「力が欲しいか?」と言いたくて!   作:桃たろす

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夜天に集う

 

 

 八神はやてが九歳になった夜、家の中には彼女一人しかいなかった。

 

 時計の針が、ゆっくりと真上で重なる。

 

 小さな電子音が、静まり返った居間に響いた。

 

「誕生日、おめでとう。うち」

 

 はやては車椅子の肘掛けに頬杖をつき、自分で自分を祝った。

 

 別に、悲しいわけではない。

 

 誕生日を一人で迎えることには慣れている。

 

 冷蔵庫には、昼間に買っておいた小さなケーキがある。

 

 朝になったら切って食べようと思っていた。

 

 蝋燭も一本だけもらっている。

 

 九本立てるには小さすぎるケーキだったから、店員が気を利かせて数字の形をしたものを入れてくれた。

 

 明日は少しだけ豪華な朝食を作ろう。

 

 いつもより甘い紅茶も淹れよう。

 

 そんなことを考えながら、はやては読みかけの本へ目を落とした。

 

 その時だった。

 

 廊下の奥から、硬いものが擦れる音がした。

 

 じゃらり。

 

 金属の鎖を、床の上で引きずるような音。

 

「……なんやろ」

 

 顔を上げる。

 

 玄関の鍵は閉めた。

 

 窓も確認してある。

 

 風で何かが落ちたにしては、音が重い。

 

 はやては車椅子の車輪へ手をかけ、廊下へ出た。

 

 暗い家の奥。

 

 本棚の前で、何かが淡く光っている。

 

 はやてが普段触れることのない、古びた本だった。

 

 黒い表紙。

 

 十字に巻かれた鎖。

 

 いつから家にあったのかも分からない。

 

 物心がついた頃には、すでにそこに置かれていた。

 

 その本が今、ひとりでに宙へ浮かんでいる。

 

「え……」

 

 鎖が鳴る。

 

 錠が砕ける。

 

 黒い表紙が、はやての目の前でゆっくりと開いた。

 

 そこから溢れ出したのは、風だった。

 

 閉め切った室内のどこからも入ってくるはずのない風が、床に積んであった雑誌を吹き飛ばし、カーテンを大きく揺らす。

 

「ちょ、ちょっと待ってえな!」

 

 はやては咄嗟に車輪を止めた。

 

 逃げようにも、廊下は狭い。

 

 何より、自分の足は動かない。

 

 本の頁が勝手にめくられていく。

 

 白紙だったはずの頁に、赤黒い文字が浮かんだ。

 

 読めない。

 

 見たことのない文字だった。

 

 それでも、その本が自分を見ているのだと、なぜか分かった。

 

 床へ光が走った。

 

 巨大な円が描かれる。

 

 その内部を、複雑な線と文字が埋め尽くしていく。

 

 はやての車椅子は、光の中心にあった。

 

「なんなん、これ……」

 

 怖かった。

 

 声が震える程度には。

 

 けれど、叫んでも誰も来ない。

 

 助けを呼んだところで、この現象を説明できるとも思えなかった。

 

 はやては両手で肘掛けを握りしめ、目の前の本を睨んだ。

 

「うちに、なんか用なん?」

 

 問いかけに応じるように、頁の光が強くなる。

 

 次の瞬間。

 

 四つの光が、室内へ降り立った。

 

 一つは、炎のような赤。

 

 一つは、柔らかな緑。

 

 一つは、鋭い紫。

 

 一つは、深い青。

 

 光の中から現れたのは、人だった。

 

 長い桃色の髪を持つ女。

 

 金色の髪をした穏やかそうな女。

 

 赤い服をまとった、小柄な少女。

 

 そして、青い衣を身につけた大柄な男。

 

 全員が、見慣れない服装をしている。

 

 女の腰には剣。

 

 小柄な少女の手には巨大な鉄槌。

 

 大男の腕や脚には、獣を思わせる装具。

 

 どう見ても、普通の客ではなかった。

 

 はやてはしばらく瞬きを繰り返した。

 

 不法侵入者。

 

 強盗。

 

 外国人。

 

 舞台役者。

 

 頭に浮かんだ可能性を順番に検討したが、どれも目の前の光景を説明できない。

 

 長い髪の女が、最初に動いた。

 

 はやての前で片膝をつく。

 

 ほかの三人も、それに続いた。

 

「我ら、闇の書に集いし守護の騎士」

 

 低く、よく通る声だった。

 

「主の命のもとに集い、主の命のもとに戦う者」

 

 女は頭を垂れた。

 

「我らが主。八神はやて」

 

 はやては自分の胸元を指さした。

 

「うち?」

 

「はい」

 

「なんで名前知っとるん?」

 

 誰も答えなかった。

 

 答えに困ったというより、質問の意味を理解できていないような沈黙だった。

 

 はやては四人を順に見る。

 

