大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び! 作:ポップ
リヴェリアが思わず声を漏らし、会議室は静まり返った。
フィンやガレスも黙り込み、レフィーヤ達からも言葉が出てこない。
その異様な空気に、今度はポップの方が困惑し始める。
自分は、聞かれたから『使える』と答えただけだ。確かに珍しい呪文ではあるが、そこまで驚く様な事か?
しかし、誰も何も話さないのも気まずいので、ここは場の空気を読んだポップの方から口を開くことにした。
「あ~、でもまぁ『ラナルータ』に関しちゃ、まだ一度も使った事がないんだけどよ」
その一言を聞いた途端、リヴェリアが勢いよく顔を上げて、ポップをキッと睨んだ。
「使った事がない!?待て、それはどういう事だ!お前は、自分が一度も使った事のない魔法を『使える』と公言しているのか!?」
「ちょっ、お、落ち着けって!」
突然の剣幕に驚いたポップは、椅子に座ったまま身を引いて、両手を前に突き出す。
さっきまで冷静に話していたリヴェリアが、明らかに興奮している。怒っている風にも見える様子に、レフィーヤまでちょっと驚いていた。
「これが落ち着いていられるか!」
「分かった、分かったって!一つずつ説明していくから、そんなに怒鳴らないでくれよ」
ポップが宥める様に両手を前に差し出すと、リヴェリアはまだ納得していない顔をしながらも、どうにか椅子に座り直した。
ただし、その目はポップから一瞬も離れていない。
「まず、今言った『ラナルータ』に関しちゃ、俺んとこの世界でも、使える奴は多分他にいないと思うぜ。これはもう、九十九パーセント確実だと思う」
「ふむ、ポップの世界では、魔法は個々の独自的なものではなく、ある程度共通して覚えられるものなんだよね?それなのに、どうしてそこまで言い切れるんだい?」
フィンの問いかけに、ポップは腕を組みながら答える。
「天候操作系の呪文に関しちゃ『ラナリオン』と『ラナルータ』の二つが確認されてるんだが、ぶっちゃけ『ラナリオン』だけでもかなり珍しいんだ。これでも一応、それなりに顔は広い方なんでな。世界中の偉いさんや、実力のある奴らなんかともそれなりに繋がりがあるんだが、他の誰かが『ラナリオンを覚えた』とか『使える』なんて話は、聞いた事がねぇんだわ」
世界中の偉い人達や実力者達と繋がりがある。
ポップが何気なく口にしたその言葉に、フィンやロキは僅かに反応したが、それでも今はそこを問いただす場面ではない。
そして、誰も口を挟まずポップの説明に耳を傾ける。
「それで、何でかリヴェリアやレフィーヤ達が気にしまくってる『ラナルータ』の方だが、こいつは殆ど伝説級でな」
「伝説級……ですか?」
レフィーヤが不安そうに聞き返した。
「あぁ。さっき話しただろ?俺達の世界じゃ、呪文を覚えるのは学問とかに近いって。だから一応『ラナルータという呪文が存在する』っていう記録自体は、古い魔法書や各地に残ってる文献にも記されてるんだよ」
ポップは更に説明を続ける。
「複数の記録で存在が確認されてるから、誰かが考えた架空の呪文じゃねぇ。でも、その習得方法も殆ど残ってねぇし、実際に誰かが使ったっていう記録も残ってねぇから、俺達の世界でも幻の呪文みたいな扱いだったんだわ」
「ふむ……それで?その様な大魔法を、何故お前が習得出来たのだ?」
リヴェリアは少しだけ声を落ち着かせたものの、表情は依然として真剣だった。
「それなんだけどよ。実は、俺んとこの世界には『破邪の洞窟』ってやつがあってな」
「破邪の洞窟?」
その聞き慣れない名称に、リヴェリアが首を傾げる。
「あぁ。分かりやすく言えば、神様が作ったダンジョンみたいなところだな」
「神が作ったダンジョンやて!?」
黙って聞いていたロキも、流石に声を上げた。
自分達が下界では神の力を封じて暮らしている一方、ポップの世界には、神が人間の為に残したダンジョンが存在するという。
