箱庭のそら   作:ななしのPL


原作:シノビガミ
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写
現代日本の裏側で、戦い続ける者達がいた。高層ビルの上で、雑踏に紛れて、深夜の人気のない繁華街で密かに戦う影たちこそ、現代に生き続ける忍者なのだ!
(忍術バトルRPGシノビガミ 基本ルールブック改訂版p8より引用)

これはその中で紡がれた物語の前日譚、その一欠片。
彼らが表舞台に立つ前を描いた僅かばかりの物語。
※TRPGで使用している作者のPCについての前日譚です。

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1.双子の姉弟と一般人【前編】

 さてはてどのように語りましょうか。

 今宵も静寂であるならば、不粋に乱すはお気の毒。

 けれども時に口遊みたくなるが性というもの。

 

 なれば選ぶは言の葉舞う彩り豊かな時の物語。

 

 そう、これなるは忍者と呼ばれる者達の御話也──。

 

 

 

 夜もたけなわ。

 星々煌く空に見下ろされ、青年は一人惑う。

 歳の頃は十代半ば。襟の正した制服を身に纏うその姿はどうみても学生で、あまりに時間に不釣り合いである。

 夜に紛れる黒髪は短く刈り上がり、少しばかり跳ね上がったそれが風に揺れた。

 

 さて、青年は帰路についた筈であった。

 普段と同じ通学路、普段と同じ時間帯。何事も無ければ問題なく家に辿り着く頃合い。通い慣れた道なれば、迷うことも今更ない。

 そう。現状は、青年にとっても不可解なことであった。

 

 アスファルトで整えられた道はいつのまにか舗装のない砂利道となり。

 夏の熱気が残るコンクリートの外壁達は涼やかな木々に変わり。

 夕焼けの赤さが残る空は瞬きの間に満点の星空へと変貌した。

 

 これが異常でなければなんなのか。

 

 しかし悲しいかな。異常を認識することとそれを解決できる能力を持つかは別問題であった。

 

 俄かに木々が騒めき始める。

 風が吹いたか、それとも隠れていた物が動いたか。

 

 状況が悪い方向に変わる気がした青年の予感はとても正しい。

 

 澄んだ空気が、俄かに生臭いそれに切り替わった。

 鼻につく重い空気が全身を絡めとる。

 まだそこに何もいない筈なのに、青年の身体は「見られている」と判断した。

 

 ──それは、正しく目を合わせてしまったと言えるだろう。

 

【嗚呼】

【人間】

【人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間】

 

【人間ダ!!!】

 

 青年は逃げ出した。

 生存本能に従い、全力で道も分からぬ砂利道を駆け抜けた。恐らく彼の人生で最高速度を叩き出したことだろう。

 

 青年と目が合ったそれはまさしく異形の化け物で、凡そ彼の思いつく限りの生き物の形を成していなかった。

 強いて言うならゲームに出てくる所謂モンスターが近いかもしれないが、少なくとも彼にそれを想起する余裕は無い。逃げなければという本能ばかりが支配していた。

 

 だがそれも無駄なこと。

 

 光と同等の速度で動く異形に、対応できる人間など存在しない。

 嗚呼哀れなる青年は異形の餌へと成り果てる……などと退屈で早急な結末は許さない。

 

 役者が舞台に立つのはこれからだ。

 

「一般人襲ってんじゃねえよ雑魚!」

 

 瞬間的な光と音。遅れて熱と風。

 爆風に紛れた罵倒が青年の耳元に響き渡る。

 

 ワンパン即死の低級妖魔が調子に乗んな、などと調子の良い男の声に目を向ける。

 気づけば青年は自分がその男に抱えられるように座っていたことに驚愕した。

 

 何事かと周囲に目を向ければ、青年を庇うように立つ人影を一人見つける。

 その手に握られた何かがギラリと光った。

 

「……その一般人巻き込む爆風撒き散らしたの誰ですかー?」

「アッ俺デス」

「ついでにお姉ちゃん巻き込みそうになってたことについて弁解はー?」

「サーセンした!!!」

 

 あれ、呑気なやり取りだな、と青年は真っ白な頭に言葉を浮かべた。

 煙が晴れて現れたのはよく似た顔立ちの男女だった。姉弟なのだろう。少女は弟を正座させ懇々と何事かを説いている。

 よくよく見れば青年とあまり歳の変わらない少年少女だ。

 少しずつ、少しずつ本能と非現実によって処理落ちしていた認識能力が動き出す。

 

