放課後、そろそろ部屋に帰ろうかと歩いていると、
「オッと、直樹発見!」
明るい声に振り向けば女子が二人、高遠と一ノ瀬さん。二人っきりというとなんか珍しい取り合わせだ。
「ちょうど良い、一緒に来て」
と何処かに連行しようとする。なんだ?
「ごめんね。ちょっと特別棟、見ておきたくて」
特別棟? 校内だろ、俺いらないよね。
「なんか男手があったほうが良い気がするのよ」
なんかわからない理由で引っ張られることになった。
路中、一ノ瀬さんから審議のことをチョロりと聞かれたが、俺はかかわってないと言うとあっさり引かれた。その辺、高遠から話は聞いていたようだ。
階段を上っていると、上から俯きながら降りてくる少女一人。
オッと避けようとすると、彼女はごめんなさいと通り過ぎようとするが、俺たちが誰かと知ると足を止める。
「富士宮くんと高遠さん、それに……」
「わたしはBクラスの……」
一ノ瀬さんは名乗ろうとしたようだが、その前にまた、ごめんなさいと小声で謝り去っていく。
「直樹、なんかした?」
知らないよ。昨日の放課後、櫛田がなんかしきりに話しかけていたようだけど、俺はその辺は詳しくない。
三階に上るとそこには人影。綾小路と堀北さん。なんでこんなところに?
「ねえ、君たち、そこで何してるの」
俺も聞きたい、デートか?
「ごめんね急に呼び止めて。ちょっと時間いいかな? もし甘酸っぱいデート中だったらすぐ退散するけど」
「それはないわね」
堀北さんは即否定。綾小路、可哀そうに。
なんか会話と交渉を始める一ノ瀬さんはおいといて、俺は周りをキョロキョロ。高遠も同じようにキョロキョロ。今のところ一年は特別棟は使わないので物珍しそうに見て回る。
具体的には壁と天井、それに照明周りを確認すると顔を見合わせ、小さく頷く。例の画像を映した隠しカメラがあるはずだが、ちょっと目にはわからない。まあ素人にわかられては困りものなのだが。
「どうかな? 私は悪い提案じゃないと思っているけど」
いつの間にか交渉は大詰めに入っていた。Bクラスの意図がわからないので、高遠に首を傾げて見せると、
「BクラスはCクラスに色々ちょっかいかけられてるからね、この辺で釘を刺しておきたいんだ」
とのこと。高遠の言葉が耳に入ったようだ。
「手伝ってもらいましょう、綾小路くん」
俺は無視かい。
「ところで、あなたはここで何をしてるのかしら?」
無視ではなかったようだ。何をしてるのかというと、だ。高遠と露骨に目くばせ。
「勿論」腕をちょいと開けば、彼女はそれを抱きしめるように腕を組んでくる。「「甘酸っぱいデートだよ♪」」
「おお、相変わらずラブラブだねぇー」と冷やかす一ノ瀬さんと、
「馬鹿みたい」と冷たい堀北さん。同じ『冷』という字でも印象が違うな。
あと綾小路、うらやましそうな顔するな。
「行きましょう、綾小路くん」
呆れたように息を吐くと、女王様染みたしぐさで帰ろうとする。
「あ、ちょっと待って、連絡先……」
ふむ。
「一ノ瀬さん、俺がアドレス送っておくよ」
一ノ瀬さんと綾小路の連絡先は知っている。俺が二人に送っておけばよいだろう。堀北さんの連絡先は綾小路が教えれば……知ってるよね、綾小路くん?
「じゃあよろしく」
若干不安が残るが、そういうことになった。
次の日の放課後、図書館で。
「富士宮くん、これはどう解けばよいのかな?」
「ああ、これは、って説明しなかった?」
「えっ、別の人じゃない?」
俺はまたもや勉強会を開く羽目になっていた。
何故かというと、要するに伊集院に頼み込まれたからだ。期末テストまで二週間切ってるのに、平田も堀北も須藤の件にかかりっきりで、期末テスト対策を行ってないのだ。この分だと須藤の停学回避ができたとしても何人か退学という結果になりかねない。須藤達三馬鹿はもちろんテスト勉強などしてなさそうなのだが、赤点大丈夫なのだろうか?
中間テストの時の四人のほかにも、今回は面倒を見るメンツが増えている。平田を当てに出来ない軽井沢組とか佐藤さんが合流しているのだ。
須藤とのプロレス騒動で女子からは距離を取られるかと思ったのだが、逆に増えている。やはり危険な男はモテるらしい。大藪先生、ありがとうございます。
で、逆に男は増えてない。須藤と暴れたのをみて敬遠されたようだ。そんな中、元からいる沖谷は女子組に英語を教えている。彼は全面的に勉強ができないのではなく、英語は得意とか得手不得手がはっきりしている。人手がないのでそういうのは補助に使う。
中でも松下さんは優秀だ。俺に教わる振りをして、地味に女子たちに教える側に立っている。
彼女は優秀な割に、クラス内で妙に目立たない振る舞いをしている。別の理事が使っている監視者という可能性が高いと考えるべきだろうか?
「……えっとね」
今度は佐倉さんが来た。教科書の例題を説明するが ?なにか言いたそう。だが、こちらから催促すると逃げそうだ。
『怖くない、怖くない』とどっかの青き衣をまといた少女な気分でいると、
「やってるね!」
後ろから抱き着いて来る女子が1人。今日は図書館、オープンスペースなのでそういうこともあるか。
「マイ、そっちは試験勉強良いのか?」
「うちは計画的にやってるからね、スパートかけるのは来週から」
うらやましい話だ。佐倉の教科書を覗き込んでなにやらウンウンと頷いている。彼女が暇ならちょうどよい。
「ちょっと佐倉がわからないところがあるみたいなんだ、観てやってもらえない?」
というと、「OK、マイちゃんにお任せ」などと言って佐倉を引っ張っていく。なにか聞き出せたら良いのだけど。
その日の夜、高遠から電話。出ると、
「ダブルデートしようぜぃ!」
とシンプルにお誘い。
話を聞くと佐倉がカメラを壊したんだとか。それを直すために電気屋に行きたいのだけど、一人じゃ不安とのこと
「なんか変な店員がいるらしいのよね」そんなことも聞き出していたらしい。昼間の件も「女の子一人じゃ不安だから」と俺を誘おうとしていたのか。懐かれているのかな?
まあ日曜日は空いてるし、女の子二人連れも悪くない。でも、こういうのもダブルデートというのだろうか?
原作では脈絡もなく綾小路君と佐倉さんは距離を縮めていますが、本作ではすでにナオキ君が男子として『怖くない』位置にいます。その上『高育最強の人たらし』がついているので、綾小路君はいらない子ポジです。
桔梗ちゃんは電話で佐倉さんを誘いましたが、先に約束していたオリ主カップルを優先させられました。
佐倉さんは一応プロなので下心のある人は見慣れてます。正直中学時代ならともかく、高校生にもなると桔梗ちゃんを胡散臭いと思う女子は多そうですね。