 全員、真剣だった。

 

 冗談を言っているようには見えない。

 

「ええと……」

 

 何から聞けばいいのか分からない。

 

 とりあえず、一番気になったことを口にした。

 

「床、冷たない?」

 

 四人が顔を上げた。

 

「いや、ずっと膝ついとったら痛いやろ。立ってええよ」

 

 誰も動かない。

 

「立ってええって」

 

「しかし、我らは主の御前に――」

 

「うち、そういうん慣れてへんから」

 

 はやては少し困ったように笑った。

 

「見上げて話すんも首痛いし。立つか、椅子に座ってくれへん?」

 

 最初に反応したのは、小柄な少女だった。

 

「こいつが……主?」

 

「ヴィータ」

 

 長い髪の女が、嗜めるように名前を呼ぶ。

 

「だってよ、シグナム。どう見たってただのガキじゃねえか」

 

「ヴィータも、そんな変わらへんように見えるけど」

 

「アタシはガキじゃねえ!」

 

 反射的に言い返した少女――ヴィータの声が、静かな家に響いた。

 

 その声を聞いて、はやては少しだけ安心した。

 

 少なくとも、話は通じる。

 

 金髪の女が、おずおずと口を開いた。

 

「お身体は……」

 

「足?」

 

 はやては自分の膝へ視線を落とした。

 

「昔からや。動かへんけど、手は元気やし、車椅子あったらだいたいのことはできるで」

 

「そう、ですか」

 

 女はなぜか悲しそうな顔をした。

 

 初対面の人にそんな顔をされると、はやての方が困る。

 

「ところで」

 

 はやては話題を変えた。

 

「みんな、名前は?」

 

 長い髪の女が目を瞬いた。

 

「先ほど申し上げたとおり、我らは――」

 

「守護の騎士なんは聞いた。せやけど、名前知らんかったら呼べへんやろ」

 

「……シグナムと申します」

 

「私はシャマルです」

 

「ヴィータ」

 

 大男は少し間を置いてから答えた。

 

「ザフィーラ」

 

「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ」

 

 はやては一人ずつ顔を見ながら繰り返した。

 

「うちは八神はやて。もう知っとるみたいやけど、改めてよろしくな」

 

 守護騎士たちは、誰も答えなかった。

 

 主が守護騎士へ名乗る。

 

 よろしくと頭を下げる。

 

 彼らの記憶にある過去の主たちは、そのようなことをしなかった。

 

 命令を下す者はいた。

 

 力を求める者もいた。

 

 彼らを兵器として扱う者もいた。

 

 だが、最初に名前を尋ねた者はいない。

 

「で」

 

 はやては四人の背後に浮かぶ黒い本を指さした。

 

「あれは何なん?」

 

「闇の書です」

 

 シグナムが答えた。

 

「我らと主を結ぶ魔導書です」

 

「さっき、守護の騎士とか言うてたな」

 

「はい。我らは主を守護し、主の望みを叶えるために存在します」

 

「なんでも?」

 

「御命令とあらば」

 

 はやては考え込んだ。

 

 ヴィータが不審そうに眉を寄せる。

 

「なんだよ。さっさと命令しろよ」

 

「ほんなら」

 

 はやては顔を上げた。

 

「まず、その物騒そうなん片づけてくれる?」

 

「は?」

 

「剣とか金槌とか。家ん中で振り回したら危ないし」

 

 ヴィータが自分の鉄槌を見た。

 

 シグナムも腰の剣へ目を落とす。

 

「それから、近所迷惑にならんよう静かにな」

 

「主よ」

 

「はやてでええよ」

 

「それは……」

 

「主とか呼ばれるん、くすぐったいねん」

 

「しかし」

 

「命令したら聞いてくれるんやろ?」

 

 シグナムが言葉に詰まった。

 

 はやては少し得意そうに笑った。

 

「ほんなら、うちのことは、はやてって呼ぶこと」

 

「それは命令でしょうか」

 

「お願い」

 

「では、承服いたしかねます」

 

「かたいなあ」

 

 はやては頬を膨らませた。

 

 その様子を見て、シャマルが初めて小さく笑った。

 

 つられるように、ヴィータの肩からも少しだけ力が抜ける。

 

 ザフィーラだけは表情を変えなかったが、張り詰めていた空気はわずかに和らいだ。

 

 はやては時計を見た。

 

 もう日付は変わっている。

 

「みんな、晩ご飯は?」

 

「必要ありません」

 

「食べへんの?」

 

「我らは活動に食事を必要としません」

 

「でも、食べられへんわけやないんやろ」

 

「それは……」

 

 はやては車椅子を台所の方へ向けた。

 

「ケーキあるんや。一人で食べても余るし、一緒に食べよ」

 

「ケーキ?」

 

 ヴィータが反応する。

 

「甘いやつ」

 

