真祖吸血鬼、まだ存在しないアメリカに寄生する 〜合法的な血液供給のため、建国前から国家運用保守を始めました〜   作:パラレル・ゲーマー

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第19話 真祖吸血鬼、六人の無罪と二人の焼印を見る

 一七七〇年十一月二十七日。

 

 プレストン大尉に無罪の評決が下されてから、約一か月が経過していた。

 

 凍てつくような海風が吹き抜けるボストンの街では、前回の判決を巡る熱を帯びた議論が、いまだ路地裏や酒場で燻り続けていた。

 

「おい、大尉が撃てと命じていないのなら、あの赤服どもは勝手に市民を撃ち殺したってことになるじゃないか!」

 

「なら、引き金を引いた奴らを全員吊るせ! 命令もなしに撃った方が、よほど悪質な人殺しだ!」

 

 反英派の市民たちは、プレストンの無罪を、兵士たちの有罪を裏づける結論として利用し、怒りを燃やしていた。

 

 一方で、王党派の陣営は全く別の解釈を声高に主張している。

 

「プレストン大尉が無罪となったことで、あの夜の出来事が暴徒に対する正当な自衛だったと法的に証明されたのだ! 兵士たちも当然無罪になるべきだ!」

 

 どちらの陣営も、プレストンが発砲を命じたと証明できなかったという極めて限定的な判決を、自分たちに都合のよい事件全体の結論へと強引に押し広げようとしている。

 

 仮出張所の窓から外の喧騒を眺めていた俺は、深くため息をついた。

 

「……大尉一人だけの裁判だったはずなのに、どっちも事件全体の判決が出たみたいに勝手に解釈してるな」

 

「都合のよいように事実を切り取るのは、人間の得意技だからな。一つの判決という箱の中へ、自分たちの欲しい意味だけを無理やり詰め込んでいるのだ」

 

 ギデオンが、皮肉げに鼻を鳴らした。

 

 書類の束を抱えて出張所に立ち寄っていたジョン・アダムズは、苦い表情で首を横に振った。

 

「だからこそ、兵士たちの裁判を大尉とは別に行う必要があったのです。彼らは大尉の付属物ではありません。一人一人の行為と責任を、個別に法廷の光へ晒さなければならない」

 

 そして、二度目の法廷の幕が開いた。

 

 裁判所の重い扉の向こう。

 

 被告席には、八人の兵士が一列に並んでいた。

 

 ウィリアム・ウェムズ。

 

 ジェームズ・ハーティガン。

 

 ウィリアム・マコーリー。

 

 ヒュー・ホワイト。

 

 マシュー・キルロイ。

 

 ウィリアム・ウォーレン。

 

 ジョン・キャロル。

 

 ヒュー・モンゴメリー。

 

 前回と違い、裁かれるのは一人ではない。

 

 同じ赤い軍服を着た八人の男たちが、硬い表情で並んで座っている。

 

 その光景は、街の至る所に貼られているポール・リヴィアの版画と、視覚的にはひどく似ていた。

 

 だが、法廷がこれから行おうとしているのは、彼らを残虐な赤服という一つの記号として扱うことではない。

 

 誰が撃ったのか。

 

 誰の銃が不発だったのか。

 

 誰の放った弾丸が、誰の命を奪ったのか。

 

 誰が、他の兵士の発砲を事前に助ける意思を持っていたのか。

 

 一つの塊にされた物語を、血の通った個人の行動へ、刃物で切り分けるように分解していく作業なのだ。

 

「……版画は、彼ら八人を完全に一列の塊へ並べた」

 

 俺が傍聴席で呟くと、隣に座るジョンが、前を見据えたまま静かに言った。

 

「ええ。ですが法廷は、その赤い列から彼らを一人ずつ切り離して立たせます」

 

 今回の兵士裁判では、弁護団の顔ぶれが少し変わっていた。

 

 プレストン裁判に参加した年長のロバート・オークムティに代わり、サンプソン・ソルター・ブロワーズが新たに加わった。

 

 ジョン・アダムズ。

 

 ジョサイア・クインシー・ジュニア。

 

 サンプソン・ソルター・ブロワーズ。

 

 今度はジョンが、弁護側の実質的な中心として法廷に立つ。

 

 検察側は変わらず、ロバート・トリート・ペインとサミュエル・クインシーの二人だ。

 

「プレストンを無罪にした弁護士が、今度はその無罪のせいで、自分たちで勝手に撃ったと疑われて苦しくなった部下たちまで弁護するのか。無茶苦茶な話だな」

 

 俺が言うと、ジョンは法衣の袖を直しながら答えた。

 

「同じ弁護士が両方を担当した以上、その論理的な矛盾から逃げて隠れることはできません」

 

「大尉を助けるための理屈と、兵士を助けるための理屈が衝突してるじゃないか」

 

「ええ。だからこそ、証拠という事実の方を、大尉と兵士の都合に合わせて勝手に作り替えることはできないのです」

 

 裁判長が着席し、書記が八人の兵士に対する起訴内容を読み上げ始めた。

 

 俺は、読み上げられる名前にじっと耳を傾けた。

 

 クリスパス・アタックス。

 

 サミュエル・グレイ。

 

 ジェームズ・コールドウェル。

 

 サミュエル・マーヴェリック。

 

 未来の歴史書に刻まれている五人分ではない。

 

 四人分だ。

 

 パトリック・カーの名は、殺された者としての起訴状には存在しない。

 

 代わりに傍聴席の端には、杖をついた生きたカー本人が、痛む脇腹を時折押さえながら座っている。

 

 八人の兵士たちは、この四人の殺害について、それぞれ主たる実行者、あるいは現場でその実行を助けた者として起訴されていた。

 

 検察側のサミュエル・クインシーが立ち上がり、冒頭陳述を行った。

 

 彼の主張は、兵士たちを一つの悪意の塊として縛り上げるものだった。

 

