翔は。左手首の、リストバンドに、触れた。
もうすぐ。翔は、中学生に、なる。そして――このリストバンドの、下に。正式に、背番号10を――背負う。
その、決意を。噛みしめるように。翔は、空を、見上げた。
「翔」
声がして。振り返ると。
そこに――神谷蓮と、水城大和が、立っていた。中学生の、制服姿で。
「蓮さん! 大和!」
「卒業、おめでとう。……そして」
蓮が、翔の、左手首を、見た。
「そのリストバンド。……いよいよ、お前が、背負う番だな」
「はい」
「翔」
大和が、にっと、笑った。
「俺たちのチームは強豪だぞ。……お前が、来るの、待ってるからな。今度は――一緒に、全国、獲ろうぜ!」
「……はい!」
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九
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その夜。
天野川家の、リビング。
壁には。この一年で、増えた、たくさんの、写真が、飾られていた。
全国優勝の、瞬間。仲間たちと、笑う、翔。そして――金色の髪に、青と赤の髪飾りをつけた、ソフィアと。並んで、写る、翔の、写真。
その、一枚一枚を。翔は、静かに、見つめた。
「翔」
父の、恒一郎が、声を、かけた。
「小学校の、6年間。……どうだった」
翔は。少し、考えてから――答えた。
「たくさん、負けた。……たくさん、泣いた。でも」
翔の目に。まっすぐな、光が、宿る。
「一人じゃ、なかった。仲間が、いた。蓮さんや、大和。ソフィア。栞さん。ひかりさん。監督。……そして、家族が。……だから、僕は、ここまで、来られた」
恒一郎は。静かに、頷いた。
「翔。お前は――3年生のとき。『一人では、勝てない』と、学んだ。そして今――『一人じゃ、なかった』と、言える。……それが、お前の、6年間の、答えだな」
「……うん」
母の陽子が。優しく、微笑んだ。
「翔。世界一への、道は。まだ、始まったばかり。……これから、もっと、大きな、壁が、待ってる」
「わかってる」
翔は。窓の外の、冬の夜空を、見上げた。
星が。無数に――瞬いていた。
そのどこかに。ソフィアの、いる、スペインの空も。繋がっている。
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十
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小学校編。
それは。天野川翔という、一人の少年が。
「僕が、日本を、世界一にする」
という、途方もない夢を、口にした、あの夜から。
仲間と、出会い。ライバルと、ぶつかり。何度も、負け。何度も、立ち上がり。
「一人では、勝てない」を、知り。
そして――「チームで、勝つ」を、掴んだ。
その、成長の――物語だった。
ゼロステップ。シャドウドリブル。ファントムターン。ワイドビジョンパス。フェザー・ループ。レーザーショット。ハンタープレス。ピンポイントショット。風林火山。種子島三段撃ち。
数えきれない、武器を、手にした。
けれど。翔が、本当に、手に入れたのは。
技では、なかった。
――仲間を、信じる、心。受け継いだ、意志。そして。世界へと、繋がる――約束。
その、すべてを、胸に。
天野川翔は。
新たな、ステージへと――歩き出す。
背番号10を、背負い。蓮の意志を、受け継ぎ。ソフィアとの、約束を、胸に。
次なる、舞台は――中学校。
そこには。さらなる、強敵と。さらなる、成長と。そして。まだ見ぬ、仲間との、出会いが――待っている。
いつか。ドライブシュートを、"自分のもの"にする、その日まで。
いつか。九条蒼真と、もっと大きな舞台で、再戦する、その日まで。
いつか。海を渡り。ソフィアの待つ、スペインへ、たどり着く、その日まで。
――そして、いつか。
日本を、世界一に、する、その日まで。
少年の、挑戦は。
まだ、始まったばかり。
ボールは。翔の――夢だった。
その夢は、今。確かな、"覚悟"へと、変わり。
世界へと、続く道を――照らし始めていた。
小学校編はこれで終わりです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
続きは評価や感想が多ければ再開します。
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私は作った小説に挿絵をいれるのが好きなのでこのスタイルを続ける予定です。
中学校編での展開などアイディアがあれば是非教えてください。
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