「……何なんだあの化け物は? 俺は家に帰る途中だったんだ、なのにこんな場所に、あんなのに会って何が起きてるんだ?」

「……そうですねー、悪い夢にしてはリアルですもの。こちら側に招待された以上、多少なりともお話しするのが筋でしょう」

 

 ちらりと制服の襟に輝く校章に目をやり、少女はされどもと続ける。

 

「ですがその前に自己紹介といきましょう。わたしは薄暮ゆきえ、そしてこちらは弟の」

「薄暮ゆきと。見りゃ分かるだろーが姉弟だ。ついでにいえば双子のな。名前間違えんなよ」

「俺、俺は……」

 

 双子の落ち着いた声に安堵したか……青年は荒くなった息を大きく吐いた。

 そのまま名乗ろうとして、それを遮るようにゆきとは言った。

 

「名乗るな。あー……そういうわけには? 分かるけどダメだ。一般人だよな、お前」

「ううん、ゆきくん。ちょっと説明を省き気味ですよ」

「でもさあ姉さん、名前取られたら俺達じゃ取り返せねーよ? 俺達まだ下忍だし」

「ですのでそういうのが省きすぎだと……ああすみません。でも、お名前は結構です。ここはまだ危ないですから」

 

 こちらへ、と二人に連れられ夜道を歩く。

 さざめきは変わらず。けれど違うのは圧倒的な安心感だった。

 双子のよく似た茶色の髪が夜風に揺れている。外国の血が混じっているのか、日本人の顔立ちには珍しい青い眼が周囲を警戒していた。

 

 青年はやっと息ができる、と無意識のうちに思った。

 

「なあ……アンタ達は何なんだ? さっきの変なのも、爆発音みたいなものもめっちゃ怖かったし……」

「言われてますよ爆弾魔」

「ちげえます。忍法がド派手なだけの一般忍者です、ウス」

「爆破の衝撃を漏らしてるからまだ下忍なんですよ自覚あります?」

「ああ〜!!! 俺のことはいいじゃん帰ってからで!!! それよりお前だよなんか気になることあるだろ!?」

「えっ。ええーと……下忍がどうたら言ってるけど何も分からん! アンタ達は結局何者なんだ?」

 

 青年のもっともな言葉にゆきえが瞬いた。申し訳なさげに眉尻が下がる。

 

「すみません、前提をお話してませんでしたね……わたし達は裏の世界を生きるもの。総称として忍者と呼ばれております」

「忍者? なんか……スパイやってたり手裏剣投げたりするアレ?」

「そうですね、とっても近いと思います」

「だが俺らの言ってる忍者はフィクションよりも更に奇抜な生き物だぜ。なんせ光の速さで動けるし、忍術で世界だって変えられる。事実は小説よりも奇なりってやつだ」

「はあ?」

 

 薄暮双子は忍者である。

 忍者は実在する。

 実在する忍者の方がフィクションよりおかしい。

 双子の話を纏めた青年はいや、何それ冗談言ってる?と真顔を浮かべた。

 

「面白い話ならもっと盛るんだけどな。面白くもなんともない現実なんだわ俺らにとって」

「はい。あなたは現に襲われましたね、正体不明の何かに」

「……!」

「あれは妖魔と呼ばれています。弱いものでも人喰いの存在なので、本当に危ないところでした」

 

 青年が認識できない間に倒されたものの正体に絶句する。人喰いの化け物なんてファンタジー、普通の人間にどうしろというのだと。

 

「此処はそんな妖魔が野生動物並みに彷徨う危険地帯。どうにも貴方は餌として呼び込まれてしまったようなのです」

「餌……餌って……ええ……?」

 

 つまり双子が現れなければ青年の人生はあの時点で幕を降ろしていたということである。

 低級妖魔は獲物を驚かせてから襲うのが好きなので本当に間一髪でした、と続けるゆきえの言葉に青年は顔を真っ青に染め上げた。

 

「俺……どうなるんですか?」

「敬語は不要ですよ。お兄さん、わたし達より年上ですよね? 本当にお疲れ様です。どうなるかというと……うーん……」

「アンタを呼んだ奴をしばかねえと帰ったところでパクりだな。ご愁傷様」

「ゆきくん」

 

 バシッと姉が弟の頭を叩いた。

 

「どうにかしてくれよそんなの嫌だよ!! 死ぬの俺!?」

「えーととっても言いづらいんですが……いまのままなら高確率でそうなります。はい。多分呼んだ相手、わたし達より格上なんです」

「最初に絡んでた奴らはハイエナ狙ってた雑魚だしな。俺らもどーすっかねーって感じ」

「そんなぁ……」

 

 己を取り巻く状況に絶望を感じながらしかし、青年ははたと気づく。ならどうして二人は助けてくれたのだろう? 

