次の日曜日、俺はケヤキモールの入り口に来ていた。勿論、約束時間の前だ。遅刻はいけない。
高遠も佐倉もまだ来ていないので一安心。
ベンチに座って一休み、で待ち合わせの5分前、
「待った?」
と声をかけてくる一人の少女。なので、
「今来たところだ」
と返す。
で、イエーイとハイタッチ。ベタだけどお約束というのは意外と楽しい。
制服でなく、私服のワンピース。白を基調に所々黒で引き締めている。軍服めいていると思うのは俺のセンスが悪いのか? 違和感なく似合っているのは確かだ。で、
「じゃあ、行こうか」
と高遠は促してくる。あれ、佐倉は? と思うと高遠の目は隣のベンチの女性に向いている。
帽子を被ってマスクまでしている人。不審者かなと思っていたのだが、マスクを外すと佐倉さん。
「え!?」
「ごめんね、影薄くて……おはよう……」
いや、そういう問題ではないと思うぞ。変装?仮装? いずれにせよ何故高遠は一発で見抜いたんだ?
電気屋はモールの奥のほうにある。利用客は学生メインの為規模は大きくないが、利用する可能がありそうなものは一通り揃えてある。ちなみに炊飯器を買ったのもここだ。念のために大きいのを買っておいてよかった。
店の一番奥に修理の受付場所があった。わかりにくい場所にあるなと思い、そっちに行こうとするがなぜか佐倉の足がピタリと止まる。
「どうしたの?佐倉さん?」
怪訝な顔で聞くが、
「何でもないから……」
と懸命な笑顔を浮かべるだけ。
「?」
ふむと一言、高遠は俺を置いて佐倉さんの代わりにカメラの修理依頼の件で話しかける。
店員は二人の美少女が相手だとわかると、調子よく話し出す。
高遠が大人しく相手をしていると目に見えてエスカレート。店の商品の話から、プライベート。呆れたことにデートのお誘いまで。
流石に不愉快になって、高遠の腰に手を回すと、俺の後ろに下がらせる。店員は不快げに俺を睨みつけてきたが、逆に俺は睨み返す。
俺の野獣のような眼差しに気圧されてか、店員は黙り込む。
会話を邪魔された高遠はというと、なんか嬉しそうに俺の肩をパタパタ叩いている。
さてと、佐倉を前に出すとデジカメを出すように促した。調べたところ無償で修理が受けられるとのこと。
あとは必要事項を記入して終わり。のはずだが、佐倉の手が用紙を前にして止まる。
店員がジッと佐倉を見つめていた。男の俺でも少しザワッとするような不気味な目だ。
「ちょっといいか?」
「えっ?」
俺は今度は佐倉の肩に手を回し、俺の後ろに下がらせる。
ペンをとって連絡先として、俺の部屋番号と携帯番号を記入する。
「えと、ちょっと!」
「購入者と使用者が違っていても問題ないですよね」軽く威圧するように目線を合わせる。「それとも彼女じゃなければならない理由でもありますか?」
「い、いえ。わかりました……大丈夫です」
佐倉と交代で必要事項を記入する。
修理完了予定日を聞いて電気屋を後にする。
「なんか変な店員だったね」
高遠があえて明るく微妙な空気を流す。
「前に話しかけられたことがあって……。それで、一人で修理に行くのが怖くて……」
何となくわかる、生理的に気持ち悪いというやつだ。
「あーーもう。この話ヤメヤメ」
高遠はサバサバと宣言すると、
「直樹は今日はもうおしまい!」佐倉さんに抱き着いて「私たちは女同士でパァーと行くよ」
「えっと」
目をパチクリさせる佐倉さん、なんか可愛い。
「……OK、女の子同士でデート、楽しんできてね」
「おーーう!」
「おう?」
楽しんできてね。
部屋に帰ってきた俺は、Eシステムからの情報をもとに気になったことを色々調べてみた。
「グラビアアイドル・雫かぁ?」
中3でEカップか、でかいな。高遠は幾つだ? でも怖くて聞けないか、でも意外とあっさり教えてくれそうな気もする。
思えばお姉やあの人達はEとかFとか言ってた気がする。指をワキワキと感触を思い出しながら、ビキニ姿のピンナップを眺めていると、呼び鈴がリーーン。
で、確認してドアを開けると疲れたような相方。
なのでお疲れ様と両手を開くと、高遠はためらわずに体を預けてくる、自分でやって少し驚いた。熱い日中を歩いてきたのか、体温が少し高い。
左手を腰に、右手で良い子良い子と頭をなでると、高遠は安心したように目を閉じ頬を緩ませ、3、4。5秒後に復活した。
「なんかお疲れ」
というと、
「そーだよ、わたしってば頑張ったんだから」
「ほう、それは?」
「佐倉さん、証人として立ってくれるって」
「それはすごいね」
なんかすごそう。だから俺は胸の中で自慢げに話す少女に対し、基本的なことを質問する。
「で、証人ってなんの話?」
「へっ?」
虚を突かれた高遠の顔は、なんというか面白かった。
「という訳なのよ」
麦茶を二杯飲んで落ち着いた高遠はカップをゴンとテーブルに置いた。
要するに須藤の件で、佐倉は特別棟でCクラスとのやり取りを見ていたのだそうだ。つまり探していた証人ということ。
佐倉がここしばらく挙動不審だったのは、目撃者として言い出せなかったからか。
というか、それを聞き出して、さらに証人として立つことを決意させた高遠が凄い。どういう話のもっていき方をしたのか、想像もつかない。
なのだが、
「それって、俺たちがしてよいことか?」
「!?」
俺たちに求められているのは傍観者だ。気が進まない目撃者をたきつけて証言させるのはどうなんだろ?
