絶対防壁の転生者は平穏に暮らしたい   作:雨風 時雨

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今回の話は特に何かあるわけではありません、繋ぎの話になります


第17話

 第一高校の選手団を乗せた大型バスは、山間部の曲がりくねった道路での襲撃未遂を抜け、九校戦の選手村となる富士の裾野の高級リゾートホテルへと無事に到着した。

 

 エントランスへ向かって移動する生徒たちの輪から少し離れた場所で、司波達也は静かに足を止め、隣を歩く深雪へ向けて声を落とす。

 

「……さっきの事故だが。単なる居眠りやハンドル操作のミスじゃない」

 

「え……?」

 

 深雪が小首を傾げて達也を見上げた。その後ろを歩いていた御守漣も、内心でびくりとしながら聞き耳を立てる。

 

「あの車の動きには、複数の明確な魔法が使われた痕跡があった。タイヤを破壊し、車体をスピンさせ、ガードレールを利用してこちらへ飛ばす。かなり高度に組み合わされた術式だ。しかも運転手自身が魔法を使っていた可能性が高い」

 

 達也の『精霊の眼』は、自爆攻撃にも似たその手口から、背景に潜む悪意を完全に読み取っていた。

 

「おそらく、一高の代表選手を狙った意図的な妨害工作だ」

 

「私たちを狙って……そんな卑劣な真似を」

 

 深雪の瞳に静かな、しかし激しい怒りの色が宿る。彼女の周囲の空気が微かに冷気を帯び始めたのを察し、達也は妹を落ち着かせるように言葉を続けた。

 

「幸いなことに、十文字先輩の防壁で未然に防げた。怪我人は誰もいない。……それに、いざという時は、彼が動く準備をしていた」

 

 達也の視線が、深雪の背後で気配を消していた漣を捉える。

 

「私も、そう思いますわ」

 

 深雪は、バスの中で漣が自分を庇おうとした微かな挙動を思い出し、頬をほんのりと染めて微笑む。

 

 達也はそんな妹の様子に内心で深い焦燥を覚えながらも、表面上は冷静な兄としての態度を崩さなかった。

 

「ともかく、お前は無事だ。大会中も、危険があれば俺が必ず対処する。安心して競技に集中しろ」

 

「はい。ありがとうございます、お兄様」

 

 達也の言葉に頷き、彼らがホテルのロビーへと足を踏み入れると、そこには達也たちにとって予想外の光景が広がっていた。

 

「お、来た来た。達也くん、深雪、それに漣もお疲れ!」

 

 宿泊客に紛れてロビーのソファでくつろいでいたのは、一年E組のクラスメイトである千葉エリカだった。その後ろには、柴田美月や吉田幹比古たちの姿もある。

 

(……やっぱりいるよな。原作通り、実家から『見聞を広めてこい』ってバイト名目で放り込まれたトラブルメーカー御一行様が)

 

 エリカや美月、幹比古たちが、なぜこのタイミングで富士の演習場にいるのか。その裏事情を原作知識として把握している漣にとっては、驚きよりも「これ以上、俺の周りに厄介事を増やさないでくれ」という頭痛の種でしかなかった。

 

 エリカたちの隣に立つ美月は、少しおしゃれに着飾った私服姿だった。

 深雪が目を丸くして美月の服装を見つめる。

 

「美月さん……お洋服、とても似合っていて可愛らしいですけれど、少しTPOに合っていないのではなくて?」

 

「えっ……や、やっぱり?」

 

 美月は恥ずかしそうに身を縮めた。ホテルに到着している他校の生徒たちは一様に各校の制服やチームジャージを着ているため、華やかな私服姿の美月は少しばかり浮いてしまっていたのだ。

 

「エリカ、なぜお前たちがここにいるんだ?」

 

 達也が淡々と尋ねると、エリカは悪びれもせずに肩をすくめた。

 

「実家から『せっかくだから見聞を広めてこい』って言われてね。千葉のコネを使って、このホテルの滞在許可を取ったのよ。美月やミキ、レオも誘ってさ。コネは利用するためにあるんだから、使わなきゃ損でしょ?」

 