勿論それが嘘ではないという事も、目の前で話を聞きながら確認している。それはロキにとっても、簡単に聞き流せる話ではなかったのだから。
ポップはロキへ頷くと、破邪の洞窟について説明を始める。
「破邪の洞窟は、大昔に人間の神が残した、邪悪な力へ対抗する為の試練の洞窟だって言われてる。中にはモンスターは勿論、危険な罠もあるし、深く潜れば潜るほど敵や罠も凶悪になってくる。一度入ったら簡単には戻れないって事で、誰でも簡単に入れないようカール王国って国が厳重に管理してる、結構有名な場所なんだわ」
オラリオに暮らす者達にとって、それはどうしてもダンジョンを連想させるものであった。
だが、神が人間に試練を与える為に作り、魔法の習得まで行える場所があると聞くと、一部に関しては、オラリオのダンジョンよりも魅力的に思えてくる部分もある。
「それで、洞窟の中には幾つか、特別な呪文と契約出来る階層があるんだよ。ラナルータがあったのは……何階だったかな。百七十階か、百八十階くらいだったと思うんだが……」
「……百七十?」
レフィーヤが呟いた。
「百八十階じゃと……?」
ガレスも思わず聞き返す。
一同の驚きにも勿論気付きながら、ポップは記憶を辿りながら首を傾げている。
「確かその辺りだった筈だ。似た様な景色が続く階層だったから、正確には覚えてねぇんだよ。俺は、そこで契約して覚えたんだわ」
再び、会議室が静まり返った。
神が作ったとされるダンジョン、百七十階を越えた先。
勿論、破邪の洞窟とオラリオのダンジョンでは、各階の広さも、現れるモンスターの強さも異なるので、一概には比べる事は出来ない。
フィンやリヴェリアも、その点には気付いていたが、だからといってこれは無視出来る話ではない。
しかし、となると新しい疑問も浮かんでくる。
食料はどうしたのか。
水は?
ダンジョンという場所は、ただ強ければいいという場所ではない。
フィンがそれを口にしようとした時、同じ疑問を抱いていたのだろう、ガレスが先に問いかけた。
「ポップ。お前さんが只者ではないという事は、儂らにも何となく分かっているつもりじゃ」
ガレスは、一拍置いてから言葉を続ける。
「じゃが、一人でそれほど迄に深い洞窟へ潜ったというのであれば、食料や水はどうしておったんじゃ?」
「あぁ。まあ、そういう疑問も当然だわな。食料は道具袋に入れて持っていったんだよ……あぁ、そうか。ガレスとロキは、まだ俺の道具袋の事を知らねぇんだよな?」
ポップは、腰に下げている小さな袋に手をかける。
ロキとガレスは、揃ってその袋に視線を向けるが、パッと見たところでは、何の変哲も無い、ごく普通の袋にしか見えなかった。
「その袋がどうかしたんか?」
ロキの疑問に、フィンが答える。
「ロキとガレスには、まだ伝えていなかったね。というよりも、あれは実物を見なければ、説明だけで信じるのは難しいと思うよ」
フィンが苦笑しながら説明すると、ポップは道具袋の口に手を入れた。
腕が肘まで袋の中へ入る。
その時点で、すでに袋の見た目と深さが合っていない。
ロキとガレスが訝しげに見つめる中、ポップは中から一本の剣を取り出した。
それは、露店で出していた『鉄の剣』。
しかし、どう考えてみてもこれは、目の前の小さな袋の中に収まる長さではない。
ポップは取り出した剣を、会議室の机の横に立て掛けた。
「……いや、ちょい待ち」
ロキは、道具袋と鉄の剣を交互に見る。
「何でその袋から、そんな長い剣が出てくるねん……」
「そういう道具なんだよ。言ってみれば、これも破邪の洞窟で見つけたアイテムなんだがな。見た目以上に沢山物が入って、重さも殆ど感じない。何でも入るから、これ一つあれば、旅したり一人で店も出来るのさ」
ポップは何でもない事の様に説明しているが、ロキとガレスは言葉を失っていた。
先に話を聞いていたフィン達でさえ、改めてその異常さを感じている。
ダンジョンの遠征は、持ち運べる食料や装備、持ち物の運搬量によって、期間や人数が大きく制限される。