「えーとね……」
目が泳ぎだした高遠に仕方なく助け船。
「佐倉はDクラスの人間だし、放っていたら誰かが無理やり証言させようとしたかも」
具体的には櫛田とか、それなら高遠が動いたほうが平和と言える。
「だよね、問題ないよね」
ホッと一息ついた高遠に、俺のほうも調査結果を開示。
「これを見てくれ」
高遠に示したスクリーンには、先ほどの水着姿の少女が1人。
「……」緩んだばかりの高遠の顔が、何故か今は険しい「富士宮くん、あなたもこういうの興味あるんだ」
こういうの女の子は気にするよね。まあ、想像していた反応だ。
「胸じゃなくて、この子の顔をよく見てくれ」
1、2と胡散臭げにスクリーンを見て、3、4と首を傾げ、5で画面にかぶりつく。
「え、これって佐倉さん?」
やはり観察力が凄い。眼鏡がないだけじゃない、姿勢、表情、雰囲気、常の佐倉とはまるで違うのにあっさり見抜いてみせた。
「なんで?」
と問う高遠に、俺はEシステムから落とした佐倉のプロフィールを手渡した。要注意人物ではないので俺も確認していなかったが、彼女のプロフィールには面白い記述がある。
「中学校2年生からグラビアアイドル・雫として活躍?」
なんとも頭の悪い過去だ。高育として生徒の多様性を求めるとしても、方向が間違っている気がしてならない。
それはおいておいて、言いたいことはというと。
「ネットに写真があるのは良いとして、問題はこっち」
画面をちょいと切り替える。グラビアアイドル・雫のブログを開く。
「高育って外部と連絡禁止だよね。ブログって使ってよいの?」
新しめの更新を映すと、見たことのある部屋を背景にしたピンナップ。間違いなくこの寮の一室だ。
「コメ返しはしてないみたいだけど、更新だけで外部と連絡ってことにならない?」
「うーーん、どうだろ?」
と、高遠も首をかしげる。バレなきゃ良いは世の常だけど、このブログそれだけじゃすまない理由がある。
「で、こっち」
コメ欄をざっと映す。
『これからはずっと一緒だね』
『いつも君を近くに感じるよ』
『今日は一段と可愛かったね』
「なにこれ?」
高遠はぞっとしたように俺の腕をつかむ。
「ごく最近の書き込みだよ、なんか雫、今の佐倉の近況を知ってるような感じになってる」
「つまり」
「ブログだけなら黙っていてもよかったけど、校内で彼女にまとわりついている人間がいる、かもしれない」
学外で誰かを雫と誤認しているなら良い。だけど校内で変なこと、
「ストーカ犯罪とかやられると困るんだよ」
学校としても不味いし、クラスメイトが犯罪に巻き込まれるのは俺としても面白くない。
そもそも全寮制ということで、高育は保護者に代わって生徒を守る義務があるのだ。
うん、と頷く高遠に、
「悪いけど細井さんに連絡とってもらえないか。この件について相談したい」
学校側としても表沙汰にはしたくないだろう、こういうのは上に動いてもらうのが一番だ。
「わかった、でもオジサマと話すときは私も一緒にね。少し訊きたいことがあるの」
そういう相方はちょっと怖かったと言っておこう。
読者目線としては佐倉さんが須藤事件の証人なのは周知の事実かもしれないけど、クラスメイトたち登場人物の目からするとそれ何? という話だと思う。
佐倉さんの話は櫛田チームでは共有されてたかもだけど、Dクラス全体に周知されていた話とは思えない。見抜いた鈴音ちゃんは態々他に言うわけないし、三馬鹿は佐倉さんに文句言うだけ。櫛田自身も結局自分がいい恰好したいだけなので、手柄を取られる真似はしない。実際原作では、佐倉さんが証人というのは平田チームも知らなかったと思う。ナオキ君はハブられていたわけでないと。
なお櫛田さんは佐倉さんに近づけなかったので、佐倉さん=グラドルという構図はバレなかったと言うことで。