俺を助けたのは金髪ドリル!? 俺の命の恩人は誰だ!? 作:パスカルDX
第六話「歓迎されると思ったら歓迎されていなかった!?」
広間に静寂が満ちる。
小柄な金髪ドリルの少女が姿を現しただけで、それまで賑やかだった空気が一変した。
黒髪の女性は背筋を正し、水色の髪の女性も静かに一礼する。
猫耳フードの少女に至っては、目を輝かせながら深々と頭を下げていた。
「お帰りなさいませ、華琳様!」
その声が部屋に響く。
「……。」
一刀だけが取り残される。
(華琳様?)
聞き覚えのある呼び名だ。
しかし、それが目の前の少女と結び付かない。
旅の途中では、皆と同じように歩き、笑い、ときには一刀へ呆れたような視線を向けていた少女。
そんな彼女が、この屋敷では別人のような存在感を放っている。
「顔を上げなさい。」
凛とした声。
旅の間に聞いていた穏やかな口調とは違い、王としての威厳が滲んでいた。
三人がゆっくりと顔を上げる。
そして彼女は、一刀へ視線を向けた。
「一刀。」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくてもいいわ。」
「いや、でも……。」
この状況で緊張しない方が難しい。
部屋中の視線が自分へ集まっているのだから。
「紹介するわ。」
彼女は静かに周囲を見渡した。
「彼は北郷一刀。」
「旅の途中で知り合った客人よ。」
その一言で空気が少し和らぐ。
……いや。
「客人。」
猫耳フードの少女だけは納得していなかった。
「華琳様。」
「何?」
「どうして男を?」
真っ先にそこだった。
「屋敷へ招く必要があったのでしょうか?」
疑問というより、不満である。
「理由はあるわ。」
「ですが。」
「桂花。」
短く名前を呼ばれる。
それだけで猫耳フードの少女は口を閉じた。
「……申し訳ありません。」
とはいえ、その視線は相変わらず一刀へ向けられている。
警戒心丸出しだ。
(嫌われてるなぁ……。)
初対面からこれでは、少々へこむ。
すると黒髪の女性が口を開いた。
「華琳様。」
「何かしら、春蘭。」
「男を客人とすること自体は反対しません。」
(反対しないんだ。)
一刀は少し安心した。
だが次の瞬間。
「しかし!」
春蘭は一刀を真っ直ぐ指差す。
「華琳様へ妙な気を起こしたら、この剣で叩き斬ります!」
「いきなり!?」
「覚悟しておけ!」
「何もしませんって!」
広間に一刀の悲鳴が響く。
その様子に、水色の髪の女性――秋蘭が小さくため息をついた。
「姉者。」
「何だ?」
「脅してどうする。」
「牽制だ。」
「やり過ぎだ。」
秋蘭は一刀へ軽く頭を下げる。
「すまない。」
「いえ……。」
「姉者は少々思い込みが激しい。」
「少々?」
「……少々だ。」
言い切るまで少し間があった。
本人も自覚はあるらしい。
一方の春蘭は腕を組み、大きく頷いている。
「うむ!」
「納得してる!」
その天然ぶりに、一刀は思わず苦笑した。
(この人、怖いけど悪い人じゃないんだな。)
しかし。
「ふん。」
まだ納得していない人物が一人。
桂花だった。
「男は信用できないわ。」
「え?」
「華琳様の近くにいる以上、四六時中監視します。」
「監視!?」
「当然よ。」
「いやいや!」
「寝ている間も。」
「怖い!」
「冗談よ。」
「今、少し間があったよね!?」
「……。」
桂花は視線を逸らした。
「冗談……よ。」
「絶対本気だった!」
元気娘――華侖が腹を抱えて笑う。
「面白いっす!」
「笑い事じゃない!」
栄華も扇子で口元を隠しながら笑いを堪えていた。
「ふふ……。」
柳琳も優しく微笑んでいる。
そして華琳だけは、静かにその光景を眺めていた。
「……賑やかになりそうね。」
その小さな呟きは、一刀には聞こえなかった。
広間には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
一刀は正座したまま、背筋を伸ばしている。
(……面接みたいだ。)
目の前には旅の途中で出会った四人の金髪ドリルの少女。
そして、その両脇には黒髪の武人、水色の髪の弓使い、猫耳フードの軍師。
全員の視線が自分へ集まっていた。
そんな空気を破ったのは、小柄な金髪ドリルの少女だった。
「一刀。」
「はい。」