しかしそれらの問題を、この小さな袋一つで殆ど解決出来るというのだ。
「食料については分かった。だが、水はどうしたんじゃ?それらも、袋の中に入れて持って行ったのか?」
ガレスの質問に、ポップは軽く頷いてから指を一本立てた。
「最初は俺もそうしてたんだけどな、途中からは持ち込む必要も無くなったんだ。これも破邪の洞窟で覚えた呪文なんだが……」
何をするつもりなのか分からず、一同の視線がポップの指先へと集まる。
「ザバ」
それは、あまりにも短い言葉だった。
しかしその瞬間、立てた人差し指の先へ水が集まり始める。次第にそれは膨らんでいき、やがて人の頭ほどもある透明な水球となり、指先の上に浮かび上がった。
「おお……」
ガレスが低く唸った。
ポップは水球を動かして、道具袋から取り出した空の水差しへと静かに落とした。水は一滴も零れる事なく水差しに収まり、澄んだ音を響かせる。
「調べてみたら飲み水としても使えるみたいでよ。これを覚えてからは、旅先でも水を用意する必要が無くなってな。魔法力もあんまり使わなくていいし、結構重宝してるんだわ」
誰もが、今しがた水の注がれた水差しへ視線を向ける中、フィンは別の事を考えていた。
あの道具袋と、水を生み出す呪文。
これだけでも計り知れない価値がある……
言ってしまえば、長期の遠征に必要となる大量の物資や水、そして運搬する人員を、一気に抑える事が出来るのだ。
それだけじゃない。もしこれが自分達の遠征でも可能になれば、場合によってはメンバーを厳選して、これまでよりも早く、最高到達階層まで向かう事も出来るかもしれない。
……戦闘能力を抜きにしても、ポップ一人が遠征に同行してくれるだけで、毎回運搬だけを目的として入ってもらっている人員を、大幅に減らせる可能性がある。
だが、それは同時に、あの道具袋の価値を知った者から狙われる危険性も意味していた。
フィンは、ポップがオラリオに来た時から、あの袋を無造作に腰へ下げていた事を思い出す。
(あの袋の価値が世に知られてしまえば、盗もうとする者が次々に出てきてもおかしくはない。皆がポップ本人の強さを知っていれば別なのだろうが、今の彼は路上で店を開いている、ただの一般人にしか見えないからね……)
後でポップ本人に、なるべくあの袋を不用意に人前で使わない様、注意を促しておいた方がいいだろう。
そんなフィンの懸念を知らないポップは、道具袋を腰へ戻した。
「さっきリヴェリアから、『一度もラナルータを使った事がないのに、使えると断言しているのか』って怒られたけどよ」
リヴェリアの眉が僅かに動く。
怒ったつもりはないのだが、それでも声を荒げてしまった自覚はあるだけに、否定もしづらい。
「破邪の洞窟で契約した呪文に関しちゃ、自分が使えるかどうかは、何となく分かるんだわ。使えない奴は契約自体が成立しないみたいだからな」
ポップはリヴェリアの様子を見ながら、少し困った様に続けた。
「でもさ、考えてみてくれよ。俺が覚えた『ラナリオン』に関しちゃ、雷を落とすのに必要だったから使ったけどよ」
ポップは腕を組んでリヴェリアを見つめる。
「ラナルータを使って昼と夜を入れ替えるなんざ、一体何の為に俺がそんな事するんだよ。普通に待てば夜になるし、これから寝ようと思ってる人達がいる中で夜にでも使っちまったら、迷惑以外のなんでもねぇだろうが。少なくない魔法力も必要になるし、だから使った事がないってだけなのに、それで怒鳴られたりしたら、こっちもちょっとイラっとくるぜ」
最後の言葉には、それまでのポップには無かった僅かな棘が混じっている。レフィーヤ達と出会ってから、ポップがここまで露骨に不快感を示したのは初めてであった。
リヴェリアも僅かに目を見開く。
確かに、事情を聞かずに声を荒げたのは自分なので、ポップが不快に思うのも当然かもしれない。
普通に生きていれば昼を夜にする必要性など皆無なのかもしれないし、必要が無ければ、使わないというのは当然だ。
だが……そうではないのだ!!!
