合宿も終わり更にメンバーの団結とパフォーマンス力が上がったμ's。
夏の暑さも引いてきた頃、その成果がハッキリと現れた。
「19位!!!」
遂にアイドルランクが19位まで到達した。
始動してからあまり時間が経っていないμ'sがここまで来たのは快挙と言っても良いだろう。
「ここまで来たんだよ!!」
部室で皆んなして歓喜の声をあげている。
「まだ喜ぶのは早いわよ」
「そうやね、出場が決まるかは2週間後の時点の結果次第」
そう、現在19位になったとは言え各グループが本戦出場に向けて最後の追い込みをするタイミングとなってきた。
まだ安心できるラインでは到底ないのだ。
「私たちが出来る事と言ったら、文化祭でライブをして最後のアピールをすることね」
「えぇ、その結果次第で出場が決まるかどうかですね」
μ'sは最後に文化祭でのライブを持ってくることにしたようだ。
「各自気を引き締め直して頑張りましょう」
絵里が締めてくれたお陰で、皆んなの表情もより一層真剣さが増したようだ。
「それじゃあ練習始めましょう」
「悪い、少し先に行っていてくれ」
「滉季君?」
「ちょっとな・・・」
「?早く来てね!」
穂乃果がそう言うと皆んなは屋上へと向かっていった。
「・・・」
「文化祭ライブか・・・」
部室に一人の中呟く。
・・・とうとうこの時がやってきてしまった。
ここは記憶にも強く残っている。
ラブライブ出場に向けて穂乃果が頑張りすぎてしまい、結果μ'sは出場を辞退することになる。
(この場面、果たして俺はどうするべきなのだろうか・・・)
勿論この世界だと穂乃果が倒れない可能性だってある。
だが、その可能性は低いような気がする。
(穂乃果の近くにいる俺が変化に気づかないわけがない)
このまま穂乃果を放っておくか、何かしらの介入を行うか。
介入した場合、この先の展開が変わってしまうかも知れない。
頭ではここでの辞退は第二回ラブライブへの布石になるとは分かっている。
(だけど、ここまで頑張ってきた皆んなを見ているとラブライブに出場して欲しいって気持ちもある)
ファーストライブの時に俺も自分の意思で行動すると決めたはずだが、いざ問題が目の前に来ると簡単には決められない。
「どうしたものか・・・」
今すぐ答えを出すことは出来ない。
「それにことり・・・」
・・・考える事は多そうだ。
重い足取りをしながら屋上へと向かった。
「ライブをするのは屋上に決まりね」
翌日ライブを行う場所の抽選があり、その結果講堂やグラウンドは勝ち取れなかった。
開催場所に悩んだが、穂乃果の提案によりμ'sと縁のある屋上での野外ライブをすることが決まった。
「やっぱり一曲目には新曲をやりたいよね!」
合わせて、ライブ構成などの打合せが行われた。
「えぇ!今から?私出来るかな・・・」
「大丈夫だよ花陽ちゃん!」
「う、うん」
「でもそうなると特に穂乃果、貴女の負担が大きくなるわよ?」
「このライブは絶対に成功させたい!だから頑張る!」
「分かったわ、皆んなもそれでいいかしら?」
ライブを成功させたい思いは同じで、反対する人はいなかった。
(やはり穂乃果の気持ちは特に強いようだな・・・)
ラブライブ出場に向けては誰よりも強い気持ちを持っているのが分かった。
(穂乃果・・・俺は・・・)
まだ、動けない。
その日からの穂乃果の気迫は凄まじい物だった。
全体練習が終わると、一人居残り練習。
夜家に帰った後も走り込み。
日中も眠たそうにしていることが増えた。
「まだまだ、もっとできるはずだよ!!」
形が出来てきた中での振り付けの変更等、明らかに一人だけ違った。
「穂乃果、流石にすこし休んだらどうですか」
「大丈夫大丈夫!!」
「海未の言うとおりだ、少し休め」
誰の目から見てもオーバーワークであった。
「・・・なんでかなぁ」
「穂乃果?」
「ううん、私は大丈夫だよ」
心配して声をかけたが、届いてはいないようだった。
怒濤の日々が続き、気がつけば文化祭前日になっていた。
「ここまで皆んな良く頑張ったと思うわ、これなら明日も大丈夫なはずよ」