「そろそろ正式に紹介しておくわ。」
少女は静かに立ち上がる。
旅の途中では見せなかった堂々たる立ち姿。
その姿に、一刀も自然と背筋が伸びた。
「私は、この魏を治める王。」
一拍置いて、彼女は微笑む。
「曹孟徳……曹操よ。」
一刀は目を丸くした。
「えぇぇぇぇっ!?」
部屋中に絶叫が響く。
「そ、曹操って……!」
乱世にその名を轟かせる若き覇王。
誰もが知る大人物。
その本人が、旅の途中で一緒に笑いながら歩いていた少女だったなど、想像できるはずもない。
「そんな偉い人だったんですか!?」
「隠していたもの。」
華琳――曹操は悪戯っぽく微笑む。
「驚いた?」
「驚くどころじゃありません!」
「ふふ。」
その笑顔を見て、桂花はうっとりと頬を染める。
「華琳様……今日もお美しいです!」
「桂花。」
「はい!」
「少し落ち着きなさい。」
「申し訳ありません!」
言葉では謝りながらも、目は輝いたままだ。
◇
続いて、お嬢様口調の金髪ドリル少女が優雅に一礼した。
「改めまして。」
スカートの裾を摘み、美しく礼をする。
「わたくしは曹洪。」
「魏の財務や兵糧などを預かっていますわ。」
「えっ。」
一刀は思わず旅の途中を思い出した。
「だからあんなに値切ってたんですか。」
「当然ですわ。」
栄華は胸を張る。
「一文を笑う者は、一文に泣きますもの。」
「なるほど……。」
「無駄遣いは大敵ですわ。」
「はい。」
「今後、お財布の管理には気を付けてくださいませ。」
「俺?」
「ええ。」
「まだ財布見せてもないですよ?」
「見れば分かりますわ。」
「分かるんですか!?」
「何となく。」
「勘なんだ!」
広間に小さな笑いが起こる。
◇
「次は私っす!」
元気娘が勢いよく立ち上がった。
「私は曹仁!」
元気いっぱいに胸を張る。
「将軍やってるっす!」
「将軍!?」
「強いっす!」
その場で素振りを始める。
「えいっ!」
「危ない危ない!」
勢い余って壺を倒しかける。
すかさず秋蘭が受け止めた。
「姉者ならともかく、お前まで壊すな。」
「えへへっ。」
「笑って済ませるな。」
曹仁は頭を掻いて笑っている。
「細かいことは気にしないっす!」
「気にして!」
一刀が突っ込むと、曹仁は大笑いした。
◇
その隣では、穏やかな金髪ドリルの少女が柔らかく微笑んだ。
「私は曹純です。」
「姉がお騒がせしています。」
「いや、大丈夫です。」
「本当に?」
「はい。」
「良かった。」
安心したように笑う曹純。
旅の途中と変わらない優しい笑顔だった。
「困ったことがあれば相談してくださいね。」
「ありがとうございます。」
「できる限り力になります。」
「頼もしいなぁ。」
そのやり取りを見ていた曹仁が口を尖らせる。
「柳琳ばっかり褒められてるっす!」
「お前はまず落ち着け。」
秋蘭の一言に、広間がまた笑いに包まれた。
◇
最後に、黒髪の女性が一歩前へ出る。
胸を張り、力強く名乗る。
「私は夏侯惇!」
「華琳様の剣となる者だ!」
その声には自信が満ちあふれていた。
「剣の勝負なら誰にも負けん!」
「すごい……。」
一刀が感心すると、春蘭は満足そうに頷く。
「うむ!」
しかし秋蘭が静かに付け加える。
「ただし。」
「ん?」
「猪突猛進だ。」
「おい!」
「敵を見ると一直線。」
「そんなことはない!」
「昨日も訓練で突撃した。」
「勢いは大事だ!」
「罠に落ちた。」
「…………。」
一瞬、春蘭が固まる。
「……あれは。」
「猪突猛進だった。」
「ぐぬぬ……。」
一刀は思わず笑ってしまった。
「仲がいいんですね。」
「誰とだ!」
「姉妹ですから。」
秋蘭は表情を崩さないまま答える。
「私は夏侯淵。」
「弓兵隊を率いている。」
落ち着いた声音。
必要以上のことは語らない。
その冷静沈着な雰囲気に、一刀は自然と背筋を伸ばした。
(この人がみんなのまとめ役なんだろうな。)
その予想は、あながち間違ってはいなかった。
そして残るは、猫耳フードの軍師・桂花。
彼女は腕を組み、一刀をじっと見つめていた。
「……最後は私ね。」
その紹介が、新たな騒動の始まりになることを、一刀はまだ知らなかった。
広間にいる全員の視線が、一人の少女へ集まる。
猫耳フードを被った、小柄な軍師。
彼女は腕を組み、一刀をじっと見つめたまま、小さく咳払いをした。
