ホンモノで失敗作のかぐや姫 作:一般先生
今さらですが、映画と同じシーンは全スキップしてます。許してね。今回カグヤもヤチヨも出ません。
「彩葉ー!」
ここは立川市某所にあるボロアパートの一室。長い金髪をした少女——かぐやが彩葉に声をかける。かぐやの背後には一台のノートPCが置かれ、絶賛かぐやの後ろ姿をカメラが全世界に放送している。
「ちょ、今配信中でしょ!?名前呼ばないで!」
「あ、ごめーん」
配信中にも関わらず本名を溢したかぐやに彩葉が怒る。しかし、かぐやには効いていないのか、生返事を返された。
「そんなことよりさ、『アリーナ』?ってとこ行こーよ!」
「アリーナ?あー、そう言えばもう8月なってたか」
かぐやの言葉に彩葉はカレンダーを見る。カレンダーは8月にめくったばかりで、未だバツ印は付けられていない。
彩葉はかぐやの方を振り返る。かぐやはいつものごとく断られると思って身構えた。
「いいよ、元から隙間時間で参加するつもりだったし」
「そこをどうか……え、いいの!?よっしゃー!じゃあ、今いこ!すぐ!……じゃ、またツクヨミで配信するから一旦ここまで!じゃあなー!」
しかし、予想に反して彩葉はあっさりとかぐやの提案に承諾した。これにはかぐやも驚きを見せるが、すぐに配信を止めて彩葉と共にツクヨミへ入ろうとする。
「待て待て待て、配信はダメ。アリーナは人がいた方がいいし、まずは芦花と真美を呼ばないとなんだから。ツクヨミの中とは言っても、勝手に配信したら迷惑かかる!」
「ゔぇー、配信できないのやだー!……あ、じゃあ芦花と真美に聞いてみる!それならいいっしょ!」
彩葉の注意もなんのその、かぐやは即座にスマホを取り出して二人の共通の友人である芦花と真美へ連絡を取り始める。その姿に彩葉は深いタメ息を吐いた。
「あ、芦花も真美も来てくれるって!配信もつけていいって言ってる!」
「……はぁ」
————————
「ねぇねぇ、彩葉~!アリーナって結局何~?」
所変わってツクヨミの中。かぐやは彩葉に問い掛ける。
「アリーナってのは、まぁ簡単に言えば特殊ルール付きの
「ほうほう、つまり取り敢えずみんなで相手を全員殴って勝てばいいわけだ!」
彩葉はかぐやの質問に答える。二人はそのまま話を続けながら、どこか古風でありながらも色とりどりの光で眩しいほどに飾られた街を外に向かってゆっくりと歩いていく。
「で、ここからが独自のルール。まず、アリーナは開催ごとに違う特殊ルールが一つだけ設定される。例えば、プレイヤー全員が毎秒1%のスリップダメージを受ける。だとか、特定武器の威力が20%アップとか色々ある。今回は攻撃ヒット時に与えたダメージの30%が自分に与えられる『反撃ルール』っぽい。オーバーキルには気を付けること」
「へぇ、面白そう~!」
「他には、
「?でも、そういった人数差ができちゃうゲームって他にもあるでしょ?時間帯が悪かったりで一人少ない~、みたいなの!」
「あー、ごめん説明が悪かった。例えば、アリーナにソロで参戦したプレイヤーがいたとする。そして、その一人のプレイヤーが五人チームとマッチングしたとする。そしたら、一人対五人で四人分の人数差がある圧倒的に不利な試合が始まる」
「え~、そう言うのってさ~、一人のところに他の四人チームとかが混ざったりするんじゃないの~?」
「ないね」
そこまで話した彩葉は一度口を閉じる。そして、少しだけ考え込む仕草を見せて、アリーナのルールを思い出したのか再度話を始める。
「あと、アリーナは女性しか参加できない」
「へぇ~、なんで?」
「えっと、確かアリーナの管理人の『若竹 ナヨ』が決めたってヤチヨが言ってたんだけど……。そう言えばなんでなんだろ?」
「ふ~ん、若竹ナヨってだれ?」
「ヤチヨと一緒にツクヨミを作った開発者。後は、生粋のゲーマーでことゲームに限っては負け知らず。たまにヤチヨの神戦配信に参加してたりするんだけど、ヤチヨにハンデとしてデバフを掛けられて戦ってもあっさりプロに勝てるくらいには一般ユーザーとの実力差がある。ナヨは基本的に配信もしないし、ツクヨミのゲームイベントも出禁で表にはあまり出てこないから、ヤチヨファン以外にはそこまでゲームの腕は知られてないんだけどね」
「へぇ~、じゃあかぐや達がナヨを倒せばさいきょ~ってことだ!」
「無理無理、ツクヨミ最強のゲーマー達でもナヨには勝てないんだよ。プロと比べたら素人に毛が生えた程度の私たちが勝てるわけないじゃん」
そんな会話をしているうちに二人はツクヨミ郊外の森へと足を踏み入れた。獣道のように踏み荒らされただけの整備もされていない場所を歩いていく。