最終確認も終わり、明日全力でパフォーマンスをするだけとなった。
「万全を期す為に夜は早く休むように」
端から見ていても、今回の仕上がりは相当の物だった。
問題なくライブが終われば、20位内は堅い物だと感じさせる。
だが・・・
「特に穂乃果、貴女はちゃんと休むこと、いいわね?」
「・・・はい」
絵里が釘を刺したが果たして意味はあったのだろうか。
「それじゃあ明日良いライブにしましょう!」
夜、自室の窓から外を見ると雨が降っていた。
(結局俺が選んだのは・・・)
(穂乃果を止める)
ここまでの日で考えた。
俺の行動がどう影響を与えるかは分からない。
だけど、今の俺の気持ちは穂乃果に倒れて欲しくない。
μ'sがライブをやり切って、ラブライブに出場するところが見てみたい。
すぐ近くで皆んなを見てきたのだ、もし今回ダメだったとして原作では第二回に出場するが、この世界でも出場できる確証はない。
それならば、今目の前にあるチャンスを逃してほしくない。
これは俺のわがままで決めた物だ。
「出てきたっ・・・!」
その為に穂乃果が雨の中走りに行くのを止めようと見張っていたのだ。
急いで玄関まで行き、扉を開ける。
「穂乃果っ!!」
丁度穂乃果が俺の家の前を通り過ぎようとしていたところだった。
「・・・なに」
「話がある、部屋に来てくれないか」
「私今から走りに行くんだけど」
「頼む」
「・・・」
「わかった」
俺のいきなりの行動に特に驚いた様子も無く、穂乃果は仕方なくといった感じで俺に着いてきた。
「それで、話って何」
まだ濡れる前の穂乃果を自室にあげて、向かい合う。
「単刀直入に言う、走りに行くのをやめてくれないか」
「なんで」
「なんでって・・・明日はライブだ。それにこの雨だ」
「いいでしょ、私はセンターなんだし頑張らないと」
「限度ってもんがあるだろ、今無理して明日何かあったらどうするんだよ」
「大丈夫だよ」
「・・・穂乃果!」
分かってくれない穂乃果に対して語気が強くなってしまった。
「・・・頼むよ」
「・・・話、それだけなら行くね」
そのまま穂乃果は立上がり部屋から出て行こうとする。
「待ってくれっ!」
このまま行かせてはいけないと思い、穂乃果の腕を掴む。
「どうしてそこまでやるんだ!?」
「・・・」
「ラブライブに向けてならもう十分やっているはずだ」
「・・・」
「なぁ穂乃果」
「・・・」
腕を掴んだまま時間が過ぎる。
静寂の時間は長く感じた。
実際には1分、2分と経った頃だろうか、やっと穂乃果と目が合った。
「滉季君が悪いんだよ」
「・・・・・・え?」
穂乃果の口から出た言葉、それは俺を糾弾するものだった。
全く予想していなかった言葉に頭が一瞬真っ白になった。
「・・・なんで俺なんだ?」
「・・・滉季君が私のことを見ないから」
穂乃果の言っていることが分からない。
「どういうことだ?」
「・・・」
「穂乃果達のことならいつも見てるだろ」
「それだよ!!」
「っ!!」
「滉季君は皆んなのこと見てる」
「・・・?」
「分からないよね、滉季君には」
「・・・」
「昔は私と海未ちゃんとことりちゃんだけだった。でも今は違う」
「・・・」
「真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん」
「・・・」
「今の滉季君の周りには皆んながいる。綺麗で可愛くて魅力的な人たちがいる」
「・・・」
「滉季君の隣は最初は私だけだった。それがどんどん増えていって」
「・・・」
「μ'sのメンバーが増えていくのは嬉しかったよ?でも同時に不安でもあった」
「・・・」
「滉季君を誰かに取られるんじゃないかって」
「・・・取られるってどういう」
「そのまんまの意味だよ、滉季君の彼女の立場をだよ」
「彼女・・・?」
「そうだよ」
「・・・待ってくれ、何で彼女なんて出てきたんだ」
穂乃果の言うとおり、メンバーが増えたことで穂乃果だけに使う時間とかは減ったかも知れない。
そのせいで寂しい気持ちが生まれた、ここまではまぁ理解できた。