「一人の兵士の放った弾丸が死者へ当たったのだとしても、残る兵士たちが同じ目的でその発砲を助けていたのであれば、法的には全員が同等に殺人の責任を負うのである!」

 

 それに対し、ジョンは即座に反論の杭を打った。

 

「同じ場所に立っていたからといって、同じ殺意を持っていたことにはなりません。個別の行為の証明を省き、連帯責任で彼らを縛り首にすることは許されない」

 

 俺は傍聴席からそのやり取りを聞きながら、プレストン裁判以上に状況が複雑で困難だと気づいた。

 

「……おい、ジョン。誰の弾が誰に当たったか分からなくても、検察は全員が仲間として発砲を助けたってことにできるのか?」

 

「彼らが最初から市民を殺すという共通の意思と目的を持っていたことを、検察が証明できればの話です」

 

「もし、それを証明できなかったら?」

 

「共同責任の網は破れ、個別の行為の証明へ戻るしかありません」

 

 検察側も、闇雲に八人全員が一発ずつ撃って四人を殺したと主張するつもりはなかった。

 

 証拠から客観的に分かっている事実は少ない。

 

 八人が現場にいたこと。

 

 多くの銃が発射されたこと。

 

 四人が死亡したこと。

 

 複数の兵士が市民へ銃口を向けたこと。

 

 そして、マシュー・キルロイとヒュー・モンゴメリーの二人については、特定の死者との結びつきを示す証言が強いこと。

 

 検察の方針は、二段構えだった。

 

 第一段として、兵士たちは一つの部隊として市民へ武力を行使する意思を共有していたと主張し、全員を共同実行者として処罰しようとする。

 

 もしそれが崩れた場合の第二段として、少なくとも発砲と死者の関係が明確な者だけは、個別に処罰する。

 

 証拠の濃淡を理解した上での、冷徹な法廷戦術だった。

 

 一方の弁護側。

 

 ジョンは、陪審員へ三段階の防衛線を示す準備をしていた。

 

 第一段階。

 

 群衆からの攻撃によって、死亡または重大な傷害を受ける差し迫った危険があったと認められるなら、発砲は正当防衛となる。

 

 第二段階。

 

 命の危険とまでは言えなくとも、氷、貝殻、太い棒、石による殴打や、激しい罵倒による強い挑発があったと認められるなら、彼らの行為は冷静な悪意による謀殺ではなく、恐怖と激情に駆られた故殺へと罪が下がる。

 

 第三段階。

 

 発砲したこと自体、死者との因果関係、共同の殺意が証明できない兵士については無罪とする。

 

「……全員の完全無罪だけを、強引に求めるんじゃないのか?」

 

 俺が驚いて尋ねると、ジョンは静かに首を横に振った。

 

「証拠の強さが全く違う者たちへ、無理やり同じ無罪の結論を求める方が、陪審員に対して不誠実です」

 

「味方であるはずの被告人の中に、罪がある人間も混ざっていると、弁護人が認めるのか」

 

「弁護人は、実際に存在する証拠を消し去る魔術師ではないのですから」

 

 この冷静な三段階の切り分けが、後に六人無罪、二人故殺という複雑な判決を導き出す土壌となっていく。

 

 証人尋問が始まった。

 

 法廷はすぐに、深い霧の中へ迷い込んだ。

 

 焦点となったのは、そもそもあの夜、何丁の銃が撃たれたのかという根本的な事実だった。

 

「七発の銃声を聞いた」

 

 と確信を持って語る者がいる。

 

「いや、六発だったはずだ」

 

 と反論する者がいる。

 

「八発だった」

 

 と主張する者もいる。

 

「一丁は火皿の火薬が光っただけで、弾は出なかった」

 

 と証言する者がいる。

 

「左端にいた兵士の銃は不発だった」

 

「伍長ウェムズは撃っていない」

 

 目撃者たちの証言は、見事なまでにばらばらだった。

 

 俺は頭の中で地図を広げ、八人の兵士の銃列を組み立ててみた。

 

 兵士は八人。

 

 だが、実際に発射されたのは六丁か七丁の可能性が高い。

 

 対する被害者は死者四人と、負傷者が数名。

 

 一発が石畳や壁で跳弾した可能性。

 

 一発の弾丸が、複数の人間を傷つけた可能性。

 

「……現代みたいに弾道解析の技術も、弾丸の照合もない時代に、一体どうやって誰が撃った弾が誰を殺したなんて確定させるんだよ」

 

「確定させられるものだけを、確定させます」

 

 ジョンは表情を変えずに言った。

 

 その確定させられるものの一つが、伍長ウィリアム・ウェムズの無罪の基礎だった。

 

 裁判前。

 

 弁護団は、牢獄の中でウェムズから個別に話を聞いていた。

 

「誰が最初に撃つかなど、知る由もありませんでした。最初の一発が鳴った後は、頭が真っ白になり、何が起きているか分からなかった」

 

 ジョンは尋ねた。

 

「部下へ撃てと命じましたか」

 

「命じていません」

 

「発砲前に、市民を撃つ相談を仲間としましたか」

 

「していません」

 

 法廷でウェムズ本人が宣誓して語ることはない。

 

 代わりに、複数の目撃者が、彼の銃は発射されていなかったこと、彼が撃てと命令する声を聞かなかったことを証言した。

 

 検察は食い下がる。

 

「伍長という指揮官の立場にありながら、部下の発砲を止めなかった責任がある!」

 

 弁護側は跳ね返す。

 

「部下が発砲することを事前に知り、それを助ける意思がなければ、ただ同じ場所に立っていたというだけで殺人の共同実行者にはならない」

 

 ウェムズの銃が撃たれていないという事実と、事前の共謀を示す証拠がないという空白が、彼の無罪の基礎となった。

 

 ウェムズだけではない。

 

 ハーティガン。

 

 マコーリー。

 

 ウォーレン。

 

 キャロル。

 

 彼らについても、証言には空白が多すぎた。

 

 現場にいたことは間違いない。

 

 だが、

 

 確かに撃った。

 