 

「そりゃ今回の【使命】だし。俺ら忍者は使命に絶対服従なんよ」

「何そのメタっぽい理由……というかナチュラルに心読んでないか?」

「忍者イズフリーダム。奇跡も魔法もあるんだよ」

 

 なんとも身も蓋もないゆきとの言葉である。

 忍者的に事実ではあるのだろう、ゆきえは微妙な表情だがしっかり頷いていた。

 

「わたし達は迷い込んだ一般人……つまりお兄さんを無事助けないといけないことだけ理解下さい。味方なのは事実です、そこはご安心を」

「使命はぜったーい」

「そんなゲームみたいに言われても……助けてくれたのは感謝してる。でもまだ信じられないというか」

「ま、そらそうだ。その辺俺らも分かるよ。でも信じて貰うしかない」

 

 ゆきとの青い眼差しが真っ直ぐ交差する。

 

「俺らは生かす。兄さんは帰る。それが使命達成ハッピーエンド、なら狙うだけさ」

「ええ。わたし達こう見えて負けず嫌いですものー、お任せくださいね」

「ゆきとくん、ゆきえさん……」

「待って。自分で雰囲気に水差したくないけどなんでくん付け? 格差じゃない!?」

「お兄さんゆきくんの扱い分かってて嬉しいですー。雑で良いですよ本当に」

「ねーさぁん!!!」

「……君達結構愉快な子だよな、マジで」

 

 くすり、溢れる息がひとつ。

 そこで初めて青年は自分が笑っていたことに気づいた。

 双子は顔を見合わせて頷く。

 

「ゆきくんは愉快ですよ」

「姉さんは面白い女だよ」

『…………』

「あとで話し合いしましょうか弟」

「ごめんなさい!!!」

「うん、仲良いのは分かった。でもそろそろ聞きたいんだけどさ、どこに向かってるの?」

 

 結構な距離を歩いた筈だと青年は思う。

 人並みの体力はあるつもりだが、山道は少し厳しく少しばかり息が上がっていた。先導する双子は息ひとつ乱していないのが少しばかり悔しく感じる。

 

「そりゃ安全なところ……俺らの村さ。安心しなよ、今着いたぜ」

「着いたぜって……まだ森じゃないか。いや、え、なになになに」

 

 連れられて一歩踏み出せば景色が一変。ほんの瞬きの間に森が開けた広場に代わり、古風な日本家屋が次々と出現する。

 現実感のない映像の切り替えのような出来事に、落ち着きかけていた青年の脳に再び負荷が発生した。

 

「結界を通り抜けたからですよー。ちょっとびっくりしますよね」

「びっくりどころじゃないが! 和風ファンタジーにも程があるだろう!」

「住宅地通るんだから静かによろ。近所のおっちゃん達に怒られるの俺らなんだからな」

「ええ……急に日常来るじゃん……温度差ひどい……」

「わたし達にも生活がありますからねー」

 

 景色は夜だが忍者に関係はないのか。双子に手を振る住民の姿がちらほらと見える中、余所者である青年を物珍しそうに見つめる視線も多い。特に老人が多いか。

 居心地の悪さをひしひしと感じる中、青年はゆきえに尋ねた。

 

「俺、ひょっとしなくても歓迎されてなくない?」

「此処は所謂忍者の隠れ里ですので……一般人の方は珍しいんですよね。ごめんなさい。でも、妖魔を防ぐ結界が張られてるので、安全なのも事実なんですよー」

 

 そう言ったゆきえの表情は確かに少し朗らかで、ゆきともゆっくり肩を回していた。

 遅れて青年も怖気のするざわめきが消失したことに気づく。

 

「……助かった……のか……」

「はい。まず第一関門突破、というところです〜」

「とりあえず茶でも飲むか。お茶請けは大福が良いと思う」

「それ自分が食べたいだけでしょ。このままうちに案内するので着いてきてください」

 

 今時珍しいほど居並ぶ漆喰の壁に気圧されつつ、青年は二人の後ろを歩いていく。

 ここまでファンタジーな出来事に襲われ続けた訳だが、意外と自分がタフなのだなと自覚する。

 

 緩やかな坂道の続く中、ゆきとが振り返った。

 