「知ってる!」

 

「ほんなら決まりやな」

 

 はやては車輪を動かした。

 

 しかし、廊下に散らばった雑誌が邪魔になり、前輪が引っかかる。

 

「あ」

 

 身体が傾くより早く、ザフィーラが車椅子を支えた。

 

「おおきに」

 

「当然のことだ」

 

「せやけど、助かったから。ありがとう」

 

 ザフィーラは黙った。

 

 感謝されることにも、まだ慣れていない。

 

「シグナムは皿出して。シャマルは紅茶お願いしてええ? ヴィータは……」

 

「なんだよ」

 

「散らかった本、集めてくれる?」

 

「なんでアタシが!」

 

「誕生日の主の命令」

 

「くっ……!」

 

 不満そうにしながらも、ヴィータは床へ散らばった雑誌を拾い始めた。

 

 シグナムは食器棚の前で、どの皿を使うべきか真剣に悩んでいる。

 

 シャマルは台所の器具を前に首を傾げていた。

 

 ザフィーラは車椅子の後ろへ立ち、何をすればいいのか分からない様子ではやてを見ている。

 

 ほんの少し前まで、家には自分一人しかいなかった。

 

 それが今は、急に騒がしくなった。

 

 はやては冷蔵庫から小さな箱を取り出した。

 

「今日は、うちの誕生日やねん」

 

「誕生日?」

 

 シャマルが聞き返す。

 

「せや。今さっき九歳になった」

 

 守護騎士たちは互いの顔を見た。

 

 自分たちが目覚めた日。

 

 新しい主が生まれた日。

 

 そして、彼女が一人で迎えるはずだった誕生日。

 

「そうでしたか」

 

 シグナムが静かに言った。

 

「おめでとうございます、我らが主」

 

「おめでとう、はやてちゃん」

 

 シャマルが続いた。

 

 ザフィーラも深く頭を下げる。

 

「祝福を、我が主に」

 

 ヴィータだけが少し恥ずかしそうに顔を背けた。

 

「……おめでと」

 

「うん。ありがとう」

 

 はやては笑った。

 

 その笑顔を見て、四人の守護騎士は知らず知らずのうちに沈黙した。

 

 命令に従うことは知っている。

 

 敵を倒す方法も知っている。

 

 主の願いを叶えるため、世界を渡り歩いた記憶もある。

 

 だが、自分たちが誰かの誕生日を祝った記憶はなかった。

 

 ましてや、祝った相手から、あれほど嬉しそうに礼を言われたことなど。

 

「来年も」

 

 はやてがケーキの箱を開けながら言った。

 

「みんなで祝えたらええな」

 

 その一言が、四人の胸へ深く刻まれた。

 

 来年。

 

 未来。

 

 主とともに過ごす時間。

 

 守護騎士にとって、それまで考える必要のなかったもの。

 

 黒い本の頁が、誰にも触れられないまま一枚だけ揺れた。

 

 この夜、闇の書と八神はやては、切り離せない形で結ばれた。

 

 それが何を意味するのか。

 

 はやても、目覚めたばかりの守護騎士たちも、まだ知らなかった。

 

     ◇

 

 それから、半年。

 

 八神家の朝は、以前とは比べものにならないほど騒がしくなっていた。

 

「ヴィータ。牛乳こぼれとるで」

 

「ザフィーラがぶつかったんだ!」

 

「私は動いていない」

 

「ほんなら誰がこぼしたん?」

 

「……アタシ」

 

「雑巾持ってきてな」

 

「はいはい」

 

 ヴィータが不満そうに席を立つ。

 

 台所では、シャマルが卵焼きと格闘していた。

 

 焦げた匂いが漂い始め、シグナムが無言で火を弱める。

 

「シャマル。火が強い」

 

「大丈夫よ。今日は上手くいく気がするの」

 

「昨日も同じことを言っていた」

 

「昨日よりは上手よ」

 

「昨日は炭だったからな」

 

「ヴィータちゃん?」

 

「なんでもねえ!」

 

 はやては食卓で笑っていた。

 

 食事をする者。

 

 料理を作る者。

 

 文句を言いながら片づける者。

 

 静かに周囲を見守る者。

 

 半年前まで空っぽだった家には、今や家族の声が絶えない。

 

 はやてにとって、四人がどこから来たのかは、まだよく分かっていない。

 

 闇の書。

 

 守護騎士。

 

 魔法。

 

 説明は受けたが、全てを理解できたわけではない。

 

 それでも、彼らが自分を大切にしてくれていることだけは分かった。

 

 それで十分だった。

 

「今日、図書館行こう思うねんけど」

 

 はやてが紅茶を飲みながら言った。

 

「私がご一緒します」

 

 シャマルが即座に答える。

 

「ううん。一人で大丈夫や。近いし」

 

「しかし」

 

「最近、みんな過保護やで」

 