 その弾が特定の死者へ当たった。

 

 他の兵士の発砲を事前に助ける意思があった。

 

 市民を殺す目的を共有していた。

 

 その致命的な線が、どうしても繋がらない。

 

 ある証人は、

 

「ウォーレンが撃つのを見た」

 

 と言った。

 

 しかし弁護側に追及されると、

 

「暗闇だったから、よく似た別の兵士だったかもしれない」

 

 と訂正した。

 

 ある者は、

 

「左端の男が撃った」

 

 と言ったが、別の者は、

 

「左端の銃は不発だった」

 

 と証言した。

 

 そして、ヒュー・ホワイト。

 

 彼は歩哨として、あの騒動の最初の発端にいた男だ。

 

 未来の歴史であれば、パトリック・カーを殺した主たる射手として名指しされる起訴が、書類の束に含まれているはずだった。

 

 だが、この世界ではカーが生きている。

 

 そのため、ホワイトをカー殺害の直接の実行者として名指しする一件が、起訴状の束から丸ごと消えていた。

 

 もちろん、ホワイトが法廷から外れたわけではない。

 

 残る四人の殺害については、ほかの兵士たちと同じく、実行を助けた者として訴追されている。

 

 それでも、自分の弾丸で一人の人間を殺したと名指しされる一枚が存在しないという差は大きかった。

 

「……カーが生きて法廷に座っていることで、ホワイトを直接の殺人者として名指しする罪状が、一つ消えてる」

 

「生き残った者は、死者の数を減らすだけではない」

 

 ギデオンが小声で応じる。

 

「誰が直接の殺人者として名指しされるか、その法的な位置まで変えるのだ」

 

 検察側は、個別の証明が難しいと悟ると、再び共同責任の網を広げてきた。

 

「彼らは銃口を同じ方向へ向け、一人が撃った後に次々と発砲した。これは明らかに、互いの行為を助け合っているではないか!」

 

 ジョンが即座に防ぐ。

 

「隣で不意に鳴った銃声へ、恐怖のあまり反射的に引き金を引いたことと、事前に殺人を共謀して助け合うことは全く別の問題です」

 

「彼らは互いに背中を守り、市民へ銃剣を向けて連携していた!」

 

「彼らは孤立した歩哨を救うため、士官の命令を受けて現場へ来たのです。合法的に集まったこと自体を、そのまま殺人への共謀へすり替えることはできません!」

 

 ここで、裁判の一つ目の大きな分岐点が現れた。

 

 兵士たちは歩哨を救うための合法的な部隊だったのか。

 

 それとも市民を攻撃するための違法な武装集団だったのか。

 

 合法的な目的で集まった部隊であるなら、その中の一人が恐怖や怒りから発砲したとしても、それが自動的に全員の殺人責任にはならない。

 

 検察は、事件数日前に起きたロープ製造所の乱闘を持ち出した。

 

 兵士と労働者の、血みどろの暴力的対立。

 

 その乱闘には、被告人の一人であるマシュー・キルロイも参加していた。

 

 検察側の証人が語る。

 

「兵士たちは口々に言っていました。この町の奴らへ必ず仕返しをしてやる、機会があれば発砲してやると!」

 

 検察は高らかに宣言した。

 

「三月五日の発砲は、突然の恐怖によるものではない。以前から彼らが抱いていた、市民への悪意が表面化した殺人なのだ!」

 

 この主張が、マシュー・キルロイを追い詰めた。

 

 裁判前の牢獄。

 

 ジョンはキルロイから、問題となっている過去の発言について聞き取っていた。

 

「住民へ発砲する機会があれば逃さない。そう話したのですか」

 

 キルロイは、長い沈黙の末に答えた。

 

「……酒と、仲間が殴られた怒りに任せて口走っただけです」

 

「発言したこと自体は否定しないのですね」

 

「否定しません」

 

「ならば、その言葉がなかったことにはできません」

 

 法廷では、保安官の御者であるヘミングウェイらが証言台に立ち、キルロイを指差した。

 

「キルロイは事件の前、住民へ発砲する機会があれば決して逃さないと息巻いていました!」

 

「これが悪意でなくて何なのか!」

 

 検察は、以前の敵意、当日の発砲、そしてサミュエル・グレイの死という三つの点を、一本の線へ繋げようとしていた。

 

 さらに、サミュエル・グレイの近くにいた証人が呼ばれ、法廷の空気が一変した。

 

「グレイは棒も石も持っていませんでした。両手を胸元へ入れ、ただ立っていたのです。彼がキルロイへ何かを投げたところは見ていません」

 

 証人は続けた。

 

「キルロイの銃が撃たれた直後、グレイが崩れ落ちました。その瞬間、ほかの銃は鳴っていませんでした」

 

 キルロイの射撃とグレイの死が、ほかの被告人たちの曖昧な状況とは違い、強く結びついた。

 

 ジョンが反対尋問に立つ。

 

「あなたは、キルロイがグレイ個人を明確に狙って撃ったところを見たのですか」

 

「グレイだけを狙ったかは分かりません。ですが、彼の銃が火を吹き、グレイが倒れました」

 

「グレイがキルロイを攻撃したところは?」

 

「見ていません」

 

 弁護側にとっても、反論の余地が少ない厳しい証言だった。

 

 俺は傍聴席から身を乗り出し、ジョンに小声で尋ねた。

 

「おい、これマズくないか? 前から住民を撃つって言ってて、実際に武器を持ってないグレイを撃った。これ、恐怖からの故殺じゃなくて、計画的な謀殺として死刑になる流れじゃないのか?」

 

「検察は当然、そう主張します」

 

「違う可能性なんてあるのかよ」

 

「あの過去の発言が、本当に実行へ移すつもりの計画的な殺意だったのか。それとも、酒場での怒りに任せた放言にすぎなかったのか。グレイ本人への特定の悪意だったのか。市民全体へ向けた無責任な敵意だったのか」

 

「でも、現実に撃ったじゃないか」

 