「あ、そうだ兄さんや。もういいよ」

「ん?」

「名前、言ってもいいってこと。良い加減兄さん呼びもだるいだろ?」

「あ……あー、うん。忘れてた」

「忘れるんかい!」

 

 正直なところ双子のキャラの濃さと話の圧力で置いて行かれただけなのだが、青年は賢いので口をつぐんだ。自称年下らしい双子の性格はこの短い道中でも十分理解できたので。

 

 程なくして双子の家だろう、立派な日本家屋に辿り着いた。他の家から少しばかり離れてはいるが、ひとまわり大きな建物故だろう。

 ふかふかの座布団に温かなお茶。そして現れた大福の姿に思わずゆきとに目線を向けて、青年はこほんと咳払いした。

 

「俺は織上カズキ。御斎学園高等部二年生、17歳だ。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。改めて薄暮ゆきえ、15歳の中学三年生ですー」

「薄暮ゆきと。同じく15歳中学三年」

「改めて言われても年下に見えねえな二人とも。ってか忍者も学校行くんだ……」

「そりゃ俺らも日本人だもん。学校くらい行くさ」

「義務教育ですしねー」

 

 忍者にも義務教育は適用されるらしい。

 軽い頭痛を覚えながら織上は此処ぞとばかりに疑問を伝える。

 

「忍者なんだから日本人なんだよな、そうだよな……って言いたいんだけど本当に日本人? 目、青いしハーフとか?」

「そうですね……一応純日本人です。でも、忍者の容姿は気にしない方が良いですよ? 人間じゃないのも珍しくないですし」

「さらっと忍者にも人外の存在いるのやめてもらえる? 気になること増えるよ?」

「なになに欲張りなの織上さん。強欲は身を滅ぼすぜ? ……ってだから現在進行形で命狙われてるんだな! 納得した」

「やかましいわクソガキ……!」

 

 お茶が随分と美味しいようである。出会ってまだ数時間程度の間だが、忍者の話術か織上が単純なのか……はたまたその両方か。

 両者は随分と打ち解けた様子であった。

 

 早々に自分の大福を平らげたゆきとは口を拭った。

 

「しかしまー、織上さんが連れてこられた理由なんとなく分かるわ。おもしれー」

「そんな基準で連れてこられたんか俺は?」

「妖魔なんか適当よ適当。美味しそうにゃ見えねえし、反応が面白いからあんな雑魚をけしかけたんでしょ多分ネ」

「ゆきくんの感想はともかく……今も様子見してる可能性は大きいですね。倒すなら時間は掛けれません。多分、負けます」

 

 直感めいたゆきえの言葉に織上は首を傾げた。

 

「……なんとなく雰囲気で聞いてたけどさ。実際二人ってどのくらい強いの? さっき雑魚って言ってたのもよく分からんし……なんか分かりやすい基準とかない?」

「そーですねえ。織上さんのような一般人を0としましょう。まずさっきの低級妖魔が1です」

「ぜろ」

「はい、0です。勝てる可能性はありません」

「ええ……いやさっきも全然分からなかったけどぜろて。可能性って無限大じゃないのかな?」

「残念ながら、裏の世界において一般人は無力です」

 

 ゆきとが続けた。

 

「忍者は銃で撃たれたところで反応できるしなんなら見てから回避、反撃もできる。何しろ最高速度が光速、光の速度だ。基準が違ぇの基準が」

「は?」

 

 そう言ってどこからともなく取り出した眼鏡を持ち上げるゆきと。

 ゆきえはため息をついて頷いた。

 

 織上が瞬きする間に、机には真っ白な紙とボールペンが用意されていた。何か影は見えた気はすれど、その正体を視認など出来ていない。

 

「今のが忍者の基礎能力、高速機動と呼ばれる動きです。速度はかなり落としましたが見えましたか?」

「いや……全然……」

「妖魔も高速機動を行えます。なので、わたし達と離れたら死にますよ。これ脅しじゃないです」

「肝に銘じておきます」

 

 ちなみにさっきの高速機動は片付けと机の準備をしていただけですよ、とゆきえは言う。

 そこで確かに大福の消えた皿が無いことに気づいた織上は、高速機動って便利なんだな……と独り言ちる。

 

「はい、とても便利です。では数値の話に戻りますね……先の低級妖魔を1としましょう。わたし達は2。数字自体に差はあまりありません」

「えっそうなの。雑魚って言ってたのに」

「ゆきくんは口が悪いですが間違ってませんよ。わたし達はあれの2倍は強いです。でも、貴方を狙う相手は更に強い」

「…………そうなの?」

 