だが彼女となると話が別だ。
少なくとも俺は自分が誰かから好意を持たれているなんて思ってもいなかったし、考えたことすら無かった。
「小さな頃から一緒にいて、いつも支えてくれる人。そんなの好きにならないわけないじゃん!」
「・・・」
俺がこの世界に転生した時、彼女たちの支えになろうとは思った。
だがそこにあわよくばなんて気持ちは微塵も無かった。
これまで皆んなからの気持ちは、人として好かれてるって物だと思っていた。
「海未ちゃんとことりちゃんだって同じだよ。それに他の皆だって程度は違うかもだけど、滉季君に惹かれてるはず」
「・・・!!」
幼なじみの海未とことりはまだ理解できる。だが他はどうだ、出会ってからそこまで時間も経っていないはずだ。
「その顔、なんでって思ってるでしょ」
「あ、あぁ」
「だってさ、この世界って男の人が少ないでしょ?」
「・・・そう言えば」
この世界に来た当初は男の少なさに驚いたが、次第に慣れていき言われるまで忘れていた。
「つまり、男の人との出会いとかも少ないわけ。女の子は皆んな素敵な人と結ばれることを夢見てる」
「・・・」
「そんな時に、自分のために色々してくれる男の人が現れたらどう思う?好きになって、逃したくないって思うよね!?」
「・・・」
もし自分が逆の立場だったらその通りだと納得してしまった。
勿論元の世界だって、同じ現象はあるだろう。
だがこの世界はその傾向がより強い世界だったというわけだ。
俺はこの世界の歪さに気づいていなかったのだ。
「・・・なんでそこまでやるんだって話だったよね」
「・・・ああ」
「そんなの決まってるじゃん、ラブライブ出場を目指しているのは勿論だけど、滉季君に私のことを見て欲しかったからだよ」
「・・・!」
「今回私がセンターで、一番頑張っていれば滉季君がちゃんと私のことを見てくれる、応援してくれる。他の人よりも想ってくれるって!!」
「・・・」
「私は他の皆んなとは違う」
「・・・」
「海未ちゃんみたいに歌詞が書けるわけでもない、ことりちゃんみたいに衣装が作れるわけでもない、真姫ちゃんみたいに曲が作れるわけでもない、凛ちゃんみたいに運動出来るわけでもない、花陽ちゃんみたいな綺麗な声もしてない、絵里ちゃんみたいにダンスも上手くない、希ちゃんみたいなスタイルでもない、にこちゃんみたいな可愛さもない」
「・・・穂乃果」
「そんな私が滉季君に見て貰うには頑張るしかないんだよっ!!」
今穂乃果が言ったようにμ'sの皆にはそれぞれ個性、良さがある。
だがそれは勿論、穂乃果にだって備わっている物だ。
「穂乃果にだって良さはあるだろ」
「いい、そんな言葉聞きたくない」
しかし、穂乃果自身がそれを否定してしまっている。
「ここまで言ったら分かるよね」
「・・・」
「私は滉季君が好き、ずっと前から好き、大好き」
「穂乃果・・・」
「他の誰でもない、私を、穂乃果だけを見て欲しい」
「俺は・・・」
上手く言葉が出てこない。
「ねぇ滉季君、穂乃果じゃダメ?」
そう言うと穂乃果は俺との距離を縮めた。
そして・・・
「っ!?」
「んっ、ぷはぁ」
キスをされた。唇に。
「・・・・・・滉季君、そんな顔するんだ」
一体俺はどんな顔をしていたのだろう。
穂乃果は憂いを帯びた表情をしていた。
「・・・行くね」
「・・・」
このままでは穂乃果は行ってしまう。
だが、俺はその場で立ちすくんだままで穂乃果を止める事は出来なかった。
「・・・」
扉を出る直前、最後に穂乃果がこちらを振り返った。
その瞳は普段の穂乃果からは想像できないくらい、深く黒く淀んでいた様に見えた。
そして穂乃果は部屋から出て行った。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
穂乃果の気持ち、皆んなの気持ち。
これからどうすればいいのだろうか。
俺は間違えてしまったのだろうか。
雨は強くなる一方だが、その音は俺には入ってこなかった。
文化祭当日。
穂乃果はライブの途中で倒れた。