「その夜の物理的な攻撃と混乱が、発砲の直接の引き金だった可能性も残されています」

 

 謀殺と故殺の差。

 

 血が冷えた状態での、悪意と決意による殺人か。

 

 その場の激しい挑発と恐怖によって理性を失った、激情による殺害か。

 

 法廷は、数か月前の人間の心の温度を、不完全な証言から推し量らなければならない。

 

 検察はさらに、ロープ製造所の乱闘でキルロイとグレイが直接遭遇し、以前から恨みがあったからこそ見つけて撃ったのだという物語を構築しようとした。

 

 だが、弁護側はそこを崩した。

 

 乱闘には何十人もの人間が入り乱れていたこと。

 

 二人が直接殴り合った証拠はないこと。

 

 キルロイが暗闇の中でグレイを認識していた証拠もないこと。

 

「市民への一般的な敵意を口にすることは、確かに醜い行いです」

 

 ジョンは陪審員へ向かって語りかけた。

 

「だが、その言葉の醜さだけをもって、彼が特定の人間への計画的な殺意を秘めていたと証明することはできません」

 

 ジョンは、キルロイを無実の善人として庇わなかった。

 

 ただ、醜い発言と謀殺を同一視し、絞首台へ送ることだけは防ごうとしていた。

 

 次に焦点が当たったのは、ヒュー・モンゴメリーだった。

 

 複数の証人が、

 

「最初に撃ったのはモンゴメリーだった」

 

 と証言した。

 

 そして、その射線上で、大柄なクリスパス・アタックスが胸を撃ち抜かれて倒れた。

 

 モンゴメリーの銃撃とアタックスの死もまた、強く結びついていた。

 

 だが、彼が発砲する直前に何があったかについて、証言は真っ二つに割れた。

 

「大きな氷の塊か、太い棒が彼の銃へ激しく当たった」

 

「モンゴメリー自身が何者かに強く殴られ、雪の上へ倒された」

 

「いや、彼は倒れていない」

 

「発砲した後に転倒したのだ」

 

「アタックスが太い棒を振り回していた」

 

「アタックスは棒に寄りかかって見ていただけだ」

 

「発砲の瞬間、アタックスは攻撃していなかった」

 

 発砲と死という事実の中心は見えている。

 

 だが、その周囲の状況が蜃気楼のように揺らいでいた。

 

 裁判前。

 

 ジョンたちは、牢獄でモンゴメリーの話を聞いていた。

 

「頭か腕へ、強い一撃を受けました。俺は雪の上へ倒れた。周囲の群衆が殺せ、倒せと叫んでいた。立ち上がった時、次は踏み潰されると思いました。……気づいた時には、銃を撃っていた」

 

「群衆まで何歩ありましたか」

 

「分かりません」

 

「銃剣を持ち、仲間が七人いた。退くことはできなかったのですか」

 

「逃げれば、背中から殴り殺されていた」

 

「本当に死ぬと思ったのですね」

 

「思ったんだ!」

 

 モンゴメリー本人の言葉は、法廷で宣誓証言として語られることはない。

 

 法廷では、目撃者たちの食い違う証言だけから、彼が本当に殴られたのか、倒れたのか、どれほどの危険を感じていたのかが再構成されていく。

 

 法廷が問うているのは、彼が恐怖したと自己申告しているかどうかではない。

 

 その恐怖が、市民へ実弾を撃ち込むことを正当化できるほど、客観的で現実的な生命の危険に基づいていたかどうかだった。

 

 証人たちは、クリスパス・アタックスの行動について語った。

 

 大柄だった。

 

 船乗り風の集団の前方にいた。

 

 太い棒を持っていた。

 

 兵士の銃剣や銃身へ手をかけた。

 

 モンゴメリーへ一撃を加えた可能性がある。

 

 群衆を煽っていた。

 

 ただ立っていただけだった。

 

 発砲の瞬間には攻撃していなかった。

 

 証言は一致しない。

 

 検察側にとって、アタックスは不当に撃たれた被害者だった。

 

 弁護側にとって、最も激しく兵士へ接近し、生命の危険を感じさせた男となる。

 

 俺は傍聴席で、死んだ一人の人間が、法廷という場で再び両陣営の都合のよい物語の部品へ分解されていくのを見ていた。

 

 ジョンの弁護戦術は容赦がなかった。

 

 彼はアタックスの大柄な体格、船乗りたちの前方にいたこと、太い棒、兵士への接近、群衆を率いたという証言を徹底的に強調した。

 

 さらに、当時の植民地社会に根強く残る偏見を意図的に利用し、彼を街の穏健な市民とは異なる外来者、混血の恐ろしい大男として、陪審員の心へ印象づけようとした。

 

 俺は、腹の底から湧き上がる強い不快感を抑えられなかった。

 

「……おい。ジョンは、あの死んだ人を法廷の中で怪物に仕立て上げようとしてるぞ」

 

 俺が吐き捨てるように言うと、ギデオンが冷静に答えた。

 

「兵士が恐怖から発砲したという主張を、陪審員に現実的なものとして信じさせるためだ」

 

「だからって、死んだ人間の肌の色や出自まで利用していいのかよ!」

 

 休廷中。

 

 俺はたまらずジョンのもとへ向かい、噛みついた。

 

「サミュエルは死んだ少年を殉教者にした。あんたは死者を暴徒の恐ろしい首領にした。どっちも同じじゃないか!」

 

 ジョンは書類から目を上げず、淡々と答えた。

 

「証人たちの証言に基づいています」

 

「証言の中から、そう見える部分をわざと選んで繋ぎ合わせたんだろ!」

 

 ジョンは否定しなかった。

 

「ええ。そうです」

 

「あんた、法廷では物語を作らないって言ってたじゃないか!」

 

 ジョンは羽ペンを置き、俺の目を真っ直ぐに見た。

 

「私は、物語を作らないと言った覚えはありません」

 

「……え?」

 