 こくり、と双子は頷いた。

 

「脅威度……あー、俺らの基準ね。それで表せば評価5。簡単に言えば俺らの2.5倍強い相手が織上さんを狙ってるって予想」

 

 ぶわ、と全身の毛が逆立つような悪寒が織上に襲いかかった。

 双子の動きすら捉えられない自分を狙う相手がそこまで強いとは、想像もつかなかったのだ。

 

「……マジで?」

「大マジ。だから俺らも正直迷ってる、普通に戦えばまず負けるからね」

「なので作戦を練る必要があります。ゆきくん、渡して下さい」

 

 そう言って渡された紙はなにやらびっしりと書き込まれていた。ゆきとの字だろう。走り書きのようで読みやすさを優先したそれは重要な部分を縁取りしている。

 

 "状況:結界を取り囲むように黒霧が発生している。覆われるのも時間の問題。

 物理耐性:苦無使用。効果なし。

 忍法耐性:火術・水術による波状攻撃は効果弱。

 備考:核が隠されている可能性大。

 妖力波形、行動パターン、耐性から対象妖魔は中級妖魔『惡霧』と断定。

 脅威度判定:5

 

 対応として──"

 

「対応として……の次が書いて無いんだけど……」

 

 次々と綴られているそれは敵の情報のようだった。

 織上には何も分からないが、眉間に皺を寄せている双子の様子から察するに状況は悪いらしい。

 

 紙に一際大きく大きな円を描くと、ゆきとはその中心を大きく叩いた。

 

「織上さんを狙ってる相手は惡霧って呼ばれる妖魔だ。形は持たないけど、紙に描いたように獲物を囲んでじわじわ甚振る習性がある」

「なにそれこわい。俺マジで帰れないじゃん」

「一人で外出たら大口開けた化け物にぱっくんジエンドなのは間違いない。で、厄介なのは今回こいつは核……弱点をどっかに隠してるっぽいんだよな」

「核?」

 

 円の中心にぐるぐると黒い塊が付け足された。

 

「こいつの厄介なところは意志をもつ霧ってとこでな。霧を統率する核を潰さないと倒せないんだ」

「……それが見当たらないって書いてるな?」

「うん。うち来るまで長かったろ? 俺と姉さんが交代で高速機動しながら探してた」

「忍者の高速機動って便利すぎない?」

「便利なんですって」

 

 すっかり冷めたお茶を啜り、ゆきえは物憂げに呟いた。

 

「わたし達もあまり時間は掛けれません。村は結界にこそ守られてますが、住んでる人はわたし達より弱い人ばかりなんです」

「そういえば結構お年寄りが多かったような……」

 

 双子の家に来るまでの様子を思い返す。織上と同じ年頃の人間は双子以外見ていない。

 

「閉鎖的な場所ですからね、うち。人は沢山いるので、織上さんが食べられてたら次は此処を狙われてたでしょう。踊り食い的な?」

「サラッと怖いこと言うのやめてね本当に。でも本当にどうするんだ? 対応、考えてないのか?」

「……あるにはあります。凄く言い難い上に大変衝撃的なことなので、織上さんにお願いしたく無いんですが」

「こっちも助けて貰う身だ。出来ることなら何でもする。や、何が出来るか全然分からないんだけど本当」

 

 ゆきえは一度大きく息を吸った。

 覚悟を決めた青い目が真っ直ぐ織上と交差する。

 

 さあ、何が出るのか。織上とて年下に頼り切りの現状に思うところはある。口にしたように、出来ることなら何でもするつもりだ。

 

 ゆきとは口を噤んでいる。ただ、片眉は何かを見定めるように上がっていた。

 

 ゆきえの口が開かれた。

 

「本当にごめんなさい。織上カズキさん。一回死んで下さい」

「えっ」

 

 告げられたのは死刑宣告だった。




登場人物:
織上カズキ:
御斎学園二年生。17歳。
学校からの帰り道妖魔に攫われた哀れな一般人。特に忍者の才能がある訳ではない。
ノリと面倒見の良いごく普通の高校生。

薄暮ゆきえ:
中学三年生。15歳。
双子の姉の方。語尾を伸ばしがちな口調が目立つ。
弟に厳しいしっかり者のお姉ちゃん。しかし忍者としてはまだ未熟者。

薄暮ゆきと:
中学三年生。15歳。
双子の弟の方。姉には逆らえない。
お調子者だが人見知り気味のお喋り魔。火を扱った忍法全般が得意だが扱いはまだ未熟。

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