 エリカらしい合理的な割り切りだった。彼女は「千葉家の娘」として特別扱いされることは嫌うが、利用できるものは利用するというちゃっかりした一面を持つ。達也はその背景を瞬時に察し、あえて深くは追及しなかった。

 

「そうか。無理はするなよ」

 

 達也が淡々と労いの言葉をかけると、エリカは不服そうに唇を尖らせる。

 

「ちょっと達也! なによその保護者みたいな態度は。私だってやるときはやるわよ」

 

 エリカが達也に軽口を叩いていると、深雪が優雅な微笑みを浮かべたまま、すっと言葉を挟んだ。

 

「ですが、エリカ。今夜は大会関係者の懇親会がございます。関係者でない皆様は、残念ながら参加はできませんわね」

 

 深雪がそう忠告すると、エリカは私服のポケットに手を入れながら、ニヤリと不敵に笑った。

 

「大丈夫よ。私たちも『関係者』だから」

 

   * * *

 

 その日の夜。

 ホテル内の大広間では、九校戦に参加する全校の代表選手やスタッフが一堂に会する、華やかな懇親会が開かれていた。

 

 各校の特色を示す真新しい制服に身を包んだエリート魔法師たちが、互いに牽制し合いながらもグラスを交わしている。

 

 その中心で最も目を引いていたのは、一高の純白を基調とした一科生女子の制服を誰よりも美しく、気高く着こなしている深雪だった。彼女の圧倒的な美貌と気品は、他校の男子生徒たちの視線を否応なしに釘付けにしている。

 

 特に、第三高校の代表である『クリムゾン・プリンス』こと一条将輝は、少し離れた場所から深雪の姿を真剣な眼差しで見つめ続けていた。

 

 一条の視線は単なる好意ではない。彼女の淀みのない歩法や、無意識のうちに周囲のサイオンを完璧に制御している異常なまでの魔法的完成度から、深雪を「恐るべき実力を秘めた一高の切り札」として強く警戒しているのだ。

 

 だが深雪本人は、そんな一条の熱烈な視線など気にも留めず、退屈そうにグラスを揺らしていた。

 

 一方、会場の隅にいた達也は、少し驚いたように小さく目を見張る。

 

「いらっしゃいませー。一高の皆様、お疲れ様です!」

 

 フリルのついた可愛らしいウェイトレスの制服姿で、参加者にドリンクを配りながらやって来たのは、クラスメイトの千葉エリカだった。さらに奥の配膳スペースでは、幹比古やレオも裏方のスタッフとして忙しそうに働いている。

 

 昼間にエリカが「私たちも関係者だから」と笑っていたが、まさかホテルの臨時アルバイトとして潜り込むことで、関係者専用の懇親会に堂々と出入りする手段に出るとは思わなかった。

 

「なるほど。そういう意味の関係者か……よく潜り込めたな、お前ら」

 

 達也が呆れたように言うと、エリカはトレイを持ったままニヤリと笑う。

 

「これなら堂々と会場に入れるでしょ? どう、達也くん。私のウェイトレス姿、可愛いでしょ?」

 

 エリカがくるりとその場で回って見せるが、達也は相変わらず無表情のままで、服装については一切のコメントを発しなかった。

 

「お兄様にそういう反応を期待しても無理よ、エリカ」

 

 完璧な笑顔のまま、深雪が二人の間にすっと入ってきた。

 

「お兄様は、女の子の服装みたいな表面的なことには囚われない方ですから」

 

 まるで達也のストイックさを自慢するかのように胸を張る深雪に、エリカは肩をすくめる。

 

「なるほどねー。達也くんはコスプレには興味ないのね」

 

「それってコスプレなのか?」

 

 真顔で聞き返す達也の反応に、エリカはくすっと笑った。

 

「達也って、ホント冷たいところがあるわよね。……でも、変に同情したり感情を押し付けてこない分、アンタには愚痴や悩みが話しやすいわ」

 

 エリカなりの、不器用な信頼の言葉だった。

 達也はその言葉に短く頷きながらも、その視線は会場の入り口付近へと静かに向けられている。

 

 ふと、エリカが会場を見回して不思議そうに首を傾げた。

 

「そういえば、漣の姿が見えないわね。あいつも一応、代表選手でしょ? こんな美味しいタダ飯のチャンスを逃すなんて、相変わらずノリが悪いわね」

 