「弁護士は、集まった証拠を並べ、被告人に最も有利な意味の物語を構築して陪審へ示します。検察も同じように、有罪の物語を作る」

 

 ジョンの声は静かだった。

 

「リヴィアの版画との決定的な違いは、私の作った物語も、検察が作った物語も、法廷における反対尋問と反論によって、いつでも壊され得る場所に置かれていることです」

 

「じゃあ……公正って何なんだよ」

 

「誰にも物語を作らせないことではありません」

 

 ジョンの声は、静かだが鋼のように硬かった。

 

「誰か一人の作った物語だけで、人間の命を奪わないことです」

 

 法は、公正へ近づこうとする仕組みだ。

 

 だが、その仕組みを動かす人間が、当時の偏見や差別から完全に自由になれるわけではない。

 

 俺は近代司法の原則だけではなく、その限界と泥臭さまで同時に突きつけられていた。

 

 そして、法廷が静まり返る中、一人の証人がゆっくりと杖をついて証言台へ向かった。

 

 パトリック・カー。

 

 未来の歴史では、医師ジョン・ジェフリーズの口を通じて、死者の最期の言葉として語られるはずだった男が、この世界では自らの足で立ち、生きた証人としてそこにいた。

 

 カーは落ち着いた声で語り始めた。

 

「鐘を聞いて外へ出ました。剣を持ち出そうとしましたが、周囲に止められ、武器を置いていきました。現場へ着くと、硬い氷や棒が兵士の銃へ当たる音を聞きました。群衆が兵士へ殺せと叫ぶ声も聞きました。……兵士たちは、あの状況の中で、かなり長く耐えていたと感じました」

 

 法廷がざわめく。

 

「自分は武器を持たず、兵士へ暴力を振るっていませんでした。……それでも、撃たれました」

 

 弁護側が尋ねる。

 

「兵士たちが、群衆から攻撃されていたと思いましたか」

 

「思った」

 

「撃たなければ、彼ら自身が傷つけられたと思いましたか」

 

「その可能性は高かった」

 

 検察側が厳しい声で尋ねる。

 

「あなたは武器を持っていましたか」

 

「持っていない」

 

「誰かを殴りましたか」

 

「殴っていない」

 

「それでも撃たれましたね」

 

「撃たれた」

 

「では、兵士たちは危険な者だけを正確に選んで撃ったわけではない」

 

「そうだ」

 

 カーは、どちらの陣営にも完全な勝利を与えなかった。

 

 ジョンが静かに尋ねる。

 

「あなたは、自分を撃った兵士たちを責めますか」

 

「誰が俺を撃ったか知らない」

 

「兵士たちが、自衛のために撃ったと思いますか?」

 

「最初の一発については、そうだったかもしれない」

 

「その後の発砲は?」

 

 カーは少し考えてから答えた。

 

「最初の銃声の後、群衆が崩れて逃げ始めても、発砲は続いた。俺には、逃げる者へ向けて撃った兵士もいたように見えた」

 

「では、すべての発砲を正当防衛だとは思わないのですね」

 

「思わない」

 

 未来の歴史に残る、死を前にしてすべてを赦したという美しい言葉とは違う。

 

 生きているカーは、簡潔な殉教者にも、全面的な弁護証人にもならなかった。

 

「俺は、生き残ったから考え続けたんだ」

 

 カーは法廷全体を見渡して言った。

 

「死ぬ間際なら、もっと綺麗なことを言ったかもしれない。だが今は、極限の恐怖から撃ったかもしれない最初の一人と、逃げ始めた群衆へ撃ったように見えた後の者を、同じ罪にも、同じ正当防衛にもできないと思っている」

 

 この世界でしか存在しない、生者の証言。

 

 俺が歴史の濁流から救い出した一人が、裁判の結論を単純な形に固めることを拒んでいた。

 

 続いて、ジョン・ジェフリーズ医師が呼ばれた。

 

 彼が語るのは、カーの臨終の言葉ではない。

 

「弾丸の侵入方向は――傷の深さは――本来なら死亡しても不思議ではない状態でした」

 

 ジェフリーズは一瞬だけ、傍聴席の俺へ鋭い視線を向けた。

 

 彼は、俺が持ち込んだ未来の医療物資や、不可解な治癒の速度を疑っている。

 

 しかし法廷では何も言わなかった。

 

「患者は生きています。それが、私が医学的に断言できる最大の事実です」

 

 カーの生存が、史実から死者の証言を一つ消し、生者の証言を一つ増やしたことが、改めて確認された。

 

 俺は傍聴席の後方で、手をきつく握り締め、震えている男に気づいた。

 

 トマスだった。

 

 彼は被告席にはいない。

 

 正式な銃列へ入らず、発砲前に俺に止められたからだ。

 

 だが、八人の仲間が裁かれる姿を、後方からずっと見つめ続けていた。

 

 キルロイの発砲。

 

 モンゴメリーの恐怖。

 

 不発だった銃。

 

 撃ったかどうか分からない兵士。

 

 一つの証言を聞くたびに、トマスは、

 

「俺も、あの被告席に座っていたかもしれない」

 

 という恐怖と罪悪感に苛まれていた。

 

 少し離れた席には、イライジャもいた。

 

 休廷中、二人の視線が一度だけ交錯した。

 

 イライジャは以前なら、トマスを仕事を奪う憎い赤服の一人としてしか見ていなかった。

 

 だが今は、撃たなかった彼と、撃った兵士たちが、法廷で明確に分けられているのを見ていた。

 

「……お前は、撃ってないんだな」

 

 イライジャが、不器用に声をかけた。

 

「俺が自分の意志で止まったんじゃない。止められただけだ」

 

「それでも、お前の銃から弾は出なかった。撃ってない」

 

「それで俺に楽になれっていうのか」

 

 トマスが自嘲する。

 

「知らねえよ」

 

 イライジャは目を逸らした。

 

「ただ、撃ってない奴まで、撃ったことにはできねえだろ。それだけだ」

 