「当然です」

 

 シグナムの返答には迷いがなかった。

 

「主の身を守ることが、我らの役目です」

 

「はやてでええのに」

 

「それとこれとは別です」

 

「シグナムはほんま、かたいなあ」

 

 いつもの会話。

 

 いつもの朝。

 

 ただ一つ。

 

 はやてがカップを置く際、指先にわずかな震えがあったことを、四人は見逃さなかった。

 

「はやてちゃん?」

 

「ん?」

 

「具合、悪くない?」

 

「平気やよ」

 

「でも」

 

「昨日ちょっと夜更かししたからや。読み始めた本が面白くてな」

 

 はやては笑って誤魔化した。

 

 その顔色が以前より白いことを、守護騎士たちは知っている。

 

 疲れやすくなっている。

 

 眠る時間も増えた。

 

 足の麻痺だけではない。

 

 闇の書と主を結ぶ経路が、はやての身体を静かに蝕んでいる。

 

 だが、はやて本人には知らせていない。

 

「それなら、せめて私が途中まで――」

 

「シャマル」

 

 はやては苦笑した。

 

「図書館では、すずかちゃんと会う約束しとるんよ」

 

「すずかちゃん?」

 

「この前、話したやろ。本の趣味が合う子」

 

「ああ、月村さん」

 

「今日はおすすめの本、持ってきてくれるんやって」

 

 はやては楽しそうに言った。

 

「せやから、ほんまに大丈夫。帰りに連絡もするから」

 

 その笑顔を前にして、シャマルも強くは言えなかった。

 

     ◇

 

 図書館の窓から、冬の淡い陽が差し込んでいた。

 

 すずかとはやてが、ここで初めて言葉を交わしてから、数週間が過ぎていた。

 

「はやてちゃん」

 

 呼ばれて、はやては本棚から顔を出した。

 

「すずかちゃん。もう来とったん?」

 

「うん。少し早く着いたの」

 

 月村すずかは、胸元に本を抱えていた。

 

 深い青色の表紙。

 

 以前、はやてが読みたいと言っていた物語だった。

 

「それ、持ってきてくれたん?」

 

「うん。たぶん、はやてちゃんも好きだと思う」

 

「おおきに。楽しみにしとったんよ」

 

 すずかが本を差し出す。

 

 はやては両手で受け取り、大事そうに膝の上へ置いた。

 

 初めは、同じ棚で本を探していただけだった。

 

 次に会った時には挨拶をした。

 

 その次には、お互いに読んだ本の感想を話した。

 

 会う回数が増えるたび、話す時間も少しずつ長くなった。

 

 今では、図書館で待ち合わせることもある。

 

 すずかにとって、はやてはもう「図書館で見かけた少女」ではなかった。

 

 最近できた、大切な友達の一人だった。

 

「すずかちゃんが前に教えてくれた本も、面白かったで」

 

「本当?」

 

「うん。お屋敷の地下に秘密の部屋があるやつ」

 

「最後まで読んだの?」

 

「昨日、夜更かししてもうた」

 

「駄目だよ。ちゃんと寝ないと」

 

「シャマルにも同じこと言われたわ」

 

 はやてが笑う。

 

「シャマルさんって、はやてちゃんの家族の人?」

 

「うん。最近、家族が増えたんよ」

 

「増えた?」

 

「ちょっと口うるさい人と、料理が苦手な人と、すぐ怒る子と、無口な人」

 

 すずかは目を瞬いた。

 

「それ、本当に家族の紹介?」

 

「みんな、ええ人やで」

 

 はやては嬉しそうに笑った。

 

 その笑顔を見て、すずかも微笑む。

 

 けれど。

 

 はやてが上段の本へ手を伸ばした瞬間、その笑みは消えた。

 

 伸ばした腕が途中で止まる。

 

 肩が小さく上下していた。

 

「はやてちゃん?」

 

「ああ、平気や」

 

 はやては本棚に手をつき、息を整える。

 

「ちょっと腕伸ばしすぎただけやって」

 

「でも、苦しそうだよ」

 

「ほんまに大丈夫」

 

 いつもより少しだけ早口だった。

 

 心配をかけたくない時、はやてはこういう話し方をする。

 

 何度か会ううちに、すずかにも分かるようになっていた。

 

 すずかは、はやてが取ろうとしていた本へ手を伸ばした。

 

「これ?」

 

「うん。おおきに」

 

 受け取る時、はやての指先がわずかに震えた。

 

 すずかの胸の奥に、冷たいものが落ちた。

 

 最初に出会った時よりも、顔色が悪い。

 

 疲れやすくなっている。

 

 それは小尾一に頼まれて観察しているから気づいたことではない。

 

 友達として、はやてのことを見ているから分かったことだった。

 

「今日は、早めに帰った方がいいんじゃない?」

 