リヴェリアは、心の中で言葉を飲み込んだ。
彼の言う事も理解は出来るし、先程声を荒げてしまった事についても、勿論謝罪はしよう!
しかし!
それでも言わせてもらうのであれば、目の前の青年は、私が危惧している事を全く理解していない!
場合によっては、世界が終末に向かうかもしれないのだ!その魔法が世界へ与える影響を考えれば、さっきの私の態度に関しても、全く言い過ぎでは無かったと断言出来る!
……恐らく、彼の世界では、天体や世界の仕組みに関する知識が、こちらほど発達していないのだろう。
もしくは、異世界という事で世界の作りそのものが違い、彼が暮らしていた場所が、自分達の考える『星』とは異なる可能性も……
……いや、話が飛躍し過ぎているな。
単純に、彼がそういった方面に疎いという可能性が、考えられる中では一番高いか。
何度か話していて分かったが、彼は決して愚かではない。ただ『昼が夜になる』という現象が、何をどうすればそうなるのかという事を、これまで学ぶ機会がなかったのだ、きっと。
……例え、神が人間に試練を与える為に作った場所で身に付けた魔法だからといって、彼とは異なる世界で生きてきた自分が、その原理も不明なまま、手放しに警戒を解く事は出来ない。
世界の仕組みが違うのか?
それとも、我々には想像も付かない、それこそ本来の力を持った神々の様な超常の存在が世界に働きかけているのか?
分からない……
とはいえ、『ラナルータ』という古の大魔法ともいうべき秘術が彼の世界では問題なく効果を発揮していたとして、それがそのままこちらの世界で問題なく作用するとは限らない。
確証もなしに、その様な大魔法をこちらの世界で使わせる訳にはいかないのだ。
そんな事を一瞬のうちに脳裏で考えながら、リヴェリアは一度息を吐いた。
とはいえ、事情も聞かずに声を荒げた事については、自分に非がある。
そうして改めてポップを正面から見ると、謝罪の言葉を口にした。
「……先程は、事情を聞く前に声を荒げてしまった。あれは私の落ち度だ。すまない」
ポップとしても本気で怒っている訳ではなく、リヴェリアのような大人の女性からこうしてちゃんと謝られてしまったら、特に引きずるつもりもないので謝罪に応じる。
「いや、俺も少しムキになっちまった。悪かったよ」
ポップは頭をかき、先程までの苛立ちを収める様に息を吐いた。
リヴェリアも、小さく頭を下げて応える。
これで先程の件はひとまず収まった。だが、ラナルータへの懸念が消えた訳ではない。
少なくとも、詳しい仕組みや影響範囲が判明するまでは、絶対に使わない様、ポップ本人に改めて頼んでおく必要がある。
理由については、タイミングを見てまた伝えればいい。今日はまだ、確認しなければならない事が幾つもあるのだから。
「じゃあ、もう一つ確認させてもらってもいいかな?」
フィンが話を切り替えて、ポップもそれに応えるかの様に頷く。
「レフィーヤ達から、君は他人の姿に変身出来る魔法も使えると聞いたんだけど、それについても教えてもらえるかな?」
「あぁ。『モシャス』の事だな」
ポップはそう頷いて、会議室にいる者達を見回した。
「説明するより、実際に見せた方が早いか。じゃあまずは、俺のダチのモンスターの姿にでもなってみるか」
『俺のダチのモンスター 』
その言葉に、一同は首を傾げ、ある者は警戒を始める。