 法の冷たい分類が、二人の私的な憎悪の関係にも、ほんの僅かな変化をもたらしていた。

 

 検察側のサミュエル・クインシーは、厳しい法理を突きつけた。

 

「人を殺す以外に逃げる手段があったのなら、その殺害は正当防衛にはならない!」

 

 兵士たちは銃剣を持ち、仲間がおり、税関または主力警備隊へ退くこともできた。

 

 威嚇や銃床で押し返す方法もあった。

 

 それなのに、実弾を市民へ撃ち込んだ。

 

「彼らは死ぬ危険から逃れるためではなく、怒りと屈辱から報復するために撃ったのではないか!」

 

 対する弁護側のジョサイア・クインシーは、兵士だから恐怖へ耐えられて当然だという考えを崩しにかかった。

 

「赤い軍服を着れば、人間の恐怖が消え去るわけではありません。軍規へ従う者であっても、氷で顔を殴られ、太い棒で打ち倒され、殺すぞと叫ばれれば、血が熱くなるのは当然です。法律は、兵士に対して人間でなくなることを要求してはいないのです」

 

 そして、ブロワーズが共同責任の網を断ち切った。

 

「八人は同じ制服を着て、同じ場所に立ちました。しかし、彼らが同じ心を持っていたとは証明されていません。一人が殴られた。一人が最初に撃った。一人の銃が不発だった。一人は撃っていない。異なる個別の行為へ、同じ悪意というラベルを貼りつけてはならないのです」

 

 十二月三日から四日にかけて、ジョン・アダムズの最終弁論が行われた。

 

 長い裁判で疲弊した法廷。

 

 八人の青ざめた顔。

 

 四人の死者の名前。

 

 そして、生きたカー。

 

 ジョンはまず、兵士たちを無実の英雄にはしなかった。

 

「彼らが発砲したことを、私は否定しません。人が死んだことも否定しない。市民の怒りにも理由があった」

 

 その上で、彼は静かに、後世へ残る言葉を口にした。

 

「事実は頑固なものです」

 

 俺たちの願望。

 

 政治的な立場。

 

 死者への同情。

 

 兵士への嫌悪。

 

 それらがどれほど強くとも、証拠が示す事実の状態を変えることはできない。

 

 ジョンは陪審員へ、三つの扉を示した。

 

「もし、群衆の攻撃が彼らの命を危険に晒したと信じるに足る証拠があるなら、発砲は自衛であり、無罪です」

 

「命を奪われるほどの危険ではなかったとしても、激しい殴打と挑発があり、人間の抑えがたい激情によって撃ったと考えるなら、それは謀殺ではなく故殺です」

 

「誰が撃ったか、誰を殺したか、誰が助けたかを証明できない者については、無罪としなければなりません」

 

 全員無罪へ押し切ることはしない。

 

 証拠に応じた三つの選択肢を与える。

 

 俺は気づいた。

 

「……ジョンは、キルロイとモンゴメリーの二人が有罪になる道まで、自分で説明してるぞ」

 

「謀殺で絞首刑になる最悪の道を塞ぎ、故殺へ罪を落とすための道でもある」

 

 ギデオンの言葉に、俺は弁護という仕事の過酷さを知った。

 

 弁護とは、無罪だけを意味しない。

 

 死刑を避け、罪を証拠に見合う正確な重さへ引き下げることも、また弁護なのだ。

 

 検察側のロバート・トリート・ペインが、最後の反論に立つ。

 

「弁護側は、人間の弱さと恐怖を語った。だが、死んだ者たちもまた人間だった! 兵士の恐怖を考慮するというのなら、冷たい銃口の前に立たされた市民の恐怖も考慮すべきである!」

 

 ペインは、陪審員たちへ迫った。

 

「挑発があったからといって、実弾を市民の胸へ撃ち込む自由が生まれるわけではない!」

 

 検察にも最大限の強さがあった。

 

 不完全な証言をすべて捨てれば、混乱の中で行われた犯罪は永遠に裁けないという正論。

 

 十二月五日。

 

 裁判官が陪審員へ説示を行った。

 

「八人は同じ起訴を受けていても、法は一人ずつ責任を判断する。違法な共同目的を示す証拠が乏しい者については、無罪とすべきである。しかし、キルロイとモンゴメリーについては、発砲したこと、特定の死者との関係、その直前の状況を具体的に検討せよ」

 

 午後一時半頃。

 

 陪審員たちが評議のため退室した。

 

 八人の兵士たちは被告席で待つ。

 

 前回とは違い、八人分の浅い呼吸と速い心音が、法廷の中に満ちている。

 

 俺には、それがすべて聞こえていた。

 

 約二時間半後。

 

 陪審員たちが戻ってきた。

 

 書記が、冷徹な声で名前を呼ぶ。

 

「ウィリアム・ウェムズ。手を上げよ」

 

 ウェムズが震える手を上げた。

 

「無罪」

 

 大きく息を吐く音が響いた。

 

「ジェームズ・ハーティガン」

 

「無罪」

 

「ウィリアム・マコーリー」

 

「無罪」

 

「ヒュー・ホワイト」

 

「無罪」

 

 俺は思った。

 

 未来の歴史であれば、カー殺害の直接の射手として名指しされる一件を背負っていたはずの男。

 

 この世界では、その一枚だけが起訴状の束から消えていた。

 

「ウィリアム・ウォーレン」

 

「無罪」

 

「ジョン・キャロル」

 

「無罪」

 

 六人。

 

 同じ軍服を着て、同じ銃列にいた彼らを、法廷は殺人者とする証拠が足りないと判断した。

 

「マシュー・キルロイ。手を上げよ」

 

 キルロイが右手を上げる。

 

 法廷が水を打ったように静まり返った。

 

「謀殺については、無罪」

 

 キルロイの肩が一瞬、落ちた。

 

 だが、書記の言葉は続く。

 

「故殺について、有罪」

 

 安堵が凍りついた。

 

 謀殺者ではない。

 