「もうちょっとだけ」

 

「でも」

 

「すずかちゃんと話したかったし」

 

 はやては悪意なく言った。

 

 その言葉が、すずかの胸へ刺さる。

 

 はやては何も知らない。

 

 小尾一に目をつけられていることも。

 

 自分の身体へ、正体の分からないものを残されていることも。

 

 すずかがその事実を知りながら、何も話せずにいることも。

 

 最初は、見張るつもりだった。

 

 小尾一がはやてに何をしたのか。

 

 これから何をするつもりなのか。

 

 少しでも知るために、図書館で会えば声をかけた。

 

 だが、何度も同じ本を読み、感想を話し、お互いの好きな物語を教え合ううちに、そんな理由だけでは近くにいられなくなった。

 

 八神はやては、すずかの友達になっていた。

 

「すずかちゃん?」

 

「……ううん。なんでもない」

 

 すずかは首を横へ振った。

 

「じゃあ、少しだけね」

 

「うん」

 

 二人は窓際の席へ並んだ。

 

 はやてが借りた本を開く。

 

 すずかはその横顔を見ながら、膝の上で拳を握った。

 

     ◇

 

 はやてが図書館へ出かけたあと。

 

 八神家に残った四人の間から、先ほどまでの穏やかな空気が消えていた。

 

 テーブルの上には、黒い魔導書が置かれている。

 

 開かれた頁は、ほとんどが白紙のまま。

 

 この話し合いは、今日が初めてではなかった。

 

 はやての眠る時間が増えるたび。

 

 食事の量が減るたび。

 

 何でもないことのように笑いながら、息を整える姿を見るたび。

 

 四人は何度も、同じ結論の前まで来ていた。

 

 それでも、はやてが望んでいないことを理由に、決断を先送りにしてきた。

 

 だが、もう限界だった。

 

「侵食が進んでいる」

 

 シャマルが沈んだ声で言った。

 

「このままでは、はやてちゃんの身体が……」

 

「分かっている」

 

 シグナムは目を閉じた。

 

「我らが動かなければならない」

 

「けど、はやては蒐集を望んでねえ」

 

 ヴィータが拳を握る。

 

 はやては一度も、闇の書を完成させろと命じなかった。

 

 力を欲しがることもなかった。

 

 守護騎士たちへ、誰かを傷つけろと言ったこともない。

 

 むしろ、戦う必要などないと笑った。

 

 自分たちには、この家で普通に暮らしてほしいと願った。

 

「主命に背くことになる」

 

 ザフィーラが低く言う。

 

「でも、このままじゃ主が死ぬ!」

 

 ヴィータの声が荒くなる。

 

「アタシたちは、はやてを守るためにいるんだろ!」

 

「そのとおりだ」

 

 シグナムが目を開いた。

 

 迷いは消えていた。

 

「主の意思に反することになろうとも、主の命を守る」

 

 守護騎士として正しい選択なのか。

 

 家族として正しい選択なのか。

 

 誰にも分からない。

 

 だが、何もしなければ、はやての身体は弱っていく。

 

 彼らには、それを見ていることなどできなかった。

 

「闇の書の頁を埋める」

 

 シグナムが宣言する。

 

「ただし、主には知られてはならない」

 

「当然だ」

 

「蒐集対象は慎重に選ぶ。無用な殺傷は避ける」

 

 ヴィータは頷いた。

 

 シャマルだけが、不安を拭えないまま黒い本を見つめていた。

 

 本当に、完成させればはやてを救えるのか。

 

 自分たちの記憶は、正しいのか。

 

 疑問はある。

 

 それでも、ほかに方法はなかった。

 

    

     ◇

 

 その日の夕方。

 

 小尾一が工房として利用している児童養護施設、その地下室で、彼は一台の液晶ディスプレイを眺めていた。

 

 電源ケーブルはつながっていない。

 

 映像入力端子にも、何も差し込まれていない。

 

 それでも、黒い画面には白い線が規則的に走っている。

 

 心電図に似ていた。

 

 だが、病院で使われるものとは波形が違う。

 

 画面の中央には、円と十字を組み合わせた単純な図形が表示されていた。

 

 人間の身体を模したものではない。

 

 ディスプレイは、なのはの内部に眠るセフィラそのものを映しているわけではない。

 

 小尾一は設置時、セフィラの周囲へ観測用の副術式を折り込んでいた。

 

 セフィラと深く結びついた魔力核の変動を拾い、遠隔地へ信号として送るためのものだ。

 

 画面は、その信号を波形へ置き換えて表示している。

 

 魔術的な象徴を、そのまま電子回路へ入力することはできない。

 

 そこで、機械の形と役割を魔術的な象徴へ置き換えた。

 

 円は核。

 

 十字は、そこから広がる力。

 

 画面の明滅は、受信した反応の強弱を示している。

 