「モンスターに友達がいるの?」
純粋に不思議に思ったのだろう。
ティオナが首を傾げている。
「あぁ。見た目はスライムみてぇなんだが、ティオナだったら絶対仲良くなれたと思うぞ」
ポップは笑顔でティオナにそう言うが、ティオナとしては納得出来るものではない。
「えーーーっ!?スライムはちょっと……」
今、彼女の頭に浮かんでいるのは、洞窟や湿地で見かける、粘ついた液状のモンスターだった。
ポップは、ティオナが想像しているスライムを見た事がないので、何をそんなに嫌がっているのか分からなかったが、この場にゴメがいれば、ティオナとはすぐに仲良くなれたであろう事は、何故か変な自信が持てるほど確信めいたものがあった。
「ねぇ、ポップさん。せっかく変身するんだったら、何か他のにしようよ~」
しかし、ティオナがやめてほしいとお願いしてきても、ポップは妙に自信がある感じで、全く折れてくれない。
「大丈夫だって。まぁ、ちょっと見ててみろよ」
そしてポップは椅子から立ち上がり、これから変身する者の姿を頭の中で鮮明に思い浮かべながら、その呪文を唱える。
「モシャス!」
途端、ポップの身体が淡い光に包まれた。
光の中で、二十五歳の青年だった身体は瞬く間に縮んでいく。
「「おぉ~」」
これから変身すると事前に公言していたからか、目の前の光景を見ても、特に警戒をする事なく、皆が見つめている。
そして光が収まった時、そこにいたのは、金色に輝く小さな身体と、両側に小さな羽を持つ、丸くて可愛らしい生き物であった。
「ピィーーー!」
すると、目の前の小さな生き物は、羽を動かして机の上から宙へと浮かび上がる。
「かっ、可愛いー!」
ティオナが椅子から勢いよく立ち上がった。
そして、空中に飛び上がった小さな生き物を両手で捕まえようとするも、その小さな生き物はティオナの両腕をひらりと掻い潜り、そのまま会議室の中を飛び回る。
「ピィーッ!ピッ、ピィッ!」
何かを叫びながら空を飛び続け、その生き物はレフィーヤの頭上でグルグルと回り始めた。
「こっ、これがポップさんの世界にいるスライム……」
反則である。
この可愛い生き物が、自分達の知っているスライムと同族だとは、何かの間違いではないだろうか。
そしてレフィーヤも、グルグルと頭上を回り続けている生き物を捕まえようとするが、呆気なく躱されてしまい、その小さな生き物は楽しそうに羽を動かしながら、ポップの席へと戻った。
そして、再度光り始めたと思うと、ポップの姿に戻ってしまったのである。
「どうだ?ゴメのやつの事は気に入ってくれたか?」
「もう、超~可愛かったよ!でも、あの子がスライムだっていうのには、ちょっと納得がいかないけどもね」
ティオナは笑いながら答えた。
「ゴメ?」
レフィーヤは、ポップの口から語られた、先程の金色の生き物の名前と思わしき言葉に反応する。
「あぁ。どこの誰が付けたのかは知らねぇが、前は『ゴールデン・メタル・スライム』って呼ばれてたんだよ。それを、俺のダチが子供の頃に『長いからゴメちゃんにしよう』って事で、俺もゴメって呼んでんだよ」
そんな微笑ましいやり取りがされている中、リヴェリアは一人、驚愕の表情を浮かべていた。
「リヴェリア?」
フィンも心配して声をかけるが、今のリヴェリアには全く聞こえていない。
あれは、ワンワードによる物質変換……なのか?