 その言葉に、深雪が少しだけ庇うような、それでいてどこか残念そうな声音で答える。

 

「御守さんは、明日の調整に不安があるため、自室でシミュレーションに専念されるとおっしゃっていましたわ。生徒会へも、あらかじめ欠席の旨を伝えられていました」

 

(……本当は、漣様と一緒の部屋がよかったのですけれど)

 

 深雪はグラスを持ったまま、ほんのわずかに伏し目がちになった。

 

「ふーん。まあ、あいつらしいっちゃらしいけど。達也くん、何か聞いてる?」

 

「いや。だが、あの男にとって、この会場のように各校の思惑が入り乱れる場所は居心地が悪いだろう。長旅の疲労を押してまで不慣れな社交に気を配るより、部屋で自身の魔法の調整を優先するのは、彼にとって合理的な判断だ」

 

 達也は淡々とそう分析した。

 

(あれだけ目立つことを嫌う男だ。一条や十文字先輩たちが牽制し合うこの空間には、死んでも来たくなかったのだろうな)

 

 達也は自室に引きこもって気配を消しているであろう不気味な同級生の姿を想像し、冷徹にその判断を肯定していた。

 

   * * *

 

 一方、その懇親会の喧騒から完全に切り離された場所があった。

 ホテルの三階、御守漣の割り当てられた自室である。

 

(……あんな化け物たちが集まるパーティーに、誰が好き好んで行くかっての)

 

 漣は部屋の明かりを落とし、ベッドの上に寝転がって携帯端末を取り出していた。画面に映し出されているのは、前世から彼が愛好している人気FPSゲームだ。

 

 生徒会からは「代表選手は極力参加するように」と言われていたが、漣はもっともらしい理由をでっち上げ、懇親会を堂々とサボっていた。

 

「期末テストの勉強に、ダミーCADの徹夜プログラミング……。マジで地獄の二週間だったからな。ようやく溜まっていたデイリーミッションが消化できるぜ」

 

 ピコピコと手際よく端末を操作し、漣は至福のモブ生活を満喫する。

 

(階下では達也や一条将輝、十文字先輩たちがバチバチに牽制し合ってるんだろうが、俺には関係ない。明日からのスピード・シューティングで適当に的を撃ち抜いて、さっさと帰ってゲームして寝る。これが正解だ)

 

 漣がオンライン対戦のロビー画面に入り、安堵の息を吐き出していた、その時だった。

 

 ――ズンッ。

 

 突如として、ホテルの空間全体が、目に見えない巨大な波に揺らされたような錯覚に陥った。

 物理的な地震ではない。強大すぎるサイオンの波動が、ホテル全体を飲み込んだのだ。

 

(なんだ、この馬鹿げた規模のサイオンは……!?)

 

 漣はベッドから跳ね起き、窓の外へ視線を向けた。

 その波は、大広間の懇親会会場から放たれたものだった。原作の知識が、漣の脳裏に一つの名前を弾き出す。

 

(九島烈……! かつて日本最強と謳われた、九島家の老師か)

 

 大広間では今頃、来賓として現れた彼が、挨拶代わりに会場の全生徒に対して広域の幻惑魔法を放っているはずだ。

 その異常な魔法の気配を、階下の部屋にいながらにして、漣は肌で感じ取っていた。

 

(理屈では分かっていたつもりだったが……実際に直に浴びると、本気で引くレベルだな)

 

 漣は腕をさすり、軽く身震いをした。

 これだけの広範囲に、しかも一瞬で、対象にそれと悟らせないほどの精緻さで大規模な術式を展開する。知識として『知っている』のと、その圧倒的なサイオンの圧を『実際に感じる』のとでは、恐怖の質がまるで違った。

 

(やっぱり、この世界には関わっちゃいけないバケモノが多すぎる。……さっさとやり過ごそう)

 

 漣はそっと息を吐き出すと、自身の体表に展開している『境界無化』のパッシブ防壁の出力を少しだけ引き上げた。

 

 飛来した幻惑魔法のサイオン波動を、部屋の境界線上で「無」へと還元して完全に遮断する。何事もなかったかのように再びゲーム画面へと視線を戻し、自室の平和な静寂へと沈み込んでいった。

 