 ディスプレイそのものに、電子機器としての機能は求めていない。

 

 画面。

 

 表示装置。

 

 遠くにある情報を、ここへ映し出すもの。

 

 その役割を、魔術的な意味へ置き換えている。

 

 筐体の内部には、すでに本来の基板がない。

 

 代わりに収められているのは、幾つもの代用シンボルと、意味を接続する術式だった。

 

 コードがなくても動いているのではない。

 

 最初から、電気で動いていない。

 

「安定してる」

 

 小尾一は椅子を揺らしながら呟いた。

 

 画面から読み取れるものは多くない。

 

 対象の正確な視界も、音声も、思考も分からない。

 

 大まかな活動状態。

 

 身体へかかっている負荷。

 

 内部の力が増えているか、減っているか。

 

 急激に放出されたか。

 

 あるいは、消耗したあとで再び蓄積されているか。

 

 生命活動が危険な領域へ近づいているかどうか。

 

 それだけだ。

 

 それでも、観察には十分だった。

 

 高町なのはの内部にある力は、観測を始めてから何度も大きく減っては戻っている。

 

 日によっては、短時間に急激な放出を繰り返すこともあった。

 

 運動にしては変化が大きすぎる。

 

 感情の高まりだけでも説明できない。

 

 本人が意識して、身体の中にある何かを動かしている。

 

 そして、以前よりも無駄な消耗が減っていた。

 

「扱い方を覚えてるな」

 

 小尾一は画面へ指を伸ばした。

 

 白い波形を指先でなぞる。

 

「同じくらい動かしてるのに、戻るまでの時間が短くなってる」

 

 セフィラが育っているわけではない。

 

 発芽の兆候もない。

 

 変化しているのは、高町なのは自身が持つ力の使い方だった。

 

 地下室の扉が開いた。

 

「また、なのはちゃんを見てるの?」

 

 月村すずかが入ってきた。

 

 以前のような遠慮はなかった。

 

 警戒はしている。

 

 恐怖も消えてはいない。

 

 けれど、必要以上に怯えてみせることはなくなった。

 

「おかえり、すずか」

 

「ただいまじゃないよ」

 

「じゃあ、いらっしゃい」

 

「それも変」

 

 すずかは鞄を机の横へ置いた。

 

 そのまま部屋の隅にある小さな棚へ向かう。

 

 電気ケトルへ水を入れ、スイッチを押した。

 

 棚には、紙コップとインスタントコーヒーが置かれている。

 

 工房へ通うようになってから、すずかが持ち込んだものだった。

 

 以前なら、小尾一のために飲み物を用意するなど考えもしなかった。

 

 だが、何度もここへ通ううちに、作業へ入る前に湯を沸かすことが習慣になっていた。

 

 慣れたわけではない。

 

 少なくとも、すずかはそう思いたかった。

 

 小尾一は、飲み物の種類にはこだわらない。

 

 放っておけば、水分を取ること自体を忘れるくせに、苦いものだけは好まなかった。

 

 すずかは紙コップを二つ並べ、それぞれにインスタントコーヒーを入れた。

 

 湯を注ぎ、自分の分には何も入れない。

 

 もう一方には、砂糖を一袋。

 

 二袋。

 

 三袋。

 

 いつものように、さらに何袋か続けて流し込む。

 

 手順そのものには、すっかり慣れていた。

 

 けれど、紙コップの底へ沈んでいく白い山を見るたび、これを飲み物と呼んでよいのかという疑問だけは消えない。

 

「……はい。いつもの」

 

 すずかは少し引いた顔で、紙コップを小尾一の前へ置いた。

 

「ありがとう」

 

 小尾一は画面から目を離さず、一口飲む。

 

「もう少し甘くてもいいな」

 

「これ以上は入れないよ」

 

「まだ溶けるのに」

 

「溶けるかどうかの問題じゃないから」

 

 すずかは残った砂糖を、小尾一の手が届かない棚の端へ移した。

 

 すずかは自分の分を両手で持ち、液晶画面を覗き込んだ。

 

「なのはちゃん、どうなの?」

 

「元気」

 

「本当に、それだけしか分からないの?」

 

「失礼だな。元気の程度も分かる」

 

「同じだよ」

 

「全然違うよ」

 

 小尾一は紙コップへ口をつけた。

 

 熱かったらしく、一度だけ眉を動かした。

 

 それでも口から離さず、そのまま飲む。

 

「それで……ええと、なんだっけ。図書館の子」

 

「はやてちゃん」

 

「そう、それ」

 

 すずかの眉がわずかに寄った。

 

「名前、覚えてるくせに」

 

「覚えてはいるよ。すぐ出てこなかっただけ」

 

「嘘」

 

「信用がないなあ」

 

「今日も会ったよ」

 

「様子は?」

 

 先ほどまでのふざけた調子を残したまま、小尾一が尋ねる。

 