「ねー彩葉、ホントにこの先にアリーナがあるの?ただの森だよ、ここ」
「プレイヤーに見つからないように作ったらしいから仕方ないでしょ。向こうにはファストトラベル用のスポットがあるし、一回だけだから頑張って耐えて」
何もない森をぶつくさと文句を言いながら歩く死んだ目のかぐやとそれを宥める彩葉。だが、それもほんの数分のことで、かぐやの目の色は少しずつ輝きを取り戻していく。
「かぐや、この穴に飛び込んで。滑り台になってる」
「お~!なにこれ!?スッゴ~!!」
50メートルはあるであろう巨木の根本にできた大きな洞の中にある天然の滑り台に飛び込む二人。二人が滑り落ちる空間は、鮮やかな黄色に発光する不思議なキノコが壁に点々と生えていて少しばかりの明かりがあった。
「うひょ~!!超たのしい~!あ!彩葉彩葉!見てこのキノコ!光ってる!!」
「ちょっと、かぐや落ち着いて。舌噛むよ」
仮想世界であるにも関わらず本当に落下をしているかのように感じたかぐやは、彩葉の足の間で大きく声を上げながら興奮している。そんなかぐやを見て忠告を入れつつ、少しでもかぐやの体を固定しようと腰から腹へ回した手に力を込める彩葉だった。
「大丈夫だいじょーびゅぎゅッ!?……いっひゃあい、ひはかんら~!」
「あーもう、言わんこっちゃない」
しかし、既に時は遅く、かぐやは舌を盛大に噛んで涙を浮かべている。彩葉はここ数週間で数えきれないほど吐くことになったタメ息と共に、かぐやの頭を擦り落ち着かせる。
「楽しかったー!彩葉、また今度やろ!!」
「はいはい、時間があったらね」
滑り台の終着点であるジャンプ台から巨大なキノコのクッションに着地した二人は再び歩きだす。
「この洞窟を抜けないとアリーナに行けないんだよね。でも、ここも結構いいところでしょ?」
そう言って彩葉は周囲に視線を巡らせる。彩葉に釣られてかぐやも周りを見る。
地面や壁面には仄かに青く光る水晶。水晶の光を反射してキラキラと水面が光る地底湖。天井には滑り台にもあった光るキノコが星空のように眩く煌めいている。
「おー、キラキラがいっぱいある!」
かぐやは目を輝かせて喜んでいる。そんなかぐやの前を無数の緑色の光る玉がわらわらと横切ったり、かぐやに纏わりついたりしてくる。
「うわ!?彩葉、何これ!?」
いきなりのことにびっくりしたかぐやは慌てながら彩葉の方を向く。彩葉を見ると、かぐやと同じように彩葉の周りを緑色の光が囲んでいた。
「その子は妖精蛍。アリーナへの道だったり、この洞窟の中を案内してくれるNPC。せっかくだし、この子達に案内して貰おうか」
彩葉は近くに来た光——妖精蛍を人差し指で優しく撫でながら答える。そして、彩葉は懐から小瓶を取り出すと、中に入っている金平糖を手のひらに出した。
「妖精蛍に道案内して貰うには、お菓子とかをあげる必要があるんだよね」
「かぐやも!かぐやもそのお菓子あげるのやりたい!!」
彩葉の手のひらに乗っかってる金平糖にわらわらと群がる妖精蛍。それを見たかぐやが自分もやりたいと言い出す。
「ん、いいよ」
彩葉はかぐやの言葉に頷くと、金平糖を乗っけたのとは反対の手で、金平糖が入った小瓶を手渡した。
「おぉー、ちょっと暖かい気がする!」
彩葉の真似をして金平糖を妖精蛍へ与えたかぐやはそんな感想を漏らした。
そして、彩葉とかぐやの手のひらから金平糖が消えるのと同時に群がっていた妖精蛍の光が緑から青に変わった。
「青くなった妖精蛍に行きたい場所を伝えると、そこまで案内してくれる。アリーナまで連れてって?」
彩葉の言葉に頷くように二度三度と強く点滅した妖精蛍達が一塊になってわらわらと飛び出していく。
「じゃ、私たちも行こう、かぐや。因みに、ここでアリーナを指定しないと確定で別の出口まで案内されちゃって絶対にアリーナまでたどり着けないから気を付けて」
「はーい」
そう言って二人は妖精蛍を追いかけ始めた。その道中はただただ洞窟を歩くだけではなかった。
「ゔぇっ!?ここ通るの!?」
「デカイプレイヤーよりかは大分通りやすいでしょ、文句言わない」
高さ50センチもあるか分からない小さな隙間を潜ったり、
「この川下ってくよ」
「メッチャ流れ早いよ!かぐや溺れちゃうよ!?」
「さっき妖精蛍が探してくれたこの葉っぱを使うの。これを川に入れると大きくなって筏になる」
「おー、スッゴー!」
人が二人乗っても問題ない大きさの葉っぱに乗って川下りをしたり、
「あれ、行き止まりじゃん。でも、妖精蛍は動かないし、いろはーこれなにー?」
「さっき見た手帳に書いてた言葉をここで言うと、先に行けるようになる。言ってみな?」