「最後は私ね。」
その口調には自信が満ちている。
「私は荀彧。」
ぴんと胸を張る。
「華琳様をお支えする軍師よ。」
一刀は素直に頭を下げた。
「よろしくお願いします、荀彧さん。」
「……。」
返事がない。
顔を上げると、荀彧はまだ一刀を見つめていた。
「何でしょうか?」
「一つだけ言っておくわ。」
「はい。」
「私は男が好きではない。」
「は、はあ。」
「だからといって客人に無礼を働くつもりはない。」
その言葉に、一刀は少し安心する。
「ですが。」
やっぱり続きがあった。
「華琳様へ失礼なことをしたら容赦しないわ。」
「しません!」
「本当に?」
「もちろん!」
「……。」
荀彧はじっと一刀の目を見る。
数秒。
やがて小さく息を吐いた。
「今のところは信じてあげる。」
「ありがとうございます。」
「勘違いしないで。」
「え?」
「信用したわけじゃないわ。」
「ですよね。」
ここまでのやり取りで何となく分かってきた。
この軍師は警戒心が強いのだ。
だが、その警戒は主君を守ろうとする気持ちから来ている。
一刀はそんな彼女を見て、少しだけ印象が変わった。
◇
「これで全員の紹介は終わりね。」
華琳がそう言うと、一刀は改めて周囲を見渡した。
曹操。
曹洪。
曹仁。
曹純。
夏侯惇。
夏侯淵。
荀彧。
(みんな、魏のすごい人たちばかりじゃないか……。)
そんな場所に、自分がいていいのだろうか。
そう思っていると、華琳が口を開いた。
「一刀。」
「はい。」
「あなたはしばらく、この屋敷で暮らしなさい。」
「え?」
「命の恩人を探しているのでしょう?」
一刀ははっとする。
そうだ。
ここへ来た本当の理由はそれだった。
「はい。」
「なら、ここにいる間に思い出すこともあるかもしれないわ。」
「……ありがとうございます。」
深く頭を下げる。
華琳は小さく微笑んだ。
「礼には及ばないわ。」
◇
その時だった。
ぐぅぅぅぅぅ……。
広間に、妙に大きな音が響く。
「……。」
「……。」
「……。」
全員の視線が一刀へ集まる。
「ち、違います!」
一刀は慌てて首を振る。
「俺じゃありません!」
すると、隣で曹仁がゆっくり手を挙げた。
「……私っす。」
「お前か!」
春蘭が思わず頭を抱える。
「さっき昼を食べたばかりだろう!」
「自己紹介したらお腹減ったっす。」
「減るわけあるか!」
「頭使ったっす!」
「ほとんど使ってない!」
秋蘭が額に手を当てる。
「姉者。」
「何だ?」
「食堂へ連れて行った方が静かになる。」
「確かに。」
柳琳も苦笑する。
「お腹が空いていると元気がなくなりますからね。」
「今でも十分元気だがな。」
栄華はため息をついた。
「食費が増えますわ……。」
「またお金!」
一刀が思わず突っ込む。
その瞬間、広間に笑い声が広がった。
華琳も口元を隠しながら、小さく笑っている。
「ふふ……。」
その笑顔を見た桂花は感激していた。
「華琳様がお笑いになった!」
「そんなに珍しいの?」
「もちろんよ!」
「いや、旅の途中では結構笑ってたけど。」
「……え?」
桂花が固まる。
「華琳様が?」
「はい。」
「そんなはずは……。」
「本当ですよ。」
曹仁が元気よく頷く。
「一刀が毎日ツッコミしてたっす!」
「旅の間は毎日賑やかだったわ。」
曹純も笑顔で補足した。
桂花は信じられないという顔で華琳を見る。
「華琳様……。」
「何かしら?」
「旅を楽しんでおられたのですか?」
華琳は少しだけ考え、静かに答えた。
「……退屈はしなかったわね。」
その一言に、春蘭も秋蘭も驚いた表情を浮かべる。
華琳がそう評する相手は珍しい。
一刀本人だけは、その意味を理解していなかった。
「?」
「どうしたんです?」
「……何でもない。」
華琳はそう言って席を立つ。
「今日はゆっくり休みなさい。」
「はい!」
一刀は元気よく返事をした。
こうして北郷一刀の魏での新しい生活は、本格的に幕を開ける。
男嫌いの軍師。
猪突猛進な剣士。
冷静沈着な弓使い。
そして四人の金髪ドリル姉妹(従姉妹)たち。
毎日が騒がしく、それでいてどこか温かい日々が始まろうとしていた。
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