 すずかは紙コップを握り直した。

 

「前より、顔色が悪くなってた」

 

「ほかには?」

 

「高いところの本を取ろうとしただけで、息を切らしてた。指も少し震えてた」

 

「へえ」

 

「へえ、じゃないよ」

 

 すずかの声が僅かに強くなる。

 

「はやてちゃん、本当は平気じゃないと思う」

 

「本人はなんて?」

 

「大丈夫だって」

 

「なら、今のところは大丈夫なんじゃない?」

 

「そういう意味じゃないでしょ」

 

 小尾一は笑った。

 

「すずかも、ずいぶん仲良くなったね」

 

「友達だから」

 

 迷いのない返答だった。

 

 小尾一が目を細める。

 

「最初は様子を見るために近づいたんじゃなかった?」

 

「そうだよ」

 

「今は違う?」

 

「違う」

 

 すずかは小尾一を真っすぐ見た。

 

「はやてちゃんは、私の友達」

 

「なるほど」

 

 小尾一は面白そうに頷いた。

 

「それなら、細かい変化にも気づけるね」

 

 すずかの表情が硬くなる。

 

「そういう言い方、やめて」

 

「どういう?」

 

「何でも実験に使えるみたいに言うの」

 

「使えるものを使えると言ってるだけだよ」

 

「私は、はやてちゃんを監視するために友達になったんじゃない」

 

「結果的に情報は持ってきてくれたけど」

 

「小尾くん」

 

 低い声で名前を呼ばれ、小尾一は肩をすくめた。

 

「怒らないでよ。友達になったのは、すずかが自分で決めたことだ。僕は止めてないし、命令もしてない」

 

「当たり前でしょ」

 

「うん。だから、その友情はすずかのものだよ」

 

 小尾一は再びディスプレイへ向き直った。

 

「僕にとって利用価値があることとは、別の話だけど」

 

 すずかは返す言葉を失った。

 

 否定しても意味がない。

 

 小尾一は、すずかの友情そのものを偽物だと言っているわけではない。

 

 本物だと認めた上で、それが観測に役立つと評価している。

 

 だからこそ、気味が悪い。

 

「はやてちゃんを調べないの?」

 

 すずかが尋ねる。

 

「調べてるよ。ゆっくりと」

 

「なのはちゃんみたいに、あの画面では見られないの?」

 

「同じものは作れない」

 

「どうして?」

 

「定着した反応が違うから」

 

 小尾一は画面上の代替記号を指で叩いた。

 

「高町なのはの方は、内部に仕込んだものが比較的安定してる。接続も素直だ。八神はやての方は、何か別のものが邪魔をしてる」

 

「別のもの?」

 

「分からない」

 

 小尾一はあっさり答えた。

 

「大きさも、形も、役割も不明。少なくとも、僕が入れたものよりずっと前から、あの子の身体の深いところへ結びついてる」

 

「それが、はやてちゃんの具合を悪くしてるの?」

 

「可能性はある」

 

 すずかが息を止める。

 

「あるの?」

 

「候補としては、一番濃い」

 

 小尾一は紙コップを揺らした。

 

「僕が設置したものは、今のところ沈黙してる。それとは別に、あの子の身体へ深く結びついた何かがある。それが体調悪化の原因かどうかは、まだ分からない。ただ、無関係だと決めつける理由もない」

 

「じゃあ、やっぱり調べないと」

 

「調べるには、まず邪魔してるものの仕組みを知る必要がある」

 

「どうやって?」

 

「だから、観察してる」

 

「悪くなってからじゃ遅いかもしれないよ」

 

「それは、どんな病気でも同じだね」

 

「小尾くんには関係ないってこと?」

 

「優先度が低いってこと」

 

 小尾一は淡々と告げた。

 

「八神はやての方は、変化はあるけど正体が見えない。高町なのはの方は、何をしているか分からなくても、力の動きははっきりしてる」

 

「なのはちゃんの方が大事なの?」

 

「面白い」

 

 すずかは眉を寄せた。

 

「同じことだよ」

 

「全然違うよ」

 

 小尾一が笑う。

 

 その時。

 

 液晶画面の波形が跳ねた。

 

 一度。

 

 二度。

 

 直後、それまで一定だった白い線が、激しく上下へ振れ始める。

 

 小尾一の笑みが消えた。

 

「……へえ」

 

「何?」

 

 画面中央の代替記号が明滅する。

 

 高町なのはの身体の中心にある力が、急激に活性化していた。

 

 これまでにも似た変動はあった。

 

 だが、今回は規模が違う。

 

 蓄積されていた力が、一気に外側へ流れ始めている。

 

 身体の負荷も上がっていた。

 

 緊張。

 

 警戒。

 

 何かへ備えるような反応。

 

「なのはちゃんに、何かあったの?」

 