「へー、じゃあ『開けー、ゴマ』!!……ホントに開いた!!」
道中で知った呪文を使って隠し扉を開けて先へ進んだ。そして、他にも無数にあるギミックを解いた末に二人は外に出た。
「やっと外に出れたー!!結構楽しかったね、彩葉!!」
「お疲れ様。まぁ、まだ歩くけどね」
「ゔぇー、まだ歩くのー?しかもただの森じゃん、つまらないよー!!」
「大丈夫、ある程度は楽しめると思うよ」
外に出た二人は、再び妖精蛍の案内で先へと進む。
「迷わないようにしっかり妖精蛍を見といて。妖精蛍とはぐれたらファストトラベルで戻るしかないから、最初からやり直しだよ」
「わかった!ちゃんと見とく!!」
森の中は街を抜けた直後の森とは違い、獣道がない場所だった。代わり映えのない景色ではあるが、そこには現実では見ることのできない景色があった。
「彩葉、あれ見て!金のリンゴ!!」
「え、ラッキーアップルじゃん。食べるとステータスが上がる超レアアイテム」
「マジ!?ラッキー!!」
見つけたリンゴの木が一つだけ赤ではない金色の実を付けていた。かぐやはなかなかお目にかかれないレアアイテムに飛び付いた。
「彩葉ー、あの小屋はなにー?」
「あれはヤマネコがやってるレストラン。味はかなり美味しいよ。無料だからお金が厳しい時はあれで味覚を誤魔化してパンケーキを……そんなことは今はいいか。せっかくだし寄ってく?」
「行く!!」
森の奥にひっそりと建てられたヤマネコのレストランで軽食を取ったりした。そして、ついに長いようで短い旅路が終わりを迎える。
「着いたよ、ここがアリーナと図書館のある街」
石レンガでできたアーチを潜り彩葉とかぐやは街の中へと入る。そして、かぐやは一も二もなく街を見回した。
不規則な大きさの石畳がぴったりと敷かれて整えられた道。道の脇には石材やレンガで建てられた家に店。柵の中に作られた畑にはトマトや小麦が実を付けて風に揺られている。
そして、街の入り口から見てもデカデカと存在を主張する円形の建物。ローマの観光地であるコロッセオに似た外見であるソレが件のアリーナである。
「おー、ツクヨミとは全然違う!!」
「まぁ、向こうは和風でこっちは欧風だからね。あと、ここもツクヨミの一部だから」
「早く探検しよ!!」
かぐやは目を輝かせながら彩葉の手を引いて走り出そうとする。
「待て待て、ここに来た目的を忘れんな」
しかし、彩葉はかぐやを止めた。アリーナに行かないでどうするのだと。
「あ、そうだアリーナ!早く行こ!!」
「その前に芦花と真美と合流するよ、着いてきて」
かぐやを引き留めた彩葉は、そのままかぐやの手を引っ張って連れていく。彩葉が向かう場所は街の目印とも言えそうなアリーナから程近い個室のあるカフェ。そこには、彩葉とかぐやの共通の友人である芦花と真美がいた。
「お、彩葉とかぐやちゃんきた~。お疲れ~」
茶髪に茶色のポンチョ、モモンガの耳が特徴の少女——真美が二人に手を上げながら迎える。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、私たちも来たばっかだし気にしないで。それより、かぐやちゃんはここまでどうだった?楽しかった?」
彩葉の謝罪に応えたのは赤みが強めのピンク色の髪にヘソ出しのギャルファッション、牡鹿の角が特徴の少女——芦花。芦花はテーブルに頬杖を付き、かぐやに道中の感想を聞いた。
「超楽しかった!!」
「よかったじゃん。どこ行ったの?」
「レストラン!ヤマネコがやってるヤツ!!」
芦花からの質問に答えたかぐや。そのかぐやの言葉に食い付いたのはグルメ系インフルエンサーで有名な真美だった。
「お~、あそこのお店か~、美味しいよね~。分かるよ~!」
「真美、たまにあのレストランで一日使っちゃうもんね」
「そうなんだよ~、美味しいのはそうなんだけど、メニューも多くてさ~」
「あそこ、たまにヤチヨもいるらしいよ」
「芦花、その話詳しく」
「あ、ヤチヨいるよね~。ナヨちゃんともたまに会うよ~」
「真美、私は冷静さを欠こうとしている」
「あ、これ言っちゃダメなんだった。彩葉、今の無し~!」
少女四人が集まったことで姦しさが増したが、個室であるため気に留める者は此処にはいない。彩葉もかぐやも席に着き、暫しの歓談に興じるのだった。
本家イツアリでもメッチャ旨い料理を出すヤマネコのレストランはありそうですよね。(注文の多い料理店の失敗作)
余談ですが、アリーナのある街が見つかったのはサービス開始から三年以上経ってから見つかりました。初見では見つからないようにカグヤが隠していたので、当時は大層驚いていたとか。(ヤチヨの配信情報)