 だが、正当防衛でもない。

 

 激情と挑発は認められた。

 

 しかし、武器を持たないグレイを撃った行為までは許されなかった。

 

「ヒュー・モンゴメリー。手を上げよ」

 

 モンゴメリーが震える腕を上げる。

 

「謀殺については、無罪」

 

 短い間。

 

「故殺について、有罪」

 

 モンゴメリーは目を閉じた。

 

 彼が恐怖した可能性は認められた。

 

 そのため、冷静な悪意による謀殺とはされなかった。

 

 だが、その恐怖がアタックスを殺すことを完全に正当化するほどだったとも認められなかった。

 

 恐怖は罪を消さなかった。

 

 罪を一段階だけ軽くしたのだ。

 

 法廷の外では、複雑な反応が渦巻いていた。

 

「四人も死んで、たった二人が有罪か!」

 

「八人全員を吊るさなかっただけでも、王党派寄りのふざけた裁判だ!」

 

「二人も有罪にしたのか! あれは暴徒への自衛だったはずだ!」

 

 同じ評決が、軽すぎる、重すぎる、公正、妥協、裏切りと、あらゆる言葉で語られていた。

 

 無罪となった六人は、直ちに釈放された。

 

 だが、自由になった彼らを祝福する群衆はいない。

 

 街の市民は、冷たい敵意の目を向ける。

 

「裁判では無罪になった。だが、この街では一生、赤服の殺人者と呼ばれるのか」

 

 ウェムズが力なく呟く。

 

 ジョンは答えた。

 

「判決には、他人の記憶と感情を命令して変える力はありません」

 

 無罪と、社会的な無実は同じではない。

 

 一方、キルロイとモンゴメリーは再び牢獄へ戻された。

 

 故殺も、死刑に至り得る重罪だった。

 

 絶望する二人へ、ジョンは言った。

 

「まだ手段があります。無罪にする手段ではありません。死刑を避ける手段です」

 

「罪は……消えないのか?」

 

「消えません」

 

 ジョンが提示したのは、聖職者の特権という、古い法の抜け道だった。

 

「もともとは、聖職者を世俗の刑罰から守る制度でした。ですが長い年月の間に形を変え、今では一部の重罪について、初犯者を死刑から救う仕組みとして使われています。謀殺には使えませんが、故殺なら使えます」

 

「制度の名前と、実際の機能が完全に食い違ってる。バグみたいな仕組みだな」

 

 俺が言うと、ギデオンが返した。

 

「人の命を救うなら、良いバグだろう」

 

 十二月十四日。

 

 キルロイとモンゴメリーが、再び法廷へ連れてこられた。

 

 今度は大規模な証人尋問も、長い論告もない。

 

 判決後の処理だけが、淡々と進められる。

 

 法廷の中央には火鉢が置かれていた。

 

 その中で、鉄の器具が赤く熱せられている。

 

 保安官が火鉢から鉄を持ち上げる。

 

 先端には、左右を反転させた一文字が浮かんでいた。

 

 M。

 

 Manslaughter。

 

 故殺。

 

 その罪名を示す文字を、右手の親指と掌の境目へ焼きつける。

 

 同じ聖職者の特権を、二度と使えないようにするための、肉体へ残す前科の記録だった。

 

「……人間の身体を、罪人の台帳にするのかよ」

 

 俺は呟いた。

 

「法の記録が、すべて紙に残される時代ではありません」

 

 ジョンが低い声で答えた。

 

 二人は裁判官から、刑を言い渡される前に申し立てることがあるかを問われた。

 

 キルロイが答える。

 

「聖職者の特権を請います」

 

 モンゴメリーも続いた。

 

「私も、聖職者の特権を請います」

 

 申し立ては認められた。

 

 完璧に設計された近代的な制度ではない。

 

 古い法の層に残された、不格好な逃げ道。

 

 それでも、その不格好な制度が、二人の首を絞縄から救う。

 

 保安官が、キルロイの右手を取った。

 

 キルロイは、

 

「私は兵士としての義務に反することはしていない」

 

 と繰り返した。

 

 だが、声は震えていた。

 

 熱した鉄が近づく。

 

「手を動かすな」

 

 保安官が告げる。

 

 鉄の先端が、キルロイの右手の親指と掌の境目へ押し当てられた。

 

 ジュッ。

 

 短い音。

 

 焦げた皮膚と肉の臭い。

 

 キルロイが、悲鳴を噛み殺す。

 

 黒く焼けたMの文字が、親指の付け根へ沈み込んでいく。

 

 真祖である俺の鋭敏な嗅覚には、焼けた皮膚、汗、恐怖、僅かに滲む血の臭いが、鮮烈すぎるほど届いた。

 

 猛烈な吐き気がこみ上げる。

 

「これが……命を助ける刑なのか」

 

 死刑よりは慈悲深い。

 

 だが、慈悲という言葉だけで呼ぶこともできない。

 

 次はモンゴメリーだった。

 

 彼は、最初の銃を撃った時と同じ右手を差し出す。

 

 あの夜。

 

 氷か棒を受けた手。

 

 マスケット銃を支えた手。

 

 引き金を引いた手。

 

 今度は、その同じ手へ法がMという文字を刻む。

 

 モンゴメリーは、鉄が触れる直前、反射的に手を引こうとした。

 

 保安官が腕を押さえる。

 

 ジョンが低く言った。

 

「耐えてください。これで終わります」

 

「本当に終わるのか」

 

 モンゴメリーの声は掠れていた。

 

「この街は、俺を一生人殺しと呼ぶ」

 

 ジョンは答えられない。

 

 熱した鉄が、モンゴメリーの親指の付け根へ押し当てられた。

 

 二度目の焦げる音。

 

 二つ目のM。

 

 焼印が終わると、傷へ簡単な処置が行われた。

 

 キルロイとモンゴメリーは釈放される。

 

 六人のような無罪ではない。

 

 赦免でもない。

 

 故殺罪を犯した者として、右手へ消えない一文字を残したまま、法廷の外へ出る。

 