「たぶん」

 

「たぶんって」

 

「映像は見えないからね」

 

 小尾一は椅子を画面へ寄せた。

 

 ディスプレイの脇に設置されたダイヤルを回す。

 

 本来は表示の明暗を調整するための部品だが、今は術式の参照範囲を切り替えるシンボルとして利用している。

 

 隣に置かれた、同じく電源のつながっていない二台目のディスプレイが点灯した。

 

 一台目は、なのはの内部にある力の増減。

 

 二台目は、その反応が海鳴市のどこから届いているかを示すためのものだった。

 

 受信に使っているのは、電波ではない。

 

 海鳴市の地下を走る龍脈だった。

 

 なのはたちの通う小学校へ転校してから、小尾一は何度も海鳴市を歩き回っていた。

 

 神社。

 

 祠。

 

 埋められた水路の跡。

 

 不自然に曲がった古い道。

 

 現在の街並みに残る、土地の癖を自分の足で確かめるためだった。

 

 その後、図書館から海鳴市の古地図を借りた。

 

 現在の地図から消えた川筋や街道を、歩いて得た感触と重ね合わせる。

 

 そうすることで、土地の下を流れる力の本来の道筋が見えてきた。

 

 小尾一は、その二つを照合し、海鳴市を走る龍脈の本流と支流、いくつかの節点を割り出していた。

 

 なのはの内部へ仕込んだ副術式は、魔力核の変動を微弱な信号へ変え、現在地に対応する龍脈の支流へ流す。

 

 地下の処置室に据えた礼装は、その信号がどの支流を通って届いたかを読み取り、大まかな位置と移動方向へ置き換えていた。

 

 二台目の画面上で、白い点が急速に移動する。

 

 高町なのはは、海鳴市内を高速で動いていた。

 

 人間が走って出せる速度ではない。

 

「飛んでる?」

 

 小尾一が呟く。

 

「え?」

 

「いや。まだ分からない」

 

 波形がさらに大きくなる。

 

 なのはの周囲へ、何らかの構造が展開された。

 

 セフィラに付属させた観測機構を通して伝わるのは、その圧力と負荷だけ。

 

 何を作ったのかは分からない。

 

 だが、身体を包み、外部から守るものに近い。

 

「これは……」

 

 小尾一は画面へ顔を近づけた。

 

 今まで、なのはが密かに何をしていたのか。

 

 その答えへ近づいている。

 

     ◇

 

 海鳴市上空。

 

 赤い騎士服をまとったヴィータは、冬の夜空に立っていた。

 

 右手には、黒と赤を基調とした巨大な鉄槌が握られている。

 

 名は、グラーフアイゼン。

 

 魔法を補助し、主とともに戦う意思ある武器――アームドデバイス。

 

 口数は少ないが、ヴィータの命令に従い、魔力制御から周囲の探査までを担う忠実な相棒だった。

 

 その柄に組み込まれた宝石が、断続的に光る。

 

 周囲へ放った探査の術式が、遠くにある大きな魔力を捉えていた。

 

『Gefunden.』

 

 短い機械音声。

 

 発見。

 

 その意味を理解し、ヴィータは目を細めた。

 

 遠くに、大きな力がある。

 

 一度の蒐集対象としては、破格の力だった。

 

「見つけた」

 

 ヴィータはグラーフアイゼンを握り直した。

 

 はやての顔が浮かぶ。

 

 食卓で笑う顔。

 

 テレビを見ながら自分の頭を撫でる手。

 

 体調が悪いことを隠し、心配させまいと笑う姿。

 

 早く。

 

 一頁でも多く。

 

 闇の書を完成させなければならない。

 

 そうすれば、はやてを救える。

 

 自分たちは、来年も一緒にいられる。

 

 あの小さなケーキを、今度はもっと大勢で囲める。

 

 ヴィータは夜空を蹴った。

 

     ◇

 

 自室の窓辺で、高町なのはは顔を上げた。

 

 遠くから、知らない力が近づいてくる。

 

 鋭く。

 

 まっすぐに。

 

 自分を目指して。

 

「レイジングハート」

 

『Yes, my master.』

 

 赤い宝石が光る。

 

 なのはは窓を開けた。

 

 冷たい冬の風が、室内へ流れ込む。

 

 同じ瞬間。

 

 地下室で、小尾一のディスプレイが大きく明滅した。

 

 なのはの反応へ、別の異質な何かが急速に接近している。

 

 何者なのか。

 

 何をしに来たのか。

 

 まだ分からない。

 

 だからこそ、小尾一は笑った。

 

「高町なのはのところに、何か来た」

 

 すずかが息を呑む。

 

 画面上で、二つの反応が重なった。

 

 夜天に集った紅の騎士と。

 

 空を駆ける白い少女。

 

 二つの光が、冬の夜空で衝突しようとしていた。

 

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