オレの部屋で、三人――正確には二人と一匹で、さっきの事について話し合っていた。
さっきの事。
つまり、オレが銃を出した事だ。
「で、あれは何なんだ?」
店長の奥さんにもらったピザ風ホットサンドを一口かじりながら、オレはミィルに聞いた。
ちなみに、半分はすでにミィルに狙われている。
「アレはショーゴの能力よ」
ミィルはベッドの上にちょこんと座り、妙に真面目な顔で言った。
「ショーゴの心の奥底にある“想い”が形になったもの。潜在意識の具現化、と言い換えてもいいかしら」
「潜在意識の、具現化?」
「ええ。無意識に抱いていた憧憬や願望……“こうなりたい”とか“こうありたい”っていう想いが形になったものよ」
ミィルは尻尾を揺らす。
「心当たりはない?」
「憧憬や願望……想い、ねえ」
言われて、少し考える。
思い当たるものはあった。
小さい頃から、アクション映画や特撮が好きだった。
二丁拳銃で敵を撃ち抜く主人公。
華麗に立ち回るヒーロー。
子どもの頃は、そういう姿に普通に憧れていた。
身体を鍛え始めたのも、そういう影響が少しはある。
「……それで、二丁拳銃か」
ぽつりと呟く。
「まあ、納得できない事もないな」
「レイチェルの能力も同じよ」
ミィルがレイチェルを見る。
「うん」
レイチェルは小さく頷き、そっと右手を前に出した。
淡い光が集まる。
そこに現れたのは細身の剣。レイピアだった。
「わたしは、小さい頃に読んだ物語の主人公に憧れたの」
レイチェルは鞘を優しく撫でながら言う。
「少し弱気だけど、マスクをかぶって、剣一本で街の問題を解決していく人で……怖くても逃げなくて、誰かのために前へ進む主人公だった」
その声は、少しだけ照れくさそうで。
でも、とても大事なものを話すみたいだった。
「わたしも、そんなふうに困難に立ち向かえる勇気がある人になりたいって、ずっと思ってた」
「……なるほどな」
レイチェルらしいと思った。
派手に暴れるんじゃなくて。
誰かを守るために前へ出る。
だから、レイピアなのかもしれない。
「その能力ってのは、みんな武器になるのか?」
「いいえ」
ミィルは首を振った。
「武器以外にも、何かを作る力だったり、守る力だったり、治す力だったり、本当に色々よ。人の想いはそれぞれだから、私でも全部は分からないわ」
「ほうん……」
オレは自分の両手を見る。
もう銃はない。
けど、まだ感触は残っていた。
重さ。冷たさ。反動。
「じゃあ、なんでオレはその能力が使えるんだ?」
「それは分からないわよ」
ミィルはあっさり言った。
「こっちの世界には魔法とかないんでしょ?」
「ないな。創作の中だけの産物だ」
少し考えてから続ける。
「……まあ、オレがこうして能力に目覚めたから、実はあったんじゃないかって気もしてきたけどな」
「その可能性もゼロではないわね」
「マジかよ」
否定してほしかった。
◇◆◇
「あの影さ」
ふと思い出して、オレは口を開いた。
「ん?」
レイチェルがこちらを見る。
「あいつ、最後に何か言ってた」
「何て?」
「はっきり聞き取れたわけじゃないんだけど」
頭の奥に残っている声を探る。
低くて、歪んでいて。
でも確かに、言葉だった。
「……花婿、って聞こえた気がした」
部屋が静かになった。
レイチェルが瞬きをする。
ミィルだけが、ぴたりと動きを止めた。
「それに」
オレは続ける。
「あの影、よく見たら……ヴェールを纏った花嫁みたいにも見えた」
「……」
ミィルの耳がぴくりと動く。
表情から、笑みが消えた。
「どうした?」
「……もしかしたら」
小さく呟く。
「心当たりがあるの?」
レイチェルが聞く。
ミィルはすぐには答えなかった。
少し考え込み。
それから、小さく息を吐いた。
「……その前に」
「?」
「あなたたちに話さなきゃいけない事があるわ」
その声は、いつもの軽い調子ではなかった。
オレも、レイチェルも。
自然と姿勢を正した。