「これで自由?」

 

 俺が尋ねる。

 

「法的には」

 

「また、その言い方か」

 

「法が与えられる自由は、そこまでです。記憶も罪悪感も、街の視線も消せません」

 

 法廷の外には、生存したパトリック・カーが待っていた。

 

 キルロイとモンゴメリーは身構える。

 

 自分たちの発砲によって負傷した可能性のある男。

 

 カーは、二人の布を巻かれた右手を見た。

 

「満足したか」

 

 俺が尋ねる。

 

 カーは眉をひそめた。

 

「何に?」

 

「撃った兵士が罰を受けた」

 

「俺を撃ったのが、この二人かも分からん」

 

「……そうだね」

 

「六人無罪でも、二人有罪でも、俺を撃った弾の持ち主は分からない。だから、俺のための判決だとは思えないな」

 

「じゃあ、何の判決だったんだ?」

 

「グレイとアタックスを撃ったと証明できた二人への判決だろ」

 

 カーは、自分の傷まで政治的な意味へ奪わせようとはしなかった。

 

 自分が生きているからこそ、死者の代わりを名乗らなかった。

 

 少し離れた場所では、イライジャとトマスが、焼印を受けた二人を見ていた。

 

「軽すぎる」

 

 イライジャが呟く。

 

 トマスが尋ねた。

 

「死刑にすれば満足したか」

 

「分からん」

 

「俺も分からない」

 

「四人死んだ」

 

「六人は、撃ったかどうかも分からなかった」

 

「二人は撃った」

 

「二人は罰を受けた」

 

「でも、死んだ四人は戻らない」

 

 二人は結論へ到達しなかった。

 

 だが以前のように、労働者と赤服という二つの記号だけで殴り合うこともなかった。

 

 裁判が一人ずつ切り分けた結果が、二人の視線の中にも僅かに残っていた。

 

 サミュエル・アダムズが、ジョンのもとへ歩み寄った。

 

「これで、あなたの仕事は終わりましたか」

 

「この事件については」

 

「六人無罪、二人故殺。あなたは、公正な結果だったと思いますか」

 

 ジョンは、すぐには答えなかった。

 

「証拠から導き得る結果だったとは思います」

 

「公正だったかとは聞いていません」

 

「人間の裁判に、それ以上を断言する自信はありません」

 

 サミュエルは、遠くで鳴る鐘の音へ耳を傾けた。

 

「街は、四人を忘れません」

 

「六人が証拠なく殺人者にされなかったことも、二人が謀殺者ではないと判断されたことも、忘れないでください」

 

「両方を記憶できるほど、人間は器用でしょうか」

 

「できなければ、自由な国など作れません」

 

 二人は和解しなかった。

 

 しかし、最後まで互いの守ろうとしたものを認識したまま、裁判所の前で別れた。

 

 俺は、リヴィアの版画を思い出していた。

 

 絵の中では、八人全員が同じ姿勢で銃を構えている。

 

 同じ方向へ銃口を向けている。

 

 同じ意思で、同時に引き金を引いている。

 

 全員が同じ殺人者として描かれている。

 

 だが法廷では、

 

 六人無罪。

 

 二人故殺。

 

 大尉無罪。

 

 一人の生存者。

 

 四人の死者。

 

 それぞれが、異なる事実と異なる責任へ分けられた。

 

「版画は、全員を一つの赤い塊にした」

 

 俺が言うと、ギデオンが尋ねた。

 

「裁判は?」

 

「一人ずつ、別の行為と別の罪を持つ人間へ戻した」

 

「ならば、法廷にも役目はあったな」

 

「うん。死者を戻せなくても、間違った人数を吊るさない役目はあった」

 

 十二月の冷たい夕暮れ。

 

 裁判所から、キルロイとモンゴメリーが出てくる。

 

 二人の右手には、白い布が巻かれている。

 

 その下には、生涯残るMの焼痕がある。

 

 少し離れた場所には、無罪となった六人がいる。

 

 同じ赤い軍服。

 

 同じ部隊。

 

 同じ夜。

 

 だが、法廷は彼らを同じ結論へ押し込めなかった。

 

 六人の手には、法の焼印がない。

 

 二人の手にはある。

 

 トマスの手にもない。

 

 だが彼は、その手を見ながら、自分の銃が発砲していたかもしれない夜を忘れられない。

 

 カーの脇腹には、銃創が残っている。

 

 四人の死者には、もう痛みを感じる身体さえない。

 

 俺は、自分の白い手を見つめた。

 

 未来の知識を持ち、真祖の力を持ちながら、それでも四人を救えなかった手。

 

 一人を救い、一人の銃を止めた手。

 

 そして法廷で、真実を語ることを選ばなかった手。

 

「これで、終わったのかな」

 

 俺の問いに、ジョンは街の壁に残るリヴィアの版画を見上げて答えた。

 

「裁判は終わりました。ですが、事件は終わらないでしょう」

 

「じゃあ、何が終わったんだよ」

 

「少なくとも、誰を法の名で殺し、誰を生かすかを決める時間は終わりました」

 

 裁判所の扉が閉じる。

 

 外では、四人の死者を悼む鐘が鳴っている。

 

 法廷の中には、まだ焼けた鉄と人間の皮膚の臭いが残っていた。

 

 版画の中では、八人の兵士が今も一列に並び、同時に銃を撃ち続けている。

 

 だが現実の八人は、もう一つの赤い列ではなかった。

 

 六人は無罪となった。

 

 二人は故殺の痕を、右手へ刻まれた。

 

 ボストンは、憎い敵の兵士にも法を残すことには成功した。

 

 だが、死者へ完全な答えを返すことには、最後まで失敗した。

 

 絵は単純だった。

 

 裁判は複雑だった。

 

 人間は、そのどちらか一方だけでは生きられない。

 

 長い裁判は、焦げた二つのMと、決して消えない四つの名前を残して、静かに幕を下ろした。

 




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