……いや、そんな単純なものでもない。皆は先程の小さな生き物の姿に喜んでいたが、真面目に考えれば、少しは事の異常さが理解出来るだろう。
まず、あの質量はどこへ消えた?
例えば、同じ様な体格の別種族になるという事であれば、まだ私も理解出来なくはない。だが、彼の変身後と変身前とでは、そのサイズに差が有り過ぎる……
骨格も、内臓も、全てが一瞬で別の物に変換されていた。
というか、着ていた服はどうなったのだ?
身に着けていた物や腰に下げていた道具袋まで、変身していた時は同時に消えていた気がする。
『モシャス』という魔法でまとめて変換されたのか、それとも一時的に別の空間へ移されていたのか……
分からない。
一体どこまで、自分とかけ離れた存在を再現出来るのか……
もしこれが相手の細かな能力まで再現出来るというのであれば、それは尋常な魔法ではない。
天候操作とは別の意味で、変身魔法もまた、世界の法則を無視している気がする。
(皆は面白がっているが、これもまた恐ろしく異常な魔法だぞ……)
その後、幾つか確認を終えると、一旦休憩をはさもうという事で、ポップとレフィーヤ達は会議室を出ていった。
◇
扉が閉まり、室内にはフィン、リヴェリア、ガレス、ロキの四人だけが残っている。
「……想像以上に、とんでもないね」
フィンは椅子の背に身体を預け、今日聞いた話を頭の中で整理していた。
リヴェリアも腕を組み、先程から考え込んでいた結論を話し出す。
「……恐らくだが、彼は補助系の魔法に特化した魔導士なのだろう」
「補助系に特化した魔導士?」
ロキが僅かに首を傾げた。
「あぁ。身体強化、治癒、天候操作、移動、変身。それぞれが全て常識外れの効果ではあるが、彼が今まで我々に見せてくれたものは、その殆どが敵を直接攻撃するものではない」
フィンは否定も肯定もせず、静かに指先で机を叩き、ガレスも髭に手を添えて考えている。
「なるほどのう。アイズとの立ち合いでは補助魔法を使って戦っておったが、言われてみれば、あれを前衛にかけられると考えるのであれば、本来は後方で仲間を支える姿の方が本領なのかもしれんな」
リヴェリアは頷き、フィンもその言葉には同意出来るようだ。
しかしロキだけは、どうしてもそうとは思いきれなかった。
目を細めたまま、先程までのポップの話を思い出している。
天候を変え、身体を強化し、傷を治し、遠くまで一瞬で移動し、姿まで変える。
確かに並べてみれば、補助に特化した魔導士という見方は間違っていないのかもしれない。
だが――。
(ほんまに、そうなんやろうか?)
各地でモンスターの大群を退け、盗賊団を壊滅させたという、異世界からやって来た大魔道士。
そんな男が、本当に補助魔法しか持っていないのだろうか?
ロキには、ポップがまだ自分達へ見せていない手札を、幾つも隠し持っている様に思えてならなかった。
お疲れ様です。
どうにか、ポップの小説第10話を投稿させて頂く事が出来ました。
ポップに対する質問回の続きです。
この回のポップのお話も、バニーの番外編の次話についても、全体の8~9割ぐらいは出来ていた(いる)のですが、残りの1~2割がどうもしっくりこなくて、そのままズルズルきちゃいました。
ぶっちゃけバニーの方は、なんとなくのレベルではありますが、もう少し先の展開まで構想が出来ているので、次もバニーのお話を更新させてもらおうと思ったものの、どうしてもいまいちいい感じのやつが思い付けなかったので、今回ポップの話を更新させて頂きました。
これもこれで、一応はかなり悩みながら作ったのですが…
ちなみに、10話で一旦休憩を挟ませてもらったのは、僕も疲れたからです(笑)
それでは、いつも見て頂いて有難う御座います。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。