   * * *

 

 懇親会がお開きになった後。

 九校戦の準備と長旅の疲れを癒やすため、一高の女子生徒たちは連れ立って、宿舎の地下にある広大な温泉施設へと足を運んでいた。

 

「はー、極楽極楽っ。まさか親に無理やりバイトで送り込まれるとは思わなかったけど、勤務後にこんな立派な温泉に入れるなら悪くないわね」

 

 豊かなお湯が溢れる岩風呂の中で、エリカが両手足を伸ばして豪快に息を吐く。

 その隣では、美月が「エリカちゃん、お湯の中で暴れないでください……」と苦笑しながら肩まで湯に浸かっていた。

 

 少し離れた場所では、深雪がふうっと小さく息をつく。

 滑らかな白い肌が上気し、艶やかな黒髪が湯船の縁に流れていた。その隣には、クラスメイトである光井ほのかと北山雫も並んで湯に浸かっている。

 

 女子たちが集まって他愛のない話をしていると、ふと、話題は年相応の「恋愛」のことへと移っていった。

 

「そういえば、深雪って好きな人とかいるの?」

 

 ほのかの突然の質問に、深雪は少しだけ目を丸くした。

 

「私ですか?」

 

「うん。だって、深雪ってお兄さんの達也くんのことはよく話すけど、そういう恋愛の話、全然しないじゃない」

 

 ほのかが興味津々といった様子で身を乗り出すと、隣の雫も「ん。気になる」と静かに頷く。

 少し離れた場所にいたエリカも、面白そうに口を挟んだ。

 

「どうせ深雪のことだから、お兄様のことが好きって言うんでしょ?」

 

「エリカ。私とお兄様は、実の兄妹ですわ」

 

 深雪は、さもそれが完璧な反論であるかのように、真顔でそう答えた。

 

「いや、その言い方だけじゃ全然説明になってないからね!?」

 

 エリカがすかさずツッコミを入れ、周囲の女子たちがどっと笑う。

 

「……そうですね」

 

 深雪は、少し考えるように湯面へ視線を落とした。

 脳裏に浮かんだのは、いつも自分の隣でだんまりを決め込みながらも、いざという時には誰にも気づかれないように自分を護ってくれる、あの不器用で優しい少年の横顔だった。

 

 今日だって、あのバスでの事故の際、彼がいち早く自分を護ろうと動いてくれたことを、深雪だけは知っている。

 

「好きな人、というより……私にとって、とても大切な方ならいます」

 

「えっ、それって誰?」

 

 途端に、周囲で話を聞いていた女子たちの視線が一斉に深雪へと集まった。あの一高の高嶺の花である司波深雪に想い人がいるとなれば、学内の特大スキャンダルだ。

 

 深雪は湯気で火照った頬をわずかに赤く染めながら、それでも隠しきれないほどに嬉しそうに微笑んだ。

 

「私が、一番信頼している人です」

 

「もしかして、同じ学校の人?」

 

 ほのかが目を輝かせて尋ねる。

 その問いに、深雪は答える代わりに、小さく艶やかに笑った。

 

「……ご想像にお任せします」

 

「その反応、絶対いるじゃん!」

 

「えーっ、一科生の先輩? それとも他校のエースだったりして!」

 

 一斉に盛り上がる女子たち。

 深雪は困ったように笑いながらも、その人のことを思い浮かべているのか、どこか幸せそうな、そして熱に浮かされたような表情を浮かべていた。

 

 だがその輪の中で、ほのかだけは一人、昼間のバスでの出来事を思い出していた。

 

 自分が御守漣に話しかけた瞬間、深雪が放ったあの異常なまでの冷気と、明確な独占欲の籠もった視線。

 そして、実技Eの二科生でありながら、公開テストで誰よりも速い魔法を見せつけ、達也が自らエンジニアを買って出たという底知れない謎を持つ少年。

 

 ほのかは少し躊躇いながらも、恐る恐る口を開いた。

 

「ねえ、深雪……。もしかして、それって……御守くん、だったりする……?」

 

 ピタリ、と。

 温泉の温かいはずの空気が、一瞬にして凍りついた。

 

 エリカや美月たちが「え? 御守ってあの二科生の?」と呆然とする中、深雪はゆっくりとほのかの方へ顔を向ける。

 

 その口元には、先程までの可憐な少女の笑みが貼り付いたままだった。だが、瞳の奥底だけが絶対零度の冷たさを帯びて、ほのかを真っ直ぐに射抜いている。

 

「……ほのか。どうして、そう思われますの?」

 

「ひゃっ……!」

 

 ほのかは思わず身をすくめた。湯の中にいるというのに、背筋にぞっとするような冷たい悪寒が走ったのだ。

 

 深雪の言葉はあくまで丁寧だった。しかし、その奥に潜む『私の漣様に、これ以上詮索の目を向けないで』という圧倒的な排他の意志が、ほのかの口を完全に塞いでしまう。

 

「あ、う、ううん! なんでもない! 私の勘違いかも、あはは……!」

 

 ほのかが慌てて誤魔化すと、深雪はふわりと柔らかな微笑みを取り戻し、「そうですか」と短く応えた。

 

(あの方は、私だけの……誰にも、邪魔はさせませんわ)

 

 湯煙の向こう側で、深雪は胸の奥で静かに燃える、二度と揺らぐことのない執着の炎をさらに深く灯し続けていた。

 

   * * *

 

 女性陣が地下の温泉でのんびりと羽を伸ばしている一方、幹比古は一人、夜の演習場の森の中で古式魔法の訓練に励んでいた。

 

 過去の魔法の暴発事故によって、以前のように精霊と繋がる魔法を使えなくなってしまった幹比古。彼はこの九校戦という舞台で自らの力を取り戻すため、誰もいない静寂の中で必死に星の力を呼び込もうとしていた。

 

(……くそっ、まだだ。まだ感覚が戻りきっていない……)

 

 焦りを滲ませながら印を結ぼうとしたその時、幹比古の鋭敏な感覚が、森の奥から近づいてくる複数の不穏な気配を捉える。

 

(……こんな夜更けに、なんだ?)

 

 気配を消し、樹々の陰から様子を窺うと、そこには黒装束に身を包んだ数人の男たちの姿があった。彼らの動きは明らかに素人のものではなく、軍やプロの工作員の歩法だ。手には見慣れないデバイスを持ち、宿舎のセキュリティを外部から無効化しようと企んでいるようだった。

 

(九校戦の宿舎に侵入する気か……! だが、ここで警備を呼べば逃げられる。僕一人でも、せめて足止めくらいは……!)

 

 幹比古は手に持った呪符を構え、打って出ようとした。

 だが、相手はプロの工作員だ。幹比古のわずかな気配の揺らぎを察知した一人が、無言で殺傷用のハンドガンの銃口を、幹比古の隠れている茂みへと向けた。

 

(しまっ――!)

 

 幹比古が迎撃の魔法を構築するよりも早く、銃の引き金が引かれようとした、まさにその瞬間。

 

 ――シュンッ。

 

 極めて短い風切り音と共に、工作員の手にしていた銃が、まるで目に見えない刃で切り裂かれたかのように、一瞬にしてバラバラの部品となって地面に崩れ落ちた。

 

「な、なんだ!?」

 

「武器が分解されたぞ! 伏せろ!」

 

 工作員たちが驚愕し、慌てて周囲を警戒する。幹比古もまた、突然の事態に目を見開いた。

 

 その直後、幹比古の背後の暗がりから、静かで感情の読めない声が響く。

 

「誰だ!」

 

 幹比古が振り返り、身構えた。

 

「――幹比古、俺だ」

 

 闇の中から音もなく姿を現したのは、司波達也だった。

 達也は懇親会で九島烈との会談を終えた後、『精霊の眼』によって周辺の不審なサイオンの動きを察知し、先回りしてこの場に駆けつけていたのだ。

 

「達也……! お前、どうしてここに」

 

「話は後だ。あいつらを片付ける」

 

 達也の視線は氷のように冷たく、その手にある特化型CADが、不審者たちへと正確に狙いを定めた。

 

 九校戦の華やかな表舞台の裏側で、『無頭竜』による妨害工作が、いよいよ本格的にその牙を剥き始めていた。




最後のやり取りに関しては、深掘りするのか、しないのかはまだ決まってませんとりあえず原作沿いに進む感